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若手外科医・雨野隆治(あめの りゅうじ)の下に、急患で運ばれて来た21歳の向日葵(むかい あおい)。彼女はステージIVの癌患者だった。
自分の病状を知り乍らも、明るく人懐っこい葵は、雨野に「人生で遣っておきたい事の第1位」を打ち明ける。医師として、止めるべきか?友達として、叶えて上げるべきか?
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古くは森鴎外氏や北杜夫氏、渡辺淳一氏等、そして新しい所では海堂尊氏や夏川草介氏、知念実希人氏等、“医師で在り作家でも在るという人”が存在する。典型的な文系、其れも凡人の自分からすると「理系と文系の能力を兼ね備えているだけでも『凄いなあ。』と思ってしまうのに、作家としても素晴らしい作品を生み出して来たとなると、もう嫉妬するしか無い。」という思いが在る。
「1980年生まれの現役外科医で、37歳の年に病院長にもなった。」という経歴を持つ中山祐次郎氏も、“医師で在り作家でも在るという人”の1人。2年前、彼が上梓した小説「泣くな研修医」を読んだ。今回読了した「走れ外科医 泣くな研修医3」は、自分にとって2作目の中山作品で在り、「泣くな研修医シリーズ」の第3弾。
第1弾の「泣くな研修医」では、「何も出来ず、何も判らず、先輩医師や上司から、唯怒られる許りの新米医師。」だった雨野隆治も、今や医師になって5年目となった。年齢も25歳から、30歳を目前にしている。医師として何とか1人で色々出来る様になった彼だが、今回の作品では「“同期”が医療現場以外の部分で、様々な知識を蓄え、経験を積んで行っている事を痛感。」し、患者と手術だけに必死になって来た事に焦りを感じる。「良い医師とは、何なのか?」を一言で定義するのは難しいし、医療現場以外でも多くの知識を蓄えたり、経験を積むのは“人としての幅”を広げるという意味で、非常に良い事だとは思う。でも、隆治の様に「患者の事を第一に考えて寄り添い、遮二無二突き進んで行く医師。」というのは、個人的に凄く好きだ。
隆治の勤務する病院に、末期癌の女性・向日葵が急患で運び込まれて来る。「21歳の若さで、余命がそう長くは無い。」という状況、自分が彼女の立場だったら絶望的な気持ちになってしまうし、自暴自棄になってしまいそう。でも、彼女はそんな素振りを見せもせず、隆治達に明るく、そして人懐っこく接して来る。「医師と患者は、必要以上に親密になるべきでは無い。」という思いが在った隆治だが、医師としてでは無く、友達として彼女をバックアップして行く様になる。「医師が患者に対し、感情移入し過ぎると、其の患者が亡くなった際の心理的ダメージが大きくなる。」のは確かだと思うけれど、杓子定規な対応しかしない医師よりも、患者に対してより心を寄せてくれる医師の方が、患者からすると安心出来るのは間違い無い。
「全体としては、色々なエピソードが詰め込まれ過ぎている。」という感は在る。「彼の人物って結局は、何の為に登場させられたんだろう?」と思ったりもしたし、そういう意味では中途半端さが在る。又、「こんな無謀な事、普通の医師ならさせないだろう?」と疑問を感じる点も。
でも、読み終えた後には“清涼感”が味わえた。「医師らしくは無いけれど、こんな医師が存在しても良いんじゃないか。」という思いが在り、隆治の更なる成長が楽しみ。
総合評価は、星3.5個とする。