うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0177. Fargo (1996)

2007年02月23日 | 1990s

ジョエル・コーエン / ファーゴ
98 min USA

Fargo (1996)
Directed by Joel Coen. Written and edited by Joel Coen and Ethan Coen (as Roderick Jaynes). Cinematography by Roger Deakins, original music by Carter Burwell. Performed by William H. Macy (Jerry Lundegaard) and Frances McDormand (Marge Gunderson).


二度は見た。三度かもしれない。何度見ても凄い。ぬわりと文体のある語り口で、動きにも映像にも、悪い夢のような重さがまつわる。すべり出しは地味で、これはつらいかしらと思ったのもつかの間、それは周到な計算によると気づく。いきなり起こる暴力のなまなましさにぎょっとして、観客の目がさめるように作られている。

そのあとは一層ずつ塗り重ねられていくみじめさ、愚劣さ、やりきれなさに、こちらの世界観も昏く腐食されていく。けれど、その奥で、ほそい糸のような肯定性がじっくりと用意されている。妊娠中の警官と、その夫の画家の、ごくつつましい暮らしだ。それはあまりにさりげない仕方でえがかれるので、最初はわからない。けれど最後に、夫の応募した鴨の絵が切手に採用されるというささやかなエピソードにいたって、はっきりとひとつのメッセージに集約される(さすがコーエン)。ものごとの狂った価値の天秤をまっすぐに戻してあまりある静かな迫力が、ずん、と響いて終わるのだ。

ものがなしい音楽が耳にのこる。刑事を演じたフランシス・マクドーマンドは自然な強さで、見ているほうもほっとした。ウィリアム・メーシーはみじめな人物を演じるスペシャリストとして、これが代表作だろう。

似た設定の作品として『シンプル・プラン』を思い出す。あれも考えられた脚本だったけれど、この作品の底力はさらに凄い。『ファーゴ』は、あけてしまったパンドラの箱をえがく作品である。破滅の種がつぎつぎと手をつないで現われてくる。最後にひっそりと、小さな希望の贈り物がのこる……。表象技法は徹頭徹尾、具体的だった。1996年アカデミー脚本賞・主演女優賞。



メモリータグ■食堂でさまざまな料理を山盛りにしながら、なお選んでいく手の動作。毎日、肉体労働にちかい仕事をしっかりこなしながら妊娠後期に入った女性の、みごとな生命力が伝わる。うわ、こんなに食べるの、という迫力がいい(笑)。