ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

”人肉食い大統領”

2007年04月02日 | 映画関連
*****************************
1971年スコットランドの医学校を卒業したニコラス・ギャリガン(ジェームズ・マカヴォイ氏)*1は軽い気持ちで訪れたアフリカウガンダの診療所で働く事となった。当時のウガンダは、軍事クーデターによってイディ・アミンが大統領に就任したばかりの状況。或る日、ニコラスは自動車事故で捻挫したアミンを手当てする事となり、その結果アミンの主治医として迎えられる事となった。この偶然の出逢いが、やがてニコラスを恐ろしい未来へと導いて行く事となる。

元プロボクサーにして、強いカリスマ性とリーダーシップを持ったアミンは、独立間もないウガンダの未来を託すに相応しい人物と思っていたニコラスだったが、徐々に独裁者としての恐るべき顔を現して行くアミンに対し、戸惑いと恐怖心を覚える様になる。自身に反対する者達を恐れ、次から次へと粛清に走り、恐怖政治を敷くアミン。そしてアミンの第二夫人ケイ(ケリー・ワシントンさん)と関係を持ってしまったニコラスは、遂にアミンに追われる身となってしまう。
*****************************

今から25年前の1982年、女性二人組のJ-POPユニットがデビューを果たした。そのユニット名は「あみん」。*2あみんが活動を休止したのは翌年の1983年という事で、それから既に24年も経つ。あみんというユニット自体を知らない若い人達も増えている事だろうから、ましてやそれ以前に、ウガンダの地で大統領として君臨していたイディ・アミンという人物が居た事を知る者も少なくなって来ているとは思う。唯、あみんがデビューした当時は、自分を含めた少なからずの人々がこのユニット名を見聞した時にギョッとしたのではなかろうか。

1923年にウガンダ北西の地で生まれたイディ・アミンは、小学校卒業後にイギリス植民地軍に入隊する。恵まれた体格を活かしてボクサーとしても活躍して彼は、軍参謀総長だった1971年1月に軍事クーデターを起こして成功、大統領の座に就く事となった。”人類史上最悪の独裁者”とも称されるアドルフ・ヒットラーを崇拝していたと言われる彼は、やがて自らに反対する者達を次から次へと虐殺し、恐怖政治を敷いて行く。1979年に反対派のウガンダ民族解放戦線にクーデターを起こされて失脚し、サウジアラビア亡命する事となったアミン。蛻の殻となった大統領官邸に乗り込んだ兵士達は、キッチンに置かれたとてつもなく巨大な冷蔵庫を発見し、その中からはアミンが処刑して来た者達の首を始めとした人肉が幾つか転がっていたと言われている。自身に背いた者達の人肉を食し、時には彼等の生首を見ながら楽しんでいたとも。虐殺した人間の数は、30万人とも40万人とも言われている。「人肉食い大統領のアミン」、そんな俗称が未だ生々しく記憶に残る時代だったからこそ、あみんというユニット名にギョッとした思いを持ってしまったのだ。

ジャイルズ・フォーデン氏が、一人のスコットランド人医師の目を通してイディ・アミン大統領の半生を描いた小説「The Last King of Scotland」。この小説は実話では無く、実話を基にしたフィクションとの事。従ってこの小説を映画化した「ラストキング・オブ・スコットランド」も、あくまでも実話をベースにしたフィクションという事になる。ほぼ同時代に中央アフリカで独裁政権を敷き、やはり「人肉食い大統領」と呼ばれたジャン=ベデル・ボカサと並び、アミン大統領にも悪い意味で強烈な記憶を植え付けられた自分。「あの時代に於いて、アミン大統領とは一体どういった存在だったのか?」という事を改めて見詰め直す意味で、この作品を観に映画館へと足を運んだ。

社長というのは、非常に孤独だと言われる。会社の命運を左右し兼ねない決断を、最終的には社長個人が下さなければならないからだ。ましてや一国のトップ、それも独裁者と呼ばれる様な人物ならば一層その孤独感を覚えるものではなかろうか。だからこそ妙な占い師や宗教家に縋ってしまう為政者が、古今東西に於いて少なからず居た(居る)訳だが。

勇猛果敢な大統領を”演じていた”アミンも、一人になると「政敵から暗殺されるのではないか。」と怯える小心な人間だったのかもしれない。この作品の中では、そんな表の顔と裏の顔の対比が描かれている。そして周りがイエスマンばかりだからこそ、自身に直言出来るニコラスを”相談役”として傍に仕えさせたのだろう。

疑心暗鬼を生ず」というが在る。「一旦疑いの心が生じると何も無い暗闇の中に、あたかも鬼が居る様に見えてしまう。」という人間の心の弱さを示した喩えだが、恐怖政治を敷くアミンは正にこの状態。恐怖が憎悪を生み、その憎悪が更なる恐怖を生むという際限の無い悪循環。

この映画の中ではアミンが虐殺した者達の、目を覆いたくなる様な姿が紹介されている。ニコラスと不貞な関係を持った第二夫人のケイに対しアミンは恐ろしい”罰”を下すのだが、そのシーンでは映画「西太后」の中で「西太后の怒りに触れた麗妃が、四肢を切断された状態で壷の中に漬けられたシーン」が思い出され、背筋がぞっとしてしまった。

上記した様に、この作品は実話を基にしたフィクションで在る。だから描かれている内容が全て実話という訳では無いのだが、だからと言ってそれらしい事が全く無かったという事では無いだろう。恐怖政治が敷かれる中、実際に何が行なわれていたかを全て把握するのは極めて困難だろうし、あくまでも実話を基にしたフィクションという形で描くのは在りだと思う。同じく実話を基にしたフィクションという形を採っていた「あなたを忘れない」には正直違和感を覚えたが、この作品にはそれが全く無く、エンドロールが出る迄スクリーンから一時たりとも目を離す事が出来なかった。今でも恐怖政治が敷かれた国が確実に在る現実。それを思うと、見終えてから暫くは声を出す気力すら湧かなかった作品だ。

他者の評価は判らないが、個人的には総合評価を星4つとしたい。

*1 ジェームズ・マカヴォイ氏の持つ雰囲気が、オダギリジョー氏のそれに似ている気が。

*2 Wikipediaの情報によると、「あみん」というユニット名は「さだまさし氏の楽曲『パンプキン・パイとシナモン・ティー』に登場するコーヒー・ベーカリー『安眠(あみん)』から採った。」そうだ。そして、この「安眠」という店名の由来はと言えば、やはりさだ氏がアミン大統領の名前に強烈な記憶を焼き付けられたからという事らしい。そう言えばタレントのウガンダ・トラ氏の芸名も、彼の風貌がアミン大統領に似ていたからという事で、アミン大統領の記憶が如何に当時の人達の間に深く刻み込まれたかが判って戴けるだろう。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
« 「君達になら聞こえる筈だ。... | トップ | 「秀吉の枷」 »

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
異種格闘技戦 (破壊王子)
2007-04-02 06:30:49
最大の謎「アントニオ猪木対アミン大統領」

もし実現していればこの映画にも出てきたのでしょうか?(笑)
返信する
知らないということは・・ (ハムぞー)
2007-04-02 08:56:53
音の響きや字面だけで、意味を知らずに名前をつけている、このような例はありますね。

「海月」と書いて「みづき」と読ませる
名前をつけた人を知っていますが、
私は読み方を知っていましたので、?でした。
返信する
あまり期待せず劇場に足を運んだのですが、久々に衝撃でした (マヌケ)
2007-04-02 23:43:20
少年漫画や週刊誌でもカニバリズムのアミンのことが取り上げられて話題になりましたよね。 ヤコベッティーの大残酷とかバラエティー番組などでも食人族などの村を探検隊が訪ねたりするようなのがありましたし。 故奥崎謙三先生はニューギニアで部下を食べた上官に復讐して刑務所入り、大岡昇平の野火や最近でも福井晴敏の終戦のローレライや古処誠司のルールでも人肉食についての記述があります。 外国の作家でも例えばシン・レッドラインの中に日本兵の人肉食についての記述が見られます。 ただし、これらはいずれも絶えがたい飢えによるもので食わないと生きていられない状況からでした。 アミンの場合は権力の座を脅かすものへの見せしめと自らの弱さの裏返しから自分に対する脅威を食らい尽くすことで自分の弱さを打ち消そうとしたのでした。 まもなく公開される「ハンニバル・ライジング」も・・・この映画私も久々に衝撃でした。  
返信する
>マヌケ様 (giants-55)
2007-04-03 01:26:20
書き込み有難うございました。

少年漫画等でアミン大統領の事が取り上げられていたとは全く知りませんでした。てっきり若い人達の間でアミン大統領の存在は殆ど知られていないものと思い込んでおりましたので、正直ビックリです。

奥崎謙三氏の姿を描いたドキュメンタリー映画「ゆきゆきて、神軍」は、自分がこれ迄に衝撃を受けた作品の一つです。その方法論は決して許されるものでは在りませんが、奥崎氏の一徹さに武士の姿を重ね合わせて見ていた自分が居ました。

熊井啓監督の映画「ひかりごけ」も人肉食をテーマにした作品でしたね。1944年に実際に起きた「ひかりごけ事件」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B2%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%94%E3%81%91%E4%BA%8B%E4%BB%B6)を基にした内容でしたが、これも生き抜く為に止むを得ず人肉を食らってしまったというものでした。

人肉食とは直接関係が無い話ですが、あさま山荘事件を引き起こした連合赤軍は「総括」の名の下に多くの同士を殺害しました。生き残った者達の証言を見聞する限りでは、総括の背景に「権力闘争」が在ったのも確かですが、それに加えて「絶え間無い恐怖から逃れる為に同士を殺した。」という面も在ったとか。極限状態に追い込まれてしまった事で、人間は”歯止め”を無くしてしまうのか?はたまた元々人間の本質が其処に在っただけなのか?考えさせられる話です・・・。
返信する
見たかったですね (アブダビ)
2016-12-10 04:44:25
原作詠んでますが映画は……
でも見たかったのは映画でなく、
「アミンVsモハメドアリ」の世紀の一戦!
残念ながら興業は実現しませんでした。
返信する
>アブダビ様 (giants-55)
2016-12-10 17:38:29
書き込み有難う御座いました。

アブダビ様は、原作を読まれたのですね。自分は原作の存在を知らず、唯々「イディ・アミン」という人物に対する怖い物見たさ的感情から、此の映画を見ました。

「イディ・アミンvs.モハメッド・アリ」、個人的には「モハメッド・アリvs.アントニオ猪木」の対戦よりも興味を惹かれますね。ガチンコ勝負だったら、何方が勝っていたのだろうか。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。