民主党子ども手当満額支給断念、現物給付を掲げることの矛盾

2010-06-10 06:29:35 | Weblog

 長妻厚労相が8日夜の記者会見で子ども手当の満額支給の断念を示唆したという。

 《“子ども手当 満額支給困難”》NHK/10年6月9日 4時56分)

 長妻「今年度の1万3000円の支給額に増額する分を『現金給付』にするのか、それとも『現物給付』にするのか、党とも連携を取りながら決めていきたい」

 「財政も非常に大きな問題になっているので、満額を支給するというのは、非常に難しいのではないか」――

 記事は、民主党は昨年の衆議院選挙の政権公約で月額2万6000円を支給するとしていたが、国の苦しい財政状況を考慮、参議院選挙の政権公約作りに当たる政府・民主党の委員会が「現金給付」ではなく、保育所整備などの「現物給付」を求める意見もあることを受けて、公約では金額を明記しない方向で調整を進めていると解説している。

 記事によって発言の趣旨は同じだが、伝える言葉自体が違う場合がある。《子ども手当、月2万6千円の満額支給を断念 長妻厚労相》asahi.com/2010年6月9日1時5分)

 長妻「満額支給は財政上の制約もあり難しい」

 「現物、現金問わず、2万6千円という水準について確保するのが難しい」

 「一定の結論が出れば、国民にきちっと説明することが必要だ」

 記事は満額支給に必要な5.4兆円に上る財源確保の目途が立っていないこと、そのため子ども手当全体を圧縮する必要性を指摘したとしている。

 要するに「現金給付」分を「現物給付」にまわすとしても、トータルで当初約束した1人当たり2万6千円にまで持っていくことはできないの宣言である。

 満額支給に必要な5.4兆円を如何に事業仕分けして、全体額をどれ程圧縮するかに今後向かうということなのだろう。

 多分、連携プレーに違いない、蓮舫行政刷新担当相が長妻大臣と同じ趣旨の発言を行っている。《子ども手当「満額」見送りを=蓮舫行政刷新相》時事ドットコム/2010/06/09-19:01)

 9日夕のフジテレビの番組の中での発言だそうだ。

 蓮舫「政府の財布の現状を考えたときに、より現実的なサイズにしていく作業は否定しない」
 
 まったく以って「否定しない」とは、さも自分が差配しているかのような偉そうな言い方となっているが、以前は「政府の財布の現状」を考えなかった、結果的に「現実的なサイズ」を弁えなかったといった暴露としかならない発言となっている。

 満額支給断念は100%予想できたことであった。野田佳彦新財務相が副大臣だった当時の今年1月31日日曜日のNHK「日曜討論」で、司会者が「子ども手当の2年目以降の満額支給については、慎重なお考えを示されたと窺っておりますが?」と聞いたのに対して、「難しいという話はしました。ハードルは高いと。できないとは言ってません。これからの作業です」と発言していたことと、この発言に歩調を合わせるかのように長妻厚労相を除いた他の閣僚も同じ趣旨の発言をしていたことからの予想だが、競輪・競馬・宝くじ・BIG・toto等々、これ程までに確実に予想できたなら、誰もが大金を手に入れるというよりも、公営ギャンブル自体が成り立たなかったに違いない。

 所管大臣の長妻のみが今回断念宣言するまでは満額支給を言い続けてきた。その一つを4月13日午前の閣議後の記者会見から拾ってみる。政府内から現物給付に転換すべきとの発言が相次いでいることに対する反論として展開したものである。

 《厚労相 子ども手当は現金支給》NHK/10年4月13日 14時35分)

 原口総務相「すべて、子ども手当として支給するのがいいのか、サービス給付をしたほうがいいのかなど、検討している」

 記事は、〈古川内閣府副大臣も、一部を保育料などに充てることも検討したいという考えを示してい〉るとしている。

 長妻「日本は、ほかの先進諸国と比べて現金支給のレベルは低く、満額の支給でようやく一定のレベルが確保される」――

 どれ程「現金支給のレベルは低い」か、長妻厚労相自身が記者会見のみならず、テレビ出演の折に触れて発言してきているが、「Wikipedia」で見てみる。
 
 子ども手当(Wikipedia)

 目的・背景

日本では少子高齢化が進行し、2010年現在は、3人の現役世代で1人の高齢者を支える形になっているが、2055年には1人の現役世代で1人の高齢者を支える状況となることが見込まれている。

一方、日本における子どもの貧困率は14.2%と、OECD諸国平均の12.4%より悪くなっており、片親の子どもの貧困率は54.3%とOECD諸国(平均30.8%)中最低となっている。

日本政府が子育ての支援にかけている予算は、GDP比でスウェーデン3.21%、フランス3.00%、ドイツ2.22%に対し、日本は0.81%と先進国中最も少ない国の一つとなっている。

特に6歳以下の子どもへの支援額がOECD諸国平均と比べ非常に低いとOECDに指摘されている。また子育て世代は等価可処分所得中央値が1998年から2007年の10年で10%以上落ちる]など収入に余裕がなく、子どもが学校に通うようになると教育費も大きく増加して経済的負担が大きくなる面もあるため、民主党はこどもの幼少から就学までのトータルでの支援が必要だとしている。

こうした状況を踏まえ、子ども手当法は、「次代の社会を担う子ども1人ひとりの育ちを社会全体で応援する」こと及び「子育ての経済的負担を軽減し、安心して出産し、子どもが育てられる社会をつくる」ことを政策目的としている。

なお、子ども手当法第2条にて、「子ども手当の支給を受けた者は、前条の支給の趣旨にかんがみ、これをその趣旨に従って用いなければならない。」と記述されており、給付金を子どもの成長及び発達のために使用する責務がある。

 車体は豪華絢爛に創り上げたが、車体の豪華絢爛さに追いつかない出力の弱いエンジンしか用意できなかったために満足に走れない車となってしまったといったところらしい。

 長妻厚労相は5月日にも満額支給発言を行っている。《子ども手当、揺れる民主 満額支給断念→両論併記に修正》asahi.com/2010年5月8日2時0分)

 長妻「マニフェストを変えることになると、相当の理由がなければならない」

 〈マニフェストの原案を検討する民主党の国民生活研究会(中野寛成会長)の7日の総会〉の〈出席者の多数は「現金給付を考えるべきだ」という意見。〉だったため、当初原案の〈来年度からの子ども手当の満額現金支給を断念し、増額される月額1万3千円分は「保育・教育にかかわる子育て支援の実施に充てる」とする〉から、〈最終原案では、増額分について「現金支給の積み増し」と「保育・教育への子育て支援」を併記した。現金2万6千円を配ってもよし、現金は1万3千円だけで残りは自治体の保育所整備予算に充ててもよし、というものだ。 〉という形で収まったとしている。

 原口一博総務相(5月12日)「2万6千円を丸々、子ども手当で給付するか、地方の自由を許容してサービス給付でやった方がいいのか、あるいは組みあわせるか検討している」

 仙谷由人国家戦略相「給食費をそこ(子ども手当)から充当することもありうる」

 各閣僚が分担して世論を断念の方向に誘導するために支給方法の“検討”と“可能性”を色々と打ち上げる役割を演じつつ、長妻“断念包囲網”を着々と進めていたのか、最初から全員が満額断念に向けた大合唱ではまずいから、各閣僚の役割分担に長妻も所管大臣として抵抗する役回りを最初から引き受ける形で加わっていて、満額支給かそうでないかの綱引きを演じつつ、ダメージの少ない軟着陸を目指そうとしていたのか、先ずは断念は決定した。

 どちらであっても、財源不足を理由とする以上、2万6千円を減額のみで済ますなら納得のいく話となるが、財源不足を理由に「現金給付」から、その一部でも保育所整備・充実等の「現物給付」にまわすとするのは矛盾行為ではないだろうか。

 「現物給付」に当たる待機児童解消のための保育施設の整備・充実、少子化解消等は前政権から長い間課題となっていながら解決できないまま推移していた政策であって、子ども手当政策を掲げたからといって置き去りにしても構わない政策ではなく、「現金給付」「現物給付」のバランスを取りながら、それぞれを独自に振り分けていく、双方とも独立した政策として成り立たせなければならないはずである。

 それを「現金給付」から、その財源のいくらかを「現物給付」にまわすとする。

 まわすとすることで、減額を招く政策能力の杜撰さ、財源に対する甘い見通しを韜晦し、国民を納得させようとする騙しの手口ではないのか。「現金給付」から「現物給付」にまわるのだから、仕方がないかと。

 子ども手当の結末がどうなろうと、満額支給以外の結末の場合、当初の約束と違う高速道路無料化や暫定税率の廃止等と合わせて、民主党の「マニフェスト」とは当てにならないことの譬えとなる。

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