ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「火花」

2015年04月02日 | 書籍関連

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御笑い芸人2人。奇想の天才で在る一方で、人間味溢れる神谷(かみや)、彼を慕う後輩・徳永(とくなが)。笑いの真髄に付いて議論し乍ら其れ其れの道を歩んでいる。神谷は徳永に、「俺の伝記を書け。」と命令した。彼等の人生は、どう変転して行くのか。

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文芸雑誌と言えば、「売れない。」というのが定番。“赤字”が当たり前の世界で、では「赤字を出し続けても何故、発行し続けるのか?」となると、「人気作家囲い込む。」という話が在る。「我が社は、先生の作品を重要視してますよ。」とアピールして作家を持ち上げ、自社からの作品刊行を多くして貰う作戦。「文芸雑誌単体で赤字を出しても、掲載された作品を単行本文庫本の形で刊行し、利益が出せれば御の字。」という事らしい。「単行本等が爆発的に売れれば、其れは其れで物怪の幸い。」というのが、出版社サイドの本音とも。

 

そんな「売れなくて当たり前。」という文芸雑誌の1つ「文學界」を、史上初の大増刷に導いた作品と評判なのが、又吉直樹氏の小説火花」だ。“御笑い”が好きな人ならば、敢えて説明する必要は無いと思うけれど、又吉氏は御笑いコンビピース」の“ボケ”を担当している。

 

当初は“ツッコミ”を担当する相方綾部祐二氏の方が露出度は高かったが、様々な“顔”が知られる様になって以降は、彼の露出度の方が高くなった感が在る。最も有名なのは、「大の読書好き。」という顔だろう。2千冊以上の本を読み、好きな作家は太宰治氏や芥川龍之介氏、京極夏彦氏等と幅広い。本や作家に対して一家言を持つ彼が著した「火花」を、此の程読了

 

餅は餅屋」という事か、「火花」は御笑いタレントの世界を描いている。御笑い大好き人間の自分からすると、「ピース」というコンビの笑いは好きじゃ無いのだけれど(嫌いという訳でも無いのだが。)、流石御笑いタレントだけ在って、“ボケとツッコミに溢れた遣り取り”は自然だし、文体自体も予想以上に良い。

 

15年以上の芸歴を有する又吉氏、御笑いが大好きで御笑いの世界に入るも、評価される事無く、年齢許りを重ねて行く人間、又、『多くの人を笑わせたい。』という夢が破れ、御笑いの世界を去って行った人間を、間近沢山見続けて来た。事だろう。だから、そういう人達の描写にはリアリティーが在るし、何とも言えない哀愁が伝わって来る。

 

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僕は小さな頃から漫才師になりたかった。僕が中学時代に相方と出会わなかったとしたら、僕は漫才師になれただろうか。漫才だけで食べていける環境を作れなかったことを、誰かのせいにするつもりはない。ましてや、時代のせいにするつもりなど更々ない。世間からすれば、僕達は二流芸人にすらなれなかったかもしれない。だが、もしも「俺の方が面白い。」とのたまう人がいるのなら、一度で良いから舞台に上がってみてほしいと思った。「やってみろ。」なんて偉そうな気持など微塵もない。世界の景色が一変することを体感してほしいのだ。自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ。

 

必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いだろう?一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。無駄なことを排除するということは、危険を回避するということだ。臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ。それがわかっただけでもよかった。この長い年月をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。

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最後の最後で、神谷は“変身”する。此の変身、個人的には「無かった方が良かった。」と思っている。其れの“流れ”が良かっただけに、もっと違った形が在る様に感じるからだ。

 

芸能人が著した小説を、此れ迄に何冊か読んで来たが、自分の中では一番魅力を感じた作品。総合評価は、星4つとさせて貰う。


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2 コメント

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芸人の裏話 (iina)
2015-08-24 09:33:38
文藝春秋で芥川賞受賞作を読みました。

「火花」は、芸人の裏話ですね。
問題を起こす先輩タイプは、いるものです。本心か芸のこやしで演じているのか、わからぬ者もいますネ。師匠宅でウンチして
しこたま叱られたと放言するのは、果たしてどちらでしょうネ?

川柳川柳がその本人ですが、熱烈なファンも多く笑わせます。川柳が出た寄席に、後で出演した師匠が楽屋で何ごとかあった
らしく、枕で川柳のことを狂ってると怒ってました。 問題児といっても84才ですが、日頃から問題行動を起こす芸人のようです。
http://eplus.jp/sys/T1U14P002155985P0050001

さて、又吉直樹さんは、次は何を題材に選ぶのでしょうね。

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>iina様 (giants-55)
2015-08-24 12:18:59
初めまして。書き込み有難う御座いました。

勿論、常識人な方も居られますが、芸人の場合、“普通とは違う人”というのが少なからず居ますね。考えられない様な言動をする事が、或る意味“芸人としての箔”となったりもする。横山やすし氏なんかはそういった典型ですが、近しい人達の話によれば、「傍若無人な横山やすし」というのを彼自身が意識的に演じていた部分も在り、「横山やすしを演じ続けるのはしんどい・・・。」という弱音を吐いていたとも。

今回の作品、個人的には高く評価出来ましたので、次回作が自分も楽しみです。

今後とも何卒宜しく御願い致します。
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