米慰安婦決議/安倍「多くの決議のひとつ」は軍関与否定をも「多くの否定のひとつ」とすること

2007-07-01 02:37:15 | Weblog

 安倍首相の訪米前の米紙インタビュー、訪米時の米議会指導者たちとの会談、そしてブッシュ大統領との首脳会談で慰安婦たちの苦労に言及したものの、それが「20世紀は人権侵害の多い世紀であり、日本も無関係ではなかった」とする巻き添え事故説で凌いだものの、米議会で野党民主党が上下院とも多数派を占めた形勢不利な状況に不安を感じたのか、日本知識人が試みた慰安婦の軍関与事実は存在しないとする新聞全面広告も効果なく、米下院外交委員会でアメリカ時間6月27日(07年)、従軍慰安婦決議案が大差で可決された。
 
 安倍首相の態度。<「米議会の決議だからコメントするつもりはない。すでに私も米国を訪問した際、わたしの考えを説明している」と述べた。そのうえで、「米議会では相当たくさんの決議がされている。そういう中の一つなんだろう」>(07年6月28日『朝日』朝刊≪慰安婦決議 首相「多くの決議の一つ」≫

 <「米議会でたくさん決議されていてもその一つひとつは割と重要ではないのか」との記者団の問いに対し、「それはあなたの意見ですね」と不快感をにじませ、質問を続けようとする記者団を振り切って質疑を打ち切った。>(同記事)

 「多くの決議のひとつ」に過ぎないのなら、ブッシュとの首脳会談だけではなく、それに先立って行われた米議会指導者との会談でもなぜ自分の方からわざわ慰安婦問題を取り上げたのだろう。決議案可決阻止に向けた思惑があったからこそ、しおらしく慰安婦の苦労・苦痛に言及し、それを戦前という時代の責任として日本無罪説を打ち出したのではなかったか。

 「多くの決議の一つ」に過ぎないと相対化を図ることで、自分たちの軍関与否定をも否定の一つに過ぎない相対化を同時並行させ、絶対性から遠ざけたことに気づいていない。しかも本人の相対化の無視とは裏腹に決議は世界に情報発信されて、「そういう中の一つ」であることを超えた事実の形を取る。

 北朝鮮の一般国民の間では今もって日本人拉致の問題は権力側の情報隠蔽、あるいは情報操作を受けて〝事実〟の形は取っていないだろうが、自由国家間に於いてはその手は通用しない。

 勿論事実は〝解釈〟次第で姿を変える。安倍首相の「多くの決議のひとつ」も一つの解釈だし、<自民、民主両党を中心とする有志国会議員約50人(代表世話人・平沼赳夫元通産相=無所属)>が<「このような事実に基づかない対日非難決議は、日米両国に重大な亀裂を生じさせ、未来に暗い影を落とすだろう」>(07.6.28.『朝日』朝刊≪「日米両国に重大な亀裂」超党派議員声明≫)にしても、彼らの〝解釈〟から出た彼らの事実ではあるが、それが事実のすべてではないことも事実として横たわっている。

 そうであるからこそ、安倍首相は軍関与否定をも多くの否定の一つと貶めることになるとも気づかずに「多くの決議の一つ」と無視する態度に出なければならなかったのであり、超党派議員も声明を出さざるを得なかったのだろう。

 超党派議員は<声明文では、慰安所設置などに対する軍当局の関与と慰安婦募集の際の「強制性」を認めた河野談話について「決議案の提案者が提案の根拠となったと述べている」としたうえで、「なぜ歴史事実に基づかない河野談話が生まれたのか、その経緯と事実関係の徹底検証が必要になると指摘。①日米両国による慰安婦問題に関する共同歴史研究の提案②「河野談話」の歴史的検証――を提案した。>(同記事)と、「歴史検証」という名で自分たちが納得できる〝事実〟を都合よくつむぎ出そうとしているが、凶悪・凶暴な暴力団が一つの街を支配しているような邪悪な強制性を当時の日本の軍隊が所持していたことを無視する、「歴史的検証」という名のどのような事実化も、正当化されることはないだろう。

 07年4月7日の朝日朝刊(≪日系監督、特攻隊員に迫る≫)は次のように伝えている。<特攻隊員は志願制が建前だったが、4人は「上からの命令だった」と口をそろえる。エース飛行士は「死刑宣告」と悔しがり、訓練不足の少年航空兵は「命を紙くずみたいに扱われた」と憤る。
 作戦上は「外道」(大西滝治郎中将)とされながら、特攻隊はお国のために進んで命をささげる」自己犠牲のモデルにされていく。・・・・>

 「上からの命令」という強制によって成り立たせていた「自己犠牲」なる逆説とそのマヤカシ。若い命よりもその場限りの有効性しか持たない見通しなき作戦を優先させて生命そのものを抹殺する上からの〝強制性〟を何のためらいなく発揮させていた軍内部のマヤカシ。ましてや女性の生きて在る命を生きて在る生命のままに生かす、それぞれが所持している精神の自由を自分たちの性欲の前に何ら価値を見い出さない強制性によって歪め、抹殺・否定して、軍関与の強制性はなかったとする〝事実〟を打ちたてるマヤカシを行おうとしている。

 他者の命を命と見ないそのような軍の強制性が沖縄の集団自決にも有形・無形の形で自動的に働いたのだろう。

 自分たちの優秀さの根拠を日本民族の優秀さに置きたいから、日本無罪の事実を欲しがる。優秀であるか否かは民族性とは別の個人の問題、その人間自身の問題だが、中味のない人間ほど自民族や自宗教を優秀だと権威付けて、その権威にすがって自己をも権威付ける。自民党だけではなく、民主党にもそういった政治家が多いということだろう。

 その結果、従軍慰安婦及び沖縄集団自決の軍関与の否定、南京虐殺否定、侵略戦争否定とすべてにわたって日本無罪の事実を獲ち取ろうとする衝動を疼かせることとなっている。多重犯罪者が清廉潔白の無罪を獲ち取るべく自分が犯した一つ一つの犯罪事実を否定・抹消しようと試みるようにである。

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