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マンガ感想-『月館の殺人』佐々木倫子・綾辻行人

2011年05月25日 | マンガ
~あらすじ~
まだ見ぬ祖父に会うため、生まれて初めて鉄道に乗車する雁ヶ谷空海。雪の北海道を行く特別急行<幻夜>で、彼女を待ち受ける運命とは?
未曾有のタッグで贈る、至極の鉄道ミステリ。

~感想~
館シリーズでおなじみ本格ミステリ再興の旗手・綾辻行人が原作を手がけたミステリ漫画。
絵の描き込みはともかく、コマ割り、人物の動き・表情などぶっちゃけ下手だと思うのだが、どこか幻想的な雰囲気は綾辻作品にぴったり。背景の細かい描き込みも、本格ミステリに付き物の伏線を描くにあたって非常に適しており、いい絵描きさんを見つけてきたというところ。
おそらく事件の真相や犯人よりも、下巻の冒頭で明かされる大ネタがメイントリックだが、これが館シリーズの一編として出してもなんら恥じることのないすばらしい大仕掛けである。漫画ならではの伏線も凝らされ、できればこれに事件の真相を絡ませていれば百点満点だったが、そこまで望むのは無いものねだりだろうか。
長大化の一途をたどる綾辻作品ながらこれは上下巻と手頃で、ふんだんにまぶされた鉄道ネタも楽しく読みやすいので、誰でも気軽に手に取れる良作である。綾辻・佐々木ファンは当然として、ミステリ好きもぜひお見逃しなく。


評価:★★★☆ 7

マンガ感想-『Q.E.D 証明終了 24』加藤元浩

2011年05月22日 | マンガ
「クリスマスイブイブ」★★ 4
~あらすじ~
クリスマスの前の前の日、想と可奈のバイト先で、多重トラブルが発生。紛失した財布に一組多い客、突如現れた足跡と浮気問題……。皆が幸福になる方法とは?

~感想~
トリックとも言えないような小ネタを組み合わせて一編仕上げた。しかし雑多な事件の集まりでクリスマスの喧騒を表現したともとれるといったところ。

「罪と罰」★★★★ 8
~あらすじ~
「世の中は不公平」そう感じた金欠の院生が盗みを実行に移すが、盗みに入った場所で殺人事件に遭遇。
そのうえ水原警部に殺人犯として疑われ執拗に追い詰められてしまい……。

~感想~
言われてみれば当たり前の真相を覆い隠す、ミスディレクションが冴えに冴え渡る。こんなあからさまな真相を気づかせないのだから本当にすごい。
逆に一切引っかからなかった方にとっては、実に退屈な一編だったろう。

今年読んだマンガ備忘録

2010年12月26日 | マンガ
今年もミステリ読書をおろそかにして、マンガをそこそこ読んだので採点だけご紹介。年末年始にマンガ紹介ページも作ろっかなー。


あずまんが大王 ★★★★★ 10
雨格子の館 ★★ 4
エアマスター ★★★★☆ 9
おとなの1ページ心理学 ★★☆ 5
からくりサーカス ★★★★ 8
機動戦士ガンダムORIGIN ★★★★☆ 9
逆転裁判 ★★★☆ 7
逆境ナイン ★★★★ 8
キャプテン翼(再読) ★★★★ 8
高校球児ザワさん ★★★★ 8
GS美神 ★★★☆ 7
C.M.B森羅博物館の事件目録 ★★★ 6
Giant Killing ★★★★☆ 9
邪眼は月輪に飛ぶ ★★★☆ 7
修羅の門 ★★★ 6
男子高校生の日常 ★★★ 6
探偵になるための893の方法 ☆ 1
テルマエ・ロマエ ★★★★ 8(二巻は3点)
賭博破戒録カイジ和也編 ☆ 1
バオー来訪者 ★★★ 6
鋼の錬金術師 ★★★★☆ 9
バキ外伝スカーフェイス ★★★☆ 7
バジリスク ★★★★ 8
BT'X ★★★ 6
B.B.Joker ★★★☆ 7
秘密 トップ・シークレット ★★★★★ 10
藤子・F・不二雄SF全短編 ★★★★★ 10
不安の種 ★★★ 6
武士沢レシーブ(再読) ★★★ 6
ブリーチ ★★★ 6
へうげもの ★★★★☆ 9
ホーリーランド ★★★★☆ 9
魔方陣グルグル ★★★★ 8
マンガで分かる心療内科 ★★★★ 8
Liar Game ★★☆ 5
リングにかけろ ★★☆ 5
ロトの紋章 ★★★ 6
Y十M ★★★☆ 7
ONE OUTS ★★★★★ 10

マンガ感想―『フラクション』駕籠真太郎

2010年11月29日 | マンガ

~あらすじ~
世間を騒がす「連続輪切り殺人」。その被害者は7人にのぼっていた。
だが犯人の東野はとまどう。最近立て続けに発見された3人は殺した覚えがなかったのだ。
一方、エログロマンガ家の駕籠真太郎は、連続輪切り殺人を題材に、叙述トリックを用いたマンガを描こうと思い立ち……。

~感想~
「叙述トリックをマンガで用いたらどうなるか?」をテーマに据えた野心作。第三回世界バカミス☆アワードに輝いた。
言うまでもなく叙述トリック物のミステリは、トリックがあることを予告しては威力が半減してしまうので、叙述トリックの傑作に出会えてもそれを広言できないものだ。
なかには折原一や中町信のように、叙述トリックが必ずあることを売りにしている作家もいるが、それはもはやデスマッチ専門のプロレスラーのようなもので、特殊なケースである。
しかしこの『フラクション』。作中でも堂々と叙述トリックに言及し、大胆にも「それをマンガで用いるならこんな手段がある」といくつも例を挙げながら、それでもなお読者の想像のはるか斜め上を行く、とんでもない叙述トリックを仕掛けてみせた。
ものすごくグロいので読者を選ぶが、叙述トリックファンは必読!


評価:★★★★ 8


マンガ感想―『雨格子の館』奥野十香

2010年11月03日 | マンガ
~あらすじ~
不運な男・一柳和が迷い込んだ山奥の洋館で巻き起こる連続猟奇殺人事件。
彼に与えられたの時間は、館に救出が来るまでの7日間。
はたして和はおっかなびっくり謎を解けるのか。

~感想~
原作ゲームは三周目くらいで推理用に使っていたエクセルファイルがPCとともにクラッシュしてしまい、アリバイ表などを作り直すのが面倒で投げ 出したため、どの程度原作に沿っているのかは不明なのだが、普通によくできたミステリであった。
……あまりに普通すぎてちょっと感想に困るほどなのだが。

なのでこのゲームについてちょっと解説すると、『雨格子の館』は推理アドベンチャーなのだが、他のゲームとは一線を画す要素がある。
それは「探偵が能動的に動ける」というところだ。推理の材料さえそろえばいつでも犯人を告発できるし、連続見立て殺人に使われる道具がわかれ ば、事前に道具を隠して、犯行を阻止することすらできるのだ。
自由度の高さならば他の追随を許さないこの作品、推理力とPCの耐久性に自信があれば、ぜひどうぞ。


評価:★★ 4

マンガ感想―『探偵になるための893の方法』坂本あきら・我孫子武丸

2010年10月30日 | マンガ
~あらすじ~
中島守は大学時代の先輩にあたる御厨仁と偶然の再会を果たし、御厨が経営する「なんでも屋」に就職を勧められる。
喜ぶ中島だったが、実は御厨にはとんでもない秘密が……。

~感想~
いまだサウンドノベルの最高峰として名高い『かまいたちの夜』以来、マンガやゲームの原作を多く手がけている我孫子武丸による本格ミステリ……なのだが、一言でいうと「我孫子もっと真面目にやれ」で片付けられてしまう低クオリティの出来。
多少なりとも気合が入っていたのは第一作の「ゴミ屋敷」だけで、その他のトリックは「お前絶対、本業じゃそれ使わないだろ」と苦言を呈したくなるような、脱力もののガッカリトリックばかりで、キャラの掘り下げも浅く、3巻で打ち切りとなるのもむべなるかな、という退屈な作品になってしまっている。
いやーマジで本職のミステリ作家サンなんだから少しは『QED』の加藤元浩を見習って欲しいものだ。


評価:☆ 1

マンガ感想-『Q.E.D 証明終了 23』加藤元浩

2010年10月16日 | マンガ
「ライアー」★★☆ 5
~あらすじ~
両親に会うため偶然想の友人・ライアンのクルーザーに乗船した燈馬兄妹と可奈。だが海上でライアンが殺害される事件が発生。
しかも乗船した全員にはアリバイがあり、皆ライアンに恨みを抱いていた。

~感想~
あらすじからして思い出すのはかの古典的名作。となれば、もちろんそれを逆手にとったトリックを仕掛けてくれるのはお約束。
……などとそんな大掛かりな所業を、お約束などと気楽に言ってしまえる、ミステリ書きとしての信頼感を持っているのだから、この作者は本当に恐ろしい。
しかしそれだけ大掛かりなだけに、筋が複雑に過ぎてややこしくなってしまったのも欠点。
ここまでのロジックを操れる作家はそうはいないのだから、贅沢な注文なのだが。

「アナザー・ワールド」★★★☆ 7
~あらすじ~
想にリーマン予想を説くと宣言した数学者が学会に現れずに失踪してしまった。
彼は自宅に四行詩を、4人の関係者には四行詩と関連する絵を残していた。4枚の絵に隠された真実とは。

~感想~
とりあえずスキューズ数に燃える。なにそれ熱すぎ。
熱いといえば、暗号に熱が入っていて、読者にはほとんど解きようもないものと、ミステリではおなじみのネタに数学を絡めたものの二つがあり、どちらも面白い。
物語としても、タイトル通り「アナザー・ワールド」に惹かれる燈馬と、彼を現実につなぎとめる可奈との関係が興味深い。
まあこの先も進展はしないんだけども。

マンガ感想-『Q.E.D 証明終了 22』加藤元浩

2010年10月15日 | マンガ
「春の小川」★★★★☆ 9
~あらすじ~
記憶をなくし絵が書けないという日本画家。そんな彼の前に彼を別人だと思い込む人が2人も現れる。彼の記憶の鍵を握る「大切な場所」の真実とは?

~感想~
これはとにかく読んで欲しい。そしてこの作品がアンフェアかどうか議論しましょう。僕は驚ければよし!

「ベネチアン迷宮」★★★☆ 7
~あらすじ~
銀行強盗に人質としてアランが誘拐された。想たちは彼を助け出すことができるか?

~感想~
天藤真の傑作『大誘拐』を想起させる展開が楽しい。
ベネチアという舞台を活かしたトリックはおいといて、シリーズの重大な転機となるあるエピソードや、意外なところに潜ませた仕掛けもまたお見事。

マンガ感想-『Q.E.D 証明終了 21』加藤元浩

2010年10月14日 | マンガ
「少しは反省してください」
「朝寝坊に反省しどころある?」



「接がれた紐」★★★ 6
~あらすじ~
雪山で見かけた浮かない表情の男女2人組。想たち「心中」の予感は取り越し苦労だったが、彼らにはある事情があった。

~感想~
正統派本格ミステリ。物理的なトリックの部分にやや小粒なものが混じってはいるが、それが全てを支えるものではなく、多くの要素が絡み合って物語を作っているため、気にはならない。
短いながらに多くの趣向を盛り込んだ意欲作である。

「狙われた美人女優、ストーカーの恐怖 絶壁の断崖にこだまする銃声 燈馬と可奈はずっと見ていた」★★★☆ 7
~あらすじ~
落ち目の女優が、マネージャーと仕掛けた狂言のストーカー事件。事件担当の火サスマニア刑事・笠山によって女優の思惑通り騒ぎは大きくなるが、事件は狂言ではなくなってしまう。

~感想~
2時間サスペンスの定石をなぞりつつ、期待通りに定石を逆手にとった思わぬ展開を仕掛けてくれる。
笠山の造型の楽しさはもちろん、伏線も冴えた良作。

マンガ感想-『Q.E.D 証明終了 20』加藤元浩

2010年10月13日 | マンガ
「無限の月」★★★ 6
~あらすじ~
亡くなったはずの友人から、想にメールが届いた。そこから発生する中国マフィアのボス達による殺人の連鎖。メールに残された「φの場所」の意味とは?

~感想~
お得意の数学ネタ。犯人が消えてしまう連続殺人という趣向がまず面白い。
トリックはそこから考えうる範疇からは外れなかったが、その稚気だけでも買うべきだろう。

「多忙な江成さん」★★★★★ 10
~あらすじ~
資産家である江成姫子の祖母が命を狙われているという。探偵同好会と可奈がその危機を防ごうとするが、その周辺で奇妙な出来事が起こり始める。

~感想~
これは傑作。日常の謎に連なる系譜でありながら、思わぬところから裏の真相が降って湧く。
メインの物語を追いながら、そのところどころに張られた伏線と、最後の逆転劇。年間ベスト級の一作である。