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「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る。」という奇妙な遺言状を残して、大手製薬会社の御曹司・森川栄治(もりかわ えいじ)が亡くなった。学生時代に彼と3ヶ月だけ交際していた弁護士の剣持麗子(けんもち れいこ)は、犯人候補に名乗り出た栄治の友人・篠田(しのだ)の代理人として、森川家の主催する「犯人選考会」に参加する事となった。数百億円とも言われる財産の分け前を獲得するべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げ様と奔走する。
一方、麗子は元彼の1人としても、軽井沢の屋敷を譲り受ける事になっていた。ところが、避暑地を訪れて手続きを行なった其の晩、件の遺書が保管されていた金庫が盗まれ、栄治の顧問弁護士で在った町弁・村山(むらやま)が何者かによって殺害されてしまう。
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第19回(2020年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の大賞を受賞した小説「元彼の遺言状」(著者:新川帆立さん)は、「自分を殺した犯人に、全財産を譲る。」という遺言状を残し、大手製薬会社の御曹司・森川栄治が亡くなった事から始まる。栄治の死因はインフルエンザによる物とされていたが、前代未聞の遺言状の存在により、事態は混乱して行く。
ざっくり言うと「栄治は病死なのか?又は、殺害されたのか?」、「殺害されたとしたら犯人は誰?其の動機は?」、「栄治が、前代未聞の遺言状を残した目的は?」というのが、読者が解かなければならない謎だ。
設定が奇妙で在れば在る程、ミステリーは面白い。そういう意味では、「元彼の遺言状」の“設定自体”は合格点。又、「ポトラッチ(北太平洋沿岸のアメリカ・インディアンの儀礼で、公的な地位を誇示する為に、自分の富を分配する行為。)」という概念を盛り込んでいるのも面白い。
けれど、“不自然に感じる点”が幾つか在り、作品の質を落としている。「栄治が置かれた状況を考えると、警察が余りにもあっさりと病死と認めてしまってはいないか?(〇〇跡を、見落とすだろうか?)」、「遺言状には“XXの縛り”が設けらているが、“XX稼ぎ”をしたいので在れば、抑、法律でもっと長いXXの縛りが設けられているのだから、敢えてこんな不自然な縛りを書く必要が無かったのでは?」等が、どうしても不自然に感じてしまう。
又、文体が余りに単調な上、登場人物達に魅力が感じられないので、さくさく読み進める気が起こらないのも、大賞作品としてどうかと。状況によっては「今回、大賞作品は無し。」とした方が、賞の価値を上げると思うのだけれど・・・。
総合評価は、星2.5個とする。