うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0082. Romeo and Juliet (1968)

2005年10月30日 | 1960s
ロミオとジュリエット/フランコ・ゼフィレッリ

Romeo and Juliet (1968)
Directed by Franco Zeffirelli. Cinematography by Pasqualino De Santis and costume design by Danilo Donati. Leonard Whiting as Romeo, Olivia Hussey as Juliet, John McEnery as Mercutio, Milo O'Shea as Friar Laurence, Pat Heywood as The Nurse, Keith Skinner as Balthazar.


数十年ぶりに観た。もとの台詞を活かしながらリアリティーを深めていくのはおそろしくむずかしいことだと思うけれど、地の日常的な台詞のあいだにシェイクスピアの原文を引用のように挿み込んで使うことで、幼いカップルが、習いたての古典を口ずさんで興奮しながらやりとりをしているような感じになっている。子どもたちはそういう遊びをよくする。

成功している大きな要素のひとつは、やはり主役の実年齢だろう。そのみるからに無防備な、幼い顔。おかげで見ている側も、子どもたちがおかれた状況がいかにも不安定であることに引き込まれる。短く簡素な結婚式のシーンではこちらが動揺してしまい、自分で驚いた。ままごとのようなあの行動と、そのあと待ち受けるに決まっている現実との巨大なギャップに対して、おとなだけがみてとれる切なさのようなものがあったからだと思う。つまりこちらのほうが、それがわかる程度に年をとったのね(笑)。子どもの頃に読んだときは、あの筋だてをおよそ間抜けなものとして記憶したのだから。あの「結婚式」は、おたがい相手に触りたくて欲しくてたまらないティーンエージャーの、動物のような性欲を容認するための最低限の儀式だという意味が、ようやく理解できました。

Was ever book containing such vile matter
So fairly bound? O that deceit should dwell
In such a gorgeous palace!



メモリータグ■墓に入るためにゴースをかけられるジュリエット





0081. グラディエーター (2000)

2005年10月28日 | 米アカデミー作品賞and/or監督賞

グラディエーター / リドリー・スコット

Gladiator (2000)
Directed by Ridley Scott. Written by David Franzoni, costume designed by Janty Yates. Russell Crowe as Maximus, Joaquin Phoenix as Commodus, Connie Nielsen as Lucilla, Oliver Reed as Proximo, Richard Harris as Marcus Aurelius, Tommy Flanagan as Cicero, Derek Jacobi as Gracchus.


主人公のマクシマスが死んでいくときに広がる光景が出色だった。壁がつづき、扉があく。むこうに家があり、家族が微笑している。観ているとはげしい既視感があって、あの地つづきの死をみたことがあると思う。なぜあんな光景が撮れるのだろう? あれを誰が見たのだろう? 脚本家? 監督? 経験や論理では絶対に導けないシーンの一つ。

全体はローマ帝政期、マルクス・アウレリウス(121-180)の時代背景を巧みに使った剣士の物語。脚本がよく、リドリー・スコットはのっている。キケロのトミー・フラナガンはやや軽かったかもしれないけれど、配役もよかった。2001年米国アカデミー賞を5部門で得ている。作品賞・衣装デザイン賞・主演男優賞(ラッセル・クロウ)・録音賞・視覚効果賞。この年の監督賞はソダーバーグの『トラフィック』だった。



メモリータグ■酷い死に方をするに違いない闘技場へ今送り込まれようとする、にわか仕立ての剣士たち。立った両足の間から激しく尿が落ちる。



0080. Bullitt (1968)

2005年10月26日 | 1960s
ブリット/ピーター・イェーツ 米

Bullitt (1968)
Directed by Peter Yates based on the novel by Robert L. Fish, title designed by Pablo Ferro. Steve McQueen as Frank Bullitt, Robert Vaughn as Walter Chalmers, Jacqueline Bisset as Cathy, Robert Duvall as Weissberg.


あらためて思うけれど、いい敵役は貴重。ロバート・ヴォーンは品がありました。最近の俳優でこれはと思うのはホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)くらい。『グラディエーター』で邪悪な皇帝を演じていて、こちらに迫る力があった。

ともあれブリット。愛されたスター、マックイーンの代表作の一つ。二言目にはfuck, shit満載のたのしい刑事物です(笑)。証人の警護を依頼されたものの、対象者は死亡。上層部から圧力をかけられつつ個人的な勘で真相にたどりつく、という方向は刑事物の約束どおりだろうけれど、いま見てもダレないのだから、当時としてはずいぶんタイトな編集だったはず。パブロ・フェロ(1935-)のタイトルデザインもしゃれていた。最初はソウル・バス(Saul Bass, 1920-96)かと思った。

あえて突っ込みをいれるなら、あいかわらずマチョーな一九六〇年代末の仕立てなので、恋人役は理想像そのもののひかえめな美女。疲れて帰ればベッドで裸で待っていてくれるし、車がないといえばおしゃれなスポーツカーで送り迎えをしてくれるし、朝食につきあわなくてもうるさくいわず、ただ心配そうで、でも殺人現場をみれば衝撃をうけて疑問を言語化する知性と繊細さがある。およそリアリティーはないけれど、要はあなたを愛していますって……(笑)。いいなあ。でも相手がマックイーンだから、しょうがないなあ。ところで彼女はかなり訥々とした英語。どこの出身?と思ったらジャクリーヌ・ビセット。そういえばそうだわ、あの懸命な話し方。なつかしかった。



メモリータグ■道路脇、風になびく草原。「あなたを理解していると思っていたけれど、わからなくなったわ」なんてふるえながら静かに話す美しいガールフレンド。こういうの、村上春樹さんの作品世界の原点じゃないかしら。





0079. The Looking Glass War (1969)

2005年10月22日 | 1960s
鏡の国の戦争/フランク・ピアソン 米

The Looking Glass War (1969)
Directed by Frank Pierson based on the novel by John Le Carre. Christopher Jones as Leiser, Anthony Hopkins as John Avery, Pia Degermark as the girl, Ralph Richardson as LeClerc, Paul Rogers as Haldane.


A British spy who sends a Polish defector to East Germany to verify missile sites. Laughs. リアリズムというものが根本的に侮蔑されていた時代の、気の毒なスパイ映画。敵国に潜入してからのちの展開はまったくのファンタジーで、ロードムービーとヌーヴェルバーグの影響に翻弄された信じがたいものになる。アンナ・カリナをコピーしたようなメークの美女が、突然子ども連れで登場して主人公を助けてくれたり、思いつきでトラックを湖にひたしたり、ドイツ警察がホテルを世話してくれたりする。機密の最新兵器であるはずのミサイルは、夜中にホテルの脇の一般道路を覆いもなしで通ってくれるので窓からよく見える。

もともとルカレの原作は、理不尽な時代錯誤の行動をえがこうとしたかなり狙いの難しい作品で、評価が割れるものだと思う。それにしてもこの映像化は斬新だった。なお若いころのアンソニー・ホプキンスが脇で登場している。

カリナ系の謎の美女はピア・デゲルマルク。「みじかくも美しく燃え」(1967)でデビューし、その年のカンヌで主演女優賞を得ている。この「鏡の中の戦争」での役は、もったいないほど意味不明だった。奇想天外もここまでくると楽しめたにせよ、あれでは小児的な妄想の具象化にしかみえない。「ヴァニシング・ポイント」で、主人公を誘うブロンドのヌードのオートバイライダーとも共通する記号を感じる……それは誘われたいでしょう、多くのオトコの子は。でもそれなりに説得力のある文脈をつくれないと、こわいだけかも(笑)。



メモリータグ■夕日の湖になかば沈んでいくトラック。




0078. The Ring (2002)

2005年10月13日 | 2000s
ザ・リング/ゴア・ヴァービンスキー

The Ring (2002)
Directed by Gore Verbinski based on the novel by Koji Suzuki and screenplay by Ehren Kruger. Cinematography by Bojan Bazelli. Naomi Watts as Rachel Keller, Martin Henderson as Noah Clay, Brian Cox as Richard Morgan, Shannon Cochran as Anna Morgan.


ロケ地はとてもよかったし、映像としてもクールに撮れている。牧草地と廃屋にちかい木造の小屋は個人的にも惹かれる。リメークだけあって脚本は完成度が高い。最後を調和的に終えるかホラータッチで終えるかは趣味の問題、あるいは興業性の問題かもしれない。ティーンはホラーを好むだろう。

ナオミ・ワッツは「マルホランド・ドライヴ」で繊細に秀逸に撮れていたので期待していた。こんなに凡庸に撮れるものだろうか。農場主を演じたブライアン・コックスは「トロイ」でアガメムノンを演じたがっしりした俳優。



メモリータグ■広い草地の中央の井戸。