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射守矢真兎(いもりや まと)。女子高生。勝負事に、矢鱈と強い。平穏を望む彼女が、日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合い乍ら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受ける物とは?
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作家・青崎有吾氏は2012年、小説「体育館の殺人」(総合評価:星3.5個)にて第22回鮎川哲也賞を受賞し、文壇デビューを果たした。青崎氏は鮎川哲也賞史上初の平成生まれの受賞者で在り、其の授賞式では選考委員を代表して芦辺拓氏が「『体育館の殺人』は、真正面から本格ミステリーに取り組み、其れもエラリー・クイーン張りのロジカルな推理に、堂々と挑戦している点に好感が持てました。」と評した事から、以降、彼は“平成のエラリー・クイーン”と呼ばれる事に。
そんな彼が昨年11月末に上梓した小説「地雷グリコ」。此の意味不明なタイトルの作品は、高校1年生の女子・射守矢真兎を主人公とした“学園ミステリー”だ。「地雷グリコ」、「坊主衰弱」、「自由律ジャンケン」、「だるまさんがかぞえた」、「フォールーム・ポーカー」という5つの短編小説に、「エピローグ」を加えた構成となっている。
「見た目は決して冴えないが、実は鋭い洞察力や推理力、卓越したブラフの掛け方等々、勝負師に必要な要素を全て兼ね備えている様な人間。」で在る真兎が、必ずしも自身の意に沿わない形で“ゲーム”に挑んで行く・・・というストーリー。其のゲームというのが「グリコ」や「坊主捲り+神経衰弱」、「ジャンケン」、「達磨さんが転んだ」、そして「ポーカー」の“変形版”なのだが、其れ其れが“非常に変わったルール”に基いている。ルールを含め、「良くもまあ、こんな変わった設定を考え出したなあ。」と青崎氏の発想力に感心してしまうのだが、更に凄さを感じるのは「“平成のエラリー・クイーン”の名に恥じない、ロジカルな推理構成の見事さ。」に在る。
随分昔になるが、「数取りゲーム」が流行った。有名なのは「先に『21』を言った方が負け。」という設定で、ルールは此方に記されている様に、「①2人1組となって行う。②『1~21』の数字を交互に、順番で数え合う。③1人が一度に言える数は、連続した3つの数字迄。④『21』を数えてしまった方が負け。」という物。例えば“先攻”のAが「1、2。」と数えた場合、“後攻”のBが続いて数えられるのは「3。」か「3、4。」、又は「3、4、5。」の三択となる。こういう形で交互に繰り返し、「21。」を数えた方が負けになる訳だ。
非常に単純なゲームでは在るのだが、実は此方に記されている様に“必勝法”が存在する。簡単に言ってしまえば、「『4。』を数えた方が勝てる。」のだ。其の事実を最初に知った時、「へー。」と感心してした物だが、「地雷グリコ」に登場するゲームの数々には、そういう必勝法が設けられており、其の必勝法を達成すべく、鋭い洞察や推理、卓越したブラフの掛け方が、次々と真兎によって為されて行く。
自分は典型的な“文系人間”なので、真兎の必勝法の数々を一読では理解出来ず、何度か読み直して理解出来た。頭がこんがらがったりはしたけれど、理解出来た瞬間には「凄い!!!」という驚きが。会社の後輩だったM君は非常に優秀で、大学では文系の学部に在籍していたが、理系センスにも優れた人間。聞いてみたら、高校時代には理系も大の得意だったとか。「道理で。」と納得させられた物だが、そんな彼も自分に貴志祐介氏の作品を紹介してくれた程のミステリー好き。M君の様な理系人間なら一層、「地雷グリコ」に嵌まる事だろう。
上梓されたのが昨年11月末と“非常に微妙な時期”なので、“今年の”という対象になるかどうかは不明だが、対象になれば「今年のミステリー関連の年間ブック・ランキング」では、断トツの1位に輝く作品だと思う。内容を理解するのに時間を要するかも知れないが、理解出来れば“衝撃と爽快感”を味わえる事間違い無し!
総合評価は、星4.5個とする。
でも、理科が嫌い&苦手で「文転」した自分に、理解できるかどうかちょっと心配です・・・汗
「LIAR GAME」に近いテーストでは在りますね。彼の作品(自分は原作を読んでおらず、TVドラマを見た口ですが。)、典型的な文系人間の自分には、一回で理解出来ない部分が少なからず在りましたが、「地雷グリコ」は其れ以上かも知れません。
唯、そういう難解さは在るものの、理解出来た時の衝撃&爽快感は可成り在ります。
元記事で記した後輩・M君は非常に優秀な人間ですが、過去に頂戴した久保課長様の書き込みからは、彼と非常に似た理系的感性を感じておりましたので、「地雷グリコ」は御気に召されるのではないかと。少なくとも今迄読んだ青崎作品の中では、断トツに面白い作品でした。