うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0280. Candy (2006)

2009年04月29日 | 2000s
キャンディ / ニール・アームフィールド
108 min Australia

Candy (2006)
Written and directed by Neil Armfield, based on a novel by Luke Davies. Cinematography by Garry Phillips. Performed by Abbie Cornish (Candy), Heath Ledger (Dan) and Geoffrey Rush (Casper).


この作品を、ジェフリー・ラッシュやヒース・レジャーが引き受けた理由はわからない。脚本も演出も平板だが、麻薬中毒が主題なので、オーストラリア社会に対する啓蒙的貢献の意図があったのかもしれない。演者は三人ともいい。タイトルロールのアビー・コーニッシュは懸命に演じていた。

あらすじ:
定職も資産ももたない薬物中毒の若いカップル、ダンとキャンディーが結婚する。夫婦の友人といえるのはドラッグ仲間の大学教授キャスパーだけで、結局、妻が売春をして夫をやしなうことになる。やがて妊娠がわかり、二人で薬物を断とうとするが早期破水が起き、妻は死産分娩で拷問にひとしい苦痛を味わう。立ちなおる道を模索するものの、精神的においつめられて妻は入院、夫はようやく皿洗いとして職をえる。教授は中毒死する。退院した妻に、自分と別れるようにと夫は告げ、妻はすみやかに了解する。



メモリータグ■錯乱した妻が家の壁じゅうに書きつけた、詩とことば。出来ばえはややきれいすぎるが、準備にかけたエネルギーが画面に映りこんでいる。ここはよかった。




0279. The Other Boleyn Girl (2008)

2009年04月24日 | 2000s
ブーリン家の姉妹 / ジャスティン・チャドウィック
115 min UK | USA

The Other Boleyn Girl (2008)
Directed by Justin Chadwick, 1968-, England, written by Peter Morgan based on a novel by Philippa Gregory. Cinematography by Kieran McGuigan. Costume Design by Sandy Powell. Performed by Natalie Portman (Anne Boleyn), Scarlett Johansson (Mary Boleyn), Eric Bana (Henry Tudor), Jim Sturgess (George Boleyn) and Kristin Scott Thomas (Lady Elizabeth Boleyn).


イングランドがカトリック教会と決裂する歴史的な転換をもたらしたヘンリー八世の離婚劇は赤裸々で醜く、起伏に富んでいる。脚本は歴史的な枝葉を大胆に落してコンパクトに脚色した印象をうけた。台詞が凝っている。

監督のチャドウィックは堅実な仕上げをしている。これまでは比較的テレビの仕事が多いらしい。衣装を担当したサンディー・パウェルは、様式性と現実感をたくみにバランスしていた。Gangs of New York (2002), Interview with the Vampire (1994)などを手がけてきたデザイナーである。

姉妹の配役は、すなおで善良な妹にスカーレット・ヨハンソン、計略的で野心的な姉にナタリー・ポートマンがあてられている。姉のほうがはるかに難しい役なので、演技力を優先するならヨハンソンがそちらを演じたほうが凄みが出たように思うけれど、考えかたによるだろう。いずれにしても、エリザベス一世の母、アン・ブーリンを演じたポートマンが主役の扱いである。ヨハンソンはあいかわらず、役と演出に応じて自分をどのようにもみせられる役者で、ここでは美しくない妹という表現に徹している。

映画をはなれてみると、王位継承者は男子という当時の先入観を転覆させきったエリザベス一世は、きわめて貴重な人だった。じっさい皇位継承者が女の子で、なぜいけないのだろう?



メモリータグ■ブーリン家の外壁におい茂る、みごとな赤と緑の蔦。自然な時間の深みがにじむ。姉がフランスから戻ってきた場面、早朝の淡いブルーの海岸のロングショットも印象にのこる。説明的なつなぎのカットを美しく仕上げようとした努力がうれしい。




0278. Michael Clayton (2007)

2009年04月21日 | 2000s
フィクサー / トニー・ギルロイ
119 min USA

Michael Clayton (2007)
Written and directed by Tony Gilroy. Cinematography by Robert Elswit, film editing by John Gilroy, music by James Newton Howard. Performed by Tilda Swinton (Karen Crowder), Tom Wilkinson (Arthur Edens), Michael O'Keefe (Barry Grissom), Sydney Pollack (Marty Bach), George Clooney (Michael Clayton) and Austin Williams (Henry Clayton).


途中で時間を過去に戻して、冒頭から約1時間45分後に話がつながるという編集をしている。だがこの監督の演出技術でそれをおこなうのは冒険だった。この問題をふくめ、いくつかディレクションと編集にめだった不手際があって、情報伝達に混乱が起きている。

脚本のレヴェルは低くない。すなおに時間経過にそった順接で見せれば、観客に必要以上の辛抱を強いずにすんだ。これに加えて、あとすこし補助のカットをはさめばもっとわかりやすく整理できたように思う。全体に、しっかりコンテを描いていれば避けられたと思うことが多い。この監督は絵でものを考えた経験が浅いのではないか。脚本家として優れた仕事をしてきているひとなので、動画の文体はこれから、ということかもしれない。これが監督第一作だとすれば、それはそれで驚く。

いいシーンもある。主人公の法律家マイクル・クレイトンは、長年汚れ仕事ばかりを引き受けてモラルが磨耗し、バー経営の失敗と賭博癖で重い借金を背負っている。そのかれが、友人を悲運の死においやった欺瞞をあばく告発文書を手に入れて、上司にみせにいく。それは上司を致命的な状況に陥らせる文書でもある。ここでその文書を相手につきつければみごとに真人間の行動ということになるのだけれど、ちょうどいれかわりで、主人公は自分の借金を帳消しにする大金をボーナスとして上司から渡されてしまう。主人公は文書を上司にみせる勢いをうしない、ずるずると小切手のほうを取る。情けなさがよく出ていた。

シドニー・ポラックが出資に加わり、主人公の上司として出演もしている。ティルダ・スウィントンが、敏腕で神経質な役員をたくみに演じていた。インタヴューでのうけこたえを鏡のまえで何度も何度も練習する演出は、『エリザベス』でケイト・ブランシェットが演じた同様のシーンを連想させる。



メモリータグ■夜明けの丘に馬が三頭。かわいらしい。ただ、ここも運転者がなぜ車を降りたのか、なぜそこに馬がいるのか、映像の意図がわからなくて混乱した。「運転者が馬をみかけ、ふと惹かれて車を降りる」という見せかたをしたかったなら、まず馬の姿をワンカットはさんで、そこに運転者の視線をあわせておけば伝達できたろう。その馬がそこにいる必然が示されていることも条件になる。そもそも、誰もが馬をみるたびに車を降りるわけではない。画面のなかに映り込む不要な意味を取りのぞき、必要な記号だけを伝えるのは難しい作業だとわかる。ようするに、映像制作者には絵を読む能力がもとめられる。