福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

子どもの甲状腺検査、福島・他県比較:『大差ない』ということでほんとに安心ですか?

2013-03-15 16:31:30 | 新聞
3月8日環境省は福島県外に住む子供の甲状腺検査の結果を発表し、『フクシマも他県も同じ』という結論を公表した。大メディアは例によって、忠実な御用ぶりを発揮し、『「甲状腺にしこりなどが見つかった子どもやその保護者は過剰に心配する必要はないと思う」』(NHK)などと、2月に新たに見つかった小児甲状腺がんの衝撃をかき消すかのように、火消行為に躍起になった。しかし、はたしてこの国家的結論は疑問の余地なくは正しいのか?正しいとしたら、それで『安心』なのか?

===============

いや、いや、どうやら正しくも安心でもない可能性が高い。

福島県外の子どもたちの甲状腺の嚢胞・結節は、

『2センチ以下の嚢胞や5ミリ以下のしこりのあった子どもが56・6%、それ以上の大きさの嚢胞などがあった子は1%(福島は0・6%)いた。』朝日

福島では『1月までに約13万3千人が検査を受け、41・2%に2センチ以下の嚢胞や5ミリ以下のしこりが見つかった』状態だったが、この他県データを受けて、環境省は『「福島の結果は他県とほぼ同様だったと考えている」』という結論になったのである。

発表から1週間、この結果に関するWeb上のコメントには、いくつか大変重要なものがある。

・嚢胞・結節の分布が同等としても、甲状腺がんが福島で多発しているという事実は覆らない。鬼蜘蛛おばさん

その通り、そして、この甲状腺がんの多発については、岡山大学大学院の疫学者・津田敏秀氏の説明があり、それをHappyのkiikochan氏が(いつものすごいエネルギーで)文字起こししてくれている。、

さらに、木野龍一氏は、『今回の速報はデータが大ざっぱすぎて、何かの意味を見つけるのは難しい』という。
『年齢構成がわからない』し、『福島県の調査は0~5歳が26%を占めるが、環境省の調査では3歳未満は含まれてない』。
・『甲状腺癌の判定では結節の有無も大きな意味を持つ』にもかかわらず、『福島県の調査では嚢胞と結節を別々に集計しているが、環境省の速報では未集計』
・そして、『福島県ではすでに甲状腺癌が見つかっている。他地域と比べるなら福島と同様の二次検査まで実施し、診断を確定させる必要がある』はずなのに、他県では『二次検査まで含めていなかった』


などという点だ。また、別のサイトでは、『福島県における2011年度と2012年度の比較』が無視されていることも問題視されている。

・『2011年度は35.7%となっており、2012年度は44.2%。約1年で8.5ポイントもの上昇が見られている。なんらかの「外的要因」がある、と考えるのが一般的だろう』

これらの、至極もっともなポイントのほかに、私が気になったのは、なぜ、他県のほうが嚢胞・結節が多かったかという点だ。

『これまでの県の調査では、対象の41%で小さなしこりなどが見つかっていたが、今回新たに行われた県外3市での調査では57%だった。』読売

この差異は、『ほぼ同じ』とか『ほぼ同様』と環境省とマスコミは言うが、ほんとうだろうか?

東京大学医科学研究所の内科医・上 昌広氏のツイートによれば、

『子どもの甲状腺「福島、他県と同様」 環境省が検査結果・・・この結果を「同様」と結論してはいけないですね。有意差をもって福島が少ない。研究デザインに差があるのか、あるいは、医学的に異なるのか。政府は、あらゆる研究者に生データを開示し、オープンに議論させればいいでしょう。』
『「子供甲状腺検査 福島と県外大差なし」。各紙が役所の言い分を垂れ流している。これは違う。今回の研究では、「統計学的に有意に福島で低い」。つまり、大差がある。この結果の解釈は二通り。福島の子供の遺伝的、環境的要因が違うか、あるいは、研究方法に問題があるかだ。』
ここにも引用されている)

統計的に有意な差を、『ほぼ』などという曖昧化表現でごまさずに、このお医者さんが普通に発想しているように、どうしてそういう差異が生まれたかという点に、調査と考察を進めるべきだろう。そうすると、まず思い浮かぶのが、『研究デザイン』の差というか、福島県と他県における調査に関する姿勢の違いである。

環境省&マスコミは、今回の調査が福島県と他県とで、同じ条件、すなわち、

『環境省は長崎市と甲府市、青森県弘前市の3~18歳の子ども4365人に、同じ性能の超音波機器、同じ判定基準で検査をして比べた』朝日

という点を強調している。しかし、同じなのは機械や基準だけではない。調査者たちの「意図」も同じだ。誠実に福島の子どもたちの健康を守ろう、などという意図のことではない。福島の原発事故の被害を最小化して取るに足らないものにして、事故前のふつうの福島を現前させ、事故をなかったことにして原発と原子力産業の繁栄を図る意図だ。福島の子どもの甲状腺が原発事故の放射能で何ら影響を受けていないことを証明する意図だ。東電やニッポン国による原発事故補償を節約したいという意図も下位区分の中に含まれる。さて、この意図は、『研究デザイン』には決して書かれない暗黙の指針として作用し、現場の検査担当者たちに対して、福島県と他県とでは反対方向の効果をもたらす。福島では甲状腺異常を低めに検出する、よそでは高めに検出する。こうすることで、原発事故の惨禍に見舞われた福島は、実はなんにも悪いことは起こっていなくて、他県とおんなじだったことがわかるのだ。

この疑いは、東京新聞のこちら特報部の記事『福島・小児甲状腺ガン 募る不信、県の検査結果 別機関と違う 「異常なし」を覆す所見も』に出あうといっそう強化される。たとえば、ある人の子どもたちの検査結果は、福島県の報告書では、

『「異常は見られませんでした」と記されていた。だが、島さんは市内の診療所で再検査させた。すると嚢胞が2つ見つかった。中学1年生の長男(13)も県の検査では嚢胞が1つだったが、2ミリ大が2つ見つかった』

別の人(津田さん)は、

『県の検査に納得せず、別の医療機関で子どもを再検査させた。結果は異なっていた。小学6年生の長男(12)と5年生の長女(11)で、県への問い合わせで、長男は「最大2.5ミリ」、長女は「複数」の嚢胞があることが分かった。別の医療機関の検査結果では、長男の嚢胞は最大3.8ミリが2個で、長女の嚢胞は4ミリ大を筆頭に12個以上。長女の検査写真には、嚢胞のつぶが無数に写っていた』

さらに、

『島さんや津田さんらの不安は尽きない。県の検査への姿勢に粗さが目立つからだ。例えば、時間だ。県の検査で甲状腺に超音波を当てる時間は異常な所見がない限り、一人当たり短いと数十秒。たいていは2~3分だ。広報担当は「詳細な検査が必要な人を見つけ出す『スクリーニング』」と話す。一方、島さんが再検査に利用した診療所は、10分以上かけて調べた』

鬼蜘蛛おばさん『判定する人のスキル』を疑問視するが、スキル以前に、スキルのせいにもできる曖昧さ、場合によっては悪質な意図が介入するのを阻まない、というか、むしろそれを予測し助長する『判定基準』、つまり検査のわく組にも問題があるのではないか。

ブログ「エビデンスに基づく考察」の指摘では、A1判定(異常なし)とA2判定(5.0mm以下の結節や20.0mm以下ののう胞アリ)の区別は、A2判定とB1判定(5.1mm以上の結節や20.1mm以上ののう胞アリ)に比べて、曖昧である。

『A2とB判定の境界は明確であるのに、A1とA2を区別する境界値が設定されてない。・・・境界がはっきりしていないために個人差が出やすく、例えば0.5mmの結節でもA2に判定する人もA1に判定するヒトも居るかもしれない』


今回、他県で56.6%(読売だけ切り上げて57%)福島県で41・2%と差異がでた調査では、ここで検査者の恣意的な判断の介入の余地が指摘されているA1とA2の区別が決定的な要因であったのは言うまでもない。

あやしい、あやしい、あやしい、この気持ちは、木野龍一氏が明らかにした、この環境省調査の受注団体、「NPO法人日本乳腺甲状腺超音波医学会」の調査委員会のメンバーを見るといっそう高まる。

鈴木眞一  福島県立医科大学 器官制御外科学講座 教授
高村昇   長崎大学医歯薬学総合研究科 国際保健医療福祉学研究分野 教授
志村浩己  山梨大学医学部 環境内科学講座 特任准教授
貴田岡正史 公立昭和病院 内分泌代謝内科 部長
赤水尚史  和歌山県立医科大学 第一内科学講座 教授
大津留晶  福島県立医科大学 放射線健康管理学講座 教授
山下俊一  福島県立医科大学 副学長 同放射線県民健康管理センター長
今泉美彩  放射線影響研究所 臨床研究部研究員
谷口信行  自治医科大学 臨床検査学講座 教授 (調査委員会委員長)

御大・ダマシタ教授をはじめ、その弟子・高村、2月に甲状腺がんと放射線被曝の影響を断固否定した福島県立医大の鈴木眞一などだ。言うまでもないことだが、国家がその御用学者をつかって国策に沿った国家的客観性と功利的科学性に満ちた調査をさせたということだ。

こんな決めつけは、放射脳に侵された風評被害者の妄想で、白い巨塔の医学データの権威はそんなことで揺らぐもんではないとおっしゃるか?では、仮に、今回の他県の調査結果が、すばらしく客観的かつ科学的で現場の恣意性や、まして客観性を操作しようなどという悪魔的な意図とは無縁だとしよう。その場合、他県の結果が、すでに『多発』の頻度で甲状腺がんの症例が出ている福島と『ほぼ同様』であったということは、これで福島は他県のように安全だから安心だ、という結論に私たちを導くだろうか?いいや、その反対ではないだろうか?だから、Happyのkiikochanのように、

『なんで50%以上の子どもの甲状腺に5mm以下の結節や20mm以下ののう胞があるのだろうか?・・・日本中の子どもがヨウ素131に被曝してしまったという事…。そう考えるのが一番自然かもしれない』

という可能性をもしっかり考える必要があるだろう。さきのエビデンスさんも、「大沼安史ブログ2013-03-10」を通じて、

『福島原発事故後(2011年3月メルトダウン翌、翌日から4月12日まで)アメリカ西海岸地域(5州)に沈着したヨウ素131量は通常の211倍に増加した。西海岸地域(5州)で2011年3月17日から同年12月31日までに生まれた新生児の甲状腺不全率はその前年の同時期に較べて16%増加した。一方、同時期残りの36州では3%減少した。』(この研究の信頼性については、付記1参照)

というアメリカの小児科医学誌の論文を紹介している。こういうことでも考えなければ、今回検査対象となった長崎市で12年前に行われた調査との差が説明できない、と。

『12年前の長崎市の子供との違いがなぜか? 山下教授らが2000年実施した例では「のう胞」248人中2人であり、しこりはゼロだった。12年の間に甲状腺エコー装置の精度が画期的に向上したわけではないので、この落差の原因として何かある筈である。』


今回、他県の調査対象となった『長崎市と甲府市、青森県弘前市』の子どもたちがどれくらいヨウ素131に被曝したかはわからない。当時の風向きを考えれば、たとえば長崎とアメリカ西海岸では、遠い方のアメリカのほうにより多くの放射性物質が飛んだかもしれない。確定的なことはわからない。

しかし一つだけ確実なことがある。今回の他県の子どもの甲状腺検査結果は、国家やその御用学者の思惑とはかけ離れて、福島の人も他のところの人も安心させる結果にはなっていない。それどころか、被ばくとともに安心をも強制する「原発のあるふるさとへの帰還」体制は、その強引さゆえにかえって人々の不信と混迷を深刻化させているということだ。


付記:
1.この論文の筆者たちマンガーノとシャーマンは2011年6月米国西海岸で乳児死亡率が上がったという研究を発表したが、その論文の統計の取り方に疑問が出されている。Scientific americanのブログの記事”Are Babies Dying in the Pacific Northwest Due to Fukushima? A Look at the Numbers”参照。

2.福島県の子どもたちの甲状腺検査の結果が2012年の冬から春にかけて発表され、甲状腺の結節・嚢胞がかなりの高率で見つかった時、ベテランの病理医の方が、医者の経験的知見として、甲状腺の結節や嚢胞はきわめてまれだ、というツイートをしていた。同じような指摘を、フランスの医師がしているのを見つけた。関連部分を翻訳する。
『フランスの農村部で開業医として30年やっているが、甲状腺のしこりをもった子どもにであったことはない。(あるとすれば、思春期の甲状腺肥大で、これはよくあること)。子どもの甲状腺のしこりがまれであることは間違いない。30%というのは大きい数字だ。医学誌などでは、18歳未満の子どもについて、0.2~1.4%という数字が出てくる。エコーを使って広く検査すれば、3.5%まで上がる。福島のケースはしたがって、通常の10倍だ。』

最新の画像もっと見る