うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0208. Capote (2005)

2007年06月29日 | 2000s
カポーティー / ベネット・ミラー

Capote (2005)
Directed by Bennett Miller, screenplay by Dan Futterman based on the book by Gerald Clarke. Cinematography by Adam Kimmel. Film Editing by Christopher Tellefsen. Original Music by Mychael Danna. Performed by Philip Seymour Hoffman (Truman Capote), Catherine Keener (Nelle Harper Lee), Chris Cooper (Alvin Dewey), Clifton Collins Jr. (Perry Smith).


冒頭、秋の麦穂が透明な風に揺れていて、そのみずみずしい自然光に、はっとする。

音や光、速度、ことば。どれもが静かな作品だった。映像は洗練された編集にすっぱりと切りとられていて、濁らない。微妙な陰影をとらえている。その手ざわりのようなものが、あとあとまでのこる。

晩秋のカンザスとか、木造の白い民家とか、雪の刑務所とか、底冷えのする処刑場とか、そういうひっそりした風景のあいだに、ぱっとスペインの短い陽光をはさんである。よく計算されている。淡い会話をかわすひとびとの抑えた表情と、自然音に融け切ったようなピアノの音の点描もあっていた。説明的な音がない。

これは何度でも見たい。詩的な作品です。



メモリータグ■カポーティーと、友人の作家ハーパー・リーの会話。

リー: あなた、かれと恋愛中なの?
カポーティー: それ、こたえようがないなあ。
リー: トルーマン……。
カポーティー: ペリーとぼくは、おなじ家で育ったようなものだと思う。ある日ペリーは立ち上がって、裏口から出ていった。ぼくはおもてから出ただけ。
リー: からかってるの?
カポーティー: いや。

Lee - Did you fall in love with him?
Capote - I don't know how to answer that.
L - Truman...
C - It's as if Perry and I grew up in the same house, and one day he stood up and went out the back door, while I went out the front.
L - Are you kidding me?
C - No.


# リーは "To kill a mockingbird" (『アラバマ物語』)の著者。     
# 一行目の him は殺人犯のペリー・スミス。


0207. Witness for the Prosecution (1957)

2007年06月26日 | 1950s

情婦 / ビリー・ワイルダー
116 min USA

Witness for the Prosecution (1957)
Directed by Billy Wilder, adapted by Larry Marcus based on the play by Agatha Christie. Cinematography by Russell Harlan. Costumes for Miss Dietrich by Edith Head. Performed by Tyrone Power (Leonard Steven Volel), Marlene Dietrich (Christine Helm/Vole), Charles Laughton (Sir Wilfrid Robarts, lawyer), Elsa Lanchester (Miss Plimsoll, nurse).


冒頭でバッキンガムやエッフェル塔がでてくると、逆にアメリカの映画の匂いが漂う。いかにも観光的なのだ。ここでもロンドンの光景をなめていくカメラワークをつうじて、台詞が始まる以前にイギリスの映画ではないことがわかる。舞台が日本であれば? やはりゲイシャがでてくるのかしら(笑)。

ディートリッヒが知的な魔物のように「検察側の証人」を演じた有名な作品。この女優の妖艶さを消し去って、怜悧な刃物にしたててみせたワイルダーの判断はすごい。

弁護士を演じたチャールズ・ロートンが魅力的だった。階段にとりつけたエレベーターで上がり下がりをたのしそうにくりかえす小児性から、法廷弁護士としての海千山千の技術まで、えがきこまれた人格の幅がたくみに表現されている。雰囲気は、ちょっとヒッチコックに似ています。



メモリータグ■この弁護士は、依頼者の目に鏡をあてて、その人物の「正直さ」を判定する習慣をもっている。まったく動じない被告。ひどくわずらわしそうに視線をはずす検察側の証人。




0206. Breakfast at Tiffany's (1961)

2007年06月23日 | 1960s
ティファニーで朝食を / ブレイク・エドワーズ
115 min USA

Breakfast at Tiffany's (1961)
Directed by Blake Edwards, screenplay by George Axelrod based on the novel by Truman Capote. Music by Henry Mancini, Miss Hepburn's costume by Hubert de Givenchy. Performed by Orangey (Cat), Audrey Hepburn (Holly Golightly), George Peppard (Paul 'Fred' Varjak) and Mickey Rooney (Mr. Yunioshi).


なによりねこが名演技。主演にゃんにゃん賞です。しっぽまで表情のある大きな茶色ねこで、なんとも知的で愛らしくてかわいい。こんな親友を雨のなかに放り出してはいけません、お嬢さん。

もちろん、すぐに後悔して探しにくるので合格。しかも、猫もきちんとクレジットされている。お名前はオレンジー。

というわけで、名作です(笑)。

冒頭、ティファニーの店のまえでヘプバーンがクロワッサンをかじるシーンはやはり違和感があるけれど、意外に脚本はうまい。これは原作を完全に忘れたほうがいい。あくまで軽い、おとぎばなしのラヴストーリーとして観るとたのしめる。というより、ここまでカポーティーからのびのびと離れたということのほうに感心するべきかも。

後味のさわやかさは、リアルな悪人がひとりも出てこないことにもありそう。分野はコメディー。カリカチュアライズされきった、おかしな日本人のユニオシを演じたのはミッキー・ルーニーです。

この映画をみていて、1960年代前半の衣装や風俗といった物質的な「アメリカ」が、当時の日本人にどれほど憧れをかきたてたか、はじめて少しわかった気がする。ずいぶん遠かったにちがいない。ただそれは、南部の田舎の少年だったカポーティーが成功したのちにみた、都市の架空性でもあったのだろうけれど……。

なお脚本を書いたアクセロッドは、この前後に The Manchurian Candidate (1962), Bus Stop (1956), The Seven Year Itch (1955) などのシナリオを担当している。うーん、どうりで。一流の脚本家なのね。
(七年目の浮気 / バス停留所 / ティファニーで朝食を / 影なき狙撃者)



メモリータグ■全員が酔っている、らんちき騒ぎのパーティーシーン。すこし長くはあるものの、古きよき時代の、手づくりの努力がにじんでいた。




0205. The Black Dahlia (2006)

2007年06月19日 | 2000s
ブラックダリア / ブライアン・デ・パルマ
121 min Germany, USA

The Black Dahlia (2006)
Directed by Brian De Palma. Screenplay by Josh Friedman, based on the novel by James Ellroy. Cinematography by Vilmos Zsigmond. Josh Hartnett (Bucky Bleichert), Scarlett Johansson (Kay Lake), Aaron Eckhart (Lee Blanchard), Hilary Swank (Madeleine Linscott), Mia Kirshner (Elizabeth Short).


0204『ディパーテッド』は男優二人が対照的な役柄を演じていた。『ブラックダリア』は女優二人が対比をなしている。

金髪の妻がスカーレット・ヨハンソン。黒髪の倒錯的な令嬢が、なんとヒラリー・スワンク。どちらも才能のあるひとだけれど、ここは正直、ヒラリー・スワンクがうまい。あの個性の強い風貌で、「妖艶な美女」を演じられることそのものに驚いた。髪を染めれば逆の配役でもそれなりに成立したかも、と思いながら、見てしまうとこれ以外にはないという迫力がにじむ。全体を見とおして場面ごとの演技の強度を設計しているのかも。頭脳的だった。

原作はエルロイの代表作。小説は小説として、それとはべつにたのしむことができる。原作の記憶がはっきりしている友人は、あんなもの見るの? と引いていましたが(笑)。映像のほうの「いかがわしさ感」はそれほどでもありません。

殺害された娼婦と、「うりふたつ」の令嬢とをおなじ役者が演じわけることもできたはずだけれど、ちょっと汚れ役すぎるということかしら、ここではわけている。



メモリータグ■見終わって、おぼえているのは黒髪と黒いドレス。





0204. ディパーテッド (2006)

2007年06月15日 | 米アカデミー作品賞and/or監督賞

ディパーテッド / マーティン・スコセッシ
151 min USA

The Departed (2006)
Directed by Martin Scorsese. Written by William Monahan (screenplay), Siu Fai Mak (2002 screenplay Wu jian dao). Cinematography by Michael Ballhaus. Film Editing by Thelma Schoonmaker. Performed by Leonardo DiCaprio (Billy), Matt Damon (Colin), Jack Nicholson (Costello), Mark Wahlberg (Dignam), Vera Farmiga (Madolyn).


やくざの組織に潜入捜査をする警官がディカプリオ(1974-)。エリートの刑事としてそのやくざを追いながら、じつは警察内の情報を相手に流している内通者がマット・デイモン(1970-)。手を汚しながら孤独に耐えるディカプリオと、たくみにたちまわってなんでも手にいれていくデイモンという対照が軸になる。クレジットの順はディカプリオが先。

自陣の情報がそれぞれ相手側に漏れていくなかで、潜入している「ねずみ」は双方で次第に追い詰められていく。詰めのむずかしい話だけれど、弱点はのこしつつ、なんとか逃げ切った。生かせなかった伏線が多いのはちょっと惜しい。

積極的に表情をつくるタイプのディカプリオと、抑えたままで文脈にゆだねるデイモン、二人の俳優のスタイルの違いがよくわかる。やくざはジャック・ニコルソンが、あの濃い演技で奔放に演じていた。いやみな上司を『猿の惑星』のマーク・ウォールバーグが担当している。地味な俳優だけれど、ここではあくの強い役回りをこなしている。2007年米国アカデミー賞を4部門で受賞。作品賞・監督賞・(脚色)脚本賞・編集賞。



メモリータグ■ワッシュ通り334番地(不確実)。番地が問題になるシーンで、わざわざ廃屋の入口に立て札を立て、ペンキではっきり番地が書かれている。壁の煉瓦の赤に、なんとなく映えてたのしい。




0203. Stagecoach (1939)

2007年06月12日 | 1930s

駅馬車 / ジョン・フォード
96 min USA

Stagecoach (1939)
Directed by John Ford, Written by Dudley Nichols based on the novel by Ernest Haycox. Original Music by Gerard Carbonara. Cinematography by Bert Glennon. Performed by Claire Trevor (Dallas), John Wayne (The Ringo Kid), Thomas Mitchell (Doc Boone). Louise Platt(Lucy Mallory), John Carradine(Harfield).


一枚ずつの絵に力があった。おなかがたいらで(笑)スリムなジョン・ウェインが、ぴかぴかに輝いている。誰かがブレークしてスターになる作品は、ずっとあとになって時代の文脈を知らずに観ても「そうだろうな」と不思議になっとくがいく。もちろんそのひとがなにかをもっているのだろうけれど、監督や撮影スタッフなど、現場もこぞって「この若いのをスターにしよう」という意気ごみでつくっているのではないかしら。映った瞬間、なにかが伝わる。その一瞬のために、たくさんのひとが全力をつくしたにちがいない作品。

駅馬車が襲われる銃撃シーンなど、たしかに斬新なカメラワークだったのだろう。いまみてもこわい。ただ、その映画としての価値とはべつに、女性や民族的少数者のえがきかたは、正直もっとこわかった。馬など動物への接しかたもそう。これほどの偏見に貫かれた時代に生きることは厳しいと、やはり思う。娼婦にたいする視点など、モーパッサンと変わらない。人物の類型性も徹底的だった。もちろんこれには、アメリカの「時代劇」としての要素も大きそう。

とはいえ映像という複製芸術では、多くのひとびとが特定の作品の特定の箇所について批評し、議論をおこなうことができる。「西部劇」は定型を醸成することにも、それを改善することにも力をもってきた。なにを、どう変えたいか。そこからさきは、観たがわの仕事になる。時代の価値観はフォードの罪ではない。



メモリータグ■夫が負傷したという知らせに、ばったり気絶する中尉夫人。唖然として見ていると、なんと次の場面では赤ちゃんが産まれます。二度びっくり~。赤ちゃんをとりあげるので、大量のコーヒーを飲んで酔いをさますアルコール中毒の医師がリアル。