うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0321. American Gangster (2007)

2009年12月31日 | 2000s
アメリカン・ギャングスター / リドリー・スコット
157 min USA

American Gangster (2007)
Directed by Ridley Scott. Written by Steven Zaillian based on articles by Mark Jacobson. Cinematography by Harris Savides. Art Direction by Nicholas Lundy. Performed by Denzel Washington (Frank Lucas), Lymari Nadal (Eva) and Russell Crowe (Richie Roberts).


東南アジアの村落の、一面のケシ畑の可憐さに息をのむ。映像はこのシーンが群を抜いて美しく、全編のかなめになっている。大量のヘロインを買いつけるためにこの奥地を訪れるのが、ギャングスターのフランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)。時代はベトナム戦争末期の1970年頃で、調達された純度百パーセントのヘロインは、なんとベトナム派兵の米国空軍輸送機にひそかに積み込まれ、大量に、定期的に米国に輸送されはじめる――それも戦没兵の遺体を運ぶ棺にいれて。

実話だという。たしかにこの設定だけで映像にしておく価値がある。あの当時、ほとんどファッションとして中流・上流の青年たちにまで浸透し、多くの文学作品にえがかれることになったヘロインの大流行の、背景を知ることができる。

こうして、高品質のヘロインを安価に安定供給する、産地直送の手法が確立された。ブルーマジックというブランド名を冠し、末端価格はひと包み10ドルというから、いまの実勢価値で2000円くらいだろうか。それまでのイタリア系マフィアの古い収益体質から脱し、「価格破壊」と共に新しいビジネスモデルを導入した「アメリカらしいやくざ」の物語である。おびただしい警官や司法関係者が莫大な賄賂をうけとっているため、告発もなされない。

この状況を暴露していく刑事を演じたのがラッセル・クロウ。この映画はギャングスターのデンゼル・ワシントンが品よくスーツを着こなした実業家の雰囲気で、万事にだらしない警官のラッセル・クロウのほうがはるかにやくざに見える。その対称性がキャスティングの意図だったろう。二人の位置は、結末にかけてじりじりと逆転していく。オリジナルの上演時間は3時間近い。ビデオは20分ほど短縮されている。

デンゼル・ワシントンは粗暴な場面を演じるには端正すぎるかもしれない。それでも健闘していた。



メモリータグ■ベトナムの奥地に遡行する深い山河。空気がけぶっている。





0320. スカイ・クロラ (2008)

2009年12月25日 | 2000s
The Sky Crawlers / Mamoru Osii
121 min

スカイ・クロラ (2008)
監督:押井守、美術監督:永井一男、製作総指揮:奥田誠治・石川光久、演出:西久保利彦、キャラクターデザイン:西尾鉄也、プロデューサー:石井朋彦、脚本:伊藤ちひろ、原作:森博嗣


背景美術がとてもいい。これは美術監督の永井一男さんの力が大きいのだろう。とにかく法外に時間と人手と費用をかけた絵づくりをしている。どこがスポンサーだったのだろう。ざんねんながら脚本、動画、人物画などは弱く、日本映画製作者連盟が発表した2008年の興行収入リストでは上位50位以内に入っていない。52位の作品の収入が10億円なので、それ以下ということになる*(ウィキペディアによると7億円)。

*『日本映画製作者連盟(映連)』「2008年映画興行収入」
http://memorva.jp/ranking/sales/movie_sales_2008.php

大友克洋さんが2004年に発表した『スチームボーイ』の興行記録が11億6000万円だったこととくらべると――あれはより広い範囲に訴求しておかしくない作品だったにもかかわらず、プロモーションに難があった――この作品の結果は比較的理解しやすい。予告編と本編の印象も変わらなかった。

7億円を劇場チケットの標準価格1800円で割れば約40万人。見るひとは見たろう。ここまで個人的な嗜好の強い作風としては、じゅうぶん成功した数字に思える。かりに押井さんのコアな観客層をざっとこの半数と考えるなら、見込める収入は3.5億。これにビデオレンタル料を加算すれば妥当だろうか。こんごは制作費を2億円程度におさめる前提で制作設計をたてれば、作りたいように作れていいかもしれない。