今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

EBMの実践と医療の標準化

2010-07-26 10:16:58 | 医療ネタその他
最近Twitter、Facebookで話題になり、かつ同僚レジデントとも話題になったことです

同僚曰く
「ミシガン大家庭医で診る患者さんが、誰に診てもらっているかに関係なく殆ど同じパターンの治療を受けていることに驚いた」

例えば糖尿病でのメトフォルミン、心不全でのメトプロロール、降圧剤としてのハイドロクロロサイアザイド

確かにアテンディング、レジデント含め100人以上がケアする患者さん達の治療内容が

極めて統一されているのは以前から感じていました

例えば、入院した患者さんの薬をレビューする時に

「何じゃこの薬?」とか「どうしてこれを服用していないんだ?」と思う事が殆どありません

逆に、疑問に思って患者さんに問いただしてもはっきりしない場合は

過去のカルテをさかのぼると、「なるほど」というイベントが記載してあり納得することが多いのです

思い返せば、日本で診療していた時はこのような「統一感」を感じることはあまりありませんでした

こうした「医療の標準化」を達成するための仕掛けは日々の診療の中にたくさん埋もれています

例えば
  • ミシガン大で作成されているガイドライン
  • レクチャーなどによる最新知識のアップデート
  • pay for performanceに対するクリニックごとの取り組み
  • 入院オーダーのセット化

そして一番大きいのがCieloシステムです

Cielo systemを簡単に説明すると、

「患者さんのプロファイル(年齢、性別、プロブレムリストなど)から自動で作成されるリマインダー」でしょうか

患者さんが外来を受診すると、医師はその患者さんの診療に関連するリマインダーの一覧用紙を渡されます

ここに含まれる情報は
  1. 年齢、性別
  2. 主治医
  3. がん検診
  4. 予防接種、喫煙
  5. 慢性疾患のプロブレムリスト
  6. 急性疾患のプロブレムのリスト
  7. 慢性疾患に関してカバーするべき診療内容  などです

例えば65歳男性で糖尿病の患者さんでは

1年以内の便潜血によるがん検診もしくは10年以内の大腸内視鏡をしていなければ「大腸がん検診」のリマインダーが出ます

ちなみに前立腺がん検診に関しては

「前立腺がん検診について話題に出すこと」というリマインダーが出ます

「前立腺がん検診をすすめる」ではありません

そしてこのリマインダーに対して、自分がどのようなアクションをとったかチェックマークをつけて提出する必要があります

糖尿病では眼科受診もありますが

受診ごとに測定される血圧から自動的に

「血圧の厳格なコントロール」というリマインダーが出ます

これは「2型糖尿病の管理では、血糖管理よりも厳格な血圧コントロールが一番重要である」という知見をもとにセットされたリマインダーです

こうして患者さんの受診ごとに用紙を渡されますが

この用紙は指定の回収ボックスに毎日提出します

そして毎月、医師ごとにこの用紙の提出率、必要なアクションがどれだけとられているかという率が一覧になってメールでフィードバックされます

こうした様々な投資によって、自動的に「標準」が刷り込まれていくのですが

こうしたガイドライン、プロトコールの背景にあるエビデンスを理解し

自分の患者さんのnarrativeとすりあわせる真のEBM

Artの部分も重要です

その部分は日々の外来プリセプティングなどで議論されるのですが

現在のレジデント教育では、エビデンスの解釈という点が少し弱いかと感じています

レジデンシーはじめにあるBlock monthでかなりEBMについてのセッションがありますが

普段は月に1回のJournal Clubがメインです

Journal Clubなどを通じてのやりとりからは、各レジデントがどの程度個々の論文やガイドラインを理解しているかには疑問を感じています

例えばLR(尤度比)、RR(relative risk)、ARR(Absolute Risk Reduction)など

もしかしてあんまり分かっていない?意識していない?と思われる同僚もいます

昨年まではEBMのメッカMcmaster大学出身のアテンディングがいて熱心にレジデント教育をしていたのですが

その先生が栄転で辞めてからは、Journal Clubが形骸化している感じがします

自分の得意分野なのでなんとかしたい気はあるのですが、既にシニアプロジェクトを2つ抱えているので

とりあえず二の足を踏んでいます

回診の頻度について

2010-01-09 22:58:39 | 医療ネタその他
Twitter、Facebookと続いたやりとりから、考えさせられたこと

それは、「回診の頻度」

ある日、Twitterに「1日3回、回診をする」という書き込みがありました

「3回はすごいな~」と思いつつ

そういえば、日本では「患者さんを必ず朝夕見に行くように」という自分と同僚がいたと思いたち

ではここミシガンではどうしているかな?と考えてみると

大学家庭医病棟、チェルシー病院、大学小児科病棟、循環器病棟、全て1日1回が基本ということに気づきました

他のレジデントに聞いてみても、やはり同じ経験です

勿論、必要があれば何度も患者さんを見に行きます、当然

ただ、基本は午前1回です

何故かと言うと
1.忙しすぎて、物理的に全回診を1日2回は無理
2.電子カルテでの入院患者のノートは1日1回が基本

2.に関してはアメリカでの診療報酬の払われ方におおいに関係していますが

1日2つ以上のノートを書いても、全く収入にならないのです

逆に、1日1回書かれたノートの内容、濃度に応じて診療報酬が決まり、それがアテンディングの懐に直接入ります

まあ、2.はともかく、1.の忙しすぎるというのが現実かなあ~と自分なりに分析していたのですが

Facebookでアメリカ帰りの先生とのやりとりの中で、考え直させられました

その先生の施設(家庭医プログラム)では1日2回の回診が風土(文化)として浸透していたとのこと

夕方にサインアウト(引き継ぎ)をする前に、患者さんの状態を再チェックするのは当然という意見です

これは至極もっともです

ということで、早速チェルシー病棟の私のチームではインターンと

「朝夕1日2回、回診を基本ルールにしよう」と話し合いました

そしてこれを、自分たち家庭医レジデントの基本ルールに浸透させようと目論んでいます

とりあえずは、回診頻度と、患者ケアのクオリティに関するペーパーでもないか探してみましたが

Sit-down roundsの頻度が、ケアのクオリティに相関するというペーパーはあるものの

ベッドサイドroundの数に関するものは見当たりません

ベッドサイドに通う頻度を増やすのが良いことなのは、直感的に分かりますが

やっぱり大勢を説得するには、もっともらしいペーパーでもあればと思ったのですが

どなたか、ご存じないでしょうか?

海外赴任家族の健康変化に関する最新論文

2009-07-18 22:00:28 | 医療ネタその他

日本人が米国へ行くと太るが家族との時間が増える

Lifestyle changes of Japanese people on overseas assignment in Michigan, USA


Kazuya Kitamura , Michael D Fetters , Kiyoshi Sano , Juichi Sato and Nobutaro Ban

Asia Pacific Family Medicine 2009,  8:7doi:10.1186/1447-056X-8-7

Published: 16 July 2009

現同僚と元同僚が筆者に名を連ねる論文です

掲載おめでとうございます

恥ずかしながら、また岡田先生のブログでその掲載を知りました

さすがアンテナ広いです

もともと、論文の内容は知っていたのですが

要するに、一家が海外赴任をすると

働く旦那は太り、

家族との時間が増えるが

奥さんはストレスで身体化症状やうつが増えるというもの

旦那が太るのは分かります

そりゃ~

こんなものや(はじめ人間ギャートルズばりの骨付き肉.分かりにくいかもしれませんが直径は20cmぐらいでした)


こんなものが主食ですから・・・



実はこれら、ミルウォーキ-にALSOでいったときに入った有名ドイツ料理店のメニュー



ビール試し飲み(サンプラー)も頼みました
きっと美味いのでしょうが、下戸のため味も分からず9割ぐらい残してしまいました


ちなみに、私の体重は渡米前からイーブンです!

pain of 10 out of 10

2009-05-26 00:51:35 | 医療ネタその他
pain scaleというものがあります

痛みを10段階にわけて、想像しうる限りの最大の痛みを10として、痛みが全くない状態をゼロとすると、

現在の痛みの強さはいくつか?という考えなのですが

「痛み」がある、となると必ずこのpain scaleを聞きます

痛みにはしっかり対処しようという意味もあるのですが

「痛み」が主訴だった場合、痛みの性質を網羅したカルテを記載しないと、診療収入が減額されるという現実問題もあります


笑い話として'pain of 10 out of 10 pain got worse'ということを言っている患者さんの話題が出ますが

先日も実際に '10 out of 10 pain got worse, and now, it is 13 out of 10' などと、のたまっている患者さんに遭遇しました

このpain scale、はっきり言って信用できません

10段階で7未満だとコメントする「成人」は殆どいません

つまりちょっと痛いだけで、8とか9と言ってくる人が殆どなのです

すぐに大騒ぎして、しっかり痛み止めをもらおうということなのですが

主観的なものなので、信用しないわけにもいきません

結果として、すぐに麻薬を出すことになります

さて、ここで「成人」と書いたのは、子供は正直だということ

結構痛がっていても '5 out of 10' と、こちらからみて妥当な数字を言ってくる子供が小児ERでも多いのですが

横に座っているお母さんが 「そんなわけ無いでしょ、もっと大きい数字でしょ」と介入することを幾度と無く見かけました

正直な子供の感性も、大人からの刷り込みで、かえられてしまうのです

つまり、アメリカ人の痛みの閾値の低さは、先天的なものではなく後天的なものではないかという実際の観察に基づく考察です

「痛み=絶対悪」という強い信念のあるこの国では

「やせ我慢」を一種の美徳とする日本人は、異質な存在に感じます




近所で見かけた土筆、こちらではhorsetailというらしいです

PAとNP

2009-04-23 13:47:37 | 医療ネタその他
最近、日本でも話題のPA(Physician Assistant)とNP(Nurse Practitioner)

先日のカンファレンスでは、アメリカにおけるPAとNPについて、家庭医プログラムのNPさんが語ってくれました

題目は 'Introduction to Mid-level Providers'

PAやNPは、医師不足を埋めるために1960年代につくられました

Mid-level Providersというように、医師が行う診療のうち比較的複雑でないものはPAやNPが担うようになっています

米国におけるプライマリケアの42%は、PAやNPが提供しているというのが現状です

外来診療としてはPA/NPが単独診療した場合、医師が受け取る85%の金額を診療報酬として請求することができ

医師の指導のもと、ということになると100%(同額)を請求することができます


過疎地でのPA/NPへの依存は特に強く、

1000人程度の村落では、数百キロ離れたところにいる医師の監督のもと

PAやNPが1人で医療を提供していることもあります

この制度が日本になじむかどうかは分かりませんが、現在の看護士の資格に、一定のトレーニングを上乗せする形でNPを設定し

もっと権限を持たせることは、理にかなっていると思います

糖尿病の指導、喘息の指導、在宅とかに絞っても良いので

その辺りから始めたらどうなんでしょうか?

通勤途中の事故に保障は無い

2009-04-21 22:56:49 | 医療ネタその他

Occupational Healthで話題になったことです


アメリカでは職場への通勤途中の事故は「保障されない」そうです


職場の敷地に入った直後から、業務になるそうな。


話題にあがった患者さんは、いったん出勤して、別の職場への移動中に事故にあったため、「業務中」とみなされたそうです


自分に置き換えると、早朝病院に出勤する途中の事故は保障されず


昼にクリニックに移動する途中は保障されます


日本では、当直明けの医師が事故をして死亡しましたが、大学院生だったという理由で労災が認められず、裁判になったことを憶えていましたので

基本は、「出勤途中は労災が認められる」と思っていましたが

調べてみると、ちょっとした経緯はあったもののあたらずとも遠からずのようです


労働災害~wikipediaより引用

通勤災害は、直接には使用者側に補償責任はないが、勤務との関連が強いという判断の元、昭和48年の労働者災害補償法の改正により、業務災害に加えて労働者災害補償保険の適用が認められたものである。(引用終わり)


当直空けの運転に改めて要注意です!




医療用マリファナって、エビデンスあるの?

2009-04-12 23:05:21 | 医療ネタその他

「無い」


というのが、先週のレクチャーをきいた限りの、私の現在の態度


ミシガン州でのマリファナの処方解禁にあわせて、シニアレジデントによる医療用マリファナの総論のレクチャーがありました

 

この数日だけで、日本でも中村雅俊の息子の逮捕やら、元若麒麟の公判やら、果ては映画ハリーポッターの俳優が逮捕と


マリファナは世間では「違法な麻薬」の代名詞ですが


ミシガンでは、医師によるサインがあれば、マリファナを使用するだけでなく、栽培し、持ち歩くことも出来ます


注意が必要なのは、医療用マリファナはアメリカでも13州でみとめられているにすぎず


連邦政府は未だに「違法」だとしている点


このあたりが、地方分権がすすんでいるアメリカならではなのですが


それが混乱のもとになる可能性大で


ミシガン大学病院の法律対策専門家のコメントとして、


「求められて処方をするのは良いが、医者が医療用マリファナを勧めると、あとで厄介なことになる」


つまり「処方をした患者さんが、栽培したマリファナを売るなどして逮捕された場合、法的責任が医者に及ぶ場合がある」


決して勧めてはいけないし、カルテには絶対に「患者さんが話をきり出した」と書かないとヤバそうです

 

さて、医療的な効果について簡単にまとめますと、


「吸引用マリファナ」には根拠がない(未だ証明されていない)


という結論を出さざるを得ません


適応としては、


「痛み、吐き気、食欲不振、てんかん(epilepsy)、緑内障 etc」

 

ところが、これらの効用は全て、経口剤のDronabinolやNabiloneで証明されているにすぎません


証明されていると言っても、それすらかなり不十分で


吸入用について示されているのは、「健常人で体重が増えた」ことぐらい


「絶対に処方しない」とは言いませんが、自分から話をもちかけることは絶対になさそうです


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 参考までにミシガン州で適応がとれているのは以下です


o Chronic debilitating disease causing

cachexia or wasting syndrome

severe or chronic pain

severe nausea

seizures (including but not limited to those caused by

epilepsy)

severe or persistent muscle spasms, including but not

limited to multiple sclerosis (MS).

o Amyotrophic lateral sclerosis (ALS)

o Alzheimer’s agitation

o Cancer

o Crohn’s disease

o Glaucoma or nail-patella syndrome (increased risk for

glaucoma)

o Hepatitis C

o HIV/AIDS

 


医者の燃え尽き症候群を予防するには?

2009-02-14 09:05:01 | 医療ネタその他
水曜日のカンファレンスで聴いたスピーチの一つです

著者はミシガン大の産科のキートン先生

フェローの時に書いた論文で

プライマリケア医の「満足度」、「仕事-私生活のバランス」、「燃え尽き」がどのような要素で決定づけられるかという研究です(下にabstractを添付)

日本の先生もブログで取り上げていらっしゃいます

燃え尽きはアメリカも同様


日本のことを思い出しながらスピーチの途中で「きっとこの要素だろうな」と予測したことと、結果はまさに一致したのですが

燃え尽きに関連しているのは、「自分のスケジュールを自分でコントロールできているという感覚」と「総労働時間」

とくに前者の方が要素として強く

日本の医者不足の現状では「総労働時間」はなかなか改善されませんので

医師が「自分で自分のスケジュールをコントロールできている感を改善すること」が一番の早道のようです

例えば研修医や若手医師のスケジュールについては

「いつを休みにしたい?どのようなスケジュールにしたい」と本人に事前に希望を聞くことが重要です

スピーチの中でふれられていたことですが、医者の仕事は「年365日、週7日、一日24時間」誰かがカバーしなければいけませんから

必ずしも希望が全て聞き入れられるわけではありません

一方的にスケジュールを決められるより、

ある程度は希望を聞きながら、最終的には本人が「誰かがやらないといけないので仕方が無いなあ」と自分で思えるようにすることが大事です

もう一つはやっぱりクロスカバー

医師、患者関係は大事ですが

やっぱり日本のように、医師-患者関係を重視して「自分の患者は全部自分でみる」としすぎるあまり

全く休みが取れないというのは問題で

「休みのときは休み」と割り切れるようにチームを組んでカバーし合うことが重要です

病院の管理者や、地域の指導者が枠組みを作っていくことが重要ですが

燃え尽きる前に個々の医者が、予防的に声を上げていかないことには、現状はかわらないと思います


以下abstract

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Obstetrics & Gynecology:
April 2007 - Volume 109 - Issue 4 - pp 949-955

Predictors of Physician Career Satisfaction, Work-Life Balance, and Burnout

Keeton, Kristie; Fenner, Dee E.; Johnson, Timothy R. B.; Hayward, Rodney A.


Abstract

OBJECTIVE: To explore factors associated with physician career satisfaction, work-life balance, and burnout focusing on differences across age, gender, and specialty.

METHODS: A cross-sectional, mailed, self-administered survey was sent to a national sample of 2,000 randomly-selected physicians, stratified by specialty, age, and gender (response rate 48%). Main outcome measures included career satisfaction, burnout, and work-life balance. Scales ranged from 1 to 100.

RESULTS: Both women and men report being highly satisfied with their careers (79% compared with 76%, P<.01), having moderate levels of satisfaction with work-life balance (48% compared with 49%, P=.24), and having moderate levels of emotional resilience (51% compared with 53%, P=.09). Measures of burnout strongly predicted career satisfaction (standardized β 0.36-0.60, P<.001). The strongest predictor of work-life balance and burnout was having some control over schedule and hours worked (standardized β 0.28, P<.001, and 0.20-0.32, P<.001, respectively). Physician gender, age, and specialty were not strong independent predictors of career satisfaction, work-life balance, or burnout.

CONCLUSION: This national physician survey suggests that physicians can struggle with work-life balance yet remain highly satisfied with their career. Burnout is an important predictor of career satisfaction, and control over schedule and work hours are the most important predictors of work-life balance and burnout.


言葉のニュアンス 

2009-01-25 00:21:24 | 医療ネタその他
やっぱり、第二言語は難しい・・・

出産後のお母さんと赤ちゃん

産後1、2日での退院が多いので

退院時の注意事項がたくさんあります

例えばあかちゃんの黄疸

一般的に生後3~5日ぐらいが要注意ですが

日本では、産後一週間ぐらい入院しますので

入院中に医療サイドがしっかりチェックして、

退院する頃には、ほとんど解決済みの話です

ところがこちらでは、産まれて翌日には退院ですので

生後初めての外来受診をいつするのか?
どんなところを観察するべきか?
赤ちゃんがどうなったら電話をするべきか?

いろいろなことを、退院前に知ってもらわなければいけません

看護サイドからも指導が入りますが、

医師もある程度、退院指導的なお話をしています

自ずと「こうなったら、電話して下さいね」などというフレーズを連発することになるわけですが

あるアテンディングから指摘をされました

曰く、「You had better....という言い回しを時々使っているけど、あれはまずいよ」

語尾がいつも同じだと芸が無いので、いろいろな言い回しをローテーションしていたのですが

どうも何の気なしに「You had better」と言っていたようです

これはニュアンス的には「・・・をしないとひどい目に遭うぞ」という半ば脅し、警告のような意味合いが入ってしまいます

nativeだったら、絶対使わなかったろうと思いますが

言葉のニュアンスを掴みきれずに、「語調が何となく丁寧っぽいかな」という印象で、採用していました

正しくは

I would like you to...
I would.....
You can....

などを使うべきですね

知らなかったとはいえ、かなり横柄な医者に見えたかとおもうと

ちょっとショックです

日本人って・・・

2009-01-23 00:08:08 | 医療ネタその他
「みんな、とっても我慢強い」

「おしとやか」

「文句を言わない」

「でもなぜか、産後によく出血する」

お産病棟での評判です


お産全体の数から言えば、人数はそんなに多くないのですが

家庭医療科の妊婦さんの5分の1が日本人ですので

家庭医療科の研修医が遭遇する患者さんの中で、日本人は意外とマジョリティーなのです

日本人が私の目から見ても、「我慢強い、文句を言わない」のは確かで

言葉の壁で文句が言えないということが一部あるとしても

通訳さんも頻繁についていますし

私からみても、やっぱり皆さん「いい人」が多いです

大部分が企業派遣のご家族であったり、大学関係者で

日本人コミュニティも狭いので

「恥ずかしいことはできない」という意識が強いのかもしれません

また、もともと海外赴任生活のストレスに耐えうる人たちですので、日本人の中でも「我慢強い」人たちがセレクトされているのかとも想像します

いずれにせよ、日本での「モンスター・・・」が信じられません


一方、こちらの人は「我慢がきかない人」「ストレスコーピング力が明らかに低い人」を結構見かけます

やっぱり文化、教育の問題ではないかと思ったりしています

そういう人たちを、なだめたり、おだてたり

まだうまく対応できていませんが、それはそれで、結構良いトレーニングです

やっぱり満月とか、潮とか、何かしら

2008-12-16 14:24:39 | 医療ネタその他
12月12日は「近地点」といって、この十数年で一番月が地球に近く

満月も普段のものと比べ、およそ30%明るく、14%大きく見えたのだそうです

そして理論上は、一番の高潮があったそうで

当直だった私は、産科病棟全体がお産ラッシュのため、

一睡もせずに、充実した夜を過ごせました

その後、土日と月曜の昼間までは「ピタッ」と止まっていたのですが

月曜の昼間から急に冷え込んだせいか(火曜日の朝は-10度)、関係ないのか分かりませんが

月曜の夜中から、またまた病院中がお産ラッシュ

やっぱり「何かしら」あるような気がするんですよね

「何かしら」をうまくデザインすれば、きれいな相関関係が出る研究ができる気がします

「何かしらをさあ~、しっかりやっていこうぜ~」という

お笑いコンビ「はんにゃ」のフレーズが頭にこだました、当直明けでした



クリニックの窓の外をふと見ると、鹿が5匹
iPhoneでは、写りがイマイチですが



「雪と出産」の続き~出産と大気圧の関係

2008-11-16 14:36:46 | 医療ネタその他
一昨日から急に冷え込み、今日も雪が強く降っていますが、地面に積もるまでは至っていません

その関係か、Newborn勤務最終日の昨日は、お産ラッシュで大変でした


雪と出産の項の続きです

GYNEさんやTagさんのコメントから興味がさらにわいたので

この内容を研究している人がいるのかどうか?Pubmedで調べてみました

Tagさんのコメントから

「お産が増えるのは、低気圧になった時に袋状のものが緊満するから」という仮説をもとに

トピックをお産に絞らずに、外科系の手術全般に広げて

以下の検索式を入力

"Surgical Procedures, Operative/statistics and numerical data"[Mesh]
 AND
"Atmospheric Pressure"[Mesh]

程よく21件のヒットで、たまたまお産に絞った以下の論文に出会いました

日本の先生のペーパーです

Spontaneous delivery is related to barometric pressure.
Arch Gynecol Obstet. 2007 Apr;275(4):249-54.
Akutagawa O, Nishi H, Isaka K. Department of Obstetrics and Gynecology, Tokyo Medical University, 6-7-1 Nishishinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo 160-0023, Japan.

残念ながら現段階で原文が手に入らないので

以下abstract です

BACKGROUND: Many studies have shown that changes in the weather affect health. In the field of obstetrics and gynecology, several events have been empirically shown to be related to the weather. Labor pain is controlled by the autonomic nervous system and various hormones, and is expected to be influenced by the weather and environmental changes. Several studies have been conducted on the relationship between delivery and barometric pressure, which shows constant changes with changes in weather, but there is no generally accepted view on this. METHODS: We conducted a retrospective study in our patients who had a spontaneous cephalic delivery in this hospital between January 1997 and December 2003, in order to determine whether low barometric pressure induces labor pains, premature rupture of the membranes, and delivery, and whether changes in barometric pressure affect delivery. RESULTS: There was a significant increase in the number of deliveries and rupture of the membranes at low barometric pressure (P < 0.01), although there was no significant correlation between onset of labor and barometric pressure. This tendency was noted in both women with spontaneous rupture of the fetal membranes and those with premature rupture of the membranes (P < 0.01). On days with a larger change in barometric pressure, regardless of whether it was increasing or decreasing, the number of deliveries increased and the relationship was statistically significant (P < 0.01). CONCLUSIONS: A causal relationship was noted between the number of rupture of the fetal membranes, delivery and barometric pressure, suggesting that low barometric pressure induces rupture of the fetal membranes and delivery.



retrospectiveな研究になるのは妥当なところですが、abstractではP値しか出しておらず、RRが無いと何とも言えません

う~ん原文が読みたいなあ

他にも以下の3つ論文があり、abstractしか手に入りませんが要点を書きます


1. 月の満ち欠けとお産は関係ないが、PROMは夜中に多かった
Gynecol Obstet Invest. 1989;28(1):14-8

Premature rupture of the fetal membranes, the phases of the moon and barometer readings.


2. 気圧が下がった3時間以内でPROMが多い
J Reprod Med. 1985 Mar;30(3):189-91<script language="JavaScript1.2"></script>

Premature rupture of the membranes and barometric pressure changes.



3.気圧低下の前後では、気圧低下後のほうがお産の開始が多い

J Nurse Midwifery. 1997 Jan-Feb;42(1):32-4

Association between significant decrease in barometric pressure and onset of labor.

 
そもそも今回のようなトピックでは、publication biasの可能性が極めて大ですので

なおさら個々の論文の批判的吟味が重要になってきます

無理矢理に差を出そうと階層分けしたり、ARRを示さずにP値だけを強調していないかどうか

やっぱり原文がみたい・・・

それはともかく、このような論文は大好きです

読んでいてドキドキします

多くの人が何となく感じているけど、だれも気づかなかった視点

降圧剤のメガトライアルよりも

みんなが「ほ~っ!」と思うような奇抜な視点の論文を、自分も書いてみたいものです



写真はJungle Javaという室内遊戯場

雪に閉ざされるため、このような施設が大人気


貧困層の現実

2008-09-26 08:01:38 | 医療ネタその他
UFMで働いていると、アナーバーの東南にあるイプシランティというエリアの患者さんがよく入院してきます

貧困層が多く住むエリアで、様々な問題を抱えた人が多いです

先日担当した、自分より年下の30歳ちょっとの黒人女性は

家族の話を聞くと、

「14歳、12歳、5歳の子供3人と、孫の5人で住んでいる」と言います

片親は普通のことで別段驚きは無いのですが、

14歳か12歳の娘が既に子供を産んでいるということになります

嘔吐、下痢で殆ど食事を受け付けない状態なので

日本でいうところの、全粥食のようなものを出したのですが、

「こんなもの食えるか」と、友達に勝手に中華を差し入れさせていました

アメリカ式の油の強い中華、チキンの揚げ物に、コテコテのチリスープです

そういうことも見越して、「油物はダメだよ」と本人にも話して

「ピザなどの油物はダメ」と電子カルテにも丁寧にテキスト入力したにもかかわらずです

案の定、食べられるはずも無く、ゲーゲー吐いていました

その他にも、様々なわがままを言ったり、要求が通らないと怒ったり

前回の入院時は、入院生活の制約に耐えられずか、勝手に退院してしまったようです

これもひとえに、社会環境、教育の問題から自己コーピングスキルが低いことが大きな要因だと思うのですが

相手が受け入れるはずも無い、些細な制約はハナから諦めて

長期的に見越して、本当に必要なことだけピンポイントで話しかけるしかありません

翻って思うのは、日本の病院における制約の多さ

しかもその制約の多くが、「本当に必要かどうか、あやしい」ものであること

それを甘んじて受け入れている日本の患者さん達

医療者側にも,改善すべきことがたくさんあるのです

アプガー先生

2008-09-19 07:42:04 | 医療ネタその他
Apgar先生という女医さんがいます

家庭医療教室の大御所で、教授です

家庭医療科のFamily Mother Baby (FMB) Service、つまり周産期診療のボスです

まだ挨拶をする程度で、直接マンツーマンで指導を受けたこともないので実際の人柄はよく分からないのですが

ちょっと声をかけづらい雰囲気をお持ちの先生です


ところでこのApgarという名前

医療関係の方なら、「あれ?」と思ったのではないでしょうか?

もしかして、あの Apgarスコア と何か関係があるのでは??

私もそう思いました

ちなみにこのApgarスコアの元になっているのは、アメリカの女医さん、Virginia Apgar先生(1909-1974)という方ですが

これまでの情報収集によると、少なくとも親戚であることは、間違いないようです

養女という説もありますし、姪だという噂も聞きました

そのうち仲良くなって、本人に直接確かめたいと思います

これもレジデンシー中の密かな目標の一つに加わりました


レジデンシー中の密かな7つの目標
1.教室のトップの先生をファーストネームで呼ぶ
2.Apgar先生とApgarスコアの関係を本人から聞き出す
3. 未定
4. 未定
5. 未定
6. 未定
7. 未定

おもしろ英語

2008-09-13 16:14:13 | 医療ネタその他
英語を母国語とする人たちに囲まれながら生活していると、

日本で英語を使っている時には遭遇しなかった

面白英語によく出会います

それをいくつか紹介したいと思います

1. kind of super nice
2. ish
3. futon

1. kind of super nice

'He was a kind of super nice'

Sign out(申し送り)の時に、よく使われます

例えば、すごく大変な当直の時に、できる上司がバンバンさばいて助けてくれたなどです

日本語に直すと

「なんか、チョーたすかった」でしょうか?

2. ish

'His blood pressure was one-twentish when...'

○○台、もしくは、約○○という意味

上級編では

'I've got to leave around noon-ish'

「正午頃には出ないといけないんだ」


3. Futon

当直室に二段ベッドがあり、「自分でFutonのシーツを用意しなさい」とあります





布団が語源のようですが

折りたたみのソファーベッド自体のことをFutonと呼びます

フートン」と前にアクセントがかかります


「ベッドをまだ買っていなくて、床に寝ている」といったら

「フートンを貸してあげるよ」と言われました

そんな時には「いやいや、掛けフートンはあります」と、頓珍漢な答えをしてはいけません