SMEI / ドラベ症候群 / 重症乳児ミオクロニーてんかん について

SMEIの診断を受けた長男に関連して調べたことたち

日本のドラベ症候群患者における、SCN1Aのトランスケーション(短縮型)変異とミスセンス変異による違い

2017年01月16日 | 症状・診断など

福岡大学医学部小児科 石井敦士先生による日本での遺伝子検査のデータを用いた論文報告。

同じナトリウムチャネルのSCN1A遺伝子の変異によって起きる疾患でも、遺伝子変異の発現の機序から異なる2種類に大別され異常が生じる部位も異なる。
その種類を予め知っておくことで、将来の認知機能の低下の進行や抗てんかん薬の反応率を予測するできる可能性を示した報告。

Epilepsia 2016.Clinical implications of SCN1A missense and truncation variants in a large Japanese cohort with Dravet syndrome.

概要:
ドラベ症候群の原因と考えられているナトリウムチャネルのSCN1A遺伝子の変異には、大まかに2種類があり、ハプロ不全のトランスケーション変異(短縮型変異とも呼ばれ、正常な遺伝子のタンパク質の発現が不足して発生する異常)が生じるものと、ミスセンス変異(遺伝子のタンパク質の一部がアミノ酸が置換されて起こる異常)が生じるものがある。
研究では、日本のSCN1A遺伝子変異がある285人の患者について、遺伝子の変異のタイプと病気の症状や治療への反応を調べてみた。
 
遺伝子検査を受けた285名の結果は、新規の変異が198名、遺伝の変異が19名、不明が68名。
変異の内訳とっしては、トランケーション変異が158名(新規の変異115名、遺伝の変異6名、不明37名)、ミスセンス変異が122名(新規の変異80名、遺伝の変異13名、不明29名)、インフレームインデックス(新規の変異3名、遺伝の変異0名、不明2名)が5名だった。
 
結果、SCN1Aの全エクソンとエクソン-イントロン境界の遺伝子配列を調べてみたところ、ミスセンス変異を起こすタイプの異常は、トランスケーション変異を起こす異常とは異なり、S4 voltage sensorやPループの領域が高密度になり、ドメイン1-2、ドメイン2-3のつなぎの部分が低密度になる等の違いが認められた。
また、健康な人と比較すると、ノンコーディングC末端にトランスケーション変異の見られる頻度が高かった。
 
 
 
遺伝子変異の種類と発症後の認知機能低下の経過について

トランスケーション変異では、ミスセンス変異と比較すると、けいれん発作の発症年齢の影響が少なく、発症後に認知機能(知能)の低下をきたすまでの予想期間が短かった(より多くの人が発症後より早くから認知機能の低下をきたす)。
一方で、ミスセンス変異では、トランスケーション変異と比較すると、けいれん発作の発症年齢と認知機能の低下との相関関係が強かった(発症月齢がより早いほど、認知機能低下をきたす割合が高い)。
 
 
遺伝子変異の種類と抗てんかん薬への反応率について
 
トランスケーション変異のあるドラベ症候群患者における各薬剤への反応(有効)率は、下記の順番で高かった。
  1. スチリペントール(商品名:ディアコミット):反応率が90%強と最も高い
  2. トピラマート(商品名:トピナ):反応率が80%強
  3. 臭化カリウム:反応率が約80%
  4. レベチラセタム(商品名:イーケプラ):反応率が約75%
  5. フェノバルビタール(商品名:フェノバール):反応率が60%強
  6. ゾニサミド(商品名:エクセグラン):反応率が60%弱
  7. バルプロ酸(商品名:イーケプラ:デパケン、セレニカ等):反応率が60%弱
  8. クロナゼパム(商品名:リボトリール、ランドセン):反応率が60%弱
  9. クロバザム(商品名:マイスタン等):反応率50%弱(反応がない割合の方が高い)
 
ミスセンス変異のあるドラベ症候群患者における各薬剤への反応(有効)率は、下記の順番で高かった。
  1. クロナゼパム(商品名:リボトリール、ランドセン):反応率がほぼ100%
  2. 臭化カリウム、レベチラセタム(商品名:イーケプラ):反応率が95%以上
  3. トピラマート(商品名:トピナ):反応率が90%弱
  4. フェノバルビタール(商品名:フェノバール):反応率が70%強
  5. スチリペントール(商品名:ディアコミット):反応率が70%強
  6. レベチラセタム(商品名:イーケプラ):反応率が約65%
  7. バルプロ酸(商品名:イーケプラ:デパケン、セレニカ等):反応率が60%強
  8. クロバザム(商品名:マイスタン等):反応率50%弱(反応がない割合の方が高い)
 
 
 
論文の図表を示す方法が一番分かりやすいのですが、オープンアクセスの論文ではないため図表の転載は控えています。

直接、図表を含めて、全論文を読みたい患者家族の方は掲載雑誌のページにあるPatient Accessから3.5ドルで論文の入手が可能です(英語での登録とクレジットカードが必要になることと、入手した論文は個人使用に限られる等の諸条件があることにご注意下さい。実際にやってみたら違う論文が送られてきて、指摘のメールを送っても返信がなく、再度メールで催促したら対応があったので、登録やその後のやりとりには多少の英語力を要します)。

以前は、サインインしないと2ページ目以降が非公開でしたが、現在ではサインインなしでも全文読めるようです(2019.01追記)

 
個人の解釈
結果は薬剤追加による反応(有効)性を評価しているので、1剤目や2剤目として導入されるバルプロ酸やクロバザム等は、反応率が低く評価される可能性もあるか(何剤目として追加した薬剤であるのかの評価も必要)
同様に複数の種類の薬剤を使用した場合、薬剤の組み合わせによる血中濃度の影響や作用機序の違いも関係する
 
報告の要旨
健康な人、ドラベ症候群の患者、遺伝子異常があっても症状が軽い人の遺伝子を調べてみて、トランスケーション変異とミスセンス変異ではSCN1A遺伝子の異常分部が大きく異なることが分かった。
 
確定診断のために遺伝子検査を行った場合、異常の場所で認知機能低下の程度を予測できるかもしれない。 
 
投薬内容の評価では、ドラベ症候群の通常の治療薬に追加する薬剤として、臭化カリウム、クロナゼパム(商品名:リボトリール、ランドセン)、トピラマート(商品名:トピナ)がけいれん発作の頻度を減らすかもしれない。
 
 

この報告の一部の助成金について
この論文報告の第一著者の石井先生は、「社会貢献団体支援のためのクリックの勧め(gooddo)ときよくん基金を募る会(SMEの研究治療を進める会)の紹介」の記事で紹介した、第3回きよくん基金助成を受贈された方でもあり、論文報告の謝辞にはきよくん基金についても言及されています。

参考:きよくん基金に対する寄付連絡先

 
遺伝子解析の検査について
遺伝子解析の検査を受けることで遺伝子変異の型を確認することができます。
この報告にあるSCN1Aの遺伝子を調べる研究の検査は主に福岡大学小児科で実施されています。
遺伝子解析の申し込みは原則として、医療機関を通じてのみ受け付けているようです(福岡大学てんかん分子病態研究所)。
検査費用は研究目的であることから、研究費用の一部として、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)等の助成金から賄われていると思います。
一般に研究助成金には期限・用途等の制限があるので、現時点での実施状況等については確認が必要です。

注意:通常の簡単な検査とは異なり、患者さんや患者さんの家族にとって大きな影響を与える予期せぬ情報が分かったりする可能性もあるため、検査を受ける事前、結果受け取り時、受け取った後、いずれにおいても充分な説明・カウンセリングを受けることが大切です。
 
 
 
更新履歴
報告本文の情報を追記(2017/1/15)
きよくん基金について追記(2017/1/16)
遺伝子解析の検査について追記(2017/1/22) 
 
 
 
 
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6 コメント

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異変の種類の特定はできますか? (ささきようこ)
2017-01-21 14:13:48
主治医はドラヴェ症候群専門ではなくたくさんの患者さんを診ているので、薬の提言や選択のお話しがしにくいことがあります。患者が成人のため、転院すると小児科にはかかれません。
薬の選択の補助に使いたいと思うのですが、トランスケーション変異かミスセンス変異かを調べていただくことは主治医に依頼すればできるのでしょうか?
返信する
>異変の種類の特定はできますか? (ささきようこ) (ブログ管理人)
2017-01-22 15:25:31
ささき様

ご指摘のようにドラベ症候群は稀な疾患なので、医師であってもひとつひとつを詳細に把握できていない場合があり、患者家族からの情報提供もひとつの有用な情報になりえると思います(結果のみではなく、内容と解釈がきちんと評価される必要がありますが)。

ドラベ症候群と臨床診断された方に遺伝子の異常があるかどうか、もしSCN1Aの領域に異常があった場合に、それがトランスケーション変異かミスセンス変異かの種別を確認することは遺伝子解析によって可能です。

遺伝子解析の検査についての情報もブログ本文に追記しましたので参考にされて下さい。

検査については、一般の検査とは異なり、研究を目的とした検査であるため、まずは主治医の先生に相談をされる必要があると思います。遺伝子検査は受けて結果を知って終わりといった簡単な検査とは異なり、患者さんや患者さんの家族にとって大きな影響を与える予期せぬ情報が分かったりする可能性もあるため、検査を受ける事前と結果受け取りに際して、充分な説明・カウンセリングを受けることが重要であるように思います。

相談を受けられた医師は、必要に応じて医療機関を紹介する等、適切な対応を検討されると思います。

以上について、参考になりましたら幸いです。
返信する
遺伝子検査について (ささき)
2018-06-10 11:03:40
質問をさせて頂いてから1年以上がたちます。主治医に遺伝子検査をお願いしたのですが、すぐにというわけには行かないので預からせてくださいと言われて1年以上がたちました。未だ返答がありません。むずかしいことなのでしょうか。
座薬を必要とする発作は月に6,7回あり、その度に昼夜逆転するので、何とかもう少し発作が減らないものかと思っています。セカンドオピニオンを考えると、ドラベに詳しい医療機関を考えたいのですが、本人は成人なのでもう小児科にはかかれません。困ったものです。愚痴になってしまいもうしわけありません。一番大変なのは本人です。
返信する
>遺伝子検査について (ささき) (ブログ管理人)
2018-06-10 15:26:06
遺伝子検査結果の報告時期については、検査会社等ではなく、国の研究班で研究施設が実施しているものになると思いますので、ある程度時間がかかるものと思います。1年経過する等、ある程度の時間が経過した場合には、主治医を通じて、研究者の先生に検査の進捗や今後の見通しについて改めて連絡を入れていただくと良いように思います。
私達家族の、この報告があって治療方針の目安になるならと考え、検査を申し込みましたが、実際に検査を受けるまでに半年以上を要しました(こちらの受診頻度が低いことも一因ですが)。検査結果は返ってきていません。

検査結果自体は、治療方針の参考になりますが、発作頻度を直接減らすわけではないので、主治医の先生の相談しながら患児に合ったベストプラクティスを模索することができていれば、やるべきことはできていると考えて良いとも思います。

また、成人後であっても、特殊な神経疾患ですので、自由診療のセカンドオピニオンを受けるのに年齢を理由に小児科受診を断られる道理はないように思います。一般の受付で断られることがあれば、対応に慣れていないせいなので、この疾患が特殊な事情があることを伝えて、対応の可否について専門の先生自身に直接確認する対応を依頼すると良いと思います。

個人的には、長男も決して良好なコントロールを得られてはいませんが、家族全体のバランスを考えながら、前向きに過ごせたらと考えています。
お互いにできることを頑張りましょう!!
返信する
遺伝子検査 (ささき)
2019-10-08 10:58:18
やっと遺伝子検査ができる事になりました。千葉に検査施設ができたので、ハードルが低くなったと聞きました。
アレビアチンは375mgから155mgまで減らしてきました。発作はきつくなっていますが、肝機能は改善しました。
これでドラべ症候群と確定されなければ、アレビアチンを抜く必要はないかと思ったり・・・、確定されれば、どの薬を加えたら良いか分からなくなっている主治医の助けになるのでは・・・と思ったりしています。アレビアチンを抜くのは本当に大変です。本人も不安な様子です。
エピディオレックスが使えたら良いのに、と思います。
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>遺伝子検査 (ささき) (ブログ管理人)
2019-10-09 04:01:17
希望されている遺伝子検査を受けられるとのこと、良かったですね。
現在の、ドラベ症候群は同様の臨床経過を持つ病態に対する臨床診断なので、まだよく分かっていないことも多いように思います。
病態の基礎となる遺伝子情報や臨床経過、治療成績を地道に蓄積していくことが医学の進歩に繋がるかと思います。
エピディオレックスも、患者によって向き不向きがあるあるかと思いますし、治療効果が他の新規抗てんかん薬と著しく異なるものではないですが、選択肢が増えることは良いことだと思います。特殊な薬なのでまだ議論はあると思いますが、米国及び欧州で使用できるようになり、議論は前向きに進んでいると思います。承認までのプロセスの短縮化のめにも、情報提供等により、議論が適切に活発化したら良いなと思います。
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