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・仕事中の刑事が給油に立ち寄ったGSで、勤務していたのは外国人だった。其の時、聞き慣れない鳥の鳴き声が。或る盗難事件の捜査過程で、別の外国人従業員が浮かんだ。彼は逮捕されたが、違和感が残る。其の後、真犯人が判明したが・・・。(「巨鳥の影」)
・語り手は新米刑事。空き巣男を、女教師が正当防衛で殺人という通報。侵入犯は、教え子の父親だった。小さな痩せた息子に掃き出し窓から忍び込ませ、鍵を開けて、泥棒していたと言う。(「死んでもいい人なんて」)
・隣室のキャバ嬢の部屋に、そっと忍び込む。時々、鍵を掛け忘れる事を知っている。内気な学生のペットは蟻だけ。柑橘系の彼女の香りを吸い込む。其の時、大きな地震が起き、彼女が戻って来た。そして蟻をペットに借りたいと彼女が訪れ・・・。(「水無月の蟻」)
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「教場シリーズ」で知られる長岡弘樹氏。彼の小説「巨鳥の影」を読了。8つの短編小説で構成されているが、他の長岡作品同様、伏線の敷き方は見事だ。
一番印象に残ったのは、「水無月の蟻」という作品。「コミュニケーション障害を自覚している大学生の男性・有末(ありすえ)は、住んでいるマンションの隣室に住む女性が気になって仕方無い。キャバ嬢をしている彼女は時々、出掛けた際に自室の鍵を掛け忘れる事が在り、有末は其の度に彼女の部屋に忍び込んでいた。彼女が出掛けた際、何時もの様に部屋に忍び込んだ彼を大きな地震が襲う。其の時、茶箪笥の棚に載っていた2つの瓶が床に落下し、中に入っていた“粉砂糖”が床で混じり合ってしまった。」という展開。
小説、特にミステリーを読む際、「こういう展開で話は進み、こういう結論になるんだろうな。」という予測をするのは、醍醐味の1つ。「3ヶ月程前、有末の靴に付いていた蟻に気付き、其の事で『彼が自室で、多数の蟻をアントクアリウム内で飼っている。』という事を、隣室の彼女は知る。」、「蟻が大の苦手という彼女が地震の翌日、『“ペットを飼う練習”の為、アントクアリウムを貸して欲しい。』と有末に言って来る。」という展開に、「大きな地震の直後、帰宅した彼女は、床に散らばった粉砂糖に、蟻が多数集っているのを発見。蟻が大の苦手で、普段から蟻が入り込む無い様に対策していた彼女は、『何故、蟻がこんなに集っているのか?隣室の有末が自室に入り込み、其の際に彼にくっ付いていた蟻なのではないか?」と疑い、彼のアントクアリウムを借りて、同じ種類の蟻なのか等を調べる積りなのだろうな。で、忍び込みがばれた有末が、彼女を病死に見せ掛けて殺害するという展開なのだろう。」と予測したのだが、非常に意外な展開に。完璧に予測が外れ、心地良さすら感じる“遣られた感”が味わえた。
唯、残りの7作品は、凡庸な内容。「謎解きの面ではすっきりするけれど、結末にはすっきり感が無く、不快感が残る。」というのが、総じての印象。
総合評価は、星3つとする。