或る犯罪の物語 / アリババと四十人の盗賊 / フェルディナン・ゼッカ
Histoire d'un crime (1901)
Ali Baba et les quarante voleurs (1902)
Directed by Ferdinand Zecca, 1864 - 1947, France.
やはり映像創世記の制作者の一人、フェルディナン・ゼッカを二作。『ある犯罪の物語』(1901年)は上映時間5分の作品。男が捕らえられ、ギロチン室に連れて行かれて終わる。『アリババと四十人の盗賊』(1902年)はもうすこし複雑な構成で、アラビア風の踊り――というかオリエンタリズムの踊り――が挿入されたりして、場面数が多い。
屋内なので、光はリュミエールの繊細な自然光に遠く及ばない。着想も舞台演劇の範囲を出ない。劇場内でステージのまえにカメラを固定した状態で、モーションも水平的。ひとの動きの多くが左右に限定されている。舞台の上手・下手(かみて・しもて)という空間認識なのだろう。奥行きを使った動線がない。新しい技術に過去の内容を流し込んだ単純な例で、この文脈におくと、同時代のメリエスのずば抜けた異常さがわかる。そしてリュミエールの卓越も。
それでもゼッカは、共同制作もふくめIMDBにリストされているだけで158本もの作品をのこしている。もとはパリのカフェで娯楽音楽を演奏していた人だったらしい。映画のプロデュースを手がけていたシャルル・パテ(Charles Pathe)に雇われ、1900年のパリ博覧会で展示館のセットアップをしたことがきっかけで映像制作に転じた(Ref. IMDB, Wikipedia)。技法や表現の斬新さはなくても、多くのひとを愉しませ、映画が広がっていくことに貢献した一人だろう。
さまざまな制作者の手でちいさな作品が作られていったこの二十世紀初頭をへて、第一次世界大戦期に入るといきなり超大作『イントレランス』が出る(Intolerance, 1916)。うーん。その発展の急激さには、やはり圧倒される。そこまでの、どこか牧歌的な手づくりの映像水準に対してある種の「二十世紀性」が爆発的に押し寄せてくるのだ。単純化していえば、最初の四半世紀に数人の天才がばたばたと飛躍的な仕事をして映像の語法はだいたい完成してしまったらしい――大戦前のリュミエールとメリエス、大戦後のグリフィスとエイゼンシュテイン。
メモリータグ■小型の室内ギロチン。ひとを縛り、テーブルのうえにうつぶせに滑らせて、刃の下に首を出させる。よく似たものが『白バラの祈り』で使われていた。ドイツ軍を批判したドイツ人の少女が処刑される場面だった。