安倍首相の「消費税上げないなんて言っていない」は美しくない衆院選対策

2007-07-08 04:48:06 | Weblog

 <安倍晋三首相は五日夜の民放テレビ番組で、秋に政府・与党で行う税制の抜本改革論議で焦点となる消費税率引き上げについて「上げないなんてことは一言も言っていない。上げないと言っている小沢一郎民主党代表とは一線を画している」と述べ、引き上げに含みを残した。また「衆院もあと二年しか任期はない。税制の抜本改革はもう近いうちに、信を問うことになってくる」と述べ、税制改革の結果について次期衆院選で国民の審判を仰ぐ考えを示した。
 首相は、参院選で引き上げの方向性や税率を示すべきだとの指摘に対しては「正確でない議論をして何%とはいかない。新経済成長戦略によって自然増収がどれくらいになっていくかも読みきっていかなければいけない」と述べ、税収の自然増などを見極めるべきだとの考えを示した。
 これに対し、民主党の小沢一郎代表は同番組で「当面は消費税率をアップせず、行政の無駄を省く。小泉、安倍政権で九兆円増税になっている。これ以上に上げれば低所得者(の生活)にしわ寄せがいく」と反論した。>(07.7.6/北海道新聞インターネット記事≪消費税「上げないと言ってない」 安倍首相、テレビで≫)

 確かに安倍首相は「消費税上げないなんて言っていない」かもしれないが、「上げる」とも言っていない。「消費税から逃げるつもりはない、消費税に逃げ込むつもりもない」と体裁のいいことは言っている。

 いわば抽象的な言及はあったが、具体的な言及は、多分一度としてなかったはずで、偉そうなことを言えた義理ではないだろう。

 具体的な言及がなかったのは、技術革新によって幅広い産業の生産性向上を図り、名目4%(実質3%)の経済成長を目指す「経済成長路線」を掲げてその果実たる税収増によって財政再建を果たし、消費税増税を避ける戦略を掲げていたからとも言えるが、その裏で財政再建を名目とした定率減税の廃止による実質増税や生活保護の縮小、介護保険料の増税、酒税の引き上げ、自動車税増税等で国民負担を強いているのだから、名目4%(実質3%)の経済成長を実現させ得たとしても、見せ掛けで終わる可能性も残されている。当然、他の増税の程度によってはマイナスがプラスを上回るといった事態も起こり得る。

 上記記事で小沢民主党代表が「小泉、安倍政権で九兆円増税になっている。これ以上に上げれば低所得者(の生活)にしわ寄せがいく」と言っていることがこのことに相当する。

 こういったことからも、「上げないなんてことは一言も言っていない」は言わずもがなの偉そうな言い分でしかない。安倍晋三という政治家からしたら、無理はない差し出口といったところか。

 既に国民生活を圧迫する増税が「経済成長路線」の裏側で行われているのだから、それを手段とした財政再建・消費税増税回避はその有効性をかなり怪しくしていると言える。大体が経済成長は常に右肩上がりを保証されているているわけではなく、右肩上がりであっても、景気上昇のプラスが逆のマイナスの金利の上昇を招いた場合、そのことが国債の暴落につながったり、住宅ローン等の利子の値上げ、「[JMM418M] 世界同時株安は何かの兆候か?」(2007年3月12日)記事中の真壁昭夫:信州大学経済学部教授の話を参考にすると、ヘッジファンドによる金利の低い日本資金を調達して金利の高い世界市場で運用する図式を狂わせ、カネの流れ・投資を停滞させ世界経済に悪影響を及ぼしかねないということだから、右肩上がりにしても決して絶対的なものではない。

 今年(07年)3月の上海市場に端を発した世界的な株安の連鎖は短期間で持ち直したものの、2月の日銀の金利上げが日本マネーの動きを鈍らせて、それが上海市場の下落につながったということである。(<ヘッジファンドのファンドマネジャー連中と話をすると、円金利の上昇は、彼等のオペレーションに大きな影響を与えていることが分かります。「今回の株価下落で最も重要なファクターは、2月の日銀の利上げだった」との指摘もあるようです。>(同「世界同時株安は何かの兆候か?」/真壁昭夫:信州大学経済学部教授)

 経済成長路線を消費税増税回避の絶対的条件とすることができないことぐらいは安倍首相にしても本人がいくら客観的認識性を欠いていたとしても理解していただろうから(本人が気づかなかったとしても、周囲の誰かが教えただろう)、経済成長による消費税回避路線は総理に就任後1年後に控えた参院選で争点となった場合の支持率の低下を避ける選挙都合上からの消費税隠しを兼ねた政策ということも十分にあり得る。

 まさか安倍首相は経済を成長させて消費税を増税しなかった首相という正義のヒーローを演じたい、殆ど不可能といえる欲求を抱えていたわけではあるまい。

 いや、単純細胞の持主だから、もしかしたら頭に思い浮かべることぐらいはしたかもしれない。だが現実問題として、消費税増税は十中八九待ち構えている政治的関門であろう。そうでなければ昨年の自民党総裁選で谷垣前財務相の増大する社会保障の財源として消費税率を2010年代半ばまでに10%まで引き上げるべきとする主張は、他の候補である安倍、麻生の両者は経済成長による財政再建優先を掲げて否定したが、選択肢としての意味を失い、滑稽なものと化す。

 但し消費税増税の前に予算的な無駄だけではなく、公務員の能率に関わる無駄をも省いて、予算全般に関係していく効率を上げてから、多分これを可能とする能力の発揮は、「私の内閣ですべて解決します」という声は聞けても、期待薄だろうが、必要な税率を計算すべきだろう。また格差是正を言うのだったら、食品等の軽減税率も視野に入れるべきである。

 ところが安倍首相の消費税絡みの姿勢は選挙都合を優先させているからこそ、増税時期も増税率も明言しないままの、「消費税から逃げるつもりはない、消費税に逃げ込むつもりもない」と抽象的な物言いで含みを持たせるだけのあいまい路線に出たのだろう。はっきりとは「上げる」とは言っていないのだから、 「上げないと言っている小沢一郎民主党代表とは一線を画している」と非難するのは一方的でおこがましい。

 だが、あいまいなだけでは済まなくなった。国の06年度一般会計決算で国税収入は<3年連続の増収だが、法人税が予想より伸び悩み、06年度補正予算で見積もった額に役1・4兆円届かなかった>(07.7.3.『朝日』朝刊≪06年度決算 税収1.4兆円予算割れ≫)ことが判明、<「増税不要」の楽観論に冷水>と副題が示すように、成長路線一点張りで押し通すのは足元が危なっかしくなり、そろりと消費税増税表明へとシフトせざるを得なくなった。

 解説部分を全文引用してみると、<国の06年度の税収が計画を下回る湖とは、私たちの将来の暮らしにも響きかねないニュースだ。戦後最長の景気拡大で税収がどんどん伸び、毎年の財政赤字が縮んでいくなら言うことなない。いずれ2ケタになるといわれる消費増税は避けられたり、遅らせたりできるかもしれない。事実、政界には税収の高い伸びを前提にした「増税不要論」もある。しかし、今回の数字はこうした楽観論に冷や水を浴びせている。
 6月には定率減税廃止による住民税の実質増税があったばかりだが、800兆円にのぼる国の借金を考えると、甘い見通しには注意が必要だ。>

 尤も消費税増税へシフトするにしても、選挙都合を優先させる口先だけの安倍首相である、参院選で与野党逆転ならなおさら、そこまで行かなくても、与野党伯仲のままなら、「衆院もあと二年しか任期はない」09年9月の選挙近くになってから消費税増税問題を持ち出すのは得策ではないことは竹下内閣退陣となった前例を教訓としていることだろうから、安倍内閣退陣を避ける意味合いから早めに打ち出しさなければならないと計算したのだろう。

 それを参院選後ではなく、参院選直前としたのは、選挙が終わるのを待ってからと言い出したと批判されることを警戒したからに違いない。但し、記事が言っているように、<首相は、参院選で引き上げの方向性や税率を示すべきだとの指摘に対しては「正確でない議論をして何%とはいかない。新経済成長戦略によって自然増収がどれくらいになっていくかも読みきっていかなければいけない」と述べ、税収の自然増などを見極めるべきだとの考えを示>すことで、あくまでも政府が閣議決定している「骨太方針2007」に於ける税制改革の本格的な議論を行う秋以降の問題に持っていくことで参院選の争点化を避ける巧妙な策略を見せている。

 2007年06月20日の「asahi.com」記事≪「骨太方針2007」閣議決定、08年度予算最大限歳出削減へ≫によると、

 「税制改革」は<2007年秋以降、税制改革の本格的な議論を行い、07年度を目途に消費税を含む税体系の抜本的改革を実現する。金融所得課税のあり方を検討。歳出改革でも対応しきれない社会保障や少子化に伴う負担増に対しては、安定財源を確保。地方間の税源偏在を是正する方策を検討し、格差の縮小を目指す。「ふるさと」への貢献や応援が可能となる税制を検討>となっている。     

 「07年秋以降」とは、当然参院選以降ということで、その時期を踏まえた「上げないなんてことは一言も言っていない。上げないと言っている小沢一郎民主党代表とは一線を画している」であり、参院選で消費税増税を争点として前面に出した場合の票離れを警戒した、いわゆる消費税隠しの延長にある、次の衆院選挙を睨んだ巧妙・狡猾この上ない選挙都合の先手なのだろう。

 このことは「消費税を上げないとは言っていない」安倍発言を受けた塩崎官房長官の「秋に抜本的な税制改革論議を行った上で、次の衆議院選挙で国民の信を問うべきだ」(07.7.6『日テレ24』≪塩崎氏「消費税を争点にすべきでない」≫)とする表明と相互対応し合った態度であり、同時に間違って参院選で争点化されたら困ることを避ける念押しでもあろう。

 次の衆院選までの2年を置いて消費税増税を打ち出す。年金問題で政府に対する国民の風当たりを少しでも和らげて票離れを食い止める契機に国会を延長させ、参院選の投票日を2週間延期させて、その2週間を沈静化期間に狙ったのと同じ線上にある、次の衆院選までの2年の間に国民に消費税増税を慣れさせて安倍退陣を確実に招くことになる票離れを前以て回避・予防する早めの選挙対策でもあるのだろう。

 いわば今回の国会延長は重要法案通過させるためが目的ではなく、多くの国民がそう見ているように、実際は年金問題に対する国民の怒りを冷ます冷却期間を想定した国会延長だったのだろう。

 なかなかの策士・深慮遠謀家だが、選挙に不利に働かないよう2年先の衆議院選挙に向けて手を打つのはいいが、選挙都合の策であることに変わりはなく、それを「上げないと言っている小沢一郎民主党代表とは一線を画している」と他人を引き合いに出して自己正当化しようとするのは都合が過ぎているのではないだろうか。特に「美しい」を盛んに口にする政治家である。「美しい」を口にする資格のないことをしているとは気づいていないらしい。

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