福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

原発リセット自民党大勝利:奴らの狂気をくぐり抜けて、なお生き延びる道はあるのか?

2013-01-07 15:09:32 | 新聞
小・中学生のころ、選挙のたびに『日本人は世界で最高のバカだ』と思っていた。がなり立てる街宣車のお祭りのようなパレードがわかりきった結果で終わる。さすがに、今は、ことはもう少し複雑だ、と思うようになったが、選挙が、何重にも媒介されるごまかしとかすめ取り(だから「間接」民主主義!)を通して、『投票する時は主人、選挙後は奴隷』(ルソー)という状態を作り出しているのは、いつだって子どもにもわかる。12月の衆議院議員選挙は、強いニッポンへのノスタルジジイ集団の自民党が圧勝。調子に乗って、大好きな原発もフクシマ以前にリセットしようとしている。今やもう、このゾンビ集団の狂気と、おれたち自身と、どちらが生き残るか、というところまで追い込まれているような気がする。

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自民党が議席数の点で圧勝といっても、彼らが政党として支持されたとはとても言えない。

『比例選(定数180)では、自民党の得票率が27・62%で、大敗した前回2009年衆院選の26・73%とほぼ同じだった』読売

小選挙区でも、自民党の議席と得票率は対応していない。
『小選挙区に出馬した自民党候補は、300選挙区の有効投票総数のうち43%の票を得たのに対し、獲得議席数は300議席の79%にあたる237議席と大勝した』毎日、『衆院選:得票率と獲得議席に大きな乖離』)

おまけに投票率は、
『今回の衆院選(小選挙区)の投票率が59.32%・・・戦後最低だった1996年の59.65%を下回った』朝日

どう見ても、480のうち294議席獲得、という自民党の大勝利は、『民意』の反映というわけにはいかない。原発に関しても、この選挙結果と民意とのかい離・背反ははっきりしている。世論調査など、昨年夏からの一連のデータは、当然のことながら、私たちの過半の人々が、何らかの形での脱原発を望んでいることを示していた。夏の『意見聴取会』などは、政府の推進派官庁が広告代理店を使った(電力会社社員を送り込んだりした)いつものやり方で、やらせ世論形成をはかったものだったのに、脱原発を求める声は7割にも及んだ。それに反して、選挙で勝利した自民党は言うまでもなく、ガリガリの原発推進である。憲法改正などで自民党とつるむ維新も、選挙向けのリップサービスが終われば、もちろん自民と同じ。だから、なんと衆議院の3分の2以上が、あげて脱原発を押しつぶし、フクシマ以前、いやそれ以上の『原発大国』をめざす勢力となっている。実際、自民党は、

『全国の原発で順次、再稼働を求める考えを示し』、『計画段階にある原発九基の建設を・・・将来的に容認する可能性があることを示唆し』、『核燃料サイクル政策は「いま放棄する選択肢はない」として、継続していく姿勢を明確にした』
東京

されにそのうえ、安倍首相は
『新規の原発建設を容認する姿勢を示した』東京

その一方で、原発体制の維持のために、電力の地域独占の延命もはかるつもりらしい。
『脱原発の鍵となる電力会社から送配電網を切り離す「発送電分離」や、各家庭が購入できる電力会社を選べる「電力自由化」といった電力システム改革は、自民党とつながりの深い電力業界の抵抗が強く、実現が遠のく恐れがある』東京

自民党が、電力会社や原発メーカー、その他、要するに原発マフィアの政治的元締めであることは、周知のことだが、それでも、いくら衆議院での数の力にものを言わせるにしても、フクシマ以後の日本で、今では根強くまん延した反原発・脱原発の人々の意志を、こんなにあっさりと踏みにじれると思っているのだろうか?

いや、思っているか、いないかなど、関係ない。奴らは何が何でもやるつもりなのだ。むしろ、原発推進が支持されていないことをよく知っているからこそ、大急ぎで、なりふり構わず、次の選挙で負けるまで、数の横暴をつくせる間に、できるだけ露骨に既成事実をつくり、できるだけ後戻りが困難な状況を用意し、そしてできるだけ多くの予算をつぎ込んで、マフィア組織をうるおわせるつもりだろう。そんな彼らが、これからとる戦略はどんなものだろう?

なに、たいしてむずかしいことはない。いつもどおり、旧態依然の安全キャンペーン(『フクシマとは違う』というのがキーワードのなるだろう。こんなことを東電福一事故直後から言っていた評論家先生などもいた)と必要論、それに同調圧力と言論封鎖、すなわち、ダマシとゴマカシ、オドシと懐柔だ。

ダマシのほうの先兵となるのが、このところ活断層で、話題に上ることの多い『規制委員会』である。まず、忘れてはならないのは、田中俊一委員長がかねてから公言しているように、彼らは原発を維持しようとしている人々である。維持するために、「あんまりむちゃくちゃやると、かえって損になるよ」というのが田中的原発推進ロジックである。それに、もし彼らがほんとうに原発推進リセットの邪魔になるなら、

『規制委の5委員はまだ国会の同意を得ていない。安倍首相らは今のところ来年の通常国会で5人の人事案同意を求める方針だが、もし、そこで与党が否決すれば、委員は罷免される』東京)(注)

とあっさり首をすげかえられるだろう。それに、活断層が原発を不可能にするとは、だれも言っていない。どっちにしろうまみの少ない敦賀1・2号機を『いけにえ』にして、

『ただ、注意すべきは、敦賀原発をいけにえにする形で、他の原発を生かす道につながらないか、という点だ』東京

敦賀で、委員会の『安全側』の態度をアピールし、他のところでは、活断層に近くても、最新の技術による耐震工事、などを要求することで、バーター取引する可能性が高い。耐震対策には膨大なカネがかかる、って?それがどうした、いやむしろ、それは歓迎すべきことではないか。膨大な予算は、マフィアののメンバーをうるおわせる。金は、電気料金や税金で取ればいい。何しろ、我々の産業に不可欠なエネルギーを確保するに際して、何よりも大切な国民の安全に配慮しなければならないのだ、わかったか!フクシマとは違うのだ!

原発が止まると電気料金が大幅に上がり、国民生活は破壊される。事実、大赤字の関電や九電は料金値上げに走っている。さらなる値上げを避けるために関電は、契約者に配ったごあいさつで、『弊社は、今後引き続き、・・・原子力の再稼働に全力で取り組む』と高らかに宣言している。それとも、より一層の値上げがいいですか?と言わんばかりに。

脱原発なんて軽率に言ってはいけませんけれど、でも、それはお金の問題ではないのです、とおっしゃるお上品な方がたもいらっしゃる。だから、

『3・11以来、ふしぎな抑圧がこの日本では働き続けている。東京の線量ごときで騒ぐとは、これと比較にならない高線量の場所に生きる人たちを苦しめるだけの心ない行為ではないか、と責められるような気がして、口を閉ざしてしまう。「除染」作業にどれだけの効果があるのか、という問いも、それに期待する多くの農家のひとたちを踏みにじることになりそうなので、口にしにくい。放射能汚染に苦しめられているひとたちに対する「人情」と、眼に見えない放射性物質へのおそれと、さあ、あなたはどちらを取るのか、といつも責め立てられているような気がしてならない。』(津島祐子:『草がざわめいて、「人情」と放射能』、東京新聞

戦地の兵隊さんのご苦労を想えば、こんなことなんでもない!モズよ、寒いとなくがよい、あんさはもっと寒いだろ・・・。福島では、なんと心の除染プロジェクトなるものもあるそうだ。むやみに放射を恐れるけがれた心を、しっかりときれいにして、原発事故などなかったかのように、放射能汚染など存在しないかのように、いつもの、かつての、あのすばらしい自然と人情に満ちたふるさとフクシマに帰還しよう。

オドシが『ふしぎな抑圧』ではすまずに、露骨な抑圧になることもある。大阪で、反原発(がれき受け入れ反対)をしていた大学教員・下地真樹氏が、逮捕された。こんな理由で逮捕とか、起訴とかできるのか、という大方の反応は当たっていた。氏は、20日後に釈放された(他のメンバーの方は起訴されたが)。公安や検察が、すでに『国民の常識』となりつつある犯人形成(でっち上げ)に失敗したのかもしれない。逮捕後、支援に駆けつけた山本太郎氏のコメントが、この警察の過剰反応(大阪市長にいい顔をしたかったのかもしれない)の本質をついている。

『怖くて人が寄り付かなくなる。それを狙っているんですよ』

自民党大勝利がもたらした原発リセット推進大展開を前にして、私たちにはもう絶望しかないのだろうか。私はちっともそうは思わない。もちろん、これをきっかけにして、エア国家総動員体制が、竹田茂夫氏の言う国防民営化の悪夢にまでつながらないという保証はない。それはのんきな近未来SFではない。この悪夢が現実化する可能性は多々ある。すでにその線でソロバンをはじいている官僚や経営者だっているだろう。

しかしその一方、自民党とその追随者たちの思惑通りにすっきりと事が運ぶとも思われない。自民党大勝利は、3年前の民主党のそれと同様に、きわめてもろい、一過的な数値のかたよりに過ぎない(もっともこの少数のかたよりが何度も繰り返されて、民営化国防軍による戦争まで行ってしまうかもしれない。フクシマ以後になお、今回、自民党を支持した25%ほどの人は、景気対策とか雇用促進とか、強い日本の復活とかの名目で、戦争自民党をやはり支持するのではないか。大メディアがそれに乗るのも、眼にみえている)。脱原発を代表する人々が、一定の政治勢力になる見通しが、残念ながら楽観できないとはいえ、自民党の一党独裁が順調に継続するとは思えない…。

だから、私たちにできることを今まで以上にやってゆくしかない。それが政治的な動きをしようとする人たちにどのようにすくい上げられるか(利用されるか)、正確な計算はできない。それでも、よりいっそう、可能な資源を、時間・行動・金等々を、ますます脱原発に集中しよう。たとえば、日赤やユニセフや国境なき医師団に出すお金より、抗議行動や、保養キャンプや、独立ジャーナリストの活動など、フクシマのために使うお金を優先しよう。たとえばユニセフは、アフリカの子どもたちにはワクチンが必要だと言うが、福島の子どもたちに必要なことを何一つ提案してはくれないのだから。

それから、『ふしぎな抑圧』に屈しない『足を地につけた』(安倍首相)脱原発の気構えと言説を、堂々と継続しよう。原発誘致はかつて、

『そこで見たのは親きょうだいや親戚、仲の良い住民が賛成、反対に分かれていがみ合う、どこの原発立地地域にも共通する姿だった。「単に技術的な危うさだけでなく、共同体を壊すという問題も引き起こしていた。原発が抱える、犯罪的側面の一つだと感じた」』(みやぎ脱原発・風の会代表 篠原 弘典氏)(東京

今や、こうした厳しい現実が、日本全土にいきわたる。いい顔をしてやさしくにこやかにふるまうのは、ふしぎな抑圧で心をきれいに除染された人々だ。『こころの汚れているものは、幸いである』という意味のことを、キリスト様もおっしゃっているではないか(マタイによる福音書5.3)。さらに、

『私が来たのは地上に平和をもたらすためだ、と思ってはならない。・・・私は敵対させるために来たからである。人をその父に、娘を母に、嫁をしゅうとめに。こうして、自分の家族のものが敵となる。』(マタイによる福音書10.34-36)

なぜなら、被ばくを強制しつつ原発を推進する圧力は、戦争に駆り出す圧力と同様、もっとも近いところ、近親な支配関係で行使されるからだ。


注:
石川県の谷本正憲知事は、自分のところの志賀原発が規制委員会からダメだしされることを恐れ、『原子力規制委員会について、委員の人事が国会で同意されていないことに言及し、「いわば非嫡出子みたいな感じ。国会で承認を受けなければ、本当は委員として活動できない」と述べ、規制委の存在を未婚の男女の間に生まれた婚外子に例えて批判した』読売)。
このたとえは、①『非嫡出子』は社会的に承認されていない存在だ、という前提と、②『非嫡出子』は、婚外子であるという理由で社会的に活動できない、という前提がなければ意味をなさない。政治的な正しさの装いの裏に、どう見ても正しくない露骨な差別意識の存在を指摘したメディアは一つもなかった。

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