安倍晋三の一億総活躍国民会議、長時間労働の是正は言うが、その原因がどこにあるのか気づいていない

2016-03-27 10:03:44 | 政治

 安倍晋三が2016年3月25日、首相官邸で第6回一億総活躍国民会議を開催、有識者の議論後の締め括りに発言している。

安倍晋三「第一に、長時間労働の是正であります。長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性の活躍を阻む原因となっています。戦後の高度経済成長期以来浸透してきた『睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ』といった価値観でありますが、これは段々ですが、そうでもない、生産性もないという雰囲気が、この3年間で大分変わり始めているのではないかと思います。

 私はまだ若いサラリーマンの頃、こういう価値観があって、8時くらいに帰ろうとするともう帰るの、という雰囲気があったわけですが、企業側に聞いたところ、政府が全体の労働時間の抑制や働き方を変えていくことについて、旗振り役を期待しているかということについて期待している人が90%ということは、皆帰るのだったら帰りたいということに変わり始めている。やっとそういう雰囲気に変わり始めたので、ここは、正に我々が更に背中を押していくことが大切であろうと思います。

  先ず、法規制の執行を早急に強化をします。時間外労働を労使で合意する、いわゆる36協定において、健康確保に望ましくない長い労働時間を設定した事業者に対しては、指導強化を図ります。また、関係省庁が連携して、下請などの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する仕組みを作ります。これらの執行強化について、厚生労働大臣におかれては、経済産業大臣、加藤大臣の協力の下、具体策を早急に取りまとめ、直ちに実行に移していただくよう、お願いをいたします。

 労働基準法の改正につきまして、多様な議論がありました。これについては、現在提出中の労働基準法改正法案に加えて、36協定における時間外労働規制の在り方について再検討を行うこととします」(首相官邸HP)  

 言っていることは戦後の高度経済成長期、実際は戦前も同じで、日本の労働形態に於ける伝統と文化となっていたのだが、長時間労働が勤勉さを示す美徳とされていた。だが、「この3年間で」この美徳が崩れつつある。長時間労働が必ずしも生産性を上げる要因となっていないということであろう。

 事実日本は先進国中、長時間労働に関しては優秀な生徒であることを示すものの、逆に生産性に限っては最低の成績しか上げ得ない生徒でとどまっている。

 つまり生産量を上げるために労働時間の長時間化を必要としているが、その長時間であることが逆に一人当たり・1時間当たりの生産性を下げる要因となっている。

 《日本の生産性の動向2014年版》(公益財団法人日本生産性本部/2014年12月18日)によると、〈2013年の目本の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は、73、270ドル(758万円/購買力平価(PPP)換算)。順位をみるとOECD加盟34カ国中第22位で前年と変わらず、主要先進フカ国では1994年から20年連続で最下位となっている。

 就業1時間当たりでみた目本の労働生産性は41.3ドル(4、272円)。英国(46.6ドル)やアイスランド(43.8ドル)とほぼ同水準であった。OECD加盟34カ国の中では第20位となっている。〉   

 アメリカの前者が3位、後者が4位と比較すると、どれ程低いか理解できる。

 だから、少子化の改善のためにも女性の社会進出を図るためにも、あるいは女性の活躍の場を広げるためにもを長時間労働を是正して、生産性を上げなければならないということであろう。

 果たして上首尾に進むだろうか

 既に触れたように日本に於ける長時間労働と生産性は常に相互に関連性を持って推移してきた。その中身が長時間労働の割には生産性は低く、逆に生産性が低い割には長時間労働となっているという関係性である。

 安倍晋三の好きな言葉で言うと、この関係は“ファクト”であり、ファクトである以上、一般的には労働時間を短くすれば、短縮化に比例して生産性はなお低くなることになる。

 確かに残業時間を廃止することで逆に生産性が上がったといった会社は存在するが、あくまでも労働体制を比較的に自由に変え得るサービス業を主体とした第3次産業に於いてであって、労働形態が固定化されている第1次産業の個人経営が多くを占める農業・漁業、第2次産業の製造業等の長時間労働と低い生産性がより深く関連し合っている現場では逆に労働時間の短時間化は生産性低下に直接影響してくることになる。

 当然、日本の労働慣習である長時間労働が生産量の増加には役立っていても、なぜ生産性向上に直結していないのか、その阻害要因となっているのか、その原因を突きとめない限り、単に長時間労働を是正しますでは済まないことになるが、そこまで考えない安倍晋三となっている。

 但し安倍晋三は生産性向上の阻害要因の一端を示している。 

 「企業側に聞いたところ、政府が全体の労働時間の抑制や働き方を変えていくことについて、旗振り役を期待しているかということについて期待している人が90%ということは、皆帰るのだったら帰りたいということに変わり始めている。やっとそういう雰囲気に変わり始めたので、ここは、正に我々が更に背中を押していくことが大切であろうと思います」云々。

 労働時間の短縮化と働き方の改善に向けて政府の旗振り役を期待している企業が90%も存在する。

 このことは何を意味しているかと言うと、企業の判断を含めた行動性が集団主義を構造として成り立たせているということである。政府が旗を振って決めてくれれば、各企業は一団となって決めたとおりに一斉に右へ倣えができると、企業が集団主義性に支配されていることを自ら証明していることになる。

 このことをそのまま裏返すと、企業毎に長時間労働が生産性向上に繋がらず、逆にその阻害要因となっていることを自ら解決すべきとする主体性の発揮・自律性の発揮を自らに期待せずに政府に期待していることの暴露となる。

 この企業の非主体性・非自律性は企業の構成員(全従業員)の非主体性・非自律性の反映であり、相互性を成している。どちらかが反するということはあり得ない。

 企業構成員の非主体性・非自律性の反映である、90%も占める日本企業の非主体性・非自律性こそが、このことを原因として労働者一人ひとりの生産性が低いために生産量を上げるために長時間労働を必要とするが、長時間労働によって生産量は上げることができるものの、生産性に関しては何も変わらない、あるいは長持間労働になる程、労働のマンネリ化・機械的労働化から生産性がより低くなる悪循環を招いている要因の正体だということであろう。

 と言うことは、日本人の集団主義を構成している非主体性・非自律性を改めて、欧米の個人主義が構成している主体性と自律性を獲得しない限り、いくら政府が旗振り役を務めたとしても、長時間労働の機械的な短縮化はそのまま機械的な生産性の短縮化となって現れることになる。

 安倍晋三の一億総活躍国民会議での長時間労働の是正はどうもこのような方向に進むことになりそうだ。

 経済界の二人の御大も安倍晋三を同じ考えでいる。

 榊原経団連会長「日本企業の慣行となっている長時間労働は、企業の生産性向上の阻害要因となっている。まずはトップが意識改革を行い率先して是正に向けて対策を行うべきだ。

 経済界としても、どういう形で見直すべきかこれから検討していきたい」

 三村日本商工会議所会頭「中小企業にとって長時間労働の是正は、生産性を上げないかぎり絶対できないので、生産性を上げようというインセンティブが与えられるという意味では非常に大事な課題だと思う。

 (一方)中小企業は多くの企業が人手不足に悩んでいる。そういうことを考慮しないで一律に長時間労働を是正するとなると困ってしまう」(NHK NEWS WEB/2016年3月25日 19時21分)   

 二人とも長時間労働と生産性の相互関連性は理解しているが、安倍晋三と同様に生産性を阻害している本質的な要因――集団主義とそれを構成している非主体性・非自律性にあることに気づいていない。

 長持間労働の短縮化の結果、生産量が上がらなくなって、困惑することになるのではないだろうか。


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