福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

フランスのマリ軍事侵攻とアルジェリア人質事件の陰にニジェールのウラン鉱山

2013-01-20 19:16:01 | 新聞
フランスの原発依存比率が世界でも特段に高く、75%を超えていることは広く知られている。わがニッポンと同じく、あちらにはあちらの原子力マフィアがいて原発を推進してきたことはもちろんだが、あちらのマフィアには、わが国のご同輩とは性質の違った要素がある。それは、アフリカのウラン利権である。フランスが、ニッポンやアメリカをしのぐ原発帝国を維持しているのは、この方面の暗躍が加味されているからに違いない。そのことをあらためてわからせてくれたのが、今回のフランス軍によるマリへの軍事侵攻である。

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空爆から地上軍展開から、フランスのマリ軍事侵攻は、アルジェリアのガスプラントにおける人質事件とその軍事的『解決』に発展した。プラント建設には日本企業も参加し、人質には日本人も含まれている。アルジェリア政府軍による強硬策によって人質にも死者が出ているらしいという。人質を取ったアルカイダ系の『テロリスト』たちは、フランスのマリへの軍事侵攻に抗議し、人質を盾に取引を試みたという情報もある。

さて、そのフランスの軍事侵攻だが、表向きはマリ北部を制圧したイスラム原理主義・狂信者(djihadistes)が、南部への攻勢をかけてきたのを、マリ政府の要請によって阻むため、ということだが、日本の報道では、

『フランスは、仏原子力大手アレバがマリの隣国ニジェールからウラン原料を輸入している。ニジェールの安全保障が脅かされた場合、電力の75%を原子力に依存するフランスの原子力政策に影響が出かねない』毎日

『フランスにとって西アフリカ最大の権益は、マリの隣国ニジェールにあるウラン鉱山で、原発大国フランスのウラン燃料の三分の一を産出するとされる。二〇一〇年には、ニジェールでアルカイダ系の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQMI)」が原子力企業アレバ社の社員らフランス人五人を誘拐した』東京

と、軍事侵攻とウラン鉱山の権益の関係をはっきりと指摘している。このウラン鉱山(写真)は『生産量世界5位』でフランスの原子力産業世界最大手Areva(アレバ)傘下のAreva NCとニジェール政府などとのジョイントであるSomair社とCominak社の二社でほぼ全量を採掘している。そしてニジェールのウランは日本にも来ている

『海外ウラン資源開発(株):ニジェールのAkouta鉱山を操業しているCominak社に25%出資し、ニジェール産ウランを日本の電力会社に供給するために輸入している』


自民党政権が何としても再稼働させたいと思っているわが国の原発は、ウランを通してしっかりとニジェールと、そしてマリの戦争やアルジェリアの『テロ事件』と結びついている。

日本でもそうだが、フランスでは、比較にならないくらい圧倒的に今回の戦争と人質の死を、悪辣なイスラム原理主義狂信テロリストの『本質的に』邪悪な性格に帰そうとしている。彼らがこんな愚かで不当で残酷なことをするのは、彼らがイスラム原理主義狂信者だから。彼らを空爆で焼き殺すことが正当化されるのも、彼らがイスラム原理主義狂信者で、西欧的価値観を身に着けた善良な非原理主義的アフリカ市民を弾圧するから!(France2,1月14日20時のニュースに爆撃後の死骸の映像あり。普通、こういう時につけ加えられる「映像は衝撃的です。お子さんたちの目に触れないようにご注意を」というコメントなしで流された。よい子だって、死んでるのが原理主義者なら黒焦げで道端に放置されているのを見てもいいんだ!)

しかし、ニジェールのウラン鉱山での、フランスの原発帝国元締め会社『アレバ』の評判は全くよろしくない

『フランスの大企業アルバにとっての幸運、ウラン鉱採掘は、ニジェール北部の住民にとって不幸の源でしかない』Altermondes)、といわれる鉱山では、住民の健康被害や自然破壊、など、お決まりの無残なエクスプロイテーションが堂々と推し進められており、地元住民とのトラブルも後を絶たない。現地住民の状況を改善しようとしたフランス国内のNGO(もちろん非原理主義的)も12月にアレバの不誠実なごまかし行為を告発している(フランスねこさんによる翻訳)。

日本の国内では、原発を過疎地に押しつけ、事故や放射能汚染のリスクを地元の人に背負わせ、一部の人々(その多くはおそらくは選択の余地がない)に被曝労働を強いて原発システムを動かしてきたこと、動かし続けていることが問題にされる。しかし、被ばくと負担の押し付けとしわ寄せは世界規模で行われ、そしてそれは、今回のことがよく示しているように、戦争をしてまで守らなければならならず、戦争によってしか最終的には守れないものなのだ。

なぜ、戦争でしか守れないか。それは、ウラン鉱山をはじめとするこうした構造が『テロリスト』を生みだし、育てるからだ。ウラン鉱山はやめられない、だから、『テロリスト』をやっつける。戦争で。大きいのをドカンと一発(Randy Newman)。すばらしい戦闘機がびゅんびゅん飛ぶ、高性能の装甲車が砂漠を疾駆する。

日本人の人質の安否も気づかわれるアルジェリアの『テロ事件』では、日本やイギリスなどの懸念をよそに、フランスはアルジェリア政府の強硬策を『適切』(オランド大統領)と支持した。

そして、フランスの国会は、与党も野党も、環境政党まで含めて、あげてマリ戦争を支持している。そして、奇妙なことに、フランスのテレビニュースを見ても、新聞を読んでも、この戦争とウラン鉱山の関係が表に出てくることはない。ル・モンドの読者質問と専門家の回答という記事で、読者が、アレバのウラン鉱山が戦闘地から数百キロのところにあるが、それとこの軍事介入の関係は?と問うたのに対して、その専門家(日本風に言えば「御用学者」でしょうね)は、

『そういう仮定も排除しないほうがいいでしょうね。いずれにしろ、あの地域一帯にわたって、いろいろな影響があるでしょう』

なんておとぼけを言っているだけ。ル・フィガロがドカンと真正面から構えた記事『なぜフランスは軍事介入をこれほど急いだか』の「なぜ?」にはウラン鉱山の話は出てこない。その点をついた読者コメントが、

『原理主義者の支配地から200キロのところにあるアレバのウラン鉱山には一言も言及なし。これこそが軍事介入の本当の理由だ。フランスが、ドイツのように原発から撤退すれば、ニジェールやこの地域とフランスの産業は関わりがなくなる』

フランスのマスコミ(日本風に言えば『御用メディア』でしょうね)が何としても言いたくなかったこと、隠しておきたかったことが、ここにある。

安倍首相以下、日本政府は、アルジェリアの人質事件で人命を最優先すると表明した。わが国の原発マフィア政権は、そんなにヒューマンだったっけ?いやいや、仮に、日本がアジアにウラン鉱山を持っていて、その権益を「現地の反日勢力」が脅かしでもしたら、首相肝いりの『国防軍』が、フランスが北アフリカでやったことと同様のことをするだろう。もっとひどくないという保証もない。


2013/01/21付記:
在ベルリンジャーナリストの梶村太一郎のブログ記事『143:アルジェリア人質事件の背景に日仏の巨大なウラン利権(第2報)ニジェールのヒバクシャに思いを致そう』が、事件の背景やウラン鉱山との関係について有益な情報を与えてくれた。

2013/01/22付記:
フランスのマリ軍事介入とウラン鉱山の関係では、『ウランのために流される血ーテロリズムとはほとんど関係ないフランスのマリ介入』も参考になった。特に、同じブログにあるニジェールのウラン鉱山(『原子力産業界の「サウジ」』にある『世界最大のウランの地下鉱山』)におけるアレバの前時代的な堂々たる植民地主義的搾取をレポートしたドイツのシュピーゲル誌の記事の翻訳は必読。アレバのウランが住民の命を奪い、自然をじゅうりんし、現地の社会的・政治的基盤をぶち壊してきたことがよくわかる。グリンピースによる現地調査のビデオあり。

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