アナザーカントリー / マレク・カニエフスカ
90 min UK
Another Country (1984)
Directed by Marek Kanievska, 1952- London, England, based on a play by Julian Mitchell. Cinematography by Peter Biziou. Performed by Rupert Everett (Guy Bennett) and Colin Firth (Tommy Judd).
冷戦期の亡命者、ガイ・バージェス(Guy Burgess)をモデルにした作品。とはいえかれの活動はいっさい描かれない。設定は1930年代のパブリックスクールで、バージェスの出身校とすればイートンなのだろう。たとえば尾崎秀実さんの一高時代を題材にしたような感じかもしれない。主人公は最上級生で構成される監督生選びの、政治的抗争に敗れる青年としてえがかれる。映画としては大学時代くらいまでカバーしたほうが充実したかもしれないが、閉塞感は出ている。
映像はBBC的、健全な自然光。マルクスに傾倒する学生を演じたコリン・ファースは適役だった。
冒頭からほどなくの戦没卒業生追悼式で生徒たちがホルストを歌う。And there's another country, I've heard of long ago, Most dear to them that love her, most great to them that know;(そしてもう一つの国がある、はるか昔から耳にしてきた国が。その国を愛する者には最も近しく、その国を知る者には最も偉大な国)という神の国を歌う歌詞が、無神の国ソヴィエトに反転して重ねられるモチーフが全体の核なのだろう。ジュリアン・ミッチェルの戯曲ではこの部分は最後におかれていた。
それにしてもあの歌詞を聖歌として受容することができるのは英国国教会ならではのような気がする。まず自国への絶対愛と全的な犠牲が誓われ、ついで神の国がたたえられる。No King, No bishop という政治家らしい本音かもしれない(笑)。なんであれ音楽的高揚にとらえられて愛国死するよりは、ひどい国歌がいい気もする。ホルストの美しい旋律には、なかなかものすごい詞がついているのだから。
知識層のノマディックな思考傾向がどのような現実的行動に帰着するかは時代の条件によるだろう。のちにバージェスが在学するケンブリッジのトリニティーカレッジの機能は、ピューリタン性やマルクス性の付与にあるのではなく、むしろ土着の社会的視野からの乖離をうながす傾向そのものにあるのかもしれない。その特権的乖離感が学内の精神風土を形成する。そこには帰属性の矛盾がはらまれる。一部のひとびとの脱イギリス的な旅人性は非常にイギリス的だと――あるいはすくなくともしばしばトリニティー的だと――解釈しうるからである。この映画や原作とはべつに、その屈折した帰属意識や傷をおった自己愛や下降指向が開拓する情景をあちこちで読んできた。もう充分に語られた領域でもあるだろう。そもそも特権は語ること、語られることそのもののなかにある。かれらが語りつづける間、そして語られつづけられる間、その特権は消滅することがない。グッドラック、ディア。男の子はたいへんね。
メモリータグ■キャンパスの、ずば抜けた巨木。横に張り出した一本ずつの枝が、なみの樹の幹よりも太い。シイ? 樹齢は何百年だろうか。あなたがたの人生は短いと示唆してくれる、荘厳な樹だった。
I vow to thee, my country, all earthly things above,
Entire and whole and perfect, the service of my love;
The love that asks no question, the love that stands the test,
That lays upon the altar the dearest and the best;
The love that never falters, the love that pays the price,
The love that makes undaunted the final sacrifice.
And there's another country, I've heard of long ago,
Most dear to them that love her, most great to them that know;
We may not count her armies, we may not see her King;
Her fortress is a faithful heart, her pride is suffering;
And soul by soul and silently her shining bounds increase,
And her ways are ways of gentleness, and all her paths are peace.
Words by Sir Cecil Spring-Rice, tune by Gustav Holst.