参議院選挙が後半戦に入って、各党党首が連休初日の7月13日、街頭などに立って支持を訴えたと次の記事。《参院選 連休初日に党首訴え》(NHK NEWS WEB/2013年7月13日 19時8分)
発言は「NHK NEWS WEB」記事の動画から。
安倍晋三(仙台市で)「どうか昨年の今頃を思い出して頂きたいと、思います。なかなか復興から復旧へ(記事=「復旧から復興へ」)、物事は進んでいきませんでした。先ず私たちが取り組んだこと、それはあの大震災・大災害からの復興を加速、することであります。
先ず二つのことに取り組みました。一つは、今まで省庁の縦割りだった。その省庁の縦割りを廃して、復興庁に権限を集中をしていく。そしてもう一つは、もう一つは現場でどんどん、東京にいちいちお伺いを立てなくても、決めていくことができるようにするということであります。
その結果、例えば高台への移転、その計画すら殆どできていなかった。でも、今年に入って、例えば(宮城県)岩沼市に於いては、やっともう、造成に取りかかることができ、我々はこのように、さらに復興を加速化、させて、参ります」――
民主党政権と違って、何もかも復興が加速化しているように聞こえる。
「NHK NEWS WEB」の記事は、「なかなか復興から復旧へ、物事は進んでいきませんでした」となっているが、3度聞き直しても、動画の発言は「なかなか復旧から復興へ、物事は進んでいきませんでした」であった。
どうでもいい些細な間違いであるが、些細な間違いでも、何かを象徴する場合がある。言っていることが大ボラであるために、その些細な間違いによって大ボラを象徴的に暗示していたということもあり得る。
政権交代による安倍自民党政権の復興加速化の一例として岩沼市の高台造成への取り掛かりを上げているが、この一事が実際に全体の加速化の象徴とすることができるのかどうかで、加速化が事実なのかどうか、大ボラなのかどうかが判明する。
12年度に使われないままに13今年度に繰り越された復旧・復興関連事業予算が合わせて1兆2600億円余りに上っているという。《使われない復興予算 1兆2600億円余りに》(NHK NEWS WEB/2013年5月11日 17時45分)
勿論、大半は野田政権の責任である。だが、安倍政権は2012年12月26日から関わって、6カ月経過している。
1兆2600億円余りが繰り越されたということは、1兆2600億円余りの復興計画が遅れたことを意味する。13年度の全復興計画の消化もあるのだから、併せて繰越分を消化するには相当な加速化が必要となる。
未消化の内訳。
▽道路や漁港などのインフラ復旧費が2613億円
▽除染費用が1909億円、
▽漁港のかさ上げなど水産業関連費用が940億円
▽内陸や高台への集団移転費用が426億円
未消化の理由。
●工事を請け負う業者で作業員や生コン等の資材が不足しているため入札不調が起きていて、契約にまで至らな
い例が多くある。
●27の県と市町村が職員の不足が続いているため、集団移転や災害公営住宅の事業で用地確保の交渉などが進
まず、業者と契約もできない。
役所の職員の人手不足、復旧・復興工事に関わる作業員の人手不足は震災後の夏頃から言われていた。役所の職員の人手不足から、仮設住宅の建設用地確保に手間取った自治体もあった。
宮城県は2011年12月に被災15市町について計約1260人の職員派遣を政府に要望している。
2012年2月に国土交通省は全国の自治体から専門知識を持つ職員を募集し、合わせて158人を派遣することを決めている。
2012年3月.20日時点で、東日本大震災被災3県の市町村が12年度に総務省を通じて全国の自治体から受け入れる応援職員が要望約570人に対して270人不足の約300人にとどまった。
住宅の再建や雇用の確保は2012年2月10日発足の復興庁が担う。人手不足は野田政権(2011年9月2日~2012年12月26日)時代からの問題点だったが、なかなか解決することができない問題点であり、それが現在も解決されずに続いているということは安倍内閣の責任課題であるはずだ。
7月11日(2013年)付けの「TOKYO Web」記事が、〈東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県で復興に当たる職員が不足しているとして、3県合同で県外自治体に出向き、応援職員の派遣を呼び掛けることを決めた〉と伝えている。
不足人数は3県で計約350人。呼びかけの対象は3県を除く全44都道府県に要請する予定だという。
国を通しての派遣要請では埒が明かないと見たのかもしれない。
それ程にも深刻な職員不足が現在もなお続いている。復興がなかなか前へ進まないことの現れであるはずだ。
また同じ7月11日付の「NHK NEWS WEB」記事――《震災2年4か月 本格復興にまだ時間》は、土木工事に従事する作業員不足から、集団移転先の土地の造成や浸水した土地のかさ上げ工事、さらに福島県の除染作業、瓦礫撤去が進んでいないと伝えている。
記事は移転先の土地の買い取りに時間がかかっているとも書いているから、仮設住宅用地の借り上げや買い上げが職員不足からなかなか進まなかったのと同じく、役所の職員不足も一因となっている買取りの停滞であろう。
記事末尾の解説。〈被災者の中には、長引く避難生活によって体調を崩す高齢者や、生活再建の見通しが立たず、不安を抱えたままの人などもいて、被災地の本格的な復興にはまだ多くの時間がかかる見通しです。〉――
様々な人手不足も影響している復興の遅滞であるはずだ。
いわば被災地の人手不足は延々として続き、今以て人手不足の状態にあり、このことが集団移転先の土地の造成や浸水した土地のかさ上げ工事、さらに福島県の除染作業、瓦礫撤去等々を遅らせている。
だとすると、安倍晋三の岩沼市の高台造成を以って復興加速の一例とするのは一つの成功を全体の成功のように言う大ボラ吹きと言われても仕方がないだろう。
また、安倍晋三は取り組んだことの一つとして、「省庁の縦割りを廃して、復興庁に権限を集中をしていく」と、順次縦割りを廃していくかのように発言しているが、2月10日(2013年)付け「毎日jp」記事は、被災3県自治体その他からの要望受け付けの窓口となる〈復興庁は、他省庁の役割に及ぶ部分について踏み込んで判断を示す権限を実質的に持たない。〉と伝えている。
〈他省庁の役割に及ぶ部分について踏み込んで判断を示す権限を実質的に持たない〉と言うことは復興庁と他省庁との間に権限上の縦割りが厳格に存在することを意味する。
尤も権限を持たせたとしても、無条件に縦割りを廃することができるとは限らない。他省庁の抵抗という要因も考えなければならない。
尤も安倍晋三は現在改善したと言うかもしれないが、日本人が上が下を従わせ、下が上に従う権威主義が縦割りという行動様式をつくっていることと、そのような行動様式を背景として権限を持つ側がその権限を固守する体質構造にあるから、一朝一夕には改善することはないはずだ。
このことを逆説的に証明する事例ががある。
「子ども・被災者支援法」(正式名:東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)は2012年6月14日、議院東日本大震災復興特別委員会に提出され、2012年6月15日に可決、衆議院本会議に回され、2012年6月21日可決成立、6月27日施行。
但しこの法律の主務官庁が存在しないと、《「子ども・被災者生活支援法」の成立》(国土交通委員会調査室 泉水健宏)に書いてある。
〈「子ども・被災者生活支援法案」の中に主務官庁、主務大臣が明記されていない理由は何か、施策の責任主体となる主務官庁がはっきりしないと施策実施に至るまでに実効性が弱まる懸念があるとの質問がなされた。これに対し、委員長代理者から、政府全体で取り組んでもらいたいとの思いがあること、個々の施策の内容から所管する省庁や中心となる省庁は明らかになることから、特に主務官庁を明記しなくても足りると考えた。
もっとも、基本方針については、復興庁が、東日本大震災復興基本法第2条の基本理念にのっとり、主体的かつ一体的に行うべき東日本大震災からの復興に関する行政事務の円滑かつ迅速な遂行を図ることを任務にしており(復興庁設置法第3条)、中心的な役割を果たしてもらいたい旨答弁がなされた。〉――
この答弁の場は2012年6月19日開催の第180回国会衆議院東日本大震災復興特別委員会のことを指す。
要するに主務官庁・主務大臣は存在しないが、「復興庁が、東日本大震災復興基本法第2条の基本理念にのっとり、主体的かつ一体的に行うべき東日本大震災からの復興に関する行政事務の円滑かつ迅速な遂行を図ることを任務」にしている。
ところが、《子ども被災者支援法施行1年間~省内会議はゼロ》(Ourplanet TV/06/25/2013-14:00)によると、法律施行からこの1年間、〈復興庁は「子ども・被災者法」を推進するための会議を、この間、一度も開催していないことが、OurPlanetTVの取材でわかった。〉と伝えている。
但し、〈「子ども・被災者支援法」は、骨格だけが示されている「プログラム法」と呼ばれる法律で、実際に予算をつけて具体的に運用するためには、行政が「基本方針」を示すことが必要だ。これらは、国の責務とされている。しかし、去年成立以来、1年たっても「基本方針」が示されず、今年3月7日開催された原子力災害対策本部で、根本匠大臣は、「基本方針」の中に盛り込む必要がある「支援対象地域」の設定を、原子力災害対策本部に委ねると発言。現在、たなざらしの状態だ。〉――
要するに法律を運営する主務官庁・主務大臣が決められていたなら、それが責任主体となって主務官庁・主務大臣という上からの縦割りを含めた何らかの権威主義の力学が働いて、法律が制定している責任を進めもするが、逆に主務官庁・主務大臣が決まっていないために権威主義の力学がどこからも働かず、責任行為が停滞するという逆説が生じているということではないだろうか。
自分たちの責任行為を進めるためには縦割りや上からの指示等の権威主義が必要だということであり、簡単には廃することができない縦割り等々となっているということであろう。
だからこそ、政治家が簡単に縦割り排除を言う割には排除が進んでいないことになる。言わなくなれば元の木阿弥元がが横行する。
法律の義務付けの幾つかを「Wikipedia」から見てみる。
被災者自らの意思による居住、移動、帰還の選択の支援
放射線被ばく不安の早期解消努力
被災者に対する謂れ無き差別排除
子ども(胎児含む)及び妊婦に対する特別の配慮
被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務――等々を義務付けている。
但しこれは骨格だけのことで、「理念倒れ」と報じるマスコミもある。理念を打ち立てたが、理念から具体化へ向けて一歩も前へ進んでいない。
法律施行後1年は安倍内閣に変わって既に半年の経過を示す。このような停滞を無視して、さも全体的に復興が加速化しているかのように言う。
安倍晋三が言っているように復興が加速化のレールに乗っていたなら、次の報道は存在しないことになる。
《何も進まぬ1年 政府に怒り 方針出して》(TOKYO Web/2013年6月22日 朝刊)
東京電力福島第一原発事故の被災者を救うはずの「子ども・被災者支援法」 が成立して6月21日で1年を迎えた。だが、超党派の議員提出で、衆院、参院とも全会一致で可決したのに、政府は具体化のための基本方針さえ作らないと批判している。
福島県郡山市から札幌市へ自主避難していて、東京・永田町の参院議員会館で開催され、復興庁の担当者も出席した集会に参加した宍戸慈(ちか)さん。
福島県郡山市から札幌市へ自主避難している宍戸慈(ちか)さん「成立した日は、革命が起きたかと思うほどうれしかった。これで私たちの生活が少しでも楽になる、苦しみがなくなると期待したが、変わらなかった。
もう期待していない、という声を聞く。とても気持ちは分かる。事故から二年たつ間に被災者の状況はどんどん変わる」――
集会出席の復興庁担当者は基本方針の決め方の見通しすら話さなかったという。
もし「子ども・被災者支援法」が民主党政権が成立させた法律だから、それを成功させるのは抵抗があり、放置して骨抜きを狙っているとしたら、それこそ民主党に対する自民党の縄張り根性からの発想であり、縄張り根性は縦割りの権威主義的行動様式からも発する。
この勘繰りが当たっているとしたら、当然、この縦割りの権威主義的行動様式から発した縄張り根性は安倍晋三を頂点とすることになる。
益々全体的に復興が加速化しているかのような発言は信用できなくなり、一つの成功を全体の成功のように言う大ボラ吹きの疑いが一層膨らんでくる。