もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

在アフガン大使館員の輸送に思う

2021年08月21日 | 防衛

 在アフガン大使館員の日本人12名が、友好国の軍用機でアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに退避したことが報じられた。

 政府は、16日の時点で大使館の閉鎖と職員の国外退避を決定したが、その際、輸送に自衛隊機の使用を検討したものの最後には民間機のチャーターで対処することとしていた。
 諸外国に取り残された邦人の輸送については、2011年の自衛隊法改正や2014年の閣議決定で、自衛隊機を使用することが可能となったが、派遣できる前提として、自衛隊機の安全が確保される事態であることと、対象国政府の同意が必要条件であるとされている。閣議決定の背景には、北朝鮮情勢の変化による韓国からの邦人輸送が取り沙汰されていた時期で、韓国が自衛隊の艦艇・航空機が自国領域で活動することは、如何なる場合も拒否するという姿勢であったことが影響したと思っている。
 今回のアフガンからの邦人輸送に関しても、自衛隊機を使用するためにはアフガン政府若しくはカブール空港をコントロールしている機関の同意が必要であるということを墨守した結果であると思うが、大統領の国外逃亡によって政権が瓦解した無政府状態にあっては同意を得る機関が無くなってしまった。
 政府が決定した民間機による輸送は、軍隊/軍人の安全確保のために民間機/民間人を危険な任務に就かせるという、凡そ軍隊を保有する国では考えられないものである。
 商船の安全確保のために中東海域に自衛艦を派遣(それも監視のみ)する際にも、立憲民主党は自衛官の安全が確保できないという反対意見を予算委員会で開陳した。このことと今回の対処を併せ考えると、与野党ともに軍隊の使用については極めて無知であるという現実を知らされた思いがする。少なくとも、軍人(自衛官)の安全確保のために、商船員・民間パイロットの危険性を容認するという本末転倒は、軍事組織を保有する諸外国では到底国民の理解・信頼を得ることは出来ない。
 以前、危機管理の究極は簿外・マニュアル外の「泥縄」如何であると書いたが、今回の事例を考えれば、カブール空港は米軍によって空港機能が維持されていたので、地域をコントロールしている団体・機関を米軍と見做せば、米軍の同意で自衛隊機を派遣させることは可能であるように思う。

 現在なお、アフガニスタンには複数のJICA(独立行政法人国際協力機構)職員が遺されており、更にはタリバンの報復も予想される大使館現地スタッフやJICA協力者等200人程度が国外退避を求めているともされる。もし、彼等が何らかの迫害を受けた場合には、国際社会は一斉に日本を攻撃するだろうし、国外退避に手を貸さなかったのは軍人(自衛官)の安全確保のためという理由を、軍隊の何なるかを知っている諸外国は東洋の神秘として見逃してくれるとは思えない。
 宗教テロや民族紛争が多発する今、自衛隊員が外国で活動することを全て海外派兵と呼び、国民の安全よりも近隣諸国への配慮を優先するという、旧社会党が十八番としていた軛・呪縛から脱却する必要がある様に思える。