うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0179. Glory (1989)

2007年02月27日 | 1980s
グローリー / エドワード・ズウィック
122 min USA

Glory (1989)
Directed by Edward Zwick (1952-, Chicago). Screenplay by Kevin Jarre, original music by James Horner, cinematography by Freddie Francis. Performed by Matthew Broderick (Col. Robert Gould Shaw), Denzel Washington (Pvt. Trip) and Morgan Freeman (Sgt. Maj. John Rawlins).


デンゼル・ワシントンの表情が豊か。わかくて、最初は誰ともわからず見ていたけれど、反抗的な若者が深い共感をあらわすようになるまでの変化のなかで、はっと目をひかれる瞬間が何度かあって気づいた。このひと、うまく育てば大看板になるだろうとわかる。

主題は南北戦争を北軍側からえがいたもの。アフリカ系の兵士たちが主役になる。モーガン・フリーマンが安定していた。

最後の突撃前夜に兵士たちが語らう野営の場面が精神的な山場で、ここの演出は集中力があってひきつけられた。いく人かがスピーチをもとめられて思いを語る。ひっぱり出されて不器用な真情をことばにする若者の羞らいは、仲間たちがとりつづける低いリズムとおりおりの歌声でささえられる。感情の昂ぶりと一体感が、音と鼓動でみごとに伝わってきた。この台詞と音のかねあいはあらかじめスコアにしてあったかもしれない。レシタティヴの期待感というのかな、ひとの気持ちが音楽になってあふれ出すぎりぎり手前の瞬間、そこにこもる力のようなものがとらえられていた。

ズウィックは、最近では『ラスト・サムライ』を監督。そちらは脚本も手がけている。
Legends of the Fall (1994)
Courage Under Fire (1996)
The Last Samurai (2003)



メモリータグ■上官の命令で市民の家々を焼きはらう。窓から噴き出す炎を背景に、苦悩する主役のカット。




0178. 隠し剣 鬼の爪 (2004)

2007年02月25日 | 2000s
Kakushiken Oni no Tsume (The Hidden Blade) / Yoji Yamada
132 min Japan

隠し剣 鬼の爪 (2004)
監督:山田洋次、原作:藤沢周平、脚色:山田洋次・朝間義隆、撮影:長沼六男、音楽:冨田勲、出演:永瀬正敏(片桐宗蔵)・松たか子(きえ)・田中泯(戸田寛斎)・吉岡秀隆(島田左門)・小澤征悦(狭間弥市郎)・高島礼子(狭間桂)・緒形拳(家老)・小林稔侍(大目付)・倍賞千恵子(片桐吟)・田中邦衛(片桐勘兵衛)


山田さんのように、しっかりした脚本が書ける一流の作り手が着実に新しい作品をリリースしてくださることは、観るがわもうれしい。ただ、この作品と『たそがれ清兵衛』との筋の重なりかたは、ふつうなら避けると思う。藤沢さんの "海坂藩もの" あるいは "隠し剣" ものの読者は多いのだろうけれど、それだけに「三部作」と呼んですませるにはすこし無理を感じた。つくりたくてやって、結果的にそうなったならかまわない。でもつづけると、また寅さんになってしまう。これはプロデュースがわの責任が大きいのでは? 

作品そのものは楽しく観られます。こまやかな演出、力のいれどころ、抜きどころ、頭がさがるばかり。おもしろいのに文句をつけるような響きでごめんなさい。

どうしてこんなことを心配するかというと、松竹には、山田さんをだいじにしてほしいから。これだけ才能のあるひとを、えんえんと金太郎飴のようなシリーズ物にしばりつけて目先の収益をむさぼってきた過去の罪は重い。こういう絵が撮れる監督がいるうちに、ひとを育てていってくださいね。



メモリータグ■日本人の歩き方そのものを変えさせたことで知られる、ヨーロッパ近代兵法の導入がユーモラスにえがかれている。ここだけでも見る価値あり。もちろん「日本人」もそれまでいなかったわけですけれど……。いまなにげなく地面を歩く、この自分たちの歩き方さえ仕込まれたことを思うと、ちょっぴりさみしい国です。




0177. Fargo (1996)

2007年02月23日 | 1990s

ジョエル・コーエン / ファーゴ
98 min USA

Fargo (1996)
Directed by Joel Coen. Written and edited by Joel Coen and Ethan Coen (as Roderick Jaynes). Cinematography by Roger Deakins, original music by Carter Burwell. Performed by William H. Macy (Jerry Lundegaard) and Frances McDormand (Marge Gunderson).


二度は見た。三度かもしれない。何度見ても凄い。ぬわりと文体のある語り口で、動きにも映像にも、悪い夢のような重さがまつわる。すべり出しは地味で、これはつらいかしらと思ったのもつかの間、それは周到な計算によると気づく。いきなり起こる暴力のなまなましさにぎょっとして、観客の目がさめるように作られている。

そのあとは一層ずつ塗り重ねられていくみじめさ、愚劣さ、やりきれなさに、こちらの世界観も昏く腐食されていく。けれど、その奥で、ほそい糸のような肯定性がじっくりと用意されている。妊娠中の警官と、その夫の画家の、ごくつつましい暮らしだ。それはあまりにさりげない仕方でえがかれるので、最初はわからない。けれど最後に、夫の応募した鴨の絵が切手に採用されるというささやかなエピソードにいたって、はっきりとひとつのメッセージに集約される(さすがコーエン)。ものごとの狂った価値の天秤をまっすぐに戻してあまりある静かな迫力が、ずん、と響いて終わるのだ。

ものがなしい音楽が耳にのこる。刑事を演じたフランシス・マクドーマンドは自然な強さで、見ているほうもほっとした。ウィリアム・メーシーはみじめな人物を演じるスペシャリストとして、これが代表作だろう。

似た設定の作品として『シンプル・プラン』を思い出す。あれも考えられた脚本だったけれど、この作品の底力はさらに凄い。『ファーゴ』は、あけてしまったパンドラの箱をえがく作品である。破滅の種がつぎつぎと手をつないで現われてくる。最後にひっそりと、小さな希望の贈り物がのこる……。表象技法は徹頭徹尾、具体的だった。1996年アカデミー脚本賞・主演女優賞。



メモリータグ■食堂でさまざまな料理を山盛りにしながら、なお選んでいく手の動作。毎日、肉体労働にちかい仕事をしっかりこなしながら妊娠後期に入った女性の、みごとな生命力が伝わる。うわ、こんなに食べるの、という迫力がいい(笑)。



0176. The Libertine (2004)

2007年02月18日 | 2000s
リバティーン / ローレンス・ダンモア
114 min UK

The Libertine (2004)
Directed by Laurence Dunmore. Written by Stephen Jeffreys. Cinematography by Alexander Melman. Performed by Johnny Depp (Rochester), John Malkovich (Charles II), Rosamund Pike (Elizabeth Malet) and Samantha Morton (Elizabeth Barry).


設定は17世紀後半のイングランド、チャールズ二世時代。サマンサ・モートン、ジョニー・デップ、ジョン・マルコヴィッチと "演技派" を三人くみあわせた配役が売り物らしい。さて。

モートンは『マイノリティーリポート』で予知能力者の女性を演じて出色だった、あのひとです。ここではまだ未熟な舞台役者として登場する。序盤はやや印象が薄い。未来の大女優としてのインパクトがほしい役なので、見た目にはっきり強さが伝わる役者でもよかったかなあ。とはいえ、進むにつれてそれなりに雰囲気が出てくる。いわゆる性格俳優というのか、持ち味はティルダ・スウィントンなどにちかいかもしれない。

主役の伯爵を演じたデップは、残念ながらつくりすぎていて、冒頭からしばらくはちょっとくどい。カザノヴァ風の破滅的な放蕩作家という役柄に気負ったかもしれない。このひとはどちらかといえば軽めのタッチが本領だろうし、むりに重量を出そうともがかなくても、と思いながらみていた。それでも終盤、梅毒で壮絶な状態になるあたりからは全身で役に入っていて、捨て身の力がでてくる。えらかった。

チャールズ二世を演じたマルコヴィッチはプロデュースにも加わっている。こちらはさすがに悠然とこなしていた。じたばた役をいじりまわす必要はないのだろう。考えてみると、このひとが大失敗したのはみたことがない気がする。どれかあるかしら(笑)。

ほかに印象にのこったのはロザムンド・パイク。主人公の妻にあたる伯爵夫人役を演じている。理性的な演技だけでなく、狂気のがわにも踏み出せそう。脇で、またみてみたい。

監督は経歴がわからない。これが第一作とすれば、おそらくテレビの出身では。時間の経過を音声の重なりで表現したり、経験は十分に思えた。



メモリータグ■舞台げいこの場面で、ろうそくをともしたシャンデリアを背景に、にじんだような露出を得ている。炎はいつも不思議。

大きなスクリーンで、息をのむくらい深い映像をみたいなあ。タルコフスキー級の。




0175. Match Point (2005)

2007年02月15日 | 2000s
マッチポイント / ウッディ・アレン
124 min UK / USA / Luxembourg

Match Point (2005)
Written and directed by Woody Allen. Cinematography by Remi Adefarasin, costume design by Jill Taylor. Performed by Jonathan Rhys Meyers (Chris Wilton), Emily Mortimer (Chloe Hewett Wilton), Matthew Goode (Tom Hewett), Brian Cox (Alec Hewett), Penelope Wilton (Eleanor Hewett) and Scarlett Johansson (Nola Rice).


ロンドンの上流階層に入りこむ、貧しいテニスプレーヤーの物語。『陽のあたる場所』のウッディ・アレン版ともいえる。途中の展開は想像がつくぶん、つらいところもあるけれど、最後がどちらに転ぶかは文字どおりマッチポイントまでわからない。テニスボールがネットにかかって真上にはねあがる冒頭のショット、そして結婚指輪がガードレールにぶつかってはねる終了まぎわのショットが、ねらいどおり秀逸な対照をなしている。

キャストはなじんでいた。次第にヒステリックになっていく奔放なガールフレンドの役は、当初ケイト・ウィンスレットにオファーされたという。そのことが意外に思えるくらい、スカーレット・ヨハンソンはよかった。

映像もいい。スタッフはおそらく現地調達だろう、イギリスの映像になっている。おいつめられて、ついに人を殺すいきさつがなまなましい。そして、そののちに背負う重さがいたましい。そこをもっと怖くえがけたと考えるより、ウッディ・アレンがここまで「事件」に手を染めたのは初めて、という見方をとりたい。十分に怖かったし、全体につきまとう主人公の居心地の悪さは、みている側をときどきたまらない気持ちにさせた。しいてくらべるとすれば、これより傷のえぐり方が深いのは "Monsieur Hire"『仕立て屋の恋』のパトリス・ルコント。

今回、見どころのひとつは「変化」にある。生きることが、しだいにのっぴきならないものへと変わっていく。しかもそれにつれて、生活はいっそうパサパサと乾いたものになっていく。可憐な婚約者はひたすら不妊治療にあけくれる妻になり、人生への野心は会議に遅れる言いわけに変わる。偽(いつわ)って居場所をえた人間のみじめさだけが変わらない。

結末は意見のわかれる点かもしれない。でも、これがアレンの回答である。運のいい男と運の悪い女の、かなり酷い物語。つくり手に悔いはないだろう。



メモリータグ■別荘で雨の戸外に走り出る娘、書斎のなかからそれを見る男。雨に濡れた芝生と木立ち。明るい逆光。おそらく陽差しのある午後に雨を降らせて撮ったのでは。でも悪くない。夏らしい緑が映りこんでいた。





0174. Finding Neverland (2004)

2007年02月09日 | 2000s
ネバーランド / マーク・フォースター
106 min UK / USA

Finding Neverland (2004)
Directed by Marc Forster. Written by Allan Knee (play), David Magee (screenplay). Cinematography by Roberto Schaefer, costume design by Alexandra Byrne. Performed by Johnny Depp (Sir James Matthew Barrie), Kate Winslet (Sylvia Llewelyn Davies), Julie Christie (Mrs. Emma du Maurier), Radha Mitchell (Mary Ansell Barrie), Dustin Hoffman (Charles Frohman), Freddie Highmore (Peter Llewelyn Davies), Ian Hart (Sir Arthur Conan Doyle), Kelly Macdonald (Peter Pan).


劇作家のジェームズ・マシュー・バリーは公園で四人の幼い兄弟と、その母である未亡人と知り合う。子どもたちと接していくなかから、あの『ピーター・パン』の構想が生まれる。時期は1903年。じっさいに劇として大成功したことは知らなかった。興味深い題材と思う。

監督のフォースターは、あたたかい感激屋さんなのだろう。ところどころ、みずからの感激に浸ってしまった面があるかもしれない(いいひとなのです)。でも「子どもの心をもったおとな」と自負するかたには、きっとむきそう。

途中、未亡人の家に親しく出入りするバリーに対して立つ噂には、さすがにヴィクトリア期のイングランド社交界らしい湿ったリアリティーがあった。未亡人との関係が囁かれることは想定内としても、さらに男の子たちとの関係がうたがわれるのがすごい。バリー、キャロル、あるいはルイス……。イギリスのファンタジーの名作群は、この種の抑圧に耐えて生み出されてきたのだろう。

映像は、個人的な好みとしてはやや明るすぎる。もうすこし、ほんのすこし絞ると夏の自然光の微妙な陰影がとらえられた気がするのだけれど、でも夢の国をさがす話ではあるし、おりおりに挿入される空想劇のファンタジックな装置とマッチさせるうえでも、これでいいのかもしれない。

主役はイギリス人という無難な選択肢をとらず、あえて、いまのっているジョニー・デップ。熱演です。ダスティン・ホフマンが渋く投資家を演じている。口やかましい老婦人はジュリー・クリスティーだったと、あとで知って驚いた。『ドクトル・ジバゴ』のヒロインを演じたひとだ。劇中劇でピーター・パンを演じたケリー・マクドナルドは「修練をつんだ役者」のお手本という感じではないかしら。抜群の安定感で記憶にのこる。劇中劇、という二重性をよく理解していた。



メモリータグ■バリーの妻を演じたラダ・ミッチェルは、おなじ2004年の "Man on Fire" (マイ・ボディーガード)ではダコタ・ファニングの母親役をやっている。ずいぶんわかくみえた。