トラフィック / スティーヴン・ソダーバーグ
147 min USA
Traffic (2000)
Directed by Steven Soderbergh, 1963-. Written by Simon Moore (miniseries Traffik), Stephen Gaghan (screenplay). Cinematography by Steven Soderbergh (as Peter Andrews). Music by Cliff Martinez. Performed by Benicio Del Toro (Javier Rodriguez), Catherine Zeta-Jones (Helena Ayala), Michael Douglas (Robert Wakefield), Don Cheadle (Montel Gordon), Erika Christensen (Caroline Wakefield), Amy Irving (Barbara Wakefield), Dennis Quaid (Arnie Metzger).
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ソダーバーグたちがアメリカで賞をとろうと勝負した作品。脚本も撮影も編集も、それぞれ技術的な難度は高い。複数のストリームを並行させた設計で、演出や音楽は乾いた感じに仕上げようとこころみていた。とはいえ脚本の帰結は9割がた予定調和におさめてしまう。不和だった家族は和解し、犯罪者は失脚する。あと1割を多少宙吊りのまま残すことでそれなりの「芸術性」を確保しておくという計算まで、ハリウッドの手法の域内にある。2001年春の米国アカデミー監督賞(作品賞は『グラディエーター』)。ベニチオ・デル・トロに助演男優賞とベルリン映画祭男優賞、スティーヴン・ギャガンに脚本賞、スティーヴン・ミリオンに編集賞。どれもオスカーのストライクコースという感じだった。
ソダーバーグは同じ年に『エリン・ブロコヴィッチ』を撮っていて、二作品でノミネートされた。若いころの『セックスと嘘とヴィデオテープ』は僥倖の受賞といわれつつもそれなりに印象的なタッチをもっていたけれど、インディペンデント系の映像作家としてスタートしたあと、完全にハリウッドのプロフェッショナルな職人になったひとといえるかもしれない。
主題はメキシコからアメリカに流入している巨額の麻薬。メキシコ国内の利権抗争、アメリカ国内の抗争、全米麻薬対策局長の家族問題(娘が麻薬使用者)という三つの流れで描写されていく。メキシコ内の抗争には警察と軍部と二つの麻薬組織の対立がかかわっているので編集処理はさらに複雑になる。展開の刈り込みかたが大胆でうまかった。そう、あの種の卓越した技巧性を目にすることができる。クレジットをみるとイギリスのテレビシリーズ『Traffik』1989を先行作として参照している。高純度の麻薬を固めてつくったお人形という輸出入偽装には驚きました。樹脂を落として人形を溶かすと、すべて白い粉でできている。
ワンカットの撮影で印象にのこった場面がある。メキシコとアメリカの国境付近。十車線くらいの広いハイウェイは、往路も復路も混雑している。これをアメリカ側から俯瞰で映せる位置にカメラを据えて、まずメキシコへむかって遠ざかる右手の車を見送る。フレームアウトのなりゆきからそのまま左にパンして、逆にメキシコから入ってくる車列の一台にフォーカスしていく。運転しているのはヒロイン。カット。車線が空いているならまだしも、混雑した状態できれいにタイミングをあわせていた。「メキシコ・アメリカ間の麻薬取引のトラフィック」というメインモチーフを視覚的に表現した高度な一枚で、撮影はソダーバーグ自身(aka. ピーター・アンドリューズ)。このひとの強みがよく出ている。
メモリータグ■キャサリン・ゼタ・ジョーンズはたぶん、ほんとうにおめでただったのだろう。ずしりと落ち着いて印象的だった。