菅首相の「自民党消費税10%」相乗りを読み解く

2010-06-21 09:52:22 | Weblog

 悪い頭で読み解いてみようと思う。
 
 6月17日午後、菅首相は民主党代表という立場で党のマニフェストを発表する記者会見を開催。記者会見の模様は「プレスクラブ - ビデオニュース・ドットコム インターネット放送局」の動画から、消費税に関する場面のみを抜粋。

 菅直人民主党代表「中でも、強い経済、強い財政、強い社会保障、この、三つの、点について、特に申し上げておきたいと思います。つまり従来は、経済、景気をよくしようとすれば、そのときは赤字国債を出しても仕方がないと言い、あるいは社会保障は、負担という言葉で、どちらかと言えば(右手を上げたり、左手を上げたり、ジェスチャーたっぷり)、経済成長の足を引っ張るものだと、看做されている。そして財政というものは、財政を健全化しようとすれば、それは景気に逆にマイナスになるという、言われ方、あるいは社会保障を頭を押さえるという言われ方を、して、この経済と財政を、社会保障は、それぞれが、対立するものだという、ふうに、多くの場合受け止められ、あるいはみなさん方もそういう視点から、報道されていた面も強かったと思います。

 私はこの根本的な見方を、変えなければ、日本の再生はない。このように思っております。つまりは、言うまでもありませんけれども、経済成長する中で、勿論、税収とか(右手を大きくぐるぐる回す)、社会の中の雇用とか、そういった自殺が増えるのも、景気が悪くなったときに自殺がたくさん、増えるわけでありまして、そういう問題が、連動しているわけであります。

 そういう意味では、単にスローガンとして、この三つを並べただけではなく、今日もこの直前に、新成長戦略の、オ、会議をやった、明日閣議決定をいたしますが、経済成長についても、この半年余り、しっかりと議論し、それを具体化する道筋を、定めることができました。

 また財政運営戦略、中期財政フレームについても、来週早々には、その内容を、きちっとみなさんにお示しをする。

 ま、社会保障については、これまでも具体的な形で、色々提起をしてきた、ア、でありまして。そういった、単にスローガンとしてこの三つを並べたのではなく、その三つの経済と、財政と社会保障というものが、どのように(再び右手を大きくぐるぐる回す)好循環をつくるということができるか、それがまさに、この新成長戦略などを含めた政策体系であって、それのエキスが、このマニフェストだと。是非このようにご理解をいただきたいと思います。

 ま、その中で、それぞれ申し上げたいんですけれども、時間の制約もありますので、みなさん方が特に注目、をされている点について、私の、オー、方から、アー、少し、補足をさせていただこうと思っています。

 それは8ページの、強い財政の中にあります、エー、早期に、結論を得(う)ることを目指して消費税を含む、税制の抜本に関する協議を超党派で、開始しますという、このことの、オー、持っている、ま、考え方、プランというものについて、申し上げたいと思います。

 (今までの力強い滑らかな口調が失せて、慎重な物言いとなる。トーンも低くなる。)

 まあ、国民のみなさんにとって、税というのは、やはり、負担という、形で、重いものがあります。ですから、本来なら、エ、税の、オー、より大きな、負担をお願いするというのは、できれば政治家にとっては、そうしたくない、そうしない、で、済む、ことが、ある意味、望ましい。あるいは、その方が、有難い、という思いが、率直なところあります。

 しかしご承知のように、今の日本の財政の状況は、アー、債務残高がGDP比で、180%を超え、この間の、水準で国債発行を続けていれば、あと、数年、3年4年という数年の間には、GDP比で200%を超えることが、確実だという、そういう状況に今日本が、あるということを、これは多くの国民のみなさんも、ご理解をしていただいていると思います。

 そして特に、あのギリシャの財政破綻から、始まる、ヨーロッパの動揺は、問題が決して、対岸の火事ではなくて、我が国自身が、このことをしっかりと、財政再建を取り組まなければ、例えば、IMFといった国際機関が、我が国の主権と言うべき、財政運営に、それこそ、箸の上げ下ろしまで、エー、コントロールするようなことにもなりかねない。過去に於いて多くの国が、そういう経験をし、社会が非常に荒んだということも、あるわけでございます。

 そういう意味で、我が国が、国、そして国民のみなさんが、そして私たち政治家が、自分たちの、他国に頼らない、自分たちの力で、財政再建を、ヲー、実現をする。強い財政をつくるが、つくることが、同時に、強い財政、強い社会保障をつくる、こういう道筋に持っていくために、消費税について、これまでも議論を長くタブー視する傾向が、政治の社会でありましたが、ここでは思い切ってですね、このマニフェスト、今申し上げたような形で、書かせていただいたところであります。

 そして、ここに書かれたものをもう少し私の言葉で噛み砕いて言いますと、既に消費税について、政府税調の方で、議論を始め、始めていただいておりますけれども、今年度内、2010年度内に、そのあるべき税収や、あるいは逆進性対策、を含む、この諸費税に関する、改革案を、取りまとめていきたい、今年度中の、とりまとめを目指していきたい、と考えております。

 併せて、超党派の幅広い、合意を目指す努力を、行っていきたいと思います。

 なお、当面の税率については、自由民主党のが、提案されている、ジュウ、10%という、この、数字、10%を、一つの、参考とさせていただきたいと、考えております。

 そして幅広い、合意が、得ることができれば、超党派で、法案を提出し、成立を目指していくことになります。

 しかし、超党派での、そうした法案提出が困難な場合は、民主党が中心になって、改革案を、取りまとめていく。エ、つまりは、超党派での、オ、議論を、オー、しっかりと、していきたいと思っておりますが、それが、ア、うまくいかなければ、永久に、エー、議論を進めないというのではなくて、エ、そのときは、民主党として、エー、・・・中心となって、取り纏めていきたい。このように考えているところであります。

 エー、そういうことで、今回の、マニフェストの基本的な、アー、強い経済、強い財政、強い社会保障、そして、最も国民のみなさん、あるいは、マスコミのみなさんが、アー、関心を持たれている、この消費税の扱いについて、エー、私の、オー、考え方、あるいは民主党としての考え方を、申し上げさせていただいて、私からの、オー、説明とさせていただきます。

 どうもご清聴ありがとうございました」

 (質疑)――記者会見では質問者が新聞社名、あるいはテレビ局名と自身の名前を告げる慣例となっているが、質問自体を重要視しているからなのか、殆んどが低い早口の声で適当に片付けて聞き取れないことが多い。テレビで生中継する場合もあるし、インターネットで動画に自由にアクセスできる場合もある。質問の内容次第でどこの誰の質問なのか宣伝になると思うのだが、そういった宣伝意識はないようだ。

 ――(名乗りは聞こえない。)消費税に関してですが、10年度中に、あるべき税率を固めるということですが、その法案、実際の引き上げ時期をどう考えているのか。かつて財務大臣時代に選挙を経てから、あのー、上げるべきだとおっしゃったこともありましたが、選挙を経てからという考え方なのか、それとも、衆議院を経ないでも、もう参院選で信を問えば、もう上げてもいいという考えなのか、そこの辺をちょっと。

 菅代表「まあ、基本的には、大きな税制改革を行う場合は、アー、予め、実施する前に、国民のみなさんに、エー、信を問うというか、その内容を、判断をいただくいうことは、ア、本来あるべき道だと、こう思っております。

 ですから、今申し上げたように、エー・・・あのォー・・・、今年度、中に、イー、税率や逆進性対策を含む、改革案を取り纏め、ると、同時に、エー、他党とも、オー、議論を呼びかけると。ま、そいう中で、それが順調に進むのか、アー、それによっても、その後の展開は、変わってくると。

 ただ永久にですね、エー、そういった超党派の話し合いが、アー、始まる、あるいは進むまで、あるいは何もしないでということではないという意味で、どうしてもある段階まできて、超党派での、合意は難しいということになれば、あー、民主党中心で、エー、最終的な案を取り纏めて、いくと、オー、こういうことになります」

 ――あの、日経ビジネスの・・・・(名前は聞こえない)と言います。今の状況の関連なんですが、エー、確認なんですけども、エー、自民党の方で10%という目安を一つ出して、民主党の方も10%と、いうことでよろしいんでしょうか。

 菅代表「今申し上げましたように、エー、10%と、う、案を出されているというのは承知しておりまして、ま、私共ですね、ま、一つの大きな参考にさせていただきたい、このように考えています」

 ――読売新聞の黒見(?)と申します。時期についてもう一度確認なんですが、超党派での話し合いがうまくいった場合には、エー、衆議院選前でも引き上げはあり得るということで、超党派の話し合いがうまくいかなければ、衆院選で消費税の引き上げを民主党案として問うというお考えでよろしいでしょうか。

 菅代表「ま、先程も申し上げたように原則的には、ア、大きな税制改正を行うときには、エ、それが実施される前に、国民のみなさんに、えー、判断をいただくことが必要だと思っています。

 ただ、その進め方なり、段取りについてはですね、エー・・・・どういった、アー、政党なり、議員のみなさんが、エー、そうしたことに、一緒に議論に参加をし、合意形成を図るれかによって、エー、早い段階で図れれば、物事が早く進めることができますし、それが難しければ、やはりそれなりに時間がかかるという意味で、エー、何年度からどうしますということはですね、エー、いうことは難しい、イー、ということで、先程申し上げたような説明を、ヲー、いたしたところでございます」

 カメラマンからの要請で、三脚に立てた民主党の参院選用ポスターの前でマニフェストを手ににこやかな顔でポーズを作る。


 菅代表は「強い経済・強い財政・強い社会保障」は「スローガンとして、この三つを並べただけではない」とニ度も強調しているが、「スローガン」かどうかは結果が証明すること、あるいは結果によって証明させるべき事柄であって、仕上げを御覧(ごろう)じろとすべきを、それができなくてスローガンでないと何度も断らなければならないのは、「スローガン」と受け取られるのではないかという自信のなさからくる、その裏返しとしてある不安がどこかにあるからではないだろうか。だから、どうしても言葉の数が多くなってくどくなる。一度言ったことを何度も繰り返すことになる。

 あるいは「強い財政・強い経済・強い社会保障」という言葉自体を言葉で以って実現できるかのようにこれでもか、これでもかと説明している。

 要するに言っていることを信じろ、信じろと言葉を尽くしている印象だが、いくら言っていることを信じろと言葉を尽くしたとしても、言っていることに具体性を与えることができるわけではなく、それを可能とするのは偏に今後の行動性、取り組みようにかかっているはずだが、そのことにかける強い意志を感じることができない。

 衆院選のマニフェストをあれこれ修正した前科から、その二の舞と把えられかねない恐れがトラウマとなっていて、その後ろめたさから、「スローガン」ではない、「スローガン」ではないと強調しなければならない、前科に対する反射性も働いているのかもしれない。

 重厚な声質、議論するときの攻撃性からすると指導力・統率力に優れているように見えるが、言葉数の多さ、くどい言い回し、同じ言葉の繰返しからはぐいぐい引っ張っていく、あるいは統率していく指導力・統率力を感じ取ることはできない。だから、結果責任に賭けようとする強固な意志を演じることができないのではないのか。

 「消費税について、これまでも議論を長くタブー視する傾向が、政治の社会でありました」と言っているが、自身はタブー視しない、挑戦することを意味し、強い決意表明でなければならないはずだが、言葉で言っているのみで、言葉からはそういった強い意志を窺うことができない。

 6月11日の総理大臣所信表明演説では、「強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現を、政治の強いリーダーシップで実現していく決意です」と述べている。

 また、マニフェスト発表の消費税に関わる発言の冒頭でも自身で触れているが、「強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現」を言い、「日本の再生」にイコールさせている。

 「強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現」を「強い」という言葉まで冠していることに対応して、当然、「政治の強いリーダーシップ」は欠かすことはできず、消費税増税が「強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現」に向かわせる一つの重要なアイテムと計算しているなら、消費税増税に向けた政治行動に於いても、「政治の強いリーダーシップ」は必要不可欠な絶対条件となる。

 「日本の再生」を実現させ得るかどうかは偏に「政治の強いリーダーシップ」にかっかていると自ら宣言したのである。

 ところが、「当面の税率については自由民主党が提案されている10%という、この数字、10%を、一つの参考とさせていただきたいと考えております」と言っている。この言葉に日本の政権を担っている与党としての「政治の強いリーダーシップ」を看取することができるだろうか。

 与党の立場上、消費税増税に関わる世論誘導の主導権を握らなければならない地位にいながら、自民党の「10%を、一つの参考にさせていただきます」と野党自民党に準ずる位置に立たせたことにも現れている「政治の強いリーダーシップ」の欠如ではないだろうか。

 このことを端的に象徴する言葉が、「当面の税率については」の「当面」という語であろう。消費税増税は中低所得層にとっては直接的には生活に打撃となる政策であることを考えるなら、自民党の「10%」案を基準に議論を重ねるという経緯を考えているにしても、民主党自身が検討を重ね、ある程度の確定性と永続性を持たせて弾き出した数値ではなく、「当面」という形で、しかも「参考」という与党にあるまじき受け身姿勢で税率を出されたのでは無責任に過ぎる。

 こういったことも「政治の強いリーダーシップ」を菅自身も民主党自体も持たないことから、そのことに反する、税率の非自律的算定であろう。

 例え検討を重ねて自民党と同じ10%となったとしても、使い道を同じ社会保障予算に限定するにしても、医療・介護だけではなく、介護、医療、雇用、年金等の各種保険、障害者福祉、児童福祉、母子福祉等の社会福祉等々、どう優先順位をつけるか、どこに重点を置くかの内容に違いが出てくるはずである。余りにも安易な「当面の税率」であり、自民党の「10%」参考となっている。

 さらに言うと、記者との質疑応答で、記者が参院選で勝てば、消費税増税の信を得たとして増税するのか、前以て衆院選で信を問うのかの質問に対して、消費税を説明したときの言葉をくどくどと繰返すことと、「大きな税制改革を行う場合は予め実施する前に国民のみなさんに信を問うことが本来あるべき道だ」とする原則論で逃げたところにも、「政治の強いリーダーシップ」を感じることはできない。

 尤も6月18日のぶら下がり記者会見で「10%」の根拠を具体的に説明している。

 《「消費税10%、自民の考え方同じ」―18日の菅首相》asahi.com/2010年6月19日0時46分)

 ――昨日のマニフェスト発表会見で、消費税率について自民党が掲げる10%を一つの参考にすると発言した。この10%の根拠は何か。社会保障など必要な金額を積算した上での数字か、それとも自民党が言っているからなのか。

 「あの、元々ですね、予算総則というのがあって、もう10年ぐらい前からですね、予算総則では、消費税の国の分は、あの、福祉の、特にあの、高齢者にかかる費用に充てるというのが決まってるんですよ。で、それが今、5%の現行消費税で言えば、国の分が約7兆なんですね。ま、しかし、実際に、あのー、充てることになっている高齢者の福祉にかかるものが、約17兆かかってるんです。ですから、現在でも10兆ぐらい、そこに充てるとされてるものに足らないんですね。で、まあ、これはあのー、毎年、あのー自然増とか、あるいは社会保障の、より強化で増えていく数なもんですから、それを念頭に入れて考えるとですね、やはりこの程度の財源が必要になると、そういうことで申し上げたんです。で、あの、自民党の資料もよく見てみました。ま、自民党の考え方もほぼ同じような考え方で、やはり、あのー、福祉について、あの、予算総則を超えて必要なものがあるので、その程度の税率になるということも書いてあって。ま、考え方の基本は、その部分でも同じですね。

 ――増税分の使途は、社会保障に限るということか。

 「いや、元々そういう考え方になってるんです。あの、しかし今は足らないから、それ以外の税収でまかなってるわけです。ですから、もっと言えば、税収が足らなければ赤字国債でまかなっているわけです。それが、今のような形で考えれば、少なくとも、ほぼ、その総則ですでに言っているように、高齢者にかかる福祉の費用を、おー、新しい税率のですね、消費税で、ほぼまかなえるようになるということです」 ――

 ここでは「予算総則では消費税の国の分は特に高齢者にかかる費用に充てるというのが決まってる」と言っているが、高齢者の福祉に当てるとしても、介護医療や高齢医療とこれらに対応させた介護保険、高齢医療保険などの分野に分かれる。例え「新しい税率でほぼまかなえるようになる」にしても、自民党消費税政策とすべての中身まで事細かく一致するわけではあるまい。 

世論調査を見ると、国民は消費税増税に賛成が僅かに上回るものの、ほぼ賛否相半ばしている。 

《参院選連続世論調査―質問と回答〈6月12・13日〉》asahi.com/2010年6月13日23時18分)によると、消費税に関する賛否は次のようになっている。

◆消費税の引き上げに賛成ですか。反対ですか

  賛成   49

  反対   44

 菅直人の「自民党10%」相乗り発言後の調査である、《首相「消費税10%」評価48%・評価せず44%》YOMIURI ONLINE/2010年6月20日22時50分)でも、題名が既に示しているように極めて近い数字を出している。

 対して自民党の消費税10%増税公約への評価についていは――

 「評価する」 ――55%
 「評価しない」――37%

 要するに両党の消費税増税公約に国民は共に賛成が上回るということなのだろうが、自民党支持者に高額所得者がより多く占めていると考えるなら、そのことに対応して5%から10%に上がっても困らない生活者の存在が「評価しない」37%に対して「評価する」55%の格差となって表れたと見ることができないわけではない。低所得者に向かう程、賛成できない状況にあるはずだ。私などは特に賛成できない貧乏人ときている。

 国民世論の僅かでも上まわる消費税増税に対する抵抗感の喪失に安心したものの、それが僅かであることから参院選への影響を考えて、税率で自民党と同じ土俵に上がれば、横並びなら、例え国民の反撥・反感を受けたとしても、二分できるのではないか、二分する形で和らげることができるのではないかといった計算からの、「政治の強いリーダーシップ」を発揮できないことも手伝って「自民党10%」に相乗りしたように思えて仕方がない。

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