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ロケットエンジンのヴァルヴ・システムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年。大田区の町工場・佃製作所は、又してもピンチに陥っていた。量産を約束した筈の取引は、試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長・椎名直之(しいな なおゆき)が率いるライヴァル企業とのコンペの話が持ち上がる。
そんな時、社長・佃航平(つくだ こうへい)の元に、嘗ての部下・真野賢作(まの けんさく)から、或る医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれる其の医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救う事が出来ると言う。
然し、実用化迄、長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業で在る佃製作所にとって、余りにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者達妨害が立ち塞がる中、佃製作所の新たな挑戦が始まった。
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大企業から軽んじられる中、社員達の熱意と努力によって、大企業が成し得なかったロケットエンジンのヴァルヴ・システムの開発&量産化に成功した中小企業の姿を描いた小説「下町ロケット」(著者:池井戸潤氏)。ドラマ化もされ、大きな反響を得た作品だが、其の第2弾が今回読了した「下町ロケット2 ガウディ計画」。「下町ロケット」と同じ佃製作所を舞台にしているが、扱われる商品はロケットエンジンのヴァルヴ・システムでは無く、人工心臓弁で在る。
「大企業からの理不尽な扱い。」、「地位や名誉を求める者達による嫌がらせ。」、「身内による裏切り。」等、今回も多くのピンチが佃製作所を襲う。寄らば大樹の陰的な生き方を好む人は別だが、判官贔屓的な所が少しでも在る人ならば、佃製作所の人々にどっぷりと感情移入してしまう事だろう。
此の手の勧善懲悪物の場合、「“善玉”を勝たせんが為、概して不自然な設定になってしまい、そういった点に興醒めさせられる。」事が少なく無いのだけれど、“不自然な設定と思わせない勧善懲悪物”を著せるのは、偏に池井戸氏の筆致力の高さが在ればこそだろう。「或る技術の開発とガウディ計画を結び付け、佃製作所の大ピンチを救わせる。」なんていう発想は、実に見事!
最初は高い志を持っていたとしても、世俗に染まって行く過程で、私利私欲を満たす事しか考えなくなってしまう。そんな人間が、此の作品には多く登場している。霞を食って生きて行ける訳も無く、又、私利私欲を満たそうとするのも人間では在る。でも、多くの患者を救おうと思って医療の道に進んだ者が、年月を経て地位や金儲けにしか目が行かなくなるのは哀しい事。実際に病に苦しんでいる子供達を目にして、彼等を救う事に改めて目覚める者も居れば、「自分とは無関係。」と、そういった現実から意識的に目を逸らしている者も居る。
前作「下町ロケット」も良かったが、今回の「下町ロケット2 ガウディ計画」も負けず劣らず良い。総合評価は星4.5個。