うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0297. The Mist (2007)

2009年06月27日 | 2000s
ミスト / フランク・ダラボン
126 min USA

The Mist (2007)
Screenplay and direction by Frank Darabont based on a Stephen King. Performed by Thomas Jane (David Drayton) and Nathan Gamble (Billy Drayton).


ああもう、わたしの時間を返して(笑)。
The Green Mile (1999), The Shawshank Redemption (1994) など、ダラボンの実績とはまったく異なる水準の脚本で、まさかと思いながら最後まで観た。まさかのままだった。

物語の全面開示■嵐の翌朝、濃い霧がたちこめて、買い物に出かけた先のスーパーマーケットから出られなくなる人びと。霧のなかには巨大なタコや昆虫やエーリアンさんたちがいて、人が外に出ると襲ってくる。店内では恐怖のあまり仲間割れが始まり、狂信的な女性に帰依した人びとが生贄を求め始める。たまらず車で外へ逃げ出した主人公たちも霧のなかでガソリンが切れてしまう。タコさんたちに襲われるよりはと、主人公が同乗者や最愛の息子を撃ち殺したとたん、霧が晴れてきて、軍に救出された人々をのせたトラックがかたわらを通りすぎていく。完。ああなんというタコ映画。



メモリータグ■あのかわいらしい少年を殺さないでくれれば、全てゆるしたのに。この映画はそれでも、その少年を演じたネーサン・ギャンブルの表情が印象に残ります。




0296. The Andromeda Strain (2008)

2009年06月24日 | 2000s
アンドロメダ・ストレイン / ミカエル・サロモン
180 min USA

The Andromeda Strain (2008) TV
Directed by Mikael Salomon. Robert Schenkkan (teleplay). Based on a novel by Michael Crichton. Cinematography by Jon Joffin. Performed by Benjamin Bratt (Dr. Jeremy Stone), Eric McCormack (Jack Nash), Daniel Dae Kim (Dr. Tsi Chou).


さまざまな弱点はあるけれど、脚本にある程度広がりを保った展開力があって、これは科学畑の原作があるだろう……と思いながら見ていて、そういえばこのプロットとナラティヴのスタイルはマイクル・クライトンだと気づく。そして突然『アンドロメダ病原体』だと気づいた。鈍いですね。

地球外生命体の共同知の脅威と、それに対抗するための時間通信がひとひねりついている。原作はいまチェックすると1969年だそうで、わたし自身、伝染病による地域隔離の冒頭あたりがぼんやり記憶に残っているだけながら、発表当時は斬新だったろう。無数の後続類似作によって消費しつくされた結果、いま見ると既視感ばかりかもしれないけれど、クライトンが最初だったアイデアがずいぶんあるのでは? そこはきちんと評価する必要がある。現場・中枢・周辺という三点進行技法も早いうちから身につけていたのだろう。

映像は1971年の劇場版ではなく、最近のリメークによるテレビ用作品。科学者五人は全員がマイノリティーに設定されている。映像はふつう。二回連続放映だったらしく、かなりの長さがある。



メモリータグ■ダクトから上階に脱出する科学者たち。なぜごみが降ってくるのかしら?




0295. 墨攻 (2006)

2009年06月20日 | 2000s
Muk gong / Chi Leung 'Jacob' Cheung
133 min China | Japan | South Korea | Hong Kong

墨攻 (2006) aka. The Battle of Wits
制作・監督・脚本:ジェイコブ・チャン、原作:酒見賢一、森秀樹、久保田千太郎、撮影:阪本善尚、音楽:川井憲次、衣装:トン・ホアミアオ、出演:アンディ・ラウ(革離)、ファン・ビンビン范冰冰(騎馬隊長・逸悦)、チェ・シウォン(梁王子・梁適)、アン・ソンギ(趙軍総大将・巷淹中)| Written and directed by Chi Leung 'Jacob' Cheung based on stories by Ken'ichi Sakemi, Hideki Mori and Sentaro Kubota. Cinematography by Yoshitaka Sakamoto, music by Kenji Kawai. Costume Design by Huamiao Tong. Performed by Andy Lau (Ge Li), Bingbing Fan (Cavalry Chief Yi Yue), Si Won Choi (Prince Liang Shi) and Sung-kee Ahn (General of Liang Xiang Yan-zhong).


大国・趙に侵攻されようとしている梁城に、墨家の革離が到着して城を守る。禁欲的な原作の淡々とした筆致を、また独自の魅力でふくらませた。映像も美しい。脚本から手がけたジェイコブ・チャンのセンスは、酒見さんのタッチと相性がよかったにちがいない。竹筒で地中の音をきくディテールも愉しい。そもそも墨者の篭城戦がおもしろくないはずがないのです(笑)。コミック版は未読なので、具体的にどの部分がそこに依拠しているかはわからないのですが……。



メモリータグ■「歩けませんか?」と尋ねられて思いきり横に首をふる娘。せっかく好きなひとに背負われているのだから、歩けないにこしたことはない。





0294. Another Country (1984)

2009年06月17日 | 1980s

アナザーカントリー / マレク・カニエフスカ
90 min UK

Another Country (1984)
Directed by Marek Kanievska, 1952- London, England, based on a play by Julian Mitchell. Cinematography by Peter Biziou. Performed by Rupert Everett (Guy Bennett) and Colin Firth (Tommy Judd).


冷戦期の亡命者、ガイ・バージェス(Guy Burgess)をモデルにした作品。とはいえかれの活動はいっさい描かれない。設定は1930年代のパブリックスクールで、バージェスの出身校とすればイートンなのだろう。たとえば尾崎秀実さんの一高時代を題材にしたような感じかもしれない。主人公は最上級生で構成される監督生選びの、政治的抗争に敗れる青年としてえがかれる。映画としては大学時代くらいまでカバーしたほうが充実したかもしれないが、閉塞感は出ている。

映像はBBC的、健全な自然光。マルクスに傾倒する学生を演じたコリン・ファースは適役だった。

冒頭からほどなくの戦没卒業生追悼式で生徒たちがホルストを歌う。And there's another country, I've heard of long ago, Most dear to them that love her, most great to them that know;(そしてもう一つの国がある、はるか昔から耳にしてきた国が。その国を愛する者には最も近しく、その国を知る者には最も偉大な国)という神の国を歌う歌詞が、無神の国ソヴィエトに反転して重ねられるモチーフが全体の核なのだろう。ジュリアン・ミッチェルの戯曲ではこの部分は最後におかれていた。

それにしてもあの歌詞を聖歌として受容することができるのは英国国教会ならではのような気がする。まず自国への絶対愛と全的な犠牲が誓われ、ついで神の国がたたえられる。No King, No bishop という政治家らしい本音かもしれない(笑)。なんであれ音楽的高揚にとらえられて愛国死するよりは、ひどい国歌がいい気もする。ホルストの美しい旋律には、なかなかものすごい詞がついているのだから。

知識層のノマディックな思考傾向がどのような現実的行動に帰着するかは時代の条件によるだろう。のちにバージェスが在学するケンブリッジのトリニティーカレッジの機能は、ピューリタン性やマルクス性の付与にあるのではなく、むしろ土着の社会的視野からの乖離をうながす傾向そのものにあるのかもしれない。その特権的乖離感が学内の精神風土を形成する。そこには帰属性の矛盾がはらまれる。一部のひとびとの脱イギリス的な旅人性は非常にイギリス的だと――あるいはすくなくともしばしばトリニティー的だと――解釈しうるからである。この映画や原作とはべつに、その屈折した帰属意識や傷をおった自己愛や下降指向が開拓する情景をあちこちで読んできた。もう充分に語られた領域でもあるだろう。そもそも特権は語ること、語られることそのもののなかにある。かれらが語りつづける間、そして語られつづけられる間、その特権は消滅することがない。グッドラック、ディア。男の子はたいへんね。



メモリータグ■キャンパスの、ずば抜けた巨木。横に張り出した一本ずつの枝が、なみの樹の幹よりも太い。シイ? 樹齢は何百年だろうか。あなたがたの人生は短いと示唆してくれる、荘厳な樹だった。

I vow to thee, my country, all earthly things above,
Entire and whole and perfect, the service of my love;
The love that asks no question, the love that stands the test,
That lays upon the altar the dearest and the best;
The love that never falters, the love that pays the price,
The love that makes undaunted the final sacrifice.

And there's another country, I've heard of long ago,
Most dear to them that love her, most great to them that know;
We may not count her armies, we may not see her King;
Her fortress is a faithful heart, her pride is suffering;
And soul by soul and silently her shining bounds increase,
And her ways are ways of gentleness, and all her paths are peace.

 

Words by Sir Cecil Spring-Rice, tune by Gustav Holst.

 





0293. The Magnificent Seven (1960)

2009年06月13日 | 1960s
荒野の七人 / ジョン・スタージェス
128 min USA

The Magnificent Seven (1960)
Directed by John Sturges, screenplay by William Roberts based on a script by Akira Kurosawa, Shinobu Hashimoto and Hideo Oguni. Cinematography by Charles Lang, music by Elmer Bernstein. Performed by Yul Brynner 1920- (Chris), Steve McQueen 1930- (Vin), Charles Bronson (Bernardo), Brad Dexter (Harry Luck), James Coburn (Britt), Horst Buchholz (Chico) and Robert Vaughn (Lee).


ユル・ブリナーはロシア系だと初めて知った。いまみても強い風貌で、『王様と私』が映画化されて一挙に世界的なスターになったのが1956年、この作品のわずか4年前らしい。スタージェスの演出は、ていねいで聡明そうな印象。銃の扱いはちょっとびっくりするけれど、1960年代はこうなのだろう。この3年後に The Great Escape (1963) 『大脱走』を撮っている。



メモリータグ■マックィーンは馬に乗っていても上体がほとんど揺れない。みるからに敏捷そうなひとですね。





0292. ピアニスト (2001)

2009年06月10日 | カンヌ映画祭審査員大賞

ピアニスト / ミヒャエル・ハネケ
131 min Germany | Poland | France | Austria

La pianiste (2001)
Written and directed by Michael Haneke based on a novel by Elfriede Jelinek. Cinematography by Christian Berger. Performed by Isabelle Huppert 1953- (Erika Kohut), Benoît Magimel (Walter Klemmer) and Annie Girardot (The Mother).


ハネケをもう一作見た。四年後のCache(隠された記憶)のほうが構成は鋭いものの、演出の技術と執念は共通している。適宜カットを割って経過をみせていき、緊張をもとめる箇所では執拗な長回しで臨場感をつくる。主人公のピアニストが玄関ホールに横たわってからの約五分四〇秒はワンカットで撮っている。ここが全編の最深部で、十全に酷薄な効果をあげていた。2001年カンヌ審査員グランプリGrand Prize of the Jury)。パルムドールはモレッティの『息子の部屋』、審査員長はリヴ・ウルマン。

支配的な母親と深刻な相互依存の関係にあり、他者と肯定的な関係を築けない主人公の言動を、脇から客観視するような冷たいカメラワークでみせていく。観客を疲れさせつつ、彼女の性的な齟齬をつうじて不毛な内面を掘り下げることが主眼だと思うが、境界的な人格をえがくテーマそのものは今日では焦点になりにくいだろう。したがって描写の強度と独自性が勝負になる。

いかにもかたくなな中年の女性に、なぜ「健全な好青年」が惹かれるのかという動機づけはやや弱い。ここはあとひと筆深くいれてほしかった。教え子たちの敬意も、この女性の音楽的解釈になにかしら優れたものがあることが理由だとすれば、この一連のふつうの音では足りない。

二本見ると、語り口はやや想定内という感じもある。イェリネクの原作は未読。設定はウィーン、言語はフランス語。二作をみた範囲では、この確立した手法と限定的なテーマをつづけると縮小再生産にかたむきそうな気配も感じる。削ぎ落とすタイプの作り手だからだ。この映像作家は、ホリングハーストなどを映像化すると案外タッチがあうかもしれない。あの饒舌な文体をうまく濾過した冷酷な作品が撮れそうな気がする。



メモリータグ■映像店の個室で屑かごのティッシュをひろい、ビデオをみながら鼻にあてて匂いをかぐ主人公。



0291. Fire Over England (1937)

2009年06月06日 | 1930s

無敵艦隊 / ウィリアム・ハワード
92 min UK

Fire Over England (1937)
Directed by William K. Howard. Based on a novel by A.E.W. Mason, 1865- UK, Performed by Laurence Olivier (Michael Ingolby) and Vivien Leigh (Cynthia).


エリザベス一世ものの定石を知ることができる。真珠好きで気が短く、レスターを頼り、病身のバーリーにスープを飲ませるといった逸話が織り込まれるほか、空砲の暗殺未遂や、アルマダ迎撃でのティルベリー演説が出てくる。

まだ若いローレンス・オリヴィエの冒険活劇で、スパイになったり火船攻撃の指揮をとったりスペインの姫にマドリガルを歌ったりする。容姿第一の俳優だったとわかる。というより、もとからこのひとの大仰なスタイルが苦手なのだ。ハムレットの三幕三場で笑ってしまうくらいなので、辛いのはおゆるしを。

ヒロインはバーリーの架空の娘という設定で、ヴィヴィアン・リーがあてられている。女王にひっぱたかれる落ち着きのない女官を演じていた。のちの Elizabeth The Golden Age の、ローリーとスロックモートンの描写は案外これが原形なのかもしれない。



メモリータグ■男性の衣装はパンプキン型のホーズを比較的忠実に再現している。





0290. Cache (2005)

2009年06月03日 | 2000s

隠された記憶 / ミヒャエル・ハネケ
117 min France | Austria | Germany | Italy | USA

Caché (2005)
Written and directed by Michael Haneke, 1942-. Cinematography by Christian Berger. Performed by Daniel Auteuil (Georges Laurent), Juliette Binoche (Anne Laurent), Lester Makedonsky (Pierrot Laurent) and Daniel Duval (Pierre).


最小限にしかカメラをふらない長回しの映像を、緻密に呼吸させる技術をもっている。ワンカットで撮っていくシーンがかなりあり、見た目よりはるかに手間がかかっているだろう。映像としての美しさはほとんどない。テレビの出身だろうということは冒頭で直観した。光が平板で、絵は浅い。だがそういう文体なのだ。

おそろしく地味だが、異様な自信が感じられる作家で、冒頭からそのことにもっとも驚いて見ていた。この作品ではカンヌ監督賞などを得ていること、そこまでに受賞を積み重ねていることなどはあとで知った。ミュンヘン出身の作家で第一言語は南のドイツ語らしいが、フランス語で撮っている作品が複数ある。

隠し撮りをする何者かにつきまとわれる家族の話である。相手の姿は最後までみえない。家庭が揺らぐじわりとした不安を醸して、帰結なく終わる。とはいえきちんと段階的に深度を強めて、しかるべき一撃を入れている。他者に覗かれることをつうじて、主人公は自己の内面を覗くことになる。原題は「隠されたもの」。音楽はない。



メモリータグ■仕事部屋だけでなく、食堂にも本を詰めこんで書斎化している家の中。