福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

やらせリテラシー入門:やらせ情報のウミでおぼれ死にしないために

2011-07-30 14:07:39 | 新聞
九電やらせメールにつづいて、いたるところ保安院による「やらせ操作」の報道で満ち満ちている。メディア報道は、「やらせ」を原発関係のシンポなどの集会に限定しているが、言うまでもなく、「やらせ」はそこに限定されるわけではない。それどころか、メディアの報道そのものが、実は公然たる壮大な「やらせ」ではないか。例題には事欠かないが、時節柄、やっぱり電力不足のお話でしょうか。
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読売新聞は、『全原発停止なら失業者20万人増』と今度は雇用不安のオオカミが来ると叫んでいるが、このデータは「日本エネルギー経済研究所」の丸がかえ。そしてこの研究所は、経済産業省資源エネルギー庁所管の財団法人で、理事長は経産省天下り。

『12年夏には最大電力需要に対し7・8%の供給力不足が生じる。企業は節電を迫られることで生産活動が低迷し、生産拠点の海外移転も避けられない。』

と豊かなニッポンの衰退と沈没を予告する。この頃よく引き合いに出されるファシスト・ニッポンも、こんなふうに危機感をあおって、繁栄と生存のためにはやむをえない、他に選択肢はないと国民を戦争に駆り立てたのではないか。経産省御用研究所の情報を、それとははっきり言わず、あたかも中立の研究機関によるデータのように提出すること、これって、「やらせ」と言えないのか?
朝日新聞も負けてない。『全原発停止なら…5年後も節電の夏』というわけで、原発のないまずーしく、くらく元気がなく、盛り上がりに欠けるニッポンの夏、節電の夏の5年にもわたるつらい暮らしを突きつける。ところでこのマッチョ精神をしぼませる予測はどういう根拠に基づくのか?なんと、『朝日新聞は電力各社が持つ発電設備から、来夏以降、どのくらい利用可能にできるかを担当者らに独自取材して試算した』『利用可能にできるか』ですって、ひどい文章だね)。つまり、東電はじめ、原発再稼働に命がけ(誇張ではない)の電力会社の担当者様からデータをいただき、試算(足し算・引き算のこと)をしたというのだ。つまりつまり、反・反原発、脱・脱原発キャンペーン(せいぜい減・縮原発で延原発を継原発したいなー)真っ最中の利権集団の言うことを、足し算引き算しただけで堂々と提示したということだ。さらにご丁寧に、電力利権屋たちが原子力の代替エネルギーをどう見ているか、コメントしている。

『電力各社は来夏以降の供給力に自然エネルギーの上積みを期待していない。太陽光や風力での発電は、政府が導入をめざす全量固定価格買い取り制度が実現すると急増する可能性もあるが、普及に時間がかかるとみている。』

こいつらが『自然エネルギー推進』なんて言うわけないに決まっているでしょうに。電力会社や経産省はシンポジウムでも模範質問・回答を用意してサクラに「やらせ」ていた。朝日のこんなレディーメイドのお答は、そんな「やらせ」に入らないのか?(これに対して、同じ足し算・引き算でも、弱小メディアは、利権から排除されている分、たとえばこんなふうに批判的な分析ができる。)

その朝日が29日、『政府のエネルギー・環境会議』による『来夏に向けた電力需給見通しと対応策』を報道した。そこで、議長の玄葉光一郎国家戦略相(この男の怪しさについてはこちら参照)はしきりに原発の必要性を強調した。『原子力の活用については、事故の徹底検証やストレステストなどの安全評価を前提に「安全性が確保された原発の再稼働を進める」と明記した』のだそうだ。ちなみに、この玄葉の国家戦略室は、すでに6月5日の報道で、『原発推進姿勢を堅持』という姿勢を明確にしている。つまり、『原子力の活用』は7月29日発表の『来夏に向けた電力需給見通しと対応策』の検討以前、すでに6月はじめから決まっていた既定路線で、それに沿うように電力不足のデータをアレンジした結果を29日に報告したにすぎない。そして言うまでもなく、この既定路線は電力会社&経産省を中心とする原発利権集団が描いた既定路線だ。玄葉が議長をつとめる「エネルギー・環境会議」=国家戦略室は、

『菅直人首相は、原発事故をきっかけにエネルギー政策を「白紙から見直す」ことを表明。見直し作業は、エネルギー政策を担当する経済産業省ではなく・・・、国家戦略相を議長とする「エネルギー・環境会議」を近く発足させる。』

と位置づけられ、あたかも原発政策を、原発利権官庁の経産省から切り離す第一歩のような見せかけを持っている。しかし、これが実際は「経産省外し」のアリバイ工作にすぎないのが、いろいろな事実から見て取れる。玄葉の国家戦略室は、本当は経産省の路線を継承している。例えば、「エネ・環会議」=戦略室は、『来夏の電力供給はピーク需要の9.2%、1656万キロワット不足する』日経)としているが、これは、朝日26日の記事によれば、

『需要は節電効果を考慮せず、電力各社の見通しを積み上げた1億7954万キロワットとした。・・・不足分は需要全体の9.2%に当たる約1656万キロワットとした』

すなわち、この『見通し』『電力各社の見通し』に全面的に依存し、『今夏以降の節電による抑制分を考慮しておらず、不足分は試算より大幅に減る可能性もある』という事実を意図的に排除している。これではまるで、『白紙から見直』たはずの経産省のやりくちそのものではないか。

さらにまた、電力不足9.2%(上の読売記事の経産省御用研究機関「日本エネルギー経済研究所」の予測7・8%より高い!)を『火力発電で代替すれば3兆円のコスト増』になるという経産省の見通しについても、戦略室は当初、経産相と意見を異にしているような見せかけをしていた。

『戦略室は経産省が示した電力不足に関する各種データが妥当かどうかを検証する。・・・約3兆円のコスト増となるという同省(注:経産省)の試算についても、「3兆円超をかけて燃料輸入を行っても、活用できる火力発電の能力があるのか」と疑問を投げかけている。』

ところが、「エネ・環会議」=戦略室は、『仮にすべての原発の発電量をLNG火力や石油火力で代替すれば燃料コストが年間3兆円以上』『3兆円のコスト増』という経産省試算を最終的にはそのまま採用してしまう。

さらに、「埋蔵電力」について、当初、

『売電可能な「埋蔵電力」を162万キロワットとする経産省の試算に対し、戦略室は「夜に自家発電した電気を蓄電して昼間に使ったり、揚水発電をさらに活用したりする」ことなどで供給電力量を上積みできないか精査する』

としていたのが、原発大好きの日経さんにこんなふうに皮肉られる結果になってしまった。

『菅直人首相が期待を寄せていた“埋蔵電力”の一つ、自家発電は130万キロワット程度しか見込めないことが政府の調査でわかった。860万キロワットの潜在余力があるとされる夜間電力を活用した揚水発電の上積みも、数字を示せなかった』

と、『埋蔵電力』については経産省試算よりさらに低い数字、『揚水発電の上積み』も結局よくわかりません、ということに帰結してしまうのだ。「エネ・環会議」=戦略室のこの報告は、さしずめ経産省と玄葉による政府機関を使った「やらせ」と言えるのではないか?

さて、おしまいに、ジャーナリストたちがいかに「やらせ」と共生してきているか、いかに「やらせ」が彼らの日々の仕事の体質となっているかを示す、楽しい記事をご紹介しよう。我らが毎日新聞は、蔓延する「やらせ」をクローズアップしている。毎日記者によれば、こんなに「やらせ」が明らかになるのは、原発村の団結の弛緩の結果で、実に嘆かわしい。浜岡を止められた中電は、「やらせ」をリークすることで、政府に意趣返ししているようだ。また、他の電力会社だって、経産省への忠誠に見切りをつけ、九電スキャンダルの後でもあるし、ここで更なる隠蔽がバレるとやばいということで、これまで原発情報統制を支えてきた「沈黙の掟」を破る始末だ。こんなことではだめだ、反原発が荒れ狂っているご時世に内部でごたごたしていては、また再稼働が遅れちまうじゃねーかよー、と持ちつ持たれつの「やらせ」ジャーナリズムで食っている毎日紳士・淑女のみなさんは、怒り、嘆いておられる。「やらせ」が不正だというご認識はみじんも感じられない。



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