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或る二等兵が見た太平洋戦争

2004年07月31日 | 日常
土曜日のテーマは「日常」です。
今日は僕の祖父について語りたいと思います。

祖父、というかじいちゃんは非常に変わり者です。なにが変わっているかというと、ものすごく楽しそうに戦争の話をするんです。楽しそうなだけではありません。たびたび「タダでいろんな所に行けて楽しかったな~」「また戦争が始まったら行きたいな~」とそれはもう笑顔で語ります。

じいちゃんは皮肉屋ではありません。本心から「戦争は楽しかった」と言っているんです。
断っておきますが、じいちゃんは軍事マニアでも危険な思想の持ち主でもありません。
戦場ではたびたび死ぬか生きるかの瀬戸際をくぐり抜けてきたそうですし、「戦争なんてぜったいに二度と起こしてはいけない」と言い、じいちゃんの息子(つまり僕の親父)が戦争映画を観ていると「こんなもの嘘っぱちだ!」と激怒したそうです。

それなのに従軍経験の感想は「楽しかったw」「また行きたいw」になってしまうんです。

たいていのお年寄りは戦争の話となると顔をしかめたり、嫌そうにするでしょうが、我らがじいちゃんは違います。戦争にまつわる単語を聞くとノリノリで話したがります(ノリノリとしか表現できないくらいノリノリです)。何時間でも嬉々として語ってくれます。戦争の話をするじいちゃんはむっちゃ目が輝いてます。
だから、僕たちはじいちゃんの前で戦争の話はぜったいに出しません。他の家庭とは180度逆の理由で話題にしません。

じいちゃんがしてくれる戦争の話は、ほとんどが「フィリピンのどこそこで食べたかき氷がうまかった」「マレーシアのどこそこの景色がきれいだった」みたいな旅行日記的な内容がほとんどです。
そしてその内容がハンパじゃありません。

「○月○日にフィリピンの○○という料理屋に入った。品書きが右から順に○○、○○、○○で、それぞれ○銭、○銭、○銭で、いっしょにいた○○さんは○○を注文し、俺は○○を食べた」

なんなんですかこの記憶力は。

でたらめではありません。何度おなじ話を聞いても、じいちゃんはまったく間違えずにおなじ語句・数字を返します。完璧に記憶しているんです。じいちゃんは天才ですか?
大工だった経験を活かし、壊れたウチのドアを直してくれたとき、間違えて逆さまに取り付けたじいちゃんは天才だったのですか? 来客がみんな普通と逆の位置にドアノブがあるので混乱していましたが、あれも天才ならではの計算だったのでしょうか?

真実は解りません。ただ、じいちゃんは今日も元気に、誰かが戦争の話を振ってくれないかな~と待ちかまえています。

先日、親父とこんな会話をしました。
父「じいちゃんの話、本にまとめたら売れるかな?」僕「タイトルは『或る二等兵が見た太平洋戦争』だなw」父「すごい話題作になるかもしれないぞ」僕「問題作にはなりそうだけど・・・」父「お前、じいちゃんの話、本にまとめろよ」僕「断る」

嫌です。たしかに日本中探し回ってもそうは見つからない、貴重な従軍体験が聞けるに違いないですけど・・・だって話しだしたら止まらないもん。

そんなわけで、僕らじいちゃんの孫は、テレビなどで沈痛な面持ちで語られる戦争の話題を見ると、なんとも微妙な感情を抱いてしまいます。あの悲惨な戦争を、楽しんでしまった人も中にはいるんだなあ・・・と。

なにはともあれ、じいちゃんいつまでもお元気でいてね。戦争の話をしてるときのじいちゃん、一番輝いてるよ! 僕も里帰りしたらたまには・・・たまのたまのたまには戦争の話聞いてあげるから!!

80才にもかかわらず軽く180センチオーバーの身長を誇るじいちゃんを町で見かけても、気軽に「二等兵!」って声をかけないでくださいね。じいちゃん、日本に帰ってきたときには「一等兵」になってましたから。生き残ってれば誰でも一階級特進できるそうなんです。

追伸:ちなみにじいちゃん、神経衰弱むっちゃ強いです。