うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0388. 英国王のスピーチ (2010)

2013年02月23日 | 米アカデミー作品賞and/or監督賞

英国王のスピーチ / トム・フーパー
118 min UK | USA | Australia

The King's Speech (2010)
Directed by Tom Hooper 1972-. Written by David Seidler. Cinematography by Danny Cohen. Performed by Colin Firth (King George VI), Geoffrey Rush (Lionel Logue), Helena Bonham Carter (Queen Elizabeth), Guy Pearce (King Edward VIII), Derek Jacobi (Archbishop Cosmo Lang). Estimated budget: $15,000,000. USA Gross:$138,795,342 (10 June 2011).

いってしまえば、たかだが「王の吃音」。こんな題材で脚本を書いた執念と執筆技術に驚く。そこに世界的な市場があるということにさらに驚くけれど、このみごとな英国プロパガンダ脚本を腕のいい監督がていねいに演出したという話は耳にしている以上、できばえは想定内というしかない――コリン・ファースが完璧にやってのけることもふくめて。

たとえば病弱だった大正天皇が公務をこなせるかどうかという題材で世界的な大ヒット作品を作れたらたいしたものだけれど(できないわけではない)、それなりの離れわざが必要になる。

兄のエドワード八世をガイ・ピアースが担当していて、うまく軽薄さを出していた。映像の光や編集のリズムはまっとう。2011年アカデミー作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞、特別賞。アメリカの英国崇拝も健在らしい。推定予算15億円ほどで、公開年の6月にはすでにアメリカだけで140億円ちかい収入を記録している。

監督のトム・フーパーはオックスフォードで英語学を学んだイギリス人。脚本のデヴィッド・サイドラー同様、おもにイギリスのテレビで仕事をしてきている。サイドラーのほうは受賞当時74歳、史上最高齢だったそう(翌年76歳のウッディ・アレンが『ミッドナイト・イン・パリ』で受賞して記録は更新された)。

 

メモリータグ■なし

 

 


0387. アーティスト (2011)

2013年02月16日 | 米アカデミー作品賞and/or監督賞

アーティスト / ミシェル・アザナヴィシウス
100 min France | Belgium | USA

The Artist (2011)
Written and directed by Michel Hazanavicius, 1967-. Cinematography by Guillaume Schiffman. Film Editing by Anne-Sophie Bion and Michel Hazanavicius. Costume Design by Mark Bridges. Music by Ludovic Bource. Performed by Jean Dujardin (George Valentin), Berenice Bejo (Peppy Miller), James Cromwell (Clifton), Penelope Ann Miller (Doris). Estimated budget: $15,000,000. USA Gross: $44,667,095 (15 June 2012). 

 

報道でも有名になったけれど、やはり上の場面はいい。とくに動画でみると、しっとりした官能性があった。全体はとてもじょうずにできている。おもに1930年前後のハリウッドを扱っていて、演出そのものはもう少しあとの1940-50年代のモノクロ映画のスタイルをふくめて広く参照している気がした。

たとえばトーキーの登場(1927年頃)をふりかえる有名作『雨に唄えば』は1952年。映像でいえばヒッチコックの『汚名』が1946年。あのあたりというか、年配のかたが多いらしいアメリカのアカデミー賞推薦層に絶賛されたことはわかる。マーク・ブリッジズの衣装も品があった。

いずれにせよ凝っている。物語が進むにつれて、なし崩しに現代化していく演出はよくみるけれど、きっちり誠実にやったことがよかった。監督のミシェル・アザナヴィシウスはパリ育ちのフランス人。苗字はリトアニア系らしい。音楽はバーナード・ハーマンをうまくパラフレーズしてみえる(ヒッチコックとよく仕事をしていた作曲家です。『めまい』とか)。

キャストの原形はクラーク・ゲイブルと、デビー・レイノルズかなあ。ゲイブルがジーン・ケリーに扮してタップダンスに挑戦したらと考えると愉快ですね。2011年アカデミー作品賞・監督賞・主演男優賞・音楽賞・衣装デザイン。

 

メモリータグ■やっぱり犬。これは『タンタン』かも。あまりにも完璧に「芸」を仕込まれた犬をみているとどこかで深い疑念と不安を感じるのですが、犬と訓練者がたがいに楽しみながらゲームとして芸をマスターしていくプロセスがあることもわかる。この名優わんこが、かわいがられた幸せな子でありますように。

 


 


0386. ミッション:インポッシブル  ゴースト・プロトコル (2011)

2013年02月09日 | 2010s

ミッション:インポッシブル  ゴースト・プロトコル / ブラッド・バード
133 min USA | United Arab Emirates | Czech Republic

Mission: Impossible - Ghost Protocol (2011)
Directed by Brad Bird. Written by Josh Appelbaum and Andre Nemec based on television series "Mission: Impossible" by Bruce Geller. Cinematography by Robert Elswit. Editing by Paul Hirsch. Production Design by James D. Bissell. Performed by Tom Cruise (Ethan Hunt), Paula Patton (Jane Carter), Simon Pegg (Benji Dunn), Jeremy Renner (William Brandt), Josh Holloway (Trevor Hanaway). Budget: $145,000,000 (estimated). Gross: $209,364,921 (USA) (6 April 2012)

 

各地を移動していく "観光スタイル" が今回も踏襲されていた。クレムリンを爆破し、ドバイの世界最高層ビルをよじのぼり、ムンバイの立体駐車場でクライマックスになる。毎回、前作の弱点をすこしずつ補強して脚本を改善していく批評的な自己認識が興味深い。女性はより能動的になり、主要人物の人格描写の量が増し、全体にコミカルな要素を新しくつけ加えて仕上げられていた。

エピローグや、冒頭まもなくのタイトルデザインには少しはんぱな印象を受ける。音楽は貧しい。それでも本編では「現場の工作員たちが組織のバックアップを受けられない孤立した状況」を設定し、彼らが使える資源を不安定なものに限定することでスリルとパロディー性が演出されていた。

立体駐車場の撮影設計はとても複雑で、CGを組み合わせていると思うけれど、どう使っているのかはとうていわからない。これを撮れる圧倒的な実力にすなおに感心。支持体が動くという動的なアイデアが効果を上げていました。

 

メモリータグ■ドバイの砂嵐。 

 

 


0385. トゥルー・グリット (2010)

2013年02月02日 | 2010s

トゥルー・グリット / イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
110 min USA

True Grit (2010)
Written, directed and edited by Ethan and Joel Coen based on a novel by Charles Portis. Cinematography by Roger Deakins. Performed by Jeff Bridges (Rooster Cogburn), Matt Damon (LaBoeuf), Josh Brolin (Tom Chaney) and Hailee Steinfeld (Mattie Ross).

コーエンの作品では、多くの俳優がまるで別人になる。ここではジェフ・ブリッジズもマット・デイモンもそうで、それまでの役づくりの鋳型が消えて一気に表現が広がってみえた。いかに演出指示が凄いかと思う。脚本も編集も監督自身。とことん「絵が見える」ひとたちなのだろう、さりげないアングルの独創性に何度もはっとさせられる点ではスピルバーグと同水準かもしれない。このひとたちの作品は、一瞬がこわいのだ。ここぞという重い刃の切れ味は比類がない。

物語はかつて晩年のジョン・ウェインが主演した『勇気ある追跡』(1969)のリメーク。父を殺された少女が、保安官をやとって犯人を追跡する。展開はほぼ踏襲されていて、空気はあたたかい。それでもあの楽天的な旧作とは洞察の深さがちがった(くらべるほうが不当ですね)。

しっかりした視覚記号を、きびきびした短めのカット割りで重ねて娯楽作品のリズムを作っていく。ときどきにじむ悪夢のようなユーモアはコーエンならでは。38億円という低予算で、総収入245億円をあげた。アカデミー賞では11部門にノミネートされながら受賞はゼロで、作品賞などは『英国王のスピーチ』が得ている。賞など問題ではない。

少女の表情は完璧。なにより父の遺品の大きな外套をまとわせたことで、彼女の存在理由を観客にいつも意識させている。つまりこの子は「ずっと父親を負っていて」「身の丈に合わない状況にある」。そのけなげさが、的確に表現されている。

主役は人間だけれどクライマックスの鍵は美しい黒馬におかれた。脚がよろめいて力つきていく、その馬の体をえぐる酷い刃先のカットが強烈な臨場感を叩きつけてくる*。劇的必然からいえば最後は老保安官も命が尽きるのがふさわしいと思うけれど、後日譚のゆったりした余韻で終わった。カメラは今回もロジャー・ディーキンス。品のある映像です。

*Imdbの投稿欄によれば、映像は「馬の訓練と巧みな編集によるフェーク」だそう。

 

メモリータグ■高い木の枝に登った少女をさらに背中から俯瞰でとらえる。死体の縄を切って枝から落とすと、太い枝が反発でおおきくしなう。こういう細部が新鮮。