福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

『アレバのウラン鉱山にフランス軍の特殊部隊派遣』をも追認する環境政党の天地倒錯

2013-01-27 15:51:08 | 新聞
マリ戦争の正体みたり!と、このニュースを伝えていたル・フィガロ紙のコメント欄で一人の読者が言った。フランスが特殊部隊を私企業の利益防衛のために派遣するのは初めてのことだそうだ(『えっ、うっそー。それこそフランスのアフリカ・マフィア(Françafrique)が今でやって来たことじゃん!』、という読者の突込みあり)。やっぱりね、という既視感を与えるこのニュースで気になったことを拾ってみた。特に、今や堂々たる与党となった環境政党(EELV)の反応が気になった。だって、彼らは脱原発のはずだし、アレバのウラン鉱山は現地でひどい環境汚染や健康被害をもたらしているのだから・・・

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『仏軍、ウラン鉱山施設警備へ=マリ軍事介入でテロ警戒-ニジェール』というニュースを短信で伝えたのは時事通信。以下全文:

『24日発行のフランス紙ルモンドは、ニジェールにある仏原子力大手アレバのウラン鉱山関連施設を仏軍要員が警備すると報じた。隣国マリへの軍事介入やアルジェリア人質事件を背景に、施設を狙ったテロや従業員拉致の危険が高まったとして、仏国防省が今週決定したという。(2013/01/25-06:06)』

この『仏軍要員』というのが特殊部隊であるということも知っておいた方がいいだろう。介入対象となる鉱山は二ヵ所で、稼働中のArlitと建設中のImamourenである。前者ではに2010年に人質誘拐事件が起きており、その当時の警備は、非武装のフランスの警備会社とニジェール軍が担当していたが、その後、アレバはフランス政府に軍隊の派遣を要請した。それを当時の保守政権のフィヨン首相は拒否していた。それを今回、環境政党も連立している社会党政権が、『地域の不安定要因が深刻化した』とかいう理由で派遣に踏み切ったのだ。アレバのニジェールの鉱山は、ウランのフランス国内需要の3分の2を供給している。原発中毒のフランスにとっては、『エネルギー分野における自立』のためにはなくてはならないものだ。しかし、何千キロと離れたところにある鉱山に軍隊を送って確保しなければならない『エネルギーの自立』が『自立』なんて言えるのだろうか。それとも、フランスにとって、あの辺の土地は、―おお、わがなつかしき古き良き植民地帝国時代よ!―、昔から自分たちの土地だから、あそこからもたらされるエネルギーなら、やっぱり『自立』なのか?

びっくりしたのは、ル・ポワンのすっぱ抜き記事ル・フィガロル・モンドの記事はここからの転載)にあった以下のような指摘。

『フランス特殊部隊はタダでは展開しない。アレバには請求書が、それも、たぶんぐっと吹っかけられた額の請求書が送られることになるだろう。』

国家の軍隊が私企業の利益を防衛のために派遣されることも、その見返りに金やその他の利権がやり取りされることも、新植民地主義のアフリカマフィア業界では常識なのだろう。これが、何かというと『人権の国』とか『ヴォルテールとユゴーの国』とか、人道と社会正義の大みえを切るフランスの偽善。オランド大統領も、マリ軍事介入は、

『フランスは解放者である。・・・フランスはマリにいかなる利権も持っていない。どのような経済的・政治的計算に基づく行動もとらない。フランスは、単に、平和のために行動しているのだ。』(ル・モンド)

と、言っていて恥ずかしくないのかねーというキモい声明を出していた。そして、偽善という点に関しては、オランドの社会党と連立を組む環境政党EELVも同様だ。いや、人道と地球環境保全、南北格差の解消、反戦平和と持続的繁栄を売りにしている彼らには、隠さなければならないことがもっと、もっと、もっと、もっとあるに違いない。

なぜ、環境政党EELVは今回のアレバウラン鉱山への仏軍派遣に何も言わないのか。とりわけ、アフリカウォッチのNPO、Survieによれば、EELVは2012年の大統領選に際して社会党と以下のような合意を取り交わしているからだ。

『国会の民主的な役割を回復すべきだ…外交・軍事に関する問題は、国会で討議したうえで、国会の決議を経なくてはならない』

しかし、今回の『私企業の利益防衛のための軍隊派遣』が国会の審議・決定を経たことはない。雑誌の特ダネ記事で暴露されたあとになって、当局から事後の確認があっただけだ。そもそも、フランスの原発を維持し、放射性物質を量産して環境を悪化させ、その一方、現地では、ずさんで安上がりな採掘によって、住民に『人道的危機』をもたらしているアレバのウラン鉱山の、武力による保護と維持をどうして地球環境と人権の擁護を掲げる環境政党が黙って見過ごしていられるのだ?

そういうわけで、EELVの公式サイトにお邪魔して、サルコジ前大統領から『人権屋さんたち』と皮肉られた政治家先生方のお考えを拝見することにした。

そこには、この環境連合政党の『連合委員会採択の動議』なる物々しい肩書を帯びたマリ戦争に関する党の立場表明があった。まず、党は『マリへの軍事介入を支持する』とくる。さらに、『EU各国がフランスと行動を共にしないことを遺憾とする』と続くのだが(68年の学生運動で名をはせた「アカ野郎ダニー」ことコーバンディットは、今や環境政党の欧州議会議員だが、欧州議会で『フランスだけに殺す(ほんとうにこの意味の単語tuerを使った!)仕事をさせておいて、みなさんの国は看護チームを送る、こういう役割分担はフランス人には受け入れられない』と発言していた!)、それでもやはり環境政党らしさがいるということなのか、政府への要求には、こんなのもある。

『 ・環境汚染はどのようなものであれさけること
  ・劣化ウラン弾の使用はしないこと』


環境にやさしい戦争・緑のじゅうたん爆撃。そんなのあるのか?劣化ウラン弾を使用しなくても、アレバの鉱山は、放射性物質を野ざらし・垂れ流しにして放射能をまき散らしているのではないか?

EELVは今回のマリ戦争を何が何でも『人道的介入』のコンテキストに置きたい。

『フランスの軍事介入によって、連合武装勢力の侵犯が食い止められた。彼らは、自分たちの支配を、軍事力と、地元住民に容赦なく科された暴虐―身体切断、公開処刑、強姦、未成年を兵士に取る目的で行われる村々の襲撃、人質の誘拐―によって確立しているのだ。とはいえ、この軍事介入には否定できないリスクもある。それは、この介入が、1960年のアフリカ諸国の独立から、おおよそ50回目となる、フランスによるアフリカへの以前と同じような介入とみえてしまうことにある。それは、フランスが、正当でない経済的・戦略的利益を守っているかのように思われてしまうというリスクである。』

なぜそんなふうに『思われてしまう』のか?それは、

『フランスがアレバを通して国内の原発のために消費するウランのかなりの部分(2012年に3000トン)を採掘しているニジェールに境を接するマリ北部は、同時に(フランスの)トタル社をはじめとする石油メジャーにとって、今日まさに「黄金郷」とみなされているからだ。』

そう、つまり本当は、人道的介入でしかありえないものが、たまたま近くにウランなどの資源があるから、フランスがかの地の利権を新植民地主義的に武力で守っていると思われて、ボクたちとっても迷惑です!心外です!と言っているのである。

この論理と思考の倒錯はいったい何なのか?政治的なごまかし言説と、人道的環境保護主義者の自己欺瞞とが分かちがたく混合・凝縮しているのか。まさか、意図的にナンセンスなこと言って、『政権与党だから仕方がなく我慢しますが、ほんとはこれが植民地戦争だということを、ボクだってわかっているんです、このくるしい胸のうち、分かってね』とサポーターにメッセージを発しているのだろうか?まさかね。

いずれにしても、人道的環境政党EELVが権力の座に居座るために差し出している犠牲の大きさは、計り知れない。この人たちには『脱原発』などぜったいにできるわけがない、と思われても仕方がない。

社会党の偽善に輪をかけて滑稽の域にまで達した環境政党の戦争擁護に対して、『フランスはマリにおける自国の利権を守ることに何ら恥じることはない』という勇ましい評論をル・モンドは掲載している。人道主義の陰に隠れた偽善的植民地主義より、露骨で正直な植民地主義のほうがましだろうか?私はどっちもいやだ。

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