もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

陸自の迫撃砲誤射に思う

2018年11月15日 | 自衛隊

 陸上自衛隊の饗庭野演習場(滋賀県)での迫撃砲実弾射撃訓練で国道に着弾して民間車両に被害を与える事故が発生した。

 防衛相は原因究明を行うとともに、原因が判明するまで訓練に使用された迫撃砲と同型の81ミリ迫撃砲の使用中止を発表した。迫撃砲は極めて単純な武器であり、原型は日露戦争時から使用され第一次大戦末には現在の機構が完成している。今回の誤射の原因としては、発射筒の設置、射線・射角の制御、発射薬の調整(増減)等の人的ミスに加えて、弾頭・安定翼の変形・弾丸製造時の品質管理上のミスが考えられるが、ミサイルや航空機のようなハイテク武器の事故と違い、原因究明まで使用を中止する程のものではないと思う。先に挙げた種々の原因のうち、元自衛官としては残念ながら最も考えられるのは人為的ミスであると思う。”弾がないのが玉にきず”と自嘲を込めて囁かれるように、実弾を使用した訓練機会は極めて少ないのが現状であり、隊員は実弾発射時においては極度に緊張した状態に置かれ、通常の操法(操作)訓練では考えられないようなミスを犯す場合がある。古い例で申し訳ないが、朝鮮戦争に派遣される米陸軍の新兵は射撃場で1箱の小銃弾(1000発入り)を与えられ、弾を撃ち終わるまで帰隊できなかったそうである。そのように、実弾発射の音や衝撃が特別なものではないという意識を植え付けなければ、戦場の極限状態では使い物にならないのだろうと推測する。海上自衛隊でも、新入隊員の小銃射撃訓練では、射場の雰囲気に高揚して事前に複数回教育した操法を忘れる者、号令に対応できない者、目をつぶって射撃しようとする者、等々さまざまな珍行動が散発する。このような例からも、今回の事故に対する解決策として最も有効なものは実弾を使用した訓練機会の増加であると思う。平時の静穏な状況下で繰り返し行い完璧に修得した射撃でさえも、戦場という極限状態に置かれた場合では更に思いもよらない結果になり兼ねない。まして、十分な訓練機会に恵まれない隊員を戦場に送り出すことになるであろう現在の態勢は不十分であると考えるが。

 以上、実弾を使用する訓練機会の増加の必要性について書いたが、運転免許に例えれば納得して頂けると思う。自動車教習所で教官が同乗して構内のコースを走るのが操法訓練であり、仮免状態で道路を走るのが実弾射撃訓練に相当すると思う。晴れて免許を取得して教官の指示・ブレーキが無い状態で走った際の緊張感と、それ以後に起こった教本に無い事態に遭遇した際の困惑は多くの人が経験していることと思う。自衛隊の現状は仮免の状態、よく言ってもペーパードライバーの状態であり、路上単独走行(実戦)を想定すれば路上走行(実弾訓練)機会を増やすことの重要性は御理解いただけるものと思う。

 

 


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