風色明媚

     ふうしょくめいび : 「二木一郎 日本画 ウェブサイトギャラリー」付属ブログ

2014年 11月1日 土曜日

2014年11月01日 | 仕事場
■ ロマネスク聖堂の後陣 40号 100x85cm (第2回)

ロマネスク様式の聖堂の、3連の後陣を描いています。
モデルは特定の聖堂ではなく、スペインはマタデペラのサン・ロレンソ・デル・ムント修道院と
イタリアはサン・レオのサンタ・マリーア・アッスンタ教会の、二つの聖堂の後陣をベースとして創作したものです。





下描きの1回目が、ようやく10月中に終わりました。
が、とりあえず何も描いていないところがなくなったというだけです。
小品の制作の合間を縫って…というような状態ですので、描き始めてから2ヶ月も経ってしまいました。

石を一通り描くことが主眼ですので、この作品の肝である量感や全体のバランスなどは考慮していません。

所々に色が見えますが、ひたすら鉛筆で石を描いていると飽きて集中力が落ちてきますので
気分転換を兼ねて、時々水彩で色を入れていました。

空は、アイボリーブラック+ダイヤモンドブラックを軽く置いています。
夜景にするつもりはないのですが、空はほとんど真っ黒にする予定です。

いつもでしたらこのくらいで彩色に入るところですが、今回はさらに下描きを続けます。
鉛筆や薄墨などで、描けるだけ描いておこうと思っています。
年内の仕上げを目指していますが、この調子では難しいかもしれません。




■ ジークレー下地のパステル画について

インクジェットプリンタを使って版画や複製を作る手法をジークレー(ジークリー)と言います。
あるいはピエゾグラフという呼び方もあります。

インクジェットプリンタでプリントした和紙にパステルで彩色をするという新たな試みを前回ご紹介しました。
前回はジークレー+手彩色という言い方をしましたが
ジークレーはかなり隠れてしまうことが多いので、ジークレーを下地として使ったパステル画と言う方が適当かもしれません。

初めての試みですので、事前にテストをし、現在は8点を制作中です。
こういうことをしている人は少ないと思いますので
事前のテストや実際の制作で気づいたこと・問題点などを書いてみようと思います。


私が使っているプリンタは4色の顔料インクで、ごく普通に市販されているものです。
ご存知のようにインクには顔料と染料がありますが
染料インクでプリントしたものは水がかかると染料が滲んで画面が崩れてしまいます。
パステルだけで描くのであれば染料インクでも大丈夫だとは思いますが
岩絵の具や水彩などの水性絵の具で描く可能性がある場合には顔料インクは必須です。


前回掲載しました赤いシクラメンのプリント用画像を再度ご覧いただきます。



この画像は、私が撮影した写真を画像ソフトで加工したものですが、意図的に彩度を落としてあります。
顔料インクは染料インクよりも耐久性はあるということですが(それぞれに長所・短所があります)
インクジェットプリンタ自体が普及してからあまり時間が経っていないので正確なところは分かりません。
経年変化によって退色する可能性を考慮し、なるべく彩度の高い色は使わない方が無難と判断して彩度を落としました。
彩色のベースなのですから白黒だけでも充分でしょう。

紙は、日本画の場合同様、土佐麻紙の裏を使っています。
最近は土佐麻紙を使う人が増えているということですので
その裏が、どれだけ凸凹であるかご存知の方も多いと思います。
ワトソンなどの水彩紙以上の凸凹です。




A4サイズの紙にサムホール大でプリントすると、画面と余白の割合はこのようになり、2~3cm幅の余白ができます。
今回は、すでにサムホールのマットを切ってある額を使うことが決まっているためサムホールで描いていますが
規格サイズに限って言えば、サムホールより1サイズ大きい3号ですとFは取れず、Pでは余白が1cm程度となります。
よって、余白も充分取ろうと思うと、A4ではサムホールか0号のみとなります。
(2号、1号も寸法が規定されていますが一般的ではありません)
プリント後はパネルやベニヤ板に水張りして制作しますので、その張り代に2mmほど取られますし
後々の額装を楽にするためにも、やはり余白は2cmほどあった方が無難だと思います。

因にA3サイズのプリンタですと、4号まで余裕のある余白を持ったプリントができます。
もちろん、もっと大型のプリンタを使えば、さらに大きな画面も可能なのですが…。

凸凹のある土佐麻紙の裏にも問題なくプリントできますが
プリントした画面の画質は、プリンタ用紙の「普通紙」レベルです。
印刷設定を写真専用紙などの高画質に設定したらどうなるかはテストしていませんが
凸凹のある和紙にプリントするのですから高画質は望めないと思います。
版画や複製を作る場合は、高解像度の画像を用意し、高精細のプリンタで、再現性の良い紙にプリントする必要がありますが
パステルで描き込むことを前提としていますので高画質は必要ないのです。



私が使っている土佐麻紙はドーサ引きされたものですが、プリントすると一つ問題が発生します。
ドーサが抜けるのです。
事前にテストしたところ、一般的なドーサ引きの雲肌麻紙では、ほぼ完全に抜けてしまいます。
土佐麻紙は厚いせいか完全には抜けないようですが、かなり水分を吸い込むようになります。
パステルだけの彩色で仕上げるならば、それでも大丈夫だと思うのですが
岩絵の具や水彩のような水性絵の具を使う可能性がある場合は彩色の前に滲み止めの処理が必要になります。

ドーサが抜けたらドーサを追加するのが一般的ですが
ドーサは紙の柔軟性を損ないますので、なるべく使いたくないのです。
そこで、普段部分的にドーサが抜けた場合に使っているアクリル絵の具用のメディウムを使用することにしました。

まず、マットメディウム(つや消しメディウム)を薄めたものを浸み込ませてドーサ代わりとし
さらに、天然白亜をマットメディウムで溶いたものを薄めて塗布しました。
白亜は石灰岩が風化したものを精製した白色顔料です。
白色顔料を使ったのは下塗りということではなく和紙の光沢を抑えるためです。
和紙の繊維には意外と光沢があり、ドーサ引きされたものは更に光沢が増します。
絵の具やパステルの粒子の間から紙が透けていると
見る角度によっては光を反射して目立ち、絵が見えづらくなることがあるのです。
因に、白亜を使うのは私が胡粉嫌いで持っていないという理由だけですので、胡粉でも大丈夫です。


パステルの定着には普通にフィキサチーフを使っています。
これによるプリント画面への影響はないようです。
フィキサチーフは合成樹脂を溶剤に溶いたものですが
溶剤にはアルコール系と石油系があり、私はアルコール系を使っています。
石油系のものはテストしていませんので、プリント画面への影響は不明です。





本日の仕事場の一角です。
8点の内、写真ベースのものが3点、過去の作品ベースのものが5点です。

例えば、一番上に並ぶ2点はまったく同じ画像をプリントし、色調と雰囲気を変えて描いています。
これは過去の作品をベースにしたもので、モチーフはイタリア・アッシジのサン・フランチェスコ聖堂。
こういう風に、同じ構図でいろいろ試したい場合にプリントは便利なのです。
各々の作品につきましては、仕上がりましたら掲載する予定です。

-------------- Ichiro Futatsugi.■

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2014年 10月24日 ... | トップ | 「洲羽の会」 絵画 小品展の... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (shinkai)
2014-11-03 14:54:31
こんにちは! ロマネスクの後陣は、こうして全部石組みが詰まれると、やはり大変な迫力の作品になりそうで・・!
既に中世の硬い印象が漂っている感じですね。 先が楽しみです!
  

つい先日サイトであれこれ画像を検索している時に、何度かジークレーと言う言葉を見つけ、そうそう、こちらで説明してもらったっけ、と思ったのでしたが、
さらに今日は詳しい説明で、有難うございます。

サイトで見かけたジークレーの作品は、多分「コピー作品」という意味合いで使っていたようでしたが、それに手彩色をプラスして、となると、単なるジークレーではなく、新しい作品の意味合いが濃くなりますね。
アッシジの夜の作品は、アレッ?と思っていたのですが、そうですか、やはり色調を変えた2枚なのですね。

今の所ジークレーに挑戦するつもりはないのですが、でも面白そうで、ずっと先に何か意図するチャンスが来た時に、教えていただいたことが役立つかもで、有難うございました!

返信する
Unknown (二木一郎)
2014-11-03 21:07:42
shinkaiさん、こんばんは!
今月は早々と月一をクリアしましたので、後は遊んでいられるぞぉ! きゃはは!

石の壁が大好きで、描くのも好きなのですが
さすがにこの分量になると苦行に近くなります。
とりあえず一通り形を描き終わってホッと一息です。
まだ下描きが続きますが、この後は彩色と同じような気持ちで描けるので
精神的には少し楽になれそうです。

ジークレーは、その再現性の高さから複製の分野では急速に広まりつつあります。
マチエール以外は、近寄って見ても実物と区別がつかないほどです。
版画としても、写真製版のシルクスクリーンなどと比べて遜色ないほどになっています。
その他、PCのみで制作するイラストレーターやデザイナーが展覧会に出品する場合には
ジークレーを使う人が多いように思います。
私は最初、手彩色版画というようなものを狙っていたのですが
実際に手がけてみると、いろいろと面白い発見もあり、版画・タブローの垣根を忘れて夢中になっています。
私の性格には日本画以上に合っているのではないかと感じるほどです。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

仕事場」カテゴリの最新記事