今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

前立腺がん検診 泌尿器科学会にもの申す!

2007-09-30 00:47:36 | けんしん
9月10日のブログ「前立腺がんと肺がん検診への厚生労働省の見解」で触れた話題をもう一度

厚生労働省の研究班が、「PSAによる前立腺がん検診は勧められない」という指針を出しました。

これに対して泌尿器科学会は猛反発していますが、

前回とはちょっと切り口をかえて書いてみます。


まずは前回のおさらい

ガイドラインの推奨度で「推奨しない」というのは正しくは、
 
検診が有効でない or 害が利益を上回るので推奨しない=D recommendation

というのと

根拠が不十分でどちらか分からないので結論が出ない=I recommendation

とあります。

本当はI recommendationなのに、D recommendationだととれるような今回の見解に対して

「まだ結論が出ていないじゃないか!どちらか分からないんだから、現状維持で検診をやらせてくれ!」

と泌尿器科学会が噛み付いたのですが、

「ちょっと待ってくれ!!」と言いたいです 

前立腺がん検診が「良いか分からない」場合に「検診を続ける」のが正解なのでしょうか?

Evidence-Based Medicine(EBM)という言葉があります。

日本語では「根拠に基づいた医療」などと訳されます。

つまり「行っている医療が患者さんにとって良いかどうかちゃんと考えましょう」という当たり前の概念なのですが

日本に欧米から輸入され、自分たちが行っている医療の効果がしっかり検証されだしたのが、わずかこの10年あまりです。

ところが、健診(検診)を含めた予防医療の世界では全くと言ってよいほどこの概念が無視されています。

でもよく考えてみてください。

健康に及ぼす利益と害が五分五分の検査(治療)があるとします。

あなたなら以下のAとBそれぞれの場合、その検査(治療)を受けますか?

A.夜中に急に胸が苦しくなり、救急車で運ばれた病院で病気を診断され「この検査(治療)を受けてください」と言われた場合

B.普段なんの生活の支障もなくハッピーに暮らしていたが、職場で受けさせられた健診で「この検査(治療)を受けてください」と言われた場合

AとBの大きな違いは

 1.症状があるか、無いか
 2.患者さんがより自発的に医療を求めたか?

AとBで1.の違いは異論が無いと思います。

2.はどうでしょう?

Aの場合は、苦しくていてもたってもいられず自分から病院に行きます。

「助けてくれ~」と行くわけです。

Bの場合、基本的に日本で行われている職場健診は強制です。いやでも強制です。

ドックは強制ではありません。が、自発的に受けたとしても「医者がすすめるからこそ、普通の人はそれが自分の健康に良いと信じて」受ける訳です。

本来、病院なんかに来なくても,ハッピーに暮らしていた人ですから、ドックなど知らなければ,当然受けるはずはなかったのです。


このAとBの場合における1.2の違いがあるからこそ

予防医療(健診)こそほかの検査(治療)よりもより確たる医学的根拠が求められるのです。

つまり「この検査(治療)はあなたの健康にとって利益が害をうわまわりますよ」と言えなくてはいけない度合いがより高いのです。

実はこれ、EBMの大家であるDavid SackettがThe arrogance of preventive medicineという題の論文で書いていることなのです

タイトルを直訳すれば、「予防医療の傲慢

「健康に良いかどうか分からないけどこの検診」受けろ

という現在の日本の医療界、健診(検診)業界全体の姿勢は

「傲慢」とはいいませんが、「プロとして無責任」だとは思いませんか?

プレゼンテーションのコツ

2007-09-29 00:57:19 | Faculty Development
プレゼンテーション中の目線

目線は難しいです

いままでは手前にいて、自分の話にうなずいてくれている人とアイコンタクトしながら話していました

これは初級者が落ち着くのに良いらしい

 上級者はどうしたら良いか?

「パワープレイ 気づかれずに相手を操る悪魔の心理術」 より 「ワンセンテンス・パーソンの法則」

 1人とアイコンタクトしてワンセンテンス話したらとなりの人に視線をうつし、次のワンセンテンス

目線の移動は、左奥からスタートし順番にZ状に動かすと良い

注意点
  (1)視線があったら「にっこり」 
  (2)1人と目が合ったら、ひと呼吸おいてから次へ行く。
   素通りすると、不愉快に思われる可能性がある。
  (3)目線をうつす時間は10~15秒ぐらい。
  (4)とにかくゆっくり。きょろきょろしていると、とられないように

う~ん、かなり上級です

なれた題目のときにトライしてみましょう! 

自らが証明した「バカの壁」 禁煙運動はナチズムか?

2007-09-26 00:17:03 | 時事ネタ
残念です。

大変残念です。

文芸春秋10月号養老孟司氏は

「たばこの害の根拠なし」「禁煙運動はナチズム」

と発言されています。

個人的に養老孟司氏は好きだっただけに、ショックを受けつつも

やはり発言の文脈を確認せねばと、速攻で文芸春秋を買いました。

読みました。

読んでみると・・・

本文のメインは国民は健康にならなければいけないという「健康増進法」に対する警鐘のようです。

健康増進法のトピックのメインとしてメタボリック・シンドロームと喫煙があがっていました。

確かに、「今の医療は過大評価されており」
         ↓
「タバコをすっている人が必然的に肺がんになる訳ではなく」
         ↓
「医学論文なんて恣意的に数字を選んで結論を導きだすものなので」
         ↓
「今の疫学で因果関係を証明しているのは恣意的だ」
         
という理屈のようです。

健康増進法の押し付けがましさには違和感を覚えますし、

上の理屈の3段目までは私もとても共感したのですが、

結論が
「だから疫学は100%信用できない」
となっているところがあまりにも乱暴ですね~

疫学全否定のようです。

まさにここにバカの壁があるとしか思えません。


本日のティーチング 「高齢者外来診療」

2007-09-25 23:55:25 | 教育
今日はティーチングバイトの日でした。

午前中はいつものように、内科初診と,救急外来のプリセプティングです。

午後は前半が初期研修医用、後半が後期研修医用のセッションでした。

前半は1年目研修医の先生から「困った救急症例」についてのプレゼンテーションと検討会です。

今日のトピックスはズバリ「ソセゴン中毒」です。

救急をやっている総合病院ともなると、どこもソセゴン、レペタン等の中毒の常連さんが一人や二人はいらっしゃいます。

大抵は、手術後のとう痛管理等を機に中毒となってしまうと推察するのですが、今まで遭遇した中毒の方々はまさに

手練手管!!

巧みに、ソセゴン、レペタン等の注射をゲットされます。

なれていない研修医や新人ナースを狙って巧みに痛みを訴え、

中には他院からの紹介状を偽造されていた強者もいらっしゃいました。

不幸にも医療の中で作り出されたであろう多くの中毒の方々に対して

救急の現場の人間があまりにも安易に、無警戒に麻薬を処方しているという現実があります。

今日はそういった現状に対する想いをメッセージとして伝えたつもりでしたが、伝わったでしょうか?


後半の後期研修医用のセッションはプレゼンテーションをしました。

トピックは「高齢者外来診療の理論と方法」

これは、6月の第22回日本家庭医療学会 学術集会・総会で藤沼康樹先生(日生協医療部会家庭医療学開発センター)がされたセッションの資料をそのまま使わせていただきました。

当日私も参加していたのですが、とても参考になりかつそのまま活用できる情報が満載でした。

「是非これは教えたい」と藤沼先生のお許しをいただいて,本日のセッションとなりました。

人様の資料を使いながらティーチングするのは結構難しいのですが、もとの資料が良かったおかげもあり、参加者からいただいたフィードバックでも満足度は高かったようです。

藤沼先生に、感謝、感謝です!

第5回東海家庭医療ネットワーク(TFMNet)の集まりがありました

2007-09-23 22:12:24 | 家庭医療
第5回東海家庭医療ネットワーク(TFMNet)の集まりが揖斐郡北西部地域医療センターで開催されました 。

TFMNetとは昨年東海地区の他施設の若手といっしょにつくった集まりです。現在50人強の方が参加しています。

家庭医療は日本ではまだまだ浸透していません。医療の世界でも浸透はまだまだで、家庭医を目指す医師もマイノリティーです。専門医に囲まれ、孤独な日々を過ごしているとアイデンティティの危機に陥ることもあります。 そうした医師をサポートしようと地域の連携をとるために会を立ち上げました。

以下、TFMNetのメーリングリストから抜粋です

---------------------------------------------------
東海家庭医療ネットワーク(TFMNet) グループの説明:
 ネットワークの趣旨:  東海家庭医療ネットワーク(TFMNet)は東海地区で家庭医をめざす医師および学生を支援するために立ち上げられたinformalな会です。家庭医療を学び、家庭医療に対するモチベーションを高めるために、メーリングリストの運営と年3回程度の勉強会の開催を予定しています。地域における皆さんの横のつながりをつくり、お互いを近くに感じ、お互いの顔が見えて、気軽に相談できる関係を大切にします。
----------------------------------------------------

今回はその第5回の集まり(勉強会)がありました。

年に3回のペースで行っている勉強会は各施設が持ち回りでやっています。

特徴としては
 各施設の施設見学
 3つほどのセッション(レクチャー、ワークショップバランスよく)
 アフターの飲みニュケーションは必須
があります。

今回はちょっと遠方だったこともあり、セッションは「根拠に基づく予防医療」のワークショップ一つでした。

ワークショップは私が担当させていただきました。

5年ほど前から、「根拠に基づく患者中心の予防医療」
というテーマで、けんしんを中心に現在行われている予防医療をどのようにしたら改善できるかということを主眼にワークショップを各学会で行っています(同僚3人と)。

だいたいのパターンは
 ロールプレイ
 スモールグループディスカッション
 全体のディスカッション
 ショートレクチャー(パワーポイントを用いた)
を組み合わせてやっています。

このワークショップで使う目的もあり
予防医療の冊子「患者中心の予防医療 ー根拠に基づいた実践ー 第3版 2007」を自費出版で出しています。

今回のワークショップも皆さんと白熱しつつも、建設的なディスカッションを行うことができました。

そしてお待ちかねのアフターは、早めの時間から「やな」で鮎づくしとなりました。

残念ながら、シーズンも終わりのため実際のやなでの鮎のつかみ取りはできませんでしたが、鮎を堪能しました。

あんまりよい写真ではありませんが、証拠として鮎を載せます


いつも学びが多く、楽しい会なのですが参加人数は割と少数です。

この辺りは、あえてこのぐらいの人数がよい(楽しく、参加者もエンジョイできる)という意見も多いですが、医学生にもう少し声をかけて誘ってあげても良いかなと思います。

初参加の妻曰く
「家庭医の集まりの人たちは、みんないい人ばっかりだね」

そうなんです、家庭医だけでなくジェネラリストをやっている人の傾向として、
「いい人、お人好し、年配の先生ほど腰が低い、おせっかい、粘り強い、楽しそう」
というのを非常に感じます。

自分がそうだとは決して言いませんが。

ただみなさん燃え尽きないように気をつけましょう!

茂木健一郎氏が朝青龍問題を評して曰く

2007-09-22 23:42:46 | 時事ネタ
「朝青龍の問題は、結局、『規格外』の人をどう扱うかという哲学だ」

私が、医学以外の人間で最近その動向に注目しているのは、脳科学者の茂木健一郎氏と、著書「ウェブ進化論」で有名になったIT企業経営コンサルタントの梅田望夫氏の二人です。

もともとは亀田の岡田先生が主催するHANDSというFaculty Developmentのコースで「ウェブ進化論」が課題図書に指定されてから、梅田氏の著書やブログは常にチェックをしていました。

それとは別にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で知った茂木氏にも注目をしていたのですが、その二人の対談本である「フューチャリスト宣言」で一気にその二人が私の中でホットになりました。

「フューチャリスト宣言」についてはそのうちコメントを書きたいと思いますが、今日は茂木氏のブログ「クオリア日記」の記載がとてもよかったのでコメントします。

朝青龍問題について茂木氏曰く

----------------------------
朝青龍の問題は、結局、
「規格外」の人をどう扱うかという哲学
だと思う。
・・・
ボクの理解する「横綱の品格」とは、
まさに、枠をはみ出そうとする
とてつもないエネルギーを御した
ところにこそ生まれるのだと思う。
最初から「いい子」だったら、品格うんぬんを
そもそも問題にする必要がない。

容易に御すことのできない荒々しさを
みがいてこそ、ほれぼれするような
風合いが生まれるのではないか。
---------------------------------

そう!朝青龍問題でいつも感じていた、協会が使う「品格」という言葉に対する違和感はこれだったのです!

最初は、「朝青龍なんか辞めさせろ」と私も思ったのですが、

「やんちゃ」な朝青龍を追い出すのではなく、その「やんちゃ」をつぶさない範囲内で横綱として熟成させるのが相撲協会の度量だと思います。

そんなこと分かってるよ、といわれればそれまでです。

思えば、朝青龍が日本で心の底から尊敬している人物はいるのでしょうか?少なくとも一目置くような・・・

「そんなの関係ねえ!」とでも言っちゃうぐらいが規格外なのかもしれません

35歳は悩める年頃

2007-09-21 00:01:54 | USMLE
STEP2CKのPsychiatryでErik EriksonのThe Developmental Stagesが出てきました。

概略だけピックアップしました。(詳しくは上のリンクを)

1. Infancy: Birth to 18 Months
Ego Development Outcome: Trust vs. Mistrust
Basic strength: Drive and Hope

2. Early Childhood: 18 Months to 3 Years
Ego Development Outcome: Autonomy vs. Shame
Basic Strengths: Self-control, Courage, and Will

3. Play Age: 3 to 5 Years
Ego Development Outcome: Initiative vs. Guilt
Basic Strength: Purpose

4. School Age: 6 to 12 Years
Ego Development Outcome: Industry vs. Inferiority
Basic Strengths: Method and Competence

5. Adolescence: 12 to 18 Years
Ego Development Outcome: Identity vs. Role Confusion
Basic Strengths: Devotion and Fidelity

6. Young adulthood: 18 to 35
Ego Development Outcome: Intimacy and Solidarity vs. Isolation
Basic Strengths: Affiliation and Love

7. Middle Adulthood: 35 to 55 or 65
Ego Development Outcome: Generativity vs. Self absorption or Stagnation
Basic Strengths: Production and Care

8. Late Adulthood: 55 or 65 to Death
Ego Development Outcome: Integrity vs. Despair
Basic Strengths: Wisdom


うちの子はちゃんと育っているだろうか?と気にしながらみていると、

Stage1から3までの発達に重要なのはやはり家庭内の関係。

Stage4は学校や近所との関係。stage4は6歳から。それまではやはり親が全てを決めてしまうんだ~

と思いながら読みすすめると35歳からのStage7は「責任」の時期。

key wordは「generativity」

日本語では生産性とでも訳すのでしょうか?

自分が社会、家族にとって意味があるのか。自分の人生の目的、意味を新たに自問自答する時期らしい。

やはり・・・

先週も高校の同級生と飲んでいてたまたま話していたのだが、

「同級生はみんなそんな話題だよ・・・(人生の意味、家庭内での役割、自分の転機についての悩み)」

この状態を乗り切れば、「40にして惑わず」に至れるのだろうか?

県立一志病院における家庭医療の実践

2007-09-20 10:02:25 | 家庭医療
最近Google アラートなるものを利用しています。

自分の好きなキーワードを登録しておけば、そのキーワードが載ったニュースが出るたびにメールで知らせてくれます。

今日は、高知大学における「家庭医療学講座」の開設と三重での家庭医療の実践のニュースが飛び込んできました。

三重大総合診療部と県立一志病院における家庭医療の実践、研修についてのYOMIURI ONLINEの記事は結構よくまとまっていました。

三重の皆さんがんばっていますね!  


ミシガン大学家庭医療学科でみた科学的根拠に基づく健診(続き) 表1,2

2007-09-19 10:07:46 | けんしん
字数オーバーしたので表1,2はこちらに添付します
-------------------------------------------------------------------------------------------
表1 (29)
Average Riskの25-64歳男性にすすめられる予防医療的介入
            USPSTFより改変 

スクリーニング
□ 血圧
□ うつ病(気分の落ち込み・興味の減退)
□ 問題飲酒(CAGE・頻度・量・種類)
□ 大腸がん(50歳以上)

カウンセリング
損傷予防
□ シートベルト着用
□ オートバイに乗る際のヘルメット着用
□ 火災報知器の適切な設置
物質乱用
□ 喫煙
□ 運転中の飲酒・薬物使用
性行動
□ 性感染症(ハイリスク行為を避ける)
□ 望まない妊娠(避妊)
食事・身体活動
□ バランスのとれた食事
□ 定期的な身体活動
歯の健康
□ 歯科医・歯科衛生士への定期的通院
□ フロス-糸楊枝-使用・フッ素入りの歯磨き粉
予防接種
□ 破傷風,ジフテリア(Td)再接種(10年毎)

----------------------------------------------------------------------------------------

表2 (29)
公費,又は法律によって行われている,成人を対象とした予防医療

利益が害を上回るという科学的根拠が存在するもの

□ 成人を対象とした血圧測定
□ sexually activeな女性に対する子宮頸癌検診
□ 50歳以上を対象とした1-2年毎の便潜血による大腸癌検診

利益が害を上回るという科学的根拠が存在しないもの

□ 身長・体重測定
□ 胸部視診・聴打診(1)
□ 腹部触診(1)
□ 視力検査
□ 聴力検診
□ 貧血・白血球検査2
□ 肝機能検査(GOT・GPT・γ-GTP)(3)
□ 腎機能検査(尿素窒素・クレアチニン)(2)
□ 血糖検査
□ HbA1c
□ 血清脂質検査
□ 尿検査 (蛋白・糖・ウロビリノーゲン・潜血)(2)
□ 心電図
□ バリウム検査による胃癌検診
□ 肺癌を早期発見するための胸部レントゲン撮影
□ 結核を早期発見するための胸部レントゲン撮影
□ B型肝炎ウィルスの血液検査(HBs 抗原測定)(4)
□ C型肝炎ウィルスの血液検査(HCV抗体測定)
□ 乳房視診・触診,マンモグラフィによる乳癌検診






人間ドック,又はその類似事業によって行われている予防医療

利益が害を上回るという科学的根拠が存在するもの

□ 50才以上の成人を対象とした,眼底検査・眼圧測定・視野検査による緑内障検診
□ 65才以上の男性を対象とした超音波検査による腹部大動脈瘤検診

利益が害を上回るという科学的根拠が存在しないもの

□ 痛風予防のための尿酸値測定
□ 胃カメラによる胃癌検診
□ 血液検査(ペプシノーゲン法)による胃癌検診
□ 胸部CT検査による肺癌検診
□ マンモグラフィー[乳房撮影]による乳癌検診
□ 肝臓癌に関連した腫瘍マーカーの検査(AFP)
□ 膵臓癌に関連した腫瘍マーカーの検査(CA19-9)
□ 大腸癌に関連した腫瘍マーカーの検査(CEA)
□ 直腸診による大腸癌検査
□ PSA測定法による前立腺癌検診
□ 卵巣癌に関連した腫瘍マーカーの検査(CA125)
□ 腹部超音波検査(肝・胆・膵・脾・腎癌検診)
□ 肺活量などの呼吸機能検査
□ 慢性関節リウマチの危険性があるかどうか調べる検査(リウマチ因子測定)
□ 炎症の有無を確かめる検査(CRP)
□ 梅毒の検査(RPR・TPHA)
□ ヘモグロビンA1c測定による糖尿病検診
□ 骨密度測定による骨粗鬆症検診
□ 甲状腺の機能異常を調べる血液検査(TSH・FT4・FT3・マイクロゾーム抗体)23
□ 甲状腺の腫瘍・癌を調べるための甲状腺超音波検査
□ 動脈硬化測定装置による動脈硬化検診
□ 無症候性脳梗塞や未破裂脳動脈瘤を発見するための脳ドック(MRI・MRA)
□ 頸動脈の狭窄の程度を調べ,脳梗塞の予防に役立てるための,超音波ドップラー検査
□ 肺炎予防のための肺炎球菌多糖体ワクチン接種


<文献>
1. Oboler SK, LaForce FM. The periodic physical examination in aymptomatic adults. Ann Intern Med. 1989; 110: 214-226
2. Friedman GD, Collen MF, Fireman BH. Multiphasic health checkup evaluation: a 16-year follow-up. J Chron Dis 1986; 39: 453-463
3. Yano E, Tagawa K, Yamaoka K. Mori M. Test validity of periodic liver function tests ina population of Japanese male bank employees. J Clin Eidemiol 2001; 54: 945-951
4. U.S. Preventive Services Task Force Screening for hepatitis B virus infection. Guide to Clinical Preventive Services 2nd Edition 1996
5. Lewis DW and Ismail AI. Prevention of dental caries. In: Canadian Task Force on the Periodic Health Examination. Canadian Guide to Clinical Preventive Health Care. Ottawa: Health Canada, 1994; 408-17.
6. Feldman W. Well-Baby care in the first 2 years of life. In: Canadian Task Force on the Periodic Health Examination. Canadian Guide to Clinical Preventive Health Care. Ottawa: Health Canada, 1994; 258-66.
7. Feldman W. and Beagen B.L. Screening for childhood obesity. In: Canadian Task Force on the Periodic Health Examination. Canadian Guide to Clinical Preventive Health Care. Ottawa: Health Canada, 1994; 334-44.
8. Feightner, J.W. Preschool screening for developmental problems. In: Canadian Task Force on the Periodic Health Examination. Canadian Guide to Clinical Preventive Health Care. Ottawa: Health Canada, 1994; 290-296.
9. Feightner, J.W. Routine preschool screening for visual and hearing problems. In: Canadian Task Force on the Periodic Health Examination. Canadian Guide to Clinical Preventive Health Care. Ottawa: Health Canada, 1994; 298-304.
10. Urinalysis. In: U. S. Public Health Service. (1998). Clinician's Handbook of Preventive Services (2nd ed.) McLean, VA: International Medical Publishing. [On-line] available- http://www.ahcpr.gov/clinic/ppiphand.htm
11. Goldbloom R.B. Screening for idiopathic adolescent scoliosis. In: Canadian Task Force on the Periodic Health Examination. Canadian Guide to Clinical Preventive Health Care. Ottawa: Health Canada, 1994; 346-54.
12. Rivenes SM, Colan SD, Easley KA, et al. Pediatric Pulmonary and Cardiovascular Complications of Vertically Transmitted HIV Infection Study Group. Usefulness of the pediatric electrocardiogram in detecting left ventricular hypertrophy: results from the Prospective Pediatric Pulmonary and Cardiovascular Complications of Vertically Transmitted HIV Infection (P2C2 HIV) multicenter study. Am Heart J. 2003;145:716-23.
13. Lohiya GS, Tan-Figueroa L, Crinella FM, Lohiya S. Epidemiology and control of enterobiasis in a developmental center. West J Med. 2000 ;172:305-8.
14. Birbeck GL. The benefits of screening must outweigh the risks and costs. West J Med. 2000;172:308-9.
15. Screening for otitis media with effusion: recommendation statement from the Canadian Task Force on Preventive Health Care. CMAJ. 2001;165:1092-3.
16. U.S. Preventive Services Task Force Screening for rubella. Guide to Clinical Preventive Services 2nd Edition 1996
17. Ando Y, Matsumoto Y, Nakano S, et al. Long-term follow-up study of HTLV-I infection in bottle-fed children born to seropositive mothers J Infect. 2003;46:9-11.
18. Ando Y, Matsumoto Y, Nakano S, et al. Long-term follow up study of vertical HTLV-I infection in children breast-fed by seropositive mothers J Infect. 2003;46:177-9.
19. Beaulieu M.D. Prevention of preeclampsia. In: Canadian Task Force on the Periodic Health Examination. Canadian Guide to Clinical Preventive Health Care. Ottawa: Health Canada, 1994; 136-43.
20. U.S. Preventive Services Task Force Ultrasonography in pregnancy.. Guide to Clinical Preventive Services 2nd Edition 1996
21. Hughes JM, Colley DG. Preventing congenital toxoplasmosis. MMWR 2000;49: 57-75
22. Impey L, Reynolds M, MacQuillan K, Gates S, Murphy J, Sheil O.  Admission cardiotocography: a randomised controlled trial.  Lancet. 2003;361:465-70.
23. Helfand M; U.S. Preventive Services Task Force. Screening for subclinical thyroid dysfunction in nonpregnant adults: a summary of the evidence for the U.S. Preventive Services Task Force. Ann Intern Med. 2004;140:128-41.
24. Woods WG, Gao RN, Shuster JJ, et al. Screening of infants and mortality due to neuroblastoma. N Engl J Med. 2002;346:1041-6.
25. Thompson DC, McPhillips H, Davis RL, Lieu TL, Homer CJ, Helfand M. Universal newborn hearing screening: summary of evidence.  JAMA. 2001;286:2000-10.
26. Mark A, Carlsson RM, Granstrom M. Subcutaneous versus intramuscular injection for booster DT vaccination of adolescents. Vaccine. 1999;17:2067-72.
27. Immunization action coalition. Administering vaccines: dose, route, site, and needle size. http://www.immunize.org/catg.d/p3085.htm
28. Garner, JS. Hospital Infection Control Practices Advisory Committee. Guideline for isolation precautions in hospitals, second edition: Part 2: Rationale and recommendations. Infect Control Hosp Epidemiol 1996; 17:53.
Salkind AR, Cuddy PG, Foxworth JW. The rational clinical examination. Is this patient allergic to penicillin? An evidence-based analysis of the likelihood of penicillin allergy.  JAMA. 2001;285:2498-505.
29.北村和也,斉藤さやか,宮崎景,向原圭. 患者中心の予防医療 ー根拠に基づいた実践ー 第2版 2004


ミシガン大学家庭医療学科でみた科学的根拠に基づく健診

2007-09-19 09:04:45 | けんしん
前回のブログでも触れましが、ミシガン大学の家庭医療学科を2004年に訪れたときに健診についてまとめた文章があるので載せます。
------------------------------------------------------------------------

 今回、ミシガン大学家庭医療学科 East Ann Arbor Health Centerを訪れる機会にめぐまれた。同センターでは佐野潔先生(現パリアメリカン病院)を中心に、日本からの見学者を積極的に受け入れていることもあり、「ミシガンで家庭医をみた」という報告は多くの医学生、医師からなされている。そこで今回は、トピックを「健診」に絞って報告したいと思う。
 
1.背景~日本の現状と北米の現状

 現在日本では、労働安全衛生規則に基づく「基本健康診断」、老人保健法に基づく「基本健康診査」、「がん予防重点健康教育及びがん健診実施のための指針」に基づく各種癌検診など、スクリーニングを中心とした画一的な「集団けんしん」が法律や規則に基づいて広く行われている。
 これらのけんしんで行われている項目には、利益が害を上回るという科学的根拠に欠けるものが多く含まれており、不十分なフォローアップなども相まって、その効果には疑問の余地が多いのも事実である。
 一方北米などの主要先進国では、定期的な予防医療サービスの必要性と具体的内容を初めて根拠に基づいて批判的に評価したFrameとCarlsonによる研究論文が1975年に発表されて以来(1-3)、年に1回の定期的予防医療サービスは廃止されている。かわりに、「個々の患者が急性疾患や慢性疾患の管理のために受診した際に、その患者にとって必要な予防医療サービスを根拠に基づいて選択的に提供する」アプローチ(case-finding approach)が推奨されている。その際に提供するべき項目は、根拠に基づいた予防医療ガイドライン(4)として発表されている。
 

2.Ann Arborにおける健診活動
 ミシガン州のデトロイト近郊には、トヨタを初めとした日本企業が進出し、多くの日本人駐在員が居住している。ミシガン大学家庭医学科では、地域の日本人コミュニティーにおけるニーズに応える形で日本語の出来る医療スタッフを中心に、「日本人プログラム」と称した医療を提供している。
 ここで、健診に話を絞ろう。日本政府の指導の元、半ば義務化された職場健診を行っている日本の大企業では、海外の社員にも健診を受けさせている。これにこたえる形でEast Ann Arbor Health Centerでも健診業務を行っている。健診の費用は大部分が会社持ちであり、受診者の懐は殆ど痛まない。医療サイドからすれば、アメリカにおいても健診はもうかる仕事である。そういったインセンティブはあるのは確かである。しかし、特筆すべきはその内容が日本の健診と大きく違うことである。

例として、同様の症例に対し、日本の健診とミシガンの健診でなされるであろう医療面接を比較してみる。

症例:1年前の健診でも高脂血症を指摘された40歳男性。通院はしていない。仕事は残業が多く、帰宅後の夕食はいつも23時頃である。運動はしていない。

"日本"

医師
「こんにちは、Aさんですね。高脂血症がありますね。運動をよくして食事に気をつけてくださいね。食餌療法は、栄養士さんに相談してもらうことも出来ますが希望されますか?・・・採血結果は郵送しますね。Aさん、もうそろそろ薬を飲んだほうが良いかもしれませんね。」


"ミシガン"
医師
「Aさん、お久しぶり!去年話したことは憶えていますか?実践できています?うそついてもダメですよ!後で奥さんからもじっくり聞いちゃいますから。・・・AさんはB社のC工場のほうでしたよね。あそこのカフェテリアは日本食ありましたっけ?・・・食事の内容も大事ですけど、ちゃんと20時までに帰って食事してくださいよ。中身に気をつけても、真夜中に食べてすぐ寝てたんじゃあ意味ないですよ!残業は家に持ち帰って、夕食後にやるのは無理ですか?会社に掛け合いましょうか?もし早く帰れなければ、弁当を用意してもらってもっと早い時間に食べるのはどうですか?それならできます?それでは来年までの約束として、弁当を作ってもらってでも夕食の時間を20時までにするというのでどうでしょう?」

ちなみにこの後、妻の健診があり、夫の食生活の話について話をし、夫の会社B社にも後日、家に残業を持ち帰ることで帰宅時間を早められないかとかけあっている。


3.健診の問題点と改善法

上記の症例に対する両者の違いがどこからくるのか、また今後の改善点は何かをまとめた。

(a) カウンセリング重視
 日本の健診は多くの検査によるマススクリーニングが中心である。食事や運動への介入となるとなかなか実践できていないのが実情である。一方、米国の家庭医は必須の知識として行動科学のトレーニングを受けており、行動変容を促す為の具体的なアイデアが満載である。個々に合わせた具体的な方策を提案し、次回までのテーマとして約束してもらっている。

(b) 予防医療の一元化と継続性
 日本の健診センターでは、毎年担当する医師が変わることも多い。結果も郵送であり、医療が必要な状況でも、本人がその気にならなければ医療機関を受診せずに終わってしまう。結果として、毎年高脂血症を指摘されても、殆ど介入が入らないことが多い。
 また、かかりつけ医がいても、患者が自己申告しなければ患者が健診センターで健診を受けたことすら、かかりつけ医の耳に入らないこともある。これは、日本では健診が日常の医療とは全く別のものと考えられており、健診は健診センター、普段の診療はかかりつけ医と完全にすみ分けがされていることから生じている。結果として、かかりつけ医で充分なフォローアップをしているにもかかわらず、全く同じ検査を健診で無駄に受けたり、健診を受けていることすら主治医が把握できていないことが多い。
 一番望ましいのは、予防医療活動を全て家庭医(かかりつけ医)に一元化することであるが、少なくとも健診が医療であるという意識を持ち、健診センター、かかりつけ医の両者が連携を意識し、継続性を保つようつとめる必要がある。

(c) 時間をとる
 カウンセリングを重視し、じっくり話をするには、日本のように1人3分では無理である。ミシガンでは一人に対し20分から30分程度の面接時間を確保していた。

(d) 家庭をみる
 家庭医の醍醐味とも言えるものであるが、個々の生活スタイルに踏み込むのはもちろんのこと、家族相互の関係も重視する。ミシガンでの家族健診では、夫婦だけでなく子供も一緒に受診している。夫の高脂血症に対し、夫の栄養指導を妻に働き掛けるのはもちろんのこと、夫の遅い帰宅時間との関連から妻のメンタルケア(抑鬱など)、父親とのコミュニケーションを増やすことによる子供の言語発達にも言及することができる。

(e)医学的根拠に基づいた予防医療の提供
 ミシガンで提供している健診は、原則的にはUSPSTFのガイドラインに沿った内容である(表1)。もちろん、患者側からの要望に応じ多少は医学的根拠に欠ける内容の採血なども行っているが、日本のように若者に胃癌検診をしたり、毎年心電図をとったりはしていない(表2)。
 日本ではEBMがキーワードのようにあふれている現在でも、健診に医学的根拠を求める声は少ない。これは、健診が産業となっており、予防医療という医療行為の一環として認識されていないのが一因と思われる。EBMの提唱者の一人であるSackett(5が主張しているように、予防医療こそ医学的根拠が厳密に求められるべきであり、医学的根拠に基づいたガイドラインの策定が早急に望まれる。多くの心ある現場の医師は、割り切れない気持ちで今日も健診業務に携わっているはずである。

4.健診の向うべき道は?

 日本の健診に対し否定的な意見を多く述べてきたが、日本で行われてきた健診のマススクリーニングという形態は、北米のCase-finding approachと比較し、受診率を上げるなどの良い点もある。しかし大腸検診など医学的根拠の明らかな介入のほうが受診率が低いのは残念である。日本の健診制度のもと、米国のガイドラインを適用したミシガンの健診の姿は、和洋折衷ともいえるもので、今後の日本の健診のあり方を考える上で大変参考になると考えた。

最後になったが、このような貴重な機会を与えて下さった、ミシガン大学の佐野潔先生、マイク・フェタ-ズ先生を始め、お世話になった皆様方に深くお礼申し上げる。

1. Frame PS, Carlson SJ. A critical review of periodic health screening using specific screening criteria. Part 1: Selected diseases of respiratory, cardiovascular, and central nervous systems. J Fam Pract. 1975;2:29-36.
2. Frame PS, Carlson SJ. A critical review of periodic health screening using specific screening criteria. Part 2: Selected endocrine, metabolic, and gastrointestinal diseases. J Fam Pract. 1975;2:123-9
3. Frame PS, Carlson SJ. A critical review of periodic health screening using specific screening criteria. Part 3: Selected diseases of the genitourinary system. J Fam Pract. 1975;2:189-94
4. U.S. Preventive Services Task Force. Guide to Clinical Preventive Services: An Assessment of the Effectiveness of 169 Interventions: Report of the U.S. Preventive Services Task Force. Baltimore: Williams & Wilkins; 1989.

U.S. Preventive Services Task Force http://www.ahcpr.gov/clinic/uspstfix.htm

5. Sackett: CMAJ 2002 167(4) 363-4
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
字数オーバーしたので表1,2は次の項にします

新しい健診制度

2007-09-17 00:00:06 | けんしん
平成20年4月から「国の特定健康診査等基本方針」に基づいて健診がかわります。

現行の健診には問題点がたくさんあります。

簡単に列挙してみると  
 健診で行われている24項目のうち医学的根拠があるのはわずか6項目   (最新の科学的知見に基づいた保健事業に係る調査研究班報告 2005)   
 健診そのものが医療保険の対象外で医療と見なされていない  
 その結果、検査をやりっ放しでフォローアップがない
 などなど

新しい制度では  
 メタボリックシンドロームを軸に  
 保険組合員の家族も対象にし  
 保健指導に重点を置き  
 データを長期保存する  
 保険組合が組合員に健診を受けさせることが義務化
 などがかわった点です。

 医学的根拠の無い項目が問題になっているにもかかわらず、新たに「メタボリックシンドローム」というこれまた根拠の無い新しい概念が、新たな軸に加えられてしまいました。  

 これを迷走と言わず何というのでしょう?

ただし生活習慣の保健指導に重点を置くという点は、フォローアップを今後しっかりして継続的にみていこうという姿勢は評価できます。

 ところが、あまり知られていることではありませんが、生活習慣への介入の中で有効性がしっかり証明されているのは飲酒と喫煙だけです。

驚くことに、肥満に関してはそれを指導することによるメリットがデメリットを上回るという確たる根拠は無いのです。(例外となる層はありますが)

 つまりやみくもに 「運動しなさい、カロリー減らしなさい」 は、もしかしたら害の方が大きい場合もあるのです。

私自身も「食育」にハマってますし、肥満に対しても相手をみて介入はしています。

 みなさんも「え~、肥満に対する運動、食事療法は常識じゃん」と思うかもしれませんが・・・ 特に医療関係者は「常識だ」、「よかれ」と思ってやっていることがどの程度医学的根拠の裏付けに基づいているか気にしてほしいと思います。

肥満よりスリムな方が良いですし、多少の運動はした方がよいに決まっています。

ただ、その人の大事な仕事のやり方や、これまで培ってきた日常生活パターンを無理矢理かえさせてまで無理に介入しても、本当にその人がやせられて、長生きしてハッピーになるとは限らないということです。

極端な例えをすれば、末期の胃がん患者さんに禁煙をすすめる医者はいません。

程度の差こそあれ、健康によかれと思う介入によって本当にメリットがデメリットを上回る自信がなければやるべきではありません。

一般化するつもりはありませんが、伊勢市のメタボ侍の課長さんが急死されたニュースを聞いたときは、「メタボという錦の御旗のもとに行われた、肥満へのやみくもな介入の犠牲者なのだろうか」と思いました。

 もう一つ問題なのは、「保険組合が組合員に健診を受けさせることの義務化」です。

受診率等によって国から組合などの医療保険者に対して支援金がでることになりました。

税金の投入です!!  

根拠の無いものを無理矢理すすめるだけでなく、税金もつぎ込んでいるのはいかがなものでしょうか?

 せっかく健診の話題が出ましたので次は、以前書いた日本の健診制度の問題点についての考察を載せます。

3学会合併の流れに思うこと 骨抜き認定制度はご勘弁を!

2007-09-15 09:11:41 | 家庭医療
日本でジェネラリストを志す人間が集う学会は3つあります。

 日本家庭医療学会日本プライマリ・ケア学会日本総合診療医学会

 それぞれの特色を私の主観でかいてみます

 日本家庭医療学会は家庭医をキーワードに比較的若いジェネラリストが集います。開業医の先生でも比較的に年齢層が低めです。もともとは、家庭医療を勉強していこうという研究会として発足しました。執行部の深い理解により、若手家庭医部会、学生・研修医部会など若者のパワーが学会全体を押しています。

 日本プライマリ・ケア学会は、一番歴史もあり医師会の開業医の先生のを中心に人数も最大、認定制度もあり、世界的なジェエネラリストの組織であるWONCAの日本支部としての機能も果たしています。 ちなみにWONCAは(World Organization of National Colleges, Academies and Academic Associations of General Practitioners/Family Physicians)の略

日本総合診療医学会はどちらかというともう少し大学や大病院のメンバーが加わったアカデミックでこじんまりとした会という印象です。 

既にこの3学会はジェネラリストを目指すということでは共通しており、なんとか一緒に活動できないかと話し合いはされてきました。2005年には3学会合同でWONCA Asia Pacific Regional conferenceを開催しています。

こうしたなか、国の医療制度として総合科の話が出てきて、日本医師会も総合医の認定に関して取り組みを始めました。 医師会と3学会は共同して総合医認定の話を進めてきましたが、この際3学会が合併したほうが話も進み、国民にも分かりやすい、発言力も増すなどの考えて合併の話が進んでいるようです。

 合併には大賛成です。 大同小異、そして何より3学会すべてに所属している医師の一人として、統一してもらうことは金銭的にも、アイデンティティの統一という面でも助かります。

唯一私が懸念していることは「もろいジェネラリストのアイデンティティ」でも書きましたが、しっかりした認定医、専門医制度が確立されるかということです。

同じジェネラリストでも、コアとなる能力は共通しますが、例えば総合内科医と家庭医ではやっぱり守備範囲が異なりますので、認定医をとるためのトレーニングカリキュラムは別々であるべきです。必然的に認定医も別になるはずです。少なくともAコース、Bコースぐらいの区別はしてほしいものです。 そうでなければ、認定のための条件が最大公約数になって骨抜き制度になりかねません。

緩い制度の認定医、専門医では国民にとってもデメリットですし、私たちジェネラリストのアイデンティティの保証にもなりません。 是非、硬派の認定制度をお願いします!!

もろいジェネラリストのアイデンティティ

2007-09-14 23:35:15 | 家庭医療
ジェネラリストとして生きていくのは、とてもしんどいです

まず国民の間に根強い専門医崇拝。これは、医師の間でもそうです。大病院の専門医が開業すると、なにか格が落ちたかのような扱いをうけます(少なくとも私にはそう見えます)

ジェネラリストは目の前の患者さんのすべての健康問題に対処し、広く診ることを専門とする専門医なのですが、「どの臓器?」とは説明できないために「専門医」とは思ってもらえません。

さらにニーズ主義に沿って行動するジェネラリストは、所変われば仕事の内容が変化します。これも結局専門は何?と姿が見えにくいことの原因になっています。

ニーズ主義に沿って行動するジェネラリスト(特に病院の総合診療部)は便利屋さんです。みんなが困っていると仕事をつい引き受けてしまいます。うまくマネージしないと、どんどん忙しくなりやがては自分たちが疲弊して燃え尽きてしまいます。

ジェネラリストは知らないことと毎日向き合い、毎日勉強する反省的実践家です。医師たるもの専門医であっても勉強し続けるのですが、ジェネラリストはその守備範囲が広く、変化し続けるという特性上、「上がり」や「完成」というものがありません。楽しくもあるのですが、しんどいです。

周りに専門が説明しにくく、しんどい状況なのに自分の身分を保証してくれる認定医、専門医制度がありません。確かに日本プライマリ・ケア学会の認定医はありますが、例えば循環器専門医、もしくはせめて内科学会認定医と同等の格があるとは誰も思っていません。

ジェネラリストとしてそれなりに研修も受けた後輩が、私に言いました。

「内科認定医をとるために病院で研修したいんです。」

内科認定医をとっても、現在何のメリットも感じていない私はとっさに

「いまさら、いらないんじゃない?」

といいましたが、彼女の中にある不安、アイデンティティの危機をその後初めて知りました。

誰でも簡単にとれるような認定医、専門医ではなく、

しっかりとした研修を経た上で、高い水準の医療を提供できる実力を推し量る厳しい基準に基づいた総合医、家庭医の認定医、専門医制度をつくってほしいものです。

それができて初めて、

私たちのアイデンティティは守られるのです
いやそれよりも、国民の健康が保証されるのです!

3つの寝耳に水とリスクマネージメント

2007-09-12 01:32:05 | Faculty Development
まさに寝耳に水とはこのこと   

朝、ボタボタという音で目がさめてみるとそこは集中豪雨

寝室の隣のダイニングでは天井からすごい勢いで水滴が・・・ 

床一面水浸し

外は雨が降っていないのに   

それよりも机の上のibookに天井からの水滴が直撃!!大野ぉ~!!

わずかな期待を持って電源ボタンを押してはみたものの無反応・・・

原因は上の部屋の水道管の破裂

リビングも水浸しで、その日は夕方まで復旧作業

ふとテレビをつけてみると安倍総理辞任!?

これが二つ目の寝耳に水

三つ目は、某市中病院の小児科の崩壊・・・

300床ちょっとの病院で、3人の指導医と2人の若手を要するその小児科は、某雑誌ランキングでの患者さんからの評価でも上位に入り、かなり良い研修が出来るところだったのですが・・・。

常勤医が一人辞めると、その負担のせいかもう一人が病欠・・・来年はさらに若手が2人辞めて、結局一人だけによる外来部門のみ残るという噂


あえて強引にこの三つ(特に前半二つ)に共通するキーワードを挙げれば

リスクマネージメント、危機管理能力の問題です。

「安倍総理に危機管理能力がない」というのは真実は分かりませんが、巷でよくいわれています

医療の崩壊も・・・やっぱり自分の健康は自分で守らないと・・・
研修医の健康を守るのは指導医の責務、医療従事者の健康を守るのは管理者の責務

そして私!何故にあんなに大事なパソコンのデータのバックアップを取っていなかったのだろう・・・

つい先週もバックアップを取ろうかなと思い立って立ち上がったにもかかわらずやめてしまった・・・

落としたりとか、フリーズしたりとか、いろいろ想定はしていたものの、まさか家の中、ダイニングのテーブルで浸水にあうなんて誰が想定するんですか?

データのバックアップが取れているかは明日判明しますが、いまやパソコンなしでは何も仕事が出来ない自分に今誓っています。

リスクマネージメントを徹底するぞ~!!
バックアップを絶対取るぞ~
マックでもウイルスソフトを入れるぞ~

皆さんも気をつけてください

teachingのバイト

2007-09-11 23:01:17 | 教育
大学にいると俗にいう「バイト」をしないと、まともな生活ができません。

このバイトの中身が結構重要です。

いくらわりが良くても、楽しくなければだんだん苦痛になってきます。

つまり単なる労働としての医療の提供だけでなく、日々の学び(自らの成長の実感)であったり、患者さんとの良好な交流がなければ、つらいものがあります。

以前はいわゆる健診のバイトをしていた事もありましたが、提供している健診の内容への疑問、工場のベルトコンベアーでの単純作業を思わせるような流れ作業などなど、苦痛に感ずる事が多い日々でした。

昨年より縁あって総合病院でティーチングのバイトをしています。初期臨床研修制度のおかげか、卒後教育の重要性が徐々に認識され始めていますが、日本の市中病院でティーチングをするだけの人間に、定期的に金を出してくれる機会はまだなかなか無いと思います。

家庭医療におけるteaching physician(教育に力を入れている臨床医)になりたいという私自身の将来のキャリアプランから考えても、大変ありがたいお話です。感謝、感謝。

今日も行ってきましたが、どのような事をしているか書いてみたいと思います。

大体のパターンとしては

午前  :内科外来&救急外来のプリセプティング
午後前半:初期研修医用の症例検討会orレクチャー
午後後半:後期研修医用の症例検討会orレクチャー

こんな感じです。

初期研修医用には、年度の最初の頃はプレゼンテーションの仕方を中心にやっていました。最近は実際の症例検討会がメインとなり、リクエストに応じてレクチャーを入れるといったところです。

意識している事としては
 1.午後いちなので、眠らせないように能動的に参加してもらう
 2.症候から鑑別を考えながら診療をすすめる思考過程をみにつけてもらう
 3.症例検討では、最初に目的をはっきりさせる(何を検討するための会か)
 4.症例検討会の最後はClinical pearl(学んだポイントのまとめ)としてまとめる
 5.Reflective practitionerとしての姿勢を身につけさせる
  =知識を提供するより、自分で調べる術や習慣を身につけられるように誘導
 6.飽きさせない!

5.を如何に伝えるか?というのが最近の個人的なテーマです。最近の若手は少し受け身のような印象を受けます。自分もそうだったのか?世代の違いなのでしょうか?こんなことを言っていること自体、年を取ったという事なのでしょうか?


後期研修医用には症例検討を永らくやっていました。
最近は「外来で長期管理を有するメジャーなプロブレム」をトピックにレクチャーを挟んでいます。

こちらも意識する事は初期研修医に対するものと殆ど共通ですが、違いとしては

 1.Reflective practitionerとしての姿勢をより強調
 2.自分自身が準備に使うエネルギーのコストパフォーマンスを最大限にする

といったあたりです。

つまり

「自分達で調べて、自分達でまとめてきたものに対して、私が補足する形で型通りの勉強では学べないコツを提供する」

ということを目指しています。

Reflective practitionerとして臨床医がやっていくためには、如何に少ない労力で効率よく的を得た情報を収集するか?ということが大事ですので、そのことのロールモデルを示したいと思ってやっているのですが、全体の流れとしてはまだまだ改善の余地があります。

まあ、かっこ良く言えばそういう事なのですが、要は「皆に多くを吸収してほしいんだけど、自分もなるべく楽をしたい」ということなんですけどね。


いや~、教えるという事は本当に楽しいですね。

自分が成長できますし、相手が成長しているのがみえるとさらにうれしくなります。

昔の自分は「教育者」になるという視点が全くなかったのですが、いつからこうなったのでしょう?

考えてみれば家庭医の仕事(特に外来)は殆ど教育といえます。患者さんに如何に自分の健康について学んでもらうかという事がかなりのウェートを占めるんですから。