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「ヘッド・スライディングに軍配」(5月8日付け東京新聞[夕刊])
内野ゴロを打った打者の1塁への到達が速いのは、「駆け抜け」か「ヘッド・スライディング」か。野球好きの間で長く議論となっている疑問の解決に取り組んだ立命館大スポーツ健康科学部の岡本直輝教授(コーチング学)等が出した答えはヘッド・スライディング。但し、高度な技術も必要と言う。
岡本教授とゼミの学生は昨年6月から、甲子園出場経験者も多い立命大準硬式野球部で、ヘッド・スライディングの経験の在る部員15人を対象に調査した。
トップ・スピードに到達する1塁ベースの7m手前からベースに触れる迄のタイムを、ヘッド・スライディングと駆け抜けで、其れ其れ計測。使用したのは、七m手前を通過するとライトが光る光電管装置と、240分の1秒迄撮影出来るハイ・スピード・カメラで、1人3回の平均値を比べた。
此の結果、ヘッド・スライディングの方が速かったのが12人だったのに対し、駆け抜けは3人。全体の平均値でも、ヘッド・スライディングの方が約0.05秒速かった。
調査結果は、京都滋賀体育学会で発表された。岡本教授によると、此れ迄も同様の研究は幾つか学会で発表されて来たが、ストップウオッチを用いる等した為、結果にばらつきが在り、何方の方が速いのかはっきりしなかった。
ヘッド・スライディングはチームの士気を上げる精神的な利点が語られて来たが、駆け抜ける方が速いという見方が一般的だった。岡本教授は「計測方法を工夫して、精度の高い研究が出来た。身に付ければ有効な技術という事が、実証出来た。」と語る。
但し、駆け抜けより速いヘッド・スライディングの実行には、「前提」が在る。体をピンと伸ばして、地面と平行に跳ぶ技術が必要だ。習得には高い身体能力と強い背筋力が不可欠で、一歩間違えば突き指等、怪我の危険も伴う。
岡本教授は「筋力が発達し切っていない小中学生は、ヘッド・スライディングを遣らせない方が無難。」と指導者に対し、注意を促す。「先ずは器械体操の飛び込み前転の様なトレーニングで、手に負担を掛けない着地を身に付ける必要が在る。」とアドヴァイスしている。
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「トップ・スピードを維持した儘駆け抜けた方が、ヘッド・スライディングするよりも早く1塁ベースに到達出来る。」と、自分もずっと思っていた。なので、今回の調査結果は「へー。」という思いが在るけれど、だからと言って、「ヘッド・スライディングが100%良い。」とは思わない。
確かに駆け抜け寄りもヘッド・スライディングの方が、仮令アウトになろうとも、(した選手が所属する)チームの士気は上がると思う。でも、そういう感覚が“行き過ぎてしまう”と、“悪い意味での根性論”が幅を利かす事になろうし、何よりも怪我の心配をしてしまうからだ。
突き指程度の怪我で済めば未だ良いが、「PL学園野球部時代に“KKコンビ”の1年先輩だった清水哲氏の様に、野球の試合中にヘッド・スライディングをした際、相手チームの選手と激突して首の骨を折り、首から下が不随になってしまった。」なんて事も在り得るし、最悪の場合死に到る事も在るだろう。
だからこそ桑田真澄氏は「子供がヘッド・スライディングをする事の禁止。」を提唱しているし、福本豊選手やイチロー選手等の様に「走塁や盗塁の際、致命的な怪我を負わない様に、ヘッド・スライディングを敢えて行わない。」というポリシーの選手も居る。
ヘッド・スライディングを100%否定する気は無いが、選手達の安全面を最優先して考えないといけない。