小説「孤狼の血シリーズ」を読むと著者・柚月裕子さんが、映画『仁義なき戦いシリーズ』【動画】の影響を強く受けている事が感じられる。実際、彼女自身も、其れを否定していない。事程左様に人は、過去に大きく心を揺さぶられた事象に、大なり小なり影響を受ける物だ。
自分の好きな小説の1つに、「どてらい男」というのが在る。原作を基にしたTVドラマに嵌り、其れから原作を読んだという順番。著者は“大阪商人を主人公とした商魂物&根性物”を書かせたら天下一品の花登筺氏で、「1人の若者が丁稚奉公から始まり、絶体絶命の危機を何度も潜り抜け、大手専門商社を立ち上げる迄の一代記。」だ。実在の人物をモデルとした此の作品、「弱い立場の主人公が、“強者”からの理不尽な嫌がらせに遭い、何度も全体絶命の危機に陥るも、アイデアと“仲間”の協力によって乗り越えて行く。」というのが魅力だった。
実際の所は知らないが、池井戸潤氏の作品を読んでいると、「『どてらい男』が好きだったのではないかなあ。」と感じる事が結構在る。「弱い立場の主人公が、“強者”からの理不尽な嫌がらせに遭い、何度も全体絶命の危機に陥るも、アイデアと“仲間”の協力によって乗り越えて行く。」等、「どてらい男」と同じ匂いを強く感じるからだ。
今回読んだ池井戸氏の「下町ロケット ゴースト」は、「下町ロケット・シリーズ」の第3弾。第1弾「下町ロケット」及び第2弾「下町ロケット2 ガウディ計画」でも、「どてらい男」の匂いがプンプンとしていて、個人的に非常に楽しめたが・・・。
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倒産の危機や幾多の困難を、社長の佃航平(つくだ こうへい)や社員達の、熱き思いと諦め無い姿勢で切り抜けて来た、大田区の町工場「佃製作所」。然し、又しても佃製作所は、予期せぬトラブルにより、窮地に陥って行く。
今や佃製作所のシンボルとなったロケット・エンジン用ヴァルヴ・システムの納入先で在る帝国重工の業績悪化、主要取引先からの非情な通告、そして、番頭・殿村直弘(とのむら なおひろ)に訪れた危機。
そんな絶体絶命のピンチを切り抜ける為、航平が下した意外な決断とは?
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結論から言うと、今回の作品でも「どてらい男」の匂いは健在だった。第1弾「下町ロケット」では43歳だった航平も54歳となり、社長としての実績を積み重ねて来たが、誠実さと直向きさは全く変わっておらず、思いっ切り感情移入してしまった。
時の経過と共に、人は変わる。良い方向にも変われば、悪い方向にも変わる。「相手に対して誠実に向き合えば、相手も誠実さを見せてくれる。」、そういう事は珍しいというのが悲しい現実。「下町ロケット ゴースト」の読後に残るほろ苦さは、そういう現実を改めて突き付けられたので。
とは言え、ストーリーが此れで完結される訳では無い。今秋には第4弾「下町ロケット ヤタガラス」の上梓が決まっており、“新しい枠組みでの闘い”が待ち構えているからだ。“表舞台”から去って行った人が居れば、新たに登場する人が居るかもしれないし、又、表舞台から去った様に思わせて、再び表舞台に戻って来る人が居るかもしれない。次の展開が、非常に楽しみ。
今回、航平達がピンチを切り抜ける手段に付いては、「そういう手が在ったか!」と感心させられたし、相変わらず“読ませる内容”。総合評価は、星4.5個とする。