有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

JACS ASAP

2005-07-02 17:32:59 | 新着論文
Sequential Catalytic asymmetric Heck-Iminium Ion cyclization: Enantioselective Total Synthesis of the Strychnos Alkaloid Minfiensine

1,2,3,4-tetrahydro-9a,4a-(iminoethano)-9H-carbasole骨格の合成。Heck, iminiumイオンへの分子内付加を鍵段階。

enantioselectiveに合成するのはかなり厄介な骨格です。環を順次構築していく方法で合成しています。これだけぺったんこな骨格での不斉Heck、苦労したことと思います。このHeckは100度70時間かかる問題があったそうですが、Microwaveを使うと170度30分で反応が完結し、eeもおちないそうです。eeに影響がでないというのが不思議でした。そこからは生じた不斉点を利用して環を構築していて、後半部分は平面では込み入ったようにみえましたが、立体的にはさほどでもなくケトンからアリルアルコールまでほぼ定法でもってきています。
Tf化でTf2OかPhNTf2というイメージでしたが、Comins試薬というTf化剤を用いています。2-Cl-Pyを塩基として用いるのは共存できるのでよくみますが、このComins試薬はどういう利点があるのでしょうか。子引きしようと思います。(TL 1992 6299, 7/14追記 mp40℃強の固体で安定。反応性が高く、短時間、低温で反応が完結するのでTfがかかったモノの分解が抑制できる。反応がきれいになる上、極性から容易に除去が可能。ケトンのビニルトリフレートへの変換例を報告)

JACS ASAP

2005-07-02 11:18:44 | 新着論文
Cyclotrisilenylium Ion: The Persilaaromatic Compound

cyclotrisilenylium ionの合成、単離、構造決定。
筑波大学、関口先生のグループです。すべてゲルマニウムの三員環カチオンは1997年に銅グループより報告されていますが、ケイ素のものは同様な合成スキームでは達成できず、今回達成することができました。得られたシクロトリシレニウムイオンは、アニオンとの相互作用のないフリーなカチオンであり、予想通り芳香族性を有していることが、結晶構造、NICS計算で得られています。

鍵となったのは、ケイ素上の置換基でtBu3Siを選択したことのようです。全てtBu2MeSiではカチオンとしたとき転移が起こってしまう(JACS, 2000, 122, 11250)のを、前駆体のシクロトリシレンの置換基の変換よりクリアしました。
何回か読んだのですが、なぜtBu3Siがよいのか?はわかりませんでした。結晶構造で前駆体のシクロトリシレンのSi=Si結合長が伸びているので、HOMOが上がっているのでカチオンを生じやすいのか、発生したカチオンが立体的に転移に不利ななのか?
保護基をわずかに変えただけで大きく変わるという例はたくさんありますが、高周期の化学では統一的に理解できていません。
以前学会で、反応屋の方、構造化学の方それぞれに、なぜこの置換基がよかったのですか?と聞いたところ、どちらも「いろいろやっています」と結果論だけで答えられてしまいました。質問の仕方が悪かったのですが、どういう質問の仕方をすれば思考プロセス、実験の進め方をきけるのでしょうか? 極論では実験報告をみせてくれということになってしまう質問をエッセンスだけで聞くには・・・?

より平面性が難しくなりそうな高周期7員環カチオンができるのはいつごろでしょうか

JACS ASAP

2005-07-02 10:35:35 | 新着論文
Stable Planar six-π-electron six-membered N-Heterocyclic Carbenes with Tunable Electronc Properties

新規安定カルベンの合成。ボラジンのホウ素原子一つを炭素に変え、isoelectronic構造に着目して新規なNHCカルベンを報告。
Arduengoカルベンに比べて、Rh錯体のカルボニル伸縮電子供与能が高いことがわかります。ホウ素原子上の置換基、窒素原子上の置換基により、立体的な影響のコントロールは応用が期待できます。
Nolanの触媒配位子への応用によって様々な類縁体、合成が報告されてるNHCですが、isoelectronicなボラジンに着目したのが面白い。合成はArduengoカルベンに比べると煩雑そうですので類縁体合成はどのくらいできるのでしょうか。カルベン発生の塩基としてLTMPを用いていますがLDAに比べて沸点が高いため、抽出できない系では抜くのがめんどくさいイメージがあるのですが、なぜLTMPを選んだのかも少し気になりました。