ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「スクラップ・アンド・ビルド」

2015年09月10日 | 書籍関連

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「早う死にたか。」。毎日の様にぼやく祖父の願いを叶えて上げ様と、共に暮らす孫の健斗は、或る計画を思い付く。

 

日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰え行く“”の隣で次第に変化して・・・。

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火花」で又吉直樹氏が脚光を浴びた事で、同時受賞した彼の存在感は、今一つ薄れてしまったのは気の毒。小説スクラップ・アンド・ビルド」で第153回(2015年上半期芥川賞を受賞した羽田圭介氏の事だ。

 

「死」という物が決して遠い存在とは言えなくなった年齢になり、周りで「死」や「介護」に関する話を屡々見聞する様になった。後期高齢者範疇に在る知人の女性は、何年か前から御主人の体調が思わしく無い。「介護」という状態には到っていないけれど、心身共に衰えた御主人は1人で外出する事も儘ならなく、従って彼女が外出する機会も格段に減った。1ヶ月に数度、御主人はデイ・ケア・センターに行っていて、本人も其処に行くのが楽しそうだったと言う。

 

介護は非常に大変な事。普段は温厚な彼女も、言う事を聞いてくれない御主人に対し、ついつい声を荒らげてしまう事も在る。声を荒らげた後、「可哀相な事をしてしまったなあ・・・。」と落ち込んでしまう事も度々だったが、或る日、怒鳴った彼女に対して御主人がぽつりと「介護老人福祉施設に入った方が良いのかなあ・・・。」と漏らした。其れを聞いた彼女は、堪らない気持ちになってしまったそうだ。

 

体調が芳しく無く、以前には「死にたい。」と口にした事も在る御主人。デイ・ケア・センターに楽しそうに行っていたのも“御芝居”で、本当は行きたくなかったものの、「自分がデイ・ケア・センターに行っている間は、妻も自由な時間を持てるだろう。」という思いからだった事を、後になって知ったと言う。介護する側もされる側も、多大な苦しみを抱えている。

 

「スクラップ・アンド・ビルド」は、要介護老人と無職の孫との遣り取りを描いた作品。要介護となった父に暴言吐く娘(健人の母)や、祖父に対して心の中で辛辣な思いをぶつける孫等、ともすれば深刻陰鬱になり勝ちな介護だが、ユーモラスな文章を交えている事で、ウエットと言うよりもドライな仕上がりになっている。

 

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プロ過剰足し算介護を目の当たりにした。健人は不愉快さを覚える介護者への優しさに見えるその介護も、おぼつかない足どりでうろつく年寄りに仕事の邪魔をされないための、転倒されて責任追及されるリスクを減らすための行為であることは明らかだ。手をさしのべず根気強く見守る介護は、手をさしのべる介護よりよほど消耗する。要介護三を五にするための介護。介護等級が上がれば、自治体から施設へ支給される金の額も上がる。

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事在るに「死にたい。」と口にする介護老人達。でも、そう口にし乍ら、彼らが“本当に”死にたいと思っているかは別だと思う。大往生した祖母も亡くなる頃にそんな事を良く口にしていたけれど、実際には「生」に対する執着心も少なからず感じられたので。

 

要介護状態に在る様に“演技”していたとも思われる祖父や、突然健人に対して距離を置き始めた様な恋人等、「結果的にどういう事なのか?」が良く判らない点が少なく無い。又、「此れが芥川賞受賞作品!?」と疑問に感じてしまう文章力。「火花」は良かったけれど、「スクラップ・アンド・ビルド」は・・・。

 

総合評価は星2.5個


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2 コメント

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最近人気者 (AK)
2015-12-09 17:26:28
この作家さん、最近よくテレビで見ますね。

>要介護状態に在る様に“演技”していたとも思われる祖父や

9月に近所の寺の坊さん(90歳だったかな?)が亡くなったので葬式に行ったら、喪主の現役坊主(60前)が随分赤裸々にここ約10年の彼の姿を話し出して驚いた。3年ほど前まで他人の葬式でお経上げるなど「現役」だったはずだが、家の中では「おんぶしてくれ~」などと言いだし、退行傾向がひどく、別にぼけてないんだし、身体も丈夫なんだから何言ってると怒ると「お前も年とればわかる」と言っていたとか。こんな繰り返しなもんだから、もううんざり。孫たちからも口をきいてもらえないほど疎まれていたという。
「ボケてない」とは言ってたが、何かの病気だったのかもね。

うへー歳は取りたくないなあと思いました。
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>AK様 (giants-55)
2015-12-10 01:11:13
書き込み有難う御座いました。

第153回(2015年上半期)芥川賞の受賞者、当初は又吉に許り注目が集まっていましたが、此処に来て羽田氏の露出度も相当ですね。狙って彼の“不思議君キャラ”を演出しているのかと思いきや、どうも地の様で。

所謂“呆け”にも、色々症状が在る様ですね。斑呆けの場合、“普通”の状態と“呆け”の状態が出たり消えたりする様で、そうなると外部の人間だけでは無く、家族すらも中々呆けている事に気付かない。そうしている内に、一気に呆けてしまい、手が施し様も無い状態に・・・なんて事も在るみたいですね。

親の知人に、母親が呆けてしまった人が居ました。知人の娘、詰まり知人の母親からすれば孫に当たるのですが、彼女は祖母に凄く懐いていたのだけれど、呆けの症状が出始めると、祖母は当たり構わず脱糞&排尿するので、「御婆ちゃんを部屋に閉じ込めておいて!」と言い出す様になったとか。そう言いたくなる気持ちは判らないでも無いけれど、其れ迄「御婆ちゃん、御婆ちゃん。」と懐いていた事を思うと、何とも遣り切れない話でした。
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