ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「イキガミ」

2008年10月14日 | 映画関連
貴方の死は、国家の繁栄のになります。御冥福を御祈りします。

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「国民に『生命の価値』を再認識させる事で犯罪及び自殺の抑止を図り、延いては国を豊かにする。」事を目的に、日本では「国家繁栄維持法」なる法律が成立&施行された。全ての子供達は小学校入学時に「国繁予防接種」が義務付けられ、そのアンプルには1,000分の1の確率で特殊なナノ・カプセルが仕組まれている。ナノ・カプセルを接種された者は、18歳から24歳迄の間に必ず死ぬ。予め設定された日時に、肺動脈内でナノ・カプセルが自動的に破裂し、命を奪うシステムになっているからだ。このシステムで死を迎える若者には、死亡日時の24時間前に一通の通知が届けられる事に。「逝紙(いきがみ)」と呼ばれる死亡予告証。

厚生保険省の国家公務員・藤本賢吾(松田翔太氏)の仕事は、その逝紙を「国家繁栄の礎となり、栄誉の死を迎える人」に配達、即ち「死亡宣告」を下す事。“名誉在る仕事”とされているが、賢吾自身はこのシステムに納得の行かない思いを持ち、懊悩していた。そして、自らが配達した3通の逝紙を通じて、それぞれの最期の24時間の生命の輝きを目の当たりにした彼は・・・。
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昨年の記事でチラッと触れた人気漫画「イキガミ」が映画化された。或る日突然に死を宣告された若者達が、生命の燃え尽きる残り24時間をどう過ごしたかを描いている。

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・ 「コマツ」というギター・デュオのストリート・ミュージシャンとして活動していた森尾秀和(塚本高史氏)。しかし今は、その夢を捨て廃棄物処理場で働いている。嘗ての仲間でヴォーカルを担当していた田辺翼(金井勇太氏)は一人だけスカウトされメジャー・デビュー。更には初の音楽番組への生出演が決まっていた。しかしそんな矢先、翼の元に逝紙が届けられる。

・ 国家繁栄維持法を支持する女性議員の滝沢和子(風吹ジュンさん)は、逝紙が届いた息子の直樹(佐野和真氏)を自らの選挙戦に利用しようとする。政治家で在る母親の過度の期待から引き籠りとなっていた直樹は、賢吾から逝紙を受け取ったその夜、警官の拳銃を奪い逃走。そして残り僅かな時間で、選挙演説中の母親に復讐を果たそうとする。

・ 幼い頃に両親を交通事故で亡くした飯塚さくら(成海璃子さん)は、その事故が元で視力を失っていた。兄のさとし(山田孝之氏)は家計を支える為、今では法に触れる恐喝紛いの仕事に手を染めていた。施設にいた最愛の妹と一緒に暮らすという夢が叶うその直前、さとしに逝紙が届く。さとしは盲目の妹の為に自らの角膜を移植しようとするが、さくらは「兄に逝紙が届いたのではないか?」と疑い、手術を拒否する。
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冒頭に記したのは、逝紙を手渡した際に賢吾が相手に言う言葉。戦時中、戦地に送り込まれる者に届けられた召集令状が、その紙の色から「赤紙(あかがみ)」と呼ばれた。ドラマで「貴方は御国の為に召集される事になりました。おめでとうございます。」といった言葉と共に赤紙が手渡されるシーンを良く目にするが、あれと同じ嫌な雰囲気の言葉だ。「御国の為」という錦の御旗により、名も無き市井の人が多く犠牲になる構図は、何時の時代に在っても変わらない。

原作の雰囲気を壊さずに、上手く映像化されている。賢吾役の松田翔太氏が予想外に良かったし、その上司役・石井課長役の笹野高史氏も良い味を出していた。又、「国家繁栄維持法」に反対する人物は思想犯として拘束され、徹底的に“思想改造”が行われるのだが、この映画の中でも思想改造される人間が2人登場する。特に恋人を国繁予防接種にて殺され、国家繁栄維持法に激しい怒りを持っていた役人・島田(劇団ひとり氏)が拘束&思想改造され、映画の最後で「小学校に入学する子供達に笑顔で国繁予防接種を薦めているシーン」及び「その姿を賢吾に見られた瞬間に無表情な顔になるシーン」には、何とも言えない不気味さが。個人的には、飯塚さとし&さくら兄妹のストーリーに滂沱。漫画「ブラック・ジャック」の第49話「二つの愛」が頭に過ってしまった。

総合評価は星4つ

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6 コメント

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>iorin様 (giants-55)
2008-10-14 23:47:16
書き込み有難う御座いました。

色々考えさせられるテーマを扱った作品ですよね。もし自分に逝き紙が届いたら、残り24時間で何をするだろうか?この作品を読んだ人は、大抵それを考える事でしょう。

残りの時間をより有益に使おうとする人も居れば、学生時代に受けた虐めの復讐に走る者も居るでしょう。非現実的な設定なのだけれども、「でも、はたして100%そういう事が起こり得ないだろうか?」という思いも心の何処かに在る。「国家に対しては、或る程度の懐疑的な視線を向けないと駄目。」という事かと。
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Unknown (iorin)
2008-10-14 23:35:41
映画は見てませんが漫画は持ってます。面白いですね。国家繁栄維持法の為、例の予防接種を行うというストーリーの設定はどうなの?と思ったけれど、なかなかの人間模様を描いていて正直、感動で涙してしまいます。特にバンドのお話は漫画でもボロボロと涙が・・・
 もし自分の体にナノカプセルが埋められ、逝き紙の死亡予告書が届いたらどういう行動を起こしてしまうのだろうか?
 誰もが一度は「何の為に生きているの?」って考えたことがあると思うんです(まあ答えは出ないんですがw)この漫画はそういう部分等いろいろ感慨深くなります。
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>マヌケ様 (giants-55)
2008-10-14 23:27:45
書き込み有難う御座いました。

「リアル鬼ごっこ」という作品、書店で良く見掛けていたのですが、その内容は全く知りませんでした。良い意味での非現実さ加減は、三崎亜記氏の作風に似ているのかなと勝手に思ったりも。
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Unknown (マヌケ)
2008-10-14 21:52:57
仇討法が制定された架空の時代に、刑が確定した犯人に仇討施行を通達する代理人が主人公の「フリージア」という漫画もあります。 この物語の場合は被害者が直接刑を執行するのではなく、代理人が刑を執行します。 逃げ延びれば免罪されるため犯人も凄腕のボディーガードを雇うなどして反撃します。 それから「リアル鬼ごっこ」という作品では、佐藤という国王が架空の時代の日本国で自分と同じ佐藤姓の国民が増えすぎたことが気に入らず、佐藤さん狩りを始めます。 こちらもリアル鬼ごっこが始まってタイムアップするまで逃げ切れば生き残れますが、捕まれば死刑です。 創作の世界ではいくらでも過激な設定が可能ですね。 過激な設定から非常な運命に立たされた人々が立ち向かうか諦めるか、ドラマの展開を面白くするための不道徳で理不尽な謀なのですが、現実にも不条理にもてあそばれることはなくもないですよね。 バトルロワイアルみたいな世界があったらどうなるだろう。 北のあの国ならそんな恐ろしい世界があるかも。
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>カモミール様 (giants-55)
2008-10-14 18:57:12
書き込み有難う御座いました。

大昔で言えば、「人間性を奪う手術」としてロボトミー(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%88%E3%83%9F%E3%83%BC#.E3.83.AD.E3.83.9C.E3.83.88.E3.83.9F.E3.83.BC)が在りましたね。これは「思想改造」と言うよりも、「廃人」にしてしまうという認識が自分には在ります。

薬物によって思想改造を図るという事が出来るのかもしれませんが、より持続的且つ強烈なる思想改造となると、自分には「絶え間無い拷問」という感じがします。仰る様に、強靭な意思を持った人間には効かないのかもしれませんが、一般人の場合にはこれが一番行われそうな気がします。

どういう形かは判らないけれども、国家によって思想改造された島田が、或る一瞬に見せた“素顔”。自分を偽って生き続けているのか?又は99.9%思想改造され乍らも、残る0.1%の理性があの瞬間に目覚めたのか?それが気になる所です。
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Unknown (カモミール)
2008-10-14 15:52:30
人格改造ってどういう風にするんでしょうね。
薬とか強力な暗示とか?
肉体および精神的な拷問は強靭な意思の人には
不可能な場合がありますから。
国もそういうことは考えてると思います
デスノートの世界みたいですね。

60数年前の時代の日本某国を連想します。
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