今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

地域病院でのローテーション終了と今後の課題

2008-08-31 09:52:36 | 臨床留学
週末の割と楽な当直をもって、地域病院でのローテーション終了です

週明けからは、大学病院の家庭医療科病棟

再来月は循環器病棟

徐々に負荷が増します


大学病院の家庭医療科は、入院患者数も多く

上級レジデントから離れて、ぱっぱと仕事をこなすことを要求されます

プレゼンも、チンタラしていては日が暮れます

それでも一応、メンバーは身内なので寛容ですが

循環器病棟ではよそ者なので、役に立たないと判断されたらクビです

別に、レジデンシーをクビになるわけではありませんが、その病棟では「要らない」と研修打ち切りです

「マジ」です

どの程度そういう前例があるかは知りませんが、

前ディレクターに「そういうこともあるから、来月中に自分に負荷をかけて、スピードアップできるように慣らしなさい」と警告されたので、間違いないでしょう

ミシガン大では、IMGレジデントを殆どみかけませんから、IMGに対する特別配慮など期待できません


これまでは上級レジデントと同じように、ちょっとしたアンチョコだけでその場のアドリブでプレゼンをしていたのですが

やっぱり無理があって、どうしても詰まりがちです

勿論、言語の問題もありますが

学生の時から毎日システムだったプレゼンをして、型を身につけていることのほうが大きいと感じています

感覚的なウエートとしては言語:型への慣れ=40%:60%ぐらいでしょうか?

つまり、仮に同じプレゼンを日本語でしたとしても、そこまで上手にできるとは思えません

日本でプレゼンを多用する前職場に入った頃には、自分はどちらかというと指導する側になっていたので

常にプレゼンされる側

相手のプレゼンの問題点を指摘することはできますが

厳しい環境の中で自分がいざプレゼンするとなると

アドリブではやっぱり難しいのです

ある程度分かっていたことですが、ちょっと本腰を入れて努力しないとヤバいです

つまり事前の準備

労働時間に抵触しない程度に、早めに出掛けて準備しないといけません

実際、アメリカで臨床研修をしている先生の話を聞くと、殆どの方がそうされてきているようですし

それをやらずに、すまそうと思っていたのはやはり甘かったです

みるみる日照時間が短くなっていますので、先週の段階で朝起きると薄暗かったのですが

これからさらに早起きなので、出掛ける頃は真っ暗の

抑うつにならないように、週末は太陽の光をしっかり浴びておきたいと思います

指導スタイル

2008-08-30 18:25:13 | 臨床留学
指導医によって、指導スタイルはまちまちです

ミシガン大の家庭医では、病棟の指導医は1週間おきに交代します

「1週間おきなんて継続性が保たれるのかなあ?」と最初は思っていたのですが、患者さんの平均在院日数が2日程度ですからあまり関係ありません

逆に、様々な指導スタイルと出会えて楽しいです

一番最初の指導医は私よりも年下でしたが、かなりできる先生なうえに、フレンドリーなので仕事も楽しく

毎日のように誰かがミニレクチャーをするようなパターンで楽しく仕事ができました

2番目の女医さんは、どちらかというとレジデントに任せ気味なのですが、

統合医療を専門としており、急性膵炎に対する魚油の論文を引っ張ってきたり、

サプリメントにやたらと詳しく、鉄剤の種類で細かい知識を披露したりと、全く違う味が出ていました

3番目の現在の指導医は、前ディレクターで

何故か大腸カメラも毎週やっている先生です

この先生は病棟大好きで

自他ともにみとめる「マイクロマネージャー」でもあります

一人一人の患者さんの細かい病態まで、細かく把握した上で矢継ぎ早に質問を浴びせてきます

患者さんの病状が良くなっていても、

「現段階で、強心剤を続けないと血圧が保てないのは、先生の説明する病態ではどうしても説明がつかない」

納得のいく説明がつくまで、とことん議論が続きます

かなりの圧力を感じるのですが、別に叱責をされている感じでもなく、知らないうちに思考プロセスが整理されてきます

個人的には、この先生と一緒に働いている時が一番充実していますが

さすがに一週間以上密着していると、きっと疲れてくるのではと思います

またインターンの私には手加減しているようですが、上級レジデントはもっと大変です

「好きなようにやらせてあげるから」と良いながらも

かなり細かいところまで、説明を求められています

先日も当直あけで、その上級レジデントが

「今日は落ち着いていたので、直接話さずにベルですませたいなあ」と言いながら

「今日は新規入院も無く、入院患者さんも落ち着いていました。それではお疲れさまで~す」とベルをうったところ

速攻で電話がかかってきて

「 俺と直接話をしないで、帰ろうとしたな!そうはいかんぞ。まあそれでもNice Tryと行っておこう Hahaha!」

上級レジデントになった後に、彼と仕事をするのも楽しみですが、

インターンの自分にとっては、まずは自分の患者さんのバイタルから薬の変遷の細かいところを完全に把握することが彼と会う前の日課です

何事も極端なのは、国民性なのでしょうか?

2008-08-29 11:29:24 | 臨床留学
全般的に、ポジティブなことばかり書いていますので、たまには苦言的なことも書きたいと思います

もちろんポジティブと言っても、ほとんどが医学教育に関してで

医療保険を含めた医療制度に関しては、やっぱり日本のほうがまだ優れている点が多いと思います

苦言というのは「思いっきりが良すぎる」ということ

先日もちょっと触れましたが、点滴を入れると決まったら怒濤のごとく入れます

絞ると決めたら、怒濤のごとく利尿薬が投与されます

心不全に対するβブロッカーの使い方

痛み止めの使い方

正直、戸惑いの連続です

勿論、全体の方向性の決断に関しては議論を尽くし、理路整然と整理してから行われるのですが

慢性心不全のある高齢者が入院したとして、

いざ「脱水だ」と判断した時の点滴の量には、耳を疑いました

インターンの身ながら、恐る恐る反論を試みましたが

「入れ過ぎで心不全になっても利尿薬を使えば良い」ということで、そのままゴーです

案の定、心不全になってしまったこともあります

一気に片を付けて、入院日数を少なく押さえるという点もあると思います

ただそれだけでは、説明できない思いっきりの良さ、

思いっきりの良すぎさ、があると思うのです

最初からさじ加減が違うというか

二大政党制で、右を向いていたものが、ある朝突然、左を向くこともしょっちゅうある国です

右へ左へ蛇行しながら、国の軌道を変えるために戦争をおこすことも辞さない国です


医療の世界では'Do no harm'という言葉があるはずなのに

どうもやりすぎの気がします


中庸

カイゼン

和をもって尊しとなす

本当の改革ができない


そんな国に育った自分も、そのうちこのトレンドに慣らされていくのでしょうか?

水の出し入れに関しては、再来月が循環器病棟のローテーションなので

この国の循環器医の、水の出し入れ具合をみれば、本当の傾向が掴めるでしょう、きっと

県立大野病院事件で無罪判決

2008-08-26 01:20:54 | 時事ネタ
無罪判決自体が当たり前だということは、数多くの医療ブログや各学会の声明で言い尽くされています

あえてふれません


私が危惧した点は二つ

1. 民事ではなく刑事事件で起訴されたこと自体
2. 遺族感情に便乗して、医師たたきをあおるマスコミ

1点目について

そもそも、このような状況で患者さんや遺族から民事で訴えられるのは、やむを得ないとしても

刑事事件として、起訴されたこと自体が問題です

アメリカでお産をやっている家庭医の指導医に話したところ

「お産で訴えられるのは、アメリカでも多いからねえ~。・・・えっ?民事じゃなくって、刑事?逮捕??」

「Why?」

全く理解できないようでした

家庭医として将来は日本でお産もしたいとの志を持って、渡米しましたが

もし今回の判決が有罪だったとしたら、

そんな国で、しかも産婦人科医でなく家庭医としてお産をしようなどというのは

正気の沙汰ではないかもなあ・・・と思っていたところです


2点目について

これも多くの医療ブログなどで語られてきていることなので、今更なのですが

家族を失った遺族の感情に便乗して

「医療で人間は死なないもの」

不幸な転帰をたどった=医療ミスだ、隠蔽だ

とあおる記事が多く見られます

例えば読売のオンラインニュース
「なぜ事故が」…帝王切開死、専門的議論に遺族置き去り

悲しくなります

単に不勉強なのか、悪意で煽っているのはか分かりませんが

いちいちこんなことで、「読売新聞を取らない」と騒いでいると

とる新聞が無くなってしまいます

メディア報道の偏りについては下記ブログによくまとまっていますので、是非ご覧下さい

日々是よろずER診療
大野病院判決:メディア報道の偏向性を憂う





何となく疲れた先週後半のスケージュール

2008-08-25 21:18:00 | 臨床留学
水曜日 

 午前:大学病院でレクチャー、カンファレンス3つ

  :車いっぱいに荷物を積み込み、
    新しいアパートの入居契約をした後、
    荷物運び込み

 午後:地域病院で19時すぎまで病棟担当
 
  :再度、車いっぱいの引っ越し
    新居の掃除+24時間スーパーで生活道具買い出し
                  (~2時まで)

木曜日

 午前:7時から地域病院で病棟担当

 午後:クリニックで夕方まで外来

 夕方:クリニックのカルテを書く間もなく

    Migrant Clinicへ移動し九時頃まで診療

  :再度車いっぱいの荷物を運び出し+退去する部屋の掃除
     (~1時。近所迷惑を顧みず掃除機をかける)

金曜日


 一日:早朝からERでお産
    その後はICUの重症患者につきあいながら当直へ突入
    電話対応で、無茶な要求を断って患者に怒鳴られる

土曜日

 午前:昼12時過ぎにようやく当直から解放

 午後:部屋の掃除をして、カフェで木曜日の外来のカルテ書き
    
    昨晩どなられた患者応対のカルテ記載が不充分との
    指導医からのメールでへこむ

  :同僚の家でインターン仲間と月に一度のパーティー
    夜遅くまで楽しく過ごすが、さすがに当直あけはしんどい
    家について、Macbookの電源が無いことに気づく
    カフェに忘れたことを確信

日曜日

 午前:Macbookの電源コードが気になり、早朝に起床
    朝一番に朝食もかね、カフェに電源コードを取りにいくが
   「ありません」という予想外の返事に気が動転
   「結構高価なものだから、そりゃ持っていかれるよ」と店の人に言われる

    パソコンの電源が無いと話にならないので
    やむを得ずアパートのとなりのモールにあるMacショップに赴くが、開店は11時から

    自宅に戻り、アパートのジムで運動

    Macショップで新しいコードを購入

 午後:部屋を整理中に、今度は財布が無いことに気づきパニック
    (金の問題ではなく、カードやら免許やら・・・)

    あるわけないと思いつつMacショップに行くと今度は
    親切な人が届けてくれたらしく、無事みつかる
    (さすがマックユーザーと根拠の無い連帯感を感じる)

 夕方:Noviという街まで、ガレージセールのテレビを受け取りにいく

    Noviの新しい和食屋に挑戦(Fumi)
    本当に日本の街角の居酒屋みたいで、大ヒットです




寿司定食、これにみそ汁とサラダがついて30ドル弱



日本で普通に勤務医をしていた時のほうが、実は忙しかったかもしれませんが

久しぶりに、時間に追われた日々でした

土日で続けざまに物をなくしたのは、やっぱり疲れでしょうか?

Migrant Clinic

2008-08-24 20:51:16 | 家庭医療
Migrantとは移民のこと

Chelseaから南へ30分ほど、Manchesterというエリア

トウモロコシ畑が広がる、砂利道にその掘建て小屋(クリニック)はあります



向かって右の建物がクリニック



クリニックの前の道からは、トウモロコシ畑しか見えません


もともとはメキシコをはじめとする中南米から

テキサスを経由して流れ着いた人々が

貧しい労働者として働いています

殆どの人たちはスペイン語しか話せず、保険も無い人が殆ど

そんな住民のためにこのクリニックはあり、毎週木曜日だけやっています

ミシガンの家庭医プログラムからは、交代で指導医が1人、レジデントが2人、診療に参加します

勿論ボランティア

今日は午後の外来が終わってから、このクリニックに来ました

最初の患者さんは37歳で現在38週の妊婦さん

「下腹部が張って、白っぽい液体が出てきた」とのこと

残念ながら、破水かどうかを調べる術がクリニックには無く

4人目の経産婦でもあり、前回もするっと生まれたそうなので

早々に家庭医の産科当直医に診てもらうべく、大学病院に行ってもらうことになりました

大学病院に行くことになったことを、息子に電話していたので、

「家族を家においていくのも不安だろう」と思い、和ませようと話しかけました

私「息子さん何歳?」

妊「12歳」

私「長男?」

妊「ううん、一番下」

私「へ~。上の子は何歳?」

妊「24歳」

私「じゃあ、旦那と2人で行っても家のことは心配ないね~」

って・・・あなた、私より一つだけ年上でしょ・・・

息子が24歳って・・・


次の患者さんは、麦粒腫の若者

英語が通じず、スペイン語を話す看護士さんに通訳をしてもらったのですが、

こちらが一つしか聞いていないのに、2人で1分間以上話しています

で、その返事が「かゆくはないそうです」

「っておい!そんなに短い会話じゃなかっただろうに」

そんなこんなで、普段とは全く違う世界を体験できました

また行きたいと思います

ERでのお産

2008-08-23 16:00:20 | 臨床留学
ある朝7時頃

朝食をとりながら、夜勤のレジデントから、患者さんの引き継ぎをしていました

居合わせたのは夜勤の3年目レジデント、昼勤務の2年目レジデントとインターン(私)の3人

突然夜勤レジデントのベルが鳴り、彼がすくっと立ち上がりました

「いくぞ!ERでお産だ!」

「え?まだヨーグルト食べてないんですけど・・・」と思いながら、あわててついていくと

ERの一室では、女性の雄叫びが聞こえました

もう頭の先が見えています

この病院には小児や産科はありませんので、普通は妊婦がくるはずも無く

看護士は、おろおろしています

当然、胎児モニターなどありません

ERの先生はさすがに、お産のトレーニングを受けていますが

「僕は赤ちゃんのほうをみるので、後は家庭医の先生たちよろしくね」とさっさと部屋の隅に引っ込んでしまいました

上級レジデント2人は、さっさとガウンを着てテキパキとこなしています

自他ともにみとめる戦力外の私は

本来なら1時間後に到着する予定の、家庭医指導医へ連絡です

ポケベルをうってもどると、「おぎゃ~」

もう生まれてしまいました

お産が3人目のお母さんは

「そういえば言ってなかったけど、わたしGBSプラスだから、ペニシリンうっといてね」

「それから、抗生剤の眼軟膏もうやった?」と矢継ぎ早に看護士に指示を出しています

「いや~良かった。とりあえず指導医に、急がなくても良いと報告しよう」と思っていると

「ちょっと良い?僕、夜勤明けで帰りたいから、入院患者引き継ぎたいんだけど」と他のER指導医に引き止められました

これがICUで重症患者と向き合う、長い当直の一日の始まりになろうとは、その時は気づいていませんでした・・・

カルテ記載の翌日持ち越し

2008-08-22 14:09:48 | 臨床留学
ついにやってしまいました

外来カルテ記載の翌日持ち越し

記載と言っても、Dictation(医者が録音して、他の人がカルテに打ち込む)をするか、自分で電子カルテを記入するかは自由です

半日でわずか4人のカルテ記載なのですが、苦戦しています

外来1人のカルテ記載も細部まで求められますので、大変です

徐々にDicationの比率がふえてきて、ようやく最近は4人中3人です

家から電話でDicationもできるのですが、自宅に電話が無いため、

Dication=クリニックで(診療の合間に)録音となります

今日は、午前中はチェルシー病院の病棟

午後に外来

終わってすぐ移動して、Migrant Clinicで21時頃まで診療

家に引き返して、引っ越しです

荷物を運び終わって一息ついたら1時過ぎ

明日も家を6時過ぎには出なければいけないので、さすがにカルテを打ち込む気がしません

って、こんなこと書いてる間に、カルテかけただろうと1人突っ込みです

第二言語での電話コミュニケーション

2008-08-18 22:46:49 | 臨床留学
第二言語での電話コミュニケーションは大変です

今一番困っているのがERからの入院紹介

家庭医療科のポケベルは、私たち一年目レジデントが持っていますので

ERからの入院要請連絡も私たちが受けます

チェルシー病院のERにレジデントはいませんので、ERの先生は皆さん基本的に指導医クラスです

皆さん手慣れた様子で、私たちが電話に出るや否や、一気に病歴をまくしたてます

大声でのすごいマシンガントークです

仮にこれが日本語だったとしても、私はあんなに滔々と電話でプレゼンをすることはできないと思います

受話器から耳を10cmくらい話しながら、必死で聞き取ろうとしますが

通常は一番最初の段階で、簡単な患者プロファイルや、入院の理由に関する情報を提示されます

それが早過ぎてうまく把握できないと

まくしたてている相手を制して、「ところで患者さんは何歳?」などと、聞き直すのも難しく

あとの1、2分は言葉の洪水に流されている自分がいます

結局「まあ、とりあえず見に行きます」とフットワークでカバーすることになります

それができるだけの小さな病院なので、助かっています

田舎の病院の、教育部門でもないERにつとめている医師皆が一様にあのマシンガンプレゼンをできるというのは、

アメリカの医師トレーニングにおける、「プレゼンテーション能力」への成果を感じます

早くああなりたいものですが、その前に完璧に聞き取れるようにならなければいけません


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週末はクリニックでバスをチャーターしてタイガース戦をみてきました

日本のタイガースは調子が良いですが、今年のデトロイトタイガースはまさにダメ虎です・・・

チェルシーの老人医療、福祉の状況

2008-08-17 00:16:57 | 家庭医療
チェルシーはお年寄りの多い田舎町です

近隣にChelsea Retirement Community、要するに老人ホームと老健の複合体のようなところがあり

お年寄りのケアという点では、比較的恵まれている地域です

家庭医療科の先生の中でも、老年科を専門とする先生方がそこの施設を担当している関係で、

チェルシー病院で当直をしていると、頻繁に電話トリアージに相談が入ります

independent living、つまり自立したお年寄りは本人と直接お話をしますし、assisted livingの人は、そこの看護士と話をすることが多いです


看護士は結構レベルが高いので適切な相談が入って、まだ良いのですが

ご本人から直接の電話の場合は、結局本人も自分で状況が説明できなかったりして

「まあ大丈夫だと思うけど、直接診ていないから念のためERに来て下さい」と言わざるを得ない場合があります

昨晩も、盲目のお年寄り患者さんから「一過性のめまいdizziness」の電話相談がありました

印象としては、様子を見ても大丈夫そうなのですが、本人の不安も強いため、ER受診をすすめると

「ERは待たされるから嫌。もうパジャマに着替えちゃったし。」

せめて血圧や脈拍数などが分かれば、もう少し相手を安心させることができるのですが、independent livingに入っているので看護士もいないようです

同じ敷地内の、assisted livingの看護士にバイタルだけでもとってもらおうと、電話番号を探し出して連絡をしたのですが

「担当が違う」と、しかるべき部署に電話をまわされてしまいました

まわされたしかるべき部署は、週末の夜のせいか誰も電話に出ません

結局本人にかけ直し、「施設内の対応に関しては、こちからからは何ともできないので、自分を担当してくれる施設の担当者に一度電話してみて」と言うと

「independent livingは、assisted livingと比べて安いお金しか払っていないから、休日は誰も助けれくれないのよ。ありがとう。あなたはやるべきことをやってくれたわ。結局ここでは、いつもこうなのよ。お金がなければ、誰も助けれくれないのよ。といっても、ここもかなり高いお金を払っているのよ。」

最後は、諦めに近い嘆き節になってくるので、こちらも申し訳ない気分でいっぱいです

ERにかかってくれれば、それですむ話ですが

ERに誰がつれてくるんだろう?という疑問も残りましたし

「結局金なのよ・・・」と言われると、

「やっぱりそう?」と思わざるを得ません

家庭医療における継続性(患者サイドからみて、いつでも診てもらえるか?)

2008-08-16 22:42:49 | 家庭医療
以前も家庭医の専門性で書きましたが、患者さんからみれば

「いつでも診てもらえる」という意味での継続性(continuity)は大事ではないでしょうか?

そこで「ミシガンのプログラムでこれをどのように担保しているか」について書きます

そもそもアメリカの家庭医療のプログラムは、ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認可評議会)によるプログラム要項の中で、

「患者さんはクリニックが休みの日でも、自分の主治医もしくはそのグループと連絡をとれ、適切な指示を仰げるようにしなければいけない」と定められています

これを可能にしているのがレジデントによる電話トリアージ(phone triage)です

例えば、私が所属するチェルシークリニックの患者さんは、妊婦を除いて全員、チェルシー病院で当直をしているレジデントが電話相談に応じています

かかってくる電話を直接受けているわけではなく、その電話を電話交換手がトリアージして、担当のレジデントのポケベルに患者情報と、簡単な相談内容、連絡先を入れてきます

その情報をもとに、電子カルテで患者情報を把握してから、こちらから患者さんに電話します

診療が必要な場合は、大人であればチェルシー病院のERもしくは大学病院のERにかかるように指示しますし

小児の場合は大学の小児ERにかかるように指示をします(小児ERにも家庭医療科のレジデントがローテートしています)

妊婦さんに関しては、家庭医療プログラムの6クリニック全部にかかっている妊婦さんは全員、家庭医療科の産科病棟当直医が電話トリアージ、および直接の夜間診療に応じています

これを可能にしているのが、電子カルテシステムで、チェルシー病院は大学とは別団体ですが、大学病院やクリニックでつかっているCarewebという電子カルテも院内で使えるようになっています

現在ローテートしているチェルシー病院では、毎週金曜日の夜に当直をしていますが

レジデントにとっては、当直中の電話トリアージが結構トレーニングになります

個人的には、電話での診療相談に、やる前はかなり不安を感じていました

やはり英語が第一言語でない人間にとって、電話での意思疎通のレベルはかなり落ちることが予想されたからです

電話だと相手の顔も見えず、声がこもって聞き取りにくいからです

戦々恐々としながら、実際にやってみると、とりあえず問題なくクリアできたのでまずはひと安心

お年寄りからの相談が多く、結構相手もゆっくり話してくるので、何とかなるのです

電話で今一番困っているのが、ERからの入院紹介

これについてはまた後日書きたいと思います


今のところの印象では、完璧ではないものの、患者サイドからみた継続診療はまずまず担保されているのではないかと感じています

ソロプラクティスが多い日本の開業医は、交代での電話当番は難しいですから

1人で頑張ろうとすると、負担はかなりのものになります

チームでどのように分担していくかということと、現在のシステムでの患者さんの満足度について、さらに観察していきたいと思っています





記事とは関係ありませんが、カントンというエリアにある居酒屋三平の、「単身赴任弁当」です

通常の弁当(bento)もあるのですが、それとは別に日本人用に、量と値段を押さえたものですが、完食は無理です

この他にご飯とみそ汁、フルーツがついて15ドルです

経営が日本人なだけあって、煮物もちゃんと手作りで、日本の居酒屋レベルには達しています(ということは、こちらではかなり高レベル)

今のリーダー

2008-08-15 06:29:58 | Faculty Development
私にとっての渡米は、単に家庭医療をそのものを学ぶだけでなく、

家庭医療を後進に伝えるという意味で、自分が将来どのようにやっていくかを学ぶ日々でもあります

リーダーシップというのは、大きなテーマです

様々なリーダーシップがありますが、ちょうどHANDSのメーリングリストでも「サーバントリーダー」という概念で盛り上がっていると先日書きました

サーバントリーダーかどうかはさておき

今私が所属しているプログラムの、大もとの家庭医療学講座の一番偉い先生

Chairといいますが、日本語で講座長とでもいうのでしょうか

そのChairは教授だけで7人、助手以上の指導医で60人を超える大所帯を束ねています

見た目は若いですが結構年配らしいです

帰国までに、「ヘ~イ、ト~ム!」とファーストネームで呼びかけるのを密かに目標にしています

その先生をみていると、日本のボスに似ているな~と思わずにいられません

姿形ではなく、話す時の手振りとか、組織の中での振る舞いとか


二人ともあまり細かい話はされません

大まかな理想とか、組織のあり方とかを時々時間を取って話されます

いわゆるマイクロマネージャーという感じではありません

スティーブ・ジョブズ
は別として、大組織をマネージするには

権限をうまく委譲して、自分は大局をみるようにするのが一番オーソドックスなのでしょうか

自分はその前に、小さな組織をまわしていける術を身につけなければいけません

ミーハー時事

2008-08-13 10:50:24 | 時事ネタ
病棟チームのメンバーとはいつも朝食や昼食をとっているので、ミーハーな話題がよく出ます

コメディアンの話題などが出ると、知らない人ばかりでさっぱりなのですが、今日はオリンピックの話題でした

水泳はこちらでも結構人気があります

シニアレジデントが言いました

マイケル・フェルプスってミシガン大の出身よ。」

「卒業したばかりだから、最近までアナーバーで練習していたはずよ。8冠狙ってるけど、さすがに疲れるから6冠ぐらいじゃない?」などと盛り上がっていました

北島康介が金メダルとって喜んでいましたが、ちょっとスケールが違います

他にも結構、有名人のOBがいるらしいのですが、私が分かったのはヤンキースのデレク・ジーターとマドンナぐらいです

自己犠牲

2008-08-11 02:17:34 | その他
アメリカでは問題が起きると、システム改善プロジェクトが発動されます

例えばクリニックでの業務の流れが複雑なせいで、患者さんの待ち時間がふえていることに対して

トヨタのジャストインタイムや自動化などの概念を取り入れて、改善プロジェクトを立ち上げています

Lean thinkingという考えで、とにかくシンプルにする

業務の流れをシンプルに、ムダを省くことで待ち時間が減ります

確かにすばらしいのですが・・・それだけの問題ではないのです

分業がいきとどきすぎており、ちょっと不備があると担当者が来るで待つことになります

複雑な流れと、いきすぎた分業も問題なのですが

それより問題なのは

'It's not my job' の精神です

日本だと、機転を利かした看護士さんなどが自発的にやってくれていたことが、こちらでは

'It's not my job.'となり、みんなでぼさーっと待っています

勿論なかには、「やっといてあげる」という人もいます

家庭医の同僚はその(気をきかしてサービスする)傾向は強いと思うのですが

これを「自己犠牲」と呼ぶとすれば

「ちょとした自己犠牲」にあふれた日本人は、すばらしいと再認識しました

ただし自己犠牲が「ちょっとした」ですまないと、大変なことになります

サービス残業が当たり前、医者にプラベートの時間など無い

私が研修医の頃はそれが普通だ思っていました

それがおかしいと、医者がいっせいに気づいたために

医療従事者の自己犠牲が無いと維持できないような医療システムが

いっきに崩壊へすすんでいるのです

チェルシー病院

2008-08-10 11:26:54 | 臨床留学
今月はチェルシー病院のローテーションです

チェルシー病院は、チェルシークリニックと同じ敷地内にあり

アナーバーから西へ約20kmの田舎町にあります

100床ちょっとの小さな地域病院で

1階建てで森の中にたたずむ外観は、避暑地のコテージか、ゴルフ場のクラブハウスを想像させます




ここで、1年目のレジデントは1ヶ月半ローテートします

基本は朝7時から夕方7時までの勤務で、金曜日の夜だけ当直で、土日はoffです

指導医が1人、上級レジデントが1人、インターン(1年目レジデント)が1人、医学生が時々いるというのがチームの構成です

この人員で最低1人、多い時は10人ぐらいの患者さんをみます

患者さんは内科系の成人で、地域のお年寄りが多いです

人数が10人以下であっても、平均在院日数は2日ですから、以外とやることがたくさんあります

といっても、朝の引き継ぎは朝食をとりながら、昼食も大抵全員でそろってとっていますので、

比較的余裕のあるローテーションには間違いありません

何といっても指導医が内輪なので、Awayのローテーションと比べれば精神的に楽ですし

コメディカルも大学病院よりフレンドリーらしいです

この辺りの傾向は日本と同じですよね(大学病院より田舎の小さな病院のほうが、和気あいあいとしている)

先日も朝の通勤途中、敷地内で鹿に遭遇



こんな長閑な気分でいられるのも、今の季節だからです

冬になれば一面の銀世界に閉ざされ、かなり寂しいことが予想されます