福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

建屋は真ッ闇(くら)闇(くら)の闇(くら)、国会事故調に対する東電の意図的な誤認

2013-02-10 18:46:17 | 新聞
東電福一原発の過酷事故は、津波ではなく、すでに地震そのものによって引き起こされていた・・・、という疑いは、事故当初からあった。国会の事故調もその疑いを追求しようとして、1号機の現地調査を計画した。ところが、東電は調査を断念させるために、建屋は真っ暗で何も見えない上に危険だ、と嘘をついて、事故調側をダマシ・脅していた。

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東電福一原発の原子炉の炉心溶融や水素爆発の原因となる損傷が、津波到来前に、すでに地震そのものによって引き起こされたいたのではないか、という疑いは2011年の5月ころに共同通信や中日新聞でスクープされ、このブログでも何度か記事にした(文末参照)。また、国会事故調委員の田中三彦氏は、その当時、雑誌『世界』(2011/5月号134-143ページ)に『福島第一原発事故は決して”想定外”ではない』という論文を書き、津波ではなく、地震の揺れによって重要な配管が破損し、それが炉心溶融につながる冷却水喪失をもたらした、と結論づけた。

原因が地震か、津波か、これは重大な意味を持つ。なぜなら、

『原発の重要機器が地震で壊れたのか、津波で壊れたのか。その原因の違いは今後の安全対策を左右する。原発の新しい規制基準を作っている原子力規制委員会の判断に重大な影響を与える。』東京、社説

からだし、第一、原発のジャングルのような配管を耐震にすることなどほんとにできるのか、福一以外の原発の命取りになりかねないし、さらに、もし、事故原因が地震そのものとなったら、原発の安全性に対する疑念が、内陸部に設置された原発にも及ぶことになり、インターナショナル原発マフィアが恐れるとおり、世界的にも大きな影響が及ぶことになる。だから、何としても事故原因は津波、地震による重大な損傷はなかった、ということにしなければならない。

そこで、東電は、こういう汚い仕事で出世したのではないかと思われる玉井俊光企画部部長(当時)を、国会事故調の田中氏らの下に送り込み、嘘の状況説明をさせた。

『原子炉が入る建物の内部は明かりが差し、照明も使えるのに、「真っ暗」と虚偽の説明をしていた』
朝日

『「道に迷えば恐ろしい高線量地域に出くわしちゃいます」
 「迷うと帰り道はわからなくなる」
 「精神的にもパニックに陥るみたいなことも含めて相当危険」
 東電の玉井俊光企画部部長(当時)は、国会事故調の現地調査の責任者である田中三彦委員(同)らに、真っ暗な状況から迫りくる危険を、繰り返し強調した。』
朝日
(この辺の朝日の記事は、会員限定だが、登録さえすれば誰でも一定数の記事が読める)

報道ステーション2013.2.7では、この東電・玉井部長と国会事故調側とのやり取りの録音が放送された。

玉井部長はしつこく、明かりがない、真っ暗だ、と何度も強調している。以下書きおこし。

『玉井:今はカバーがかかっていて、真っ暗だとご了解いただきたい。
事故調:照明はないんですか、(カバーは)透明じゃないんですか、光は通さないんですか。
玉井:真っ暗だそうです。
事故調:2階・3階は暗いでしょうけど4階もくらいですかね。
玉井:暗いですね。
事故調:建屋カバーは上の方が少し明かりが出てないですか。
玉井:出てないですね。』


東電は、これらの虚偽説明にはだまそうとする意図はなく、『誤認』であったとしている。しかし、上記の報道ステに出てきた国会事故調の元調査員・伊藤良徳氏によれば、玉井部長は、やってくるなり『真っ暗』『危険』と繰り返した、という。すなわち、この『誤認』の内容を強調して伝えることが彼の訪問の目的であったのだ。虚偽の説明をする意図はなかったとしても、誤認をする意図はあったと言わなければならない。

『この問題への東電の釈明も、虚偽の内容で構成されていることがわかった。朝日新聞が入手した説明のやりとりを精査したところわかった。東電は虚偽を重ねたことになる。問題が発覚した7日、東電は自社ホームページなどで、国会事故調側から現場の明るさについて質問があった際、事実を誤認して説明したが、何らかの意図をもって虚偽の報告をしたことはないと釈明した。ところが、国会事故調側から明るさについて質問があって説明したというのは虚偽で、説明の席では、玉井俊光・東電企画部部長(当時)の方から「建屋カバーがかかり、今は真っ暗だ」との明るさをめぐる話を切り出していた。』朝日

東電の意図的な誤認は、言うまでもなく処々方々の怒りを引き起こした。『東電虚偽説明 罪深い真相究明妨害だ』とする社説を掲げた琉球新報は、虚偽は意図的ではない、という東電の説明を、

『その言葉を誰が信じるか。事故原因を探る核心部分の設備を事故調の目に触れさせない、隠ぺいとしか思えない。』

と、ごくまともに一蹴している。
もちろん、これは隠ぺいだ。東電にはどうしても隠したいことがあったのだ。それはもちろん、地震による配管損傷の証拠だろう。虚偽説明を、あとで意図的でないと言い訳してきりぬける、というぎりぎりの綱渡り、それを国会事故調に対してまでしなければならないところに、追い込まれていた、と考えるのが普通だ。

実際、国会事故調は、「地震による重大損傷」の疑いを持たせる事実を把握していた。

『国会事故調は、2011年3月11日の地震発生直後に1号機原子炉建屋の4階で「出水があった」との目撃証言を複数の下請け会社の労働者から得た。
 4階には水の入った非常用復水器のタンク2基と配管があるため、地震の揺れで非常用復水器が壊れた可能性があるとして4階部分の調査を決めた。』
(朝日)

この目撃証言に関する部分を、国会事故調報告書から引用しよう。

『a.「畳のような形でジャときた」
 協力企業の社員の聞き取りによれば、出水は1号機原子炉建屋4階の南側の壁に近いところで起きた。同階にはIC用大型タンク2基が設置され、IC用配管が複雑に取回されている。
 出水が起きたとき、複数の協力企業の社員、合計4人が、同階の配電盤の点検用足場の設置工事を行っていた。・・・B氏によれば、地震の揺れが激しくなったので、B氏は全員にその場にとどまるよう大声で指示した。そのあと、原子炉建屋の南側の壁の近くで出水が起きた。・・・水はB氏の右横の上方から「畳のような形でジャと」きた。B氏は「それをかぶったら終わりだ」と思い、皆に「逃げろ!」と叫び、自身も2基のICタンクの間を走り抜け、その先にある北側の階段から他の社員とともに地上まで駆け下りた。急いで逃げたので、水の量や、水が冷たかったか熱かったか、蒸気を伴っていたかいなかったか、などはわからないという。』
(215-16ページ、Web版はこちら、セクション2.2.4、ちなみに報告書によれば、東電は、『原子炉建屋内には照明がなく昼間も真っ暗である』と伝えてきた、ということだ。)

『それをかぶったら終わりだ』というところに原発の恐ろしさがあらためて迫ってくるが、この出水が、ちょっとやそっとの水漏れではないことを注意しておこう。

さて、東京新聞、琉球新報、北海道新聞河北新報などの怒りの社説に比べて、せっかく録音までおさえてスクープをした朝日(2月7日には1面報道だったそうだ)の社説は、なんだかあまり元気がない。

『調査に協力するつもりで状況を調べれば、少なくとも明るさには問題がないことがすぐにわかったはずだ。』
朝日

なんて、おとぼけを言っている。東電に『協力するつもり』なんてものが、まったくありもしないことは、先の録音の玉井部長のふてくされた居直りからも見てとれる。

『事故調:先導してくれるんでしょう?
玉井:それは今はないです。わたくしどもは事務局さんにはそれはできませんと伝えてあります。
事故調:じゃ、それは全部、われわれがやれということ?
玉井:やれ、と言ってるんじゃなくて(声のトーンがあがってしまう!)、私たちは、入るんですか、ときいたら、入りたい、と聞いてて、で、私たちは知りませんよ、と言ったらそれもわかりました、と。それでも入ります、と聞いているので、それは事故調のチームとして入るんですよね、え、だから、あの・・・
事故調:あっ、ガイドはないと・・・
玉井:ハイ』


国会事故調側の田中三彦氏は

『田中元委員は同日、東京都内で記者会見し、国会が主導して早期に現地調査すべきだと主張した。虚偽の説明をした経緯から、東電が証拠を隠滅する可能性もあるとして、現場保全の必要性も訴えた。』
朝日

当然のことだ。とくに、証拠隠滅は、虚偽説明をして調査を阻んだ時点から、当然、意図されていたとみてよい。もしかしたら、すでに証拠隠しは行われてしまっているのかもしれない。2011年5月に「地震原因説」のもみ消しに、他のメディアとともに奮闘した朝日新聞が今回、東電の嘘つき!、と喜々として報道することも、もしかして証拠隠滅が完了していることを前提にしている可能性だってないわけじゃない。しかし、証拠隠滅が行われたのなら、その隠滅工作の跡、副産物、出来事、証言があるはずだから(映画『シビルアクション』の教訓)、今からでもぜひ踏み込んでしっぽをつかんでほしいものだ。

最後に、原発推進派の読売、日経、産経の反応を見てみよう。読売と日経は慎み深く『出水』という事実への言及を避けている、だって、『それをかぶったら終わりだ』もの。そして、かわいいのは、産経こわもてオヤジの暗い表情である。

『東京電力が昨年2月、・・・1号機の原子炉建屋内部は実際に明かりがあるにもかかわらず「建屋カバーが設置されており、暗い」と虚偽の説明をしていたことが分かった』

他紙がこぞって、『真っ暗』と書いているところを、それじゃあんまりだ、と思ったのだろうか、単に『暗い』と変えた。ちなみに、『暗い』『真っ暗』は明らかに意味が違うから、これは虚偽の報道と言える。すみません、意図的ではなかったのです。ただ意図的に誤認しただけです、ってか!


参考:2011年5月の『地震による重大損傷』の報道は以下を参照:

共同通信がんばれ!翼賛メディアに負けるな!:「津波前に地震で重大損傷」、事実隠ぺい工作との戦い

中日新聞もがんばれ!:2号機爆発の原因も「地震そのもの」による損傷

ヒトのせいにするな!:「人為ミス」が隠す「重大損傷」

津波の前にやっぱり原子炉は壊れていた!:Bloomberg.co.jpがやっぱり取材で突き止めた重大事実

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