風色明媚

     ふうしょくめいび : 「二木一郎 日本画 ウェブサイトギャラリー」付属ブログ

落款

2009年11月25日 | 仕事場
落款(らっかん)とは作品に書き入れる署名のことで、ハンコである印章と合わせて正確には落款・印章と言います。
日常的には落款・印章の両方を一緒にして、単に落款と呼んでしまうことが慣例になっているようです。


これが私の落款・印章です。

落款は墨を使うとは限らず、私はほとんどの場合金泥を使っています。
背景が明るくて金泥では目立たない場合のみ墨・黒朱などを使います。



私の印章をきちんと押すと、このようになります。
これは私が自分で彫ったもので、もう15年ほど使っています。
彫るためには専用の印刀というノミのような刃物がありますが
印章用の石は柔らかくて彫りやすいものが多いですから、学童用の彫刻刀でも充分です。


印章は一般的には印泥(いんでい・印肉のこと)を使用して押します。
正式な印泥は赤い鉱物顔料である朱(硫化水銀が成分)にヒマシ油とモグサ(お灸の材料)を混ぜて練り合わせたものです。
最近は朱以外の色や金・銀の印泥もあります。
しかし私は絵具を使って押します。
もちろん絵と同じくニカワで溶いて使います。
作品の色調に応じて、赤口朱(赤)・黄口朱(オレンジ色)・古代朱(茶色)・焼朱(焦茶)・黒朱(黒)などを使い分けます。
また、それらを混ぜ合わせることも、白を加えて薄めることもします。
さらには、赤系以外の色を使う場合もあります。
私はパーマネントグリーン(黄緑)をよく使います。
また、二色以上を重ねて押す場合もあります。

印章を絵具で押す方法は、単に印面に絵具を筆などで塗って押すだけです。
ただ、印面は石ですので印泥ほど付きは良くありません。
思ったように押すためには若干の慣れは必要です。
もし、初めて絵具を使って印章を押そうと思ったら、是非事前に練習してから押すことをお奨めします。


押印のサンプルです。
どれもムラがあって一見不完全な押し方に見えますが、これらが失敗だとは限らないのです。

印章は文字が判読できるようにキッチリ押さなければならない…ということはありません。
あまりキチンと押すと、書類に押した実印のように見えてしまうかもしれません。
作品の雰囲気に合わせる必要はありますが、多少擦れているくらいの方が味があって良いと思います。
私は50号でも3号でも同じ印章を押していますので、小品の場合に大き過ぎると感じた時には、わざとたくさん擦れさせて小さく見せています。
サンプル画像の下段左端や、下段右から二番目のように押すと小さく見えるでしょう?


油絵など洋画系の方は英語でサインを書き入れることが多いのですが
日本画では伝統的に日本語の落款を入れる人が多数です。
ただし、必ず書き入れなければならないということではなく、無落款という場合も少なくありません。
落款のみ(署名のみ)の人もいますし、印章のみの人もいます。
文字も漢字ではなく仮名を使う人もいますし、仮名の本名の人が漢字に変えている場合もあります。
印章の文字は一般的には篆書(てんしょ)という字体を使いますが、私の印章の文字は正式な篆書体ではありません。
彫る際に書体辞典で調べましたが、なかなか気に入る書体がなくて、自分流にアレンジしてデザインしてあります。

つまるところ、作品に押す印章は、篆書でも隷書(れいしょ)でも楷書でも、平仮名・片仮名でもアルファベットでも、あるいは絵文字でも、自由だと思います。
かつて素晴らしい印章を多数彫った北大路魯山人は、専門の篆刻家からは非難されていたそうです。
勝手に書体を改変しているから…というのが理由だそうです。
そんなに堅いことを言わなくてもいいのではないかという気がします。

要は、作品の雰囲気に合っていればいい…ということだろうと思います。

-------------- Ichiro Futatsugi.■

コメント
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