今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

Family Medicine Obstetrics by ラトクリフ

2008-12-31 11:44:11 | 家庭医療
明けましておめでとうございます(by 日本時間)

といっても、こちらはまだ年末です

勤務はじめが1月4日からですので、1週間強のお休み中

さぞかし優雅かと思われるかもしれませんが、さにあらず

毎日、清書を読んでいます

本当に久しぶりです




Family Medicine Obstetrics(詳しくはこちらをクリック)

通称「ラトクリフ」

日本人のレジデントも現在いらっしゃるLancaster General Hosptailの家庭医療プログラムディレクター、ラトクリフ先生が手がけられている本です


FMBローテーションの前に、知識不足を心配していろいろな人に「清書」について質問したところ

100%の確率でこの本が推奨されました

購入はしていたものの、11月の休暇中はオーランドでネズミと戯れていたせいで、

自分のプログラムで作られたマニュアル冊子に目を通すのが精一杯

おかげで12月は知識不足丸出しで散々でした

その結果、休暇中のディレクターと電話で「改善策」を相談するはめに

診療にダイレクトに反映される章から読み始めて、まだ1/4ほどしか目を通せていませんが

とっても読みやすく、気に入りました

家庭医という視点も押さえつつ、産科に必要な項目は網羅しつつ

Evidence basedにかかれています

全ての診療に対して、どの程度の根拠があるかもしっかり書いてあります

お勧めです!!

クリスマスモード

2008-12-25 12:30:00 | 時事ネタ
メリークリスマス

皆さん、いかがお過ごしでしょうか?

アナーバーもすっかりクリスマスモードですが

私は24、25日と7-19時勤務です

皆よっぽどクリスマスを避けたいのか、サービスは暇です

誘発分娩は、当然のようにスケジュールされていません

こちらのレジデントと話して初めて知ったのですが

日本のクリスマス=アメリカのNew Year

アメリカのクリスマス=日本の正月

アメリカのクリスマスは家族とゆっくりすごし、店は軒並み休み

New Yearは若い恋人達が、おしゃれなレストランを予約して・・・


病棟の話に戻りますが

時間と勤務表を見ながら、病棟の看護師長がクリスマスプレゼントとばかりに、何人かの看護士を早めに勤務から解放しています

24日はアテンディングも、朝からの回診をすませるとそそくさと帰宅

お産が無ければ、レジデントも病院を離れることができますので

私も途中抜け出して、子供のクリスマスプレゼントを購入

途中でトリアージからコールされてあわてて戻りましたが、全くもって暇でした


25日の早朝には、分娩が1人入りましたが

その人は、前回のお産で病院にたどり着けず途中で生み、分娩後の大出血も起こしたため

電話で「もう始まっていそうだから、早く来て下さい」と言うと

「子供とクリスマスプレゼントを空けてから行きたいから、ちょっと待って」

結局、病室に入室してからわずか10分後の出産でした


私は、今日(25日)の19時をもって、仕事納め

来年は3日からの24時間勤務が仕事初めです

チェックリスト医療

2008-12-24 01:51:49 | 臨床留学
アメリカの医療は良い意味でも、悪い意味でもチェックリストで成立しています

入院の指示から、プロトコール化されたセットメニューをひたすらクリックしていきます

見落としが少なくなりますが、逆に「そのチェックリスト」の無いところに転勤となった時に、それが身に付いているかは疑問です


今回チェックリストと書いたのは、もっと違う意味が主旨です

すなわち入院診療をする時に、自分でおぼえとして作るチェックリスト

受け持ち患者が5人いたとして、それぞれの患者ごとにやるべきことをチェックリストに書き出しておきます

それらの優先順位を判断して、ひたすらこなしていきます

"Get things done!"  日本語で「やっつける」でしょうか

チェックリストの作成と、優先順位の判断が極めて重要であることは、思い返せば当初から言われてきたのですが

最近になってようやく実感するようになりました

入院期間が極めて短いため、

一日でも入院を長引かせることが「極めて良くないこと(罪悪)」と考えられています

今日中に退院させるためには、今日の昼までに「○○科」のコンサルテーションをすませる必要がある

そのためには、朝7時半にコンサルテーション先に直接電話をして、○○時までにrecommendationをもらえるように言質を取る必要がある

現在のFMBでも普通の経膣分娩で24時間
                       GBS陽性は36時間
       帝王切開で48時間

正常の経膣分娩で、生後20時間ぐらいになると、看護士や家族もそわそわし始め

「あらかじめ退院の指示を入力しておいて」とポケベルがなります

また殆どの男の子が割礼の手術(これも私たちレジデントの仕事)を受けますが

お産の合間をぬってベストのタイミングで割礼の手術をこなさないと、退院が遅れてしまいます

この辺りの時間感覚が、日本モードではダメだということに、半年たってようやく実感してきました

それというのも、FMBというホームのローテーションでアテンディングがダイレクトにフィードバックをくれているからです

Awayでも同じようなことを指摘されていたと、今になって思うのですが、かなり遠回しだったせいか、今ひとつピンときていませんでした

今頃実感するのは、ちょっとのんびりすぎた感もあります


チェックリストはセコセコして、せわしない感じがあまり好きではないのですが

全てを頭に入れておくほどの若い脳みそはありませんので、仕方がありません

咳の原因

2008-12-22 10:16:37 | その他
主訴)咳

現病歴) 
 不規則な勤務生活をしばらく続けており、3日前より咽頭痛

 この間、咳、鼻水などはいっさい無く

 前頸部のリンパ節が無数に腫れていることを自分で触知していた

 夕方に勤務を終えて外に出たとたんに咳が止まらなくなった


診断:寒冷刺激


これ実は、今日の私です

この数日、雪が降っており

今日は「Stormがやってくる」と聞いていました

てっきり大雪でもふるのかと思いきや

先輩レジデント曰く「こんなに寒かったら雪も降らないよ」

外に出てみると、雪が降っていないのに、大風で雪が舞い上がっています

見事なパウダースノー 

そして気温は0度


セッシではなくカシ

数分もたっていれば、本当にカシ「仮死」になりそう

摂氏に直せばマイナス18度ですから

そんなわけで、外に出ると、気道への刺激で咳が止まりません

やっぱり満月とか、潮とか、何かしら

2008-12-16 14:24:39 | 医療ネタその他
12月12日は「近地点」といって、この十数年で一番月が地球に近く

満月も普段のものと比べ、およそ30%明るく、14%大きく見えたのだそうです

そして理論上は、一番の高潮があったそうで

当直だった私は、産科病棟全体がお産ラッシュのため、

一睡もせずに、充実した夜を過ごせました

その後、土日と月曜の昼間までは「ピタッ」と止まっていたのですが

月曜の昼間から急に冷え込んだせいか(火曜日の朝は-10度)、関係ないのか分かりませんが

月曜の夜中から、またまた病院中がお産ラッシュ

やっぱり「何かしら」あるような気がするんですよね

「何かしら」をうまくデザインすれば、きれいな相関関係が出る研究ができる気がします

「何かしらをさあ~、しっかりやっていこうぜ~」という

お笑いコンビ「はんにゃ」のフレーズが頭にこだました、当直明けでした



クリニックの窓の外をふと見ると、鹿が5匹
iPhoneでは、写りがイマイチですが



反面教師?理想の家庭医?

2008-12-15 22:56:30 | 教育
いろいろなアテンディングがいます

教育スタイル、診療スタイルもまちまち

FMBは、自分とアテンディングの2人でチームを組み

間にシニアレジデントがいませんので、その影響をモロに受けます


インターン仲間の間で、「厳しい」と敬遠されているアテンディングがいます

覚悟はしていましたが、その先生と働いた初日、

昼の12時には「もう無理」と何度もつぶやきながら仕事をしていました

その頃には、困ったことがあっても、気軽に相談できる雰囲気はゼロ

「こんなときにこそ、医療ミスが起きる」と自分に言い聞かせながら、なんとか仕事をこなしていました

たまたま、治療がうまくいかない患者さんが重なっていたという巡り合わせの不運もあったのですが

とにかく、厳しい

プレゼンをしていて曖昧な点があると、「チッ」と舌打ちをされながら説教をされます(内容はあくまで「教育的」なんですけど)

その先生の治療方針に対して、看護士(助産師)が異議を唱えて

間に入った私が、右往左往することも数回

同僚の経験談と全く同じことが、自分にも起きていました


ところがです

たまたまその先生がPCPとしてかかわる患者さんのお産に入ることがありました
         PCP: primary care physician(主治医)


そこでみた彼は、別人のようでした

患者さんと家族にぴたりと寄り添い、励ましながらお産をサポートし

生まれた瞬間には、家族のように一緒に喜んでいました


家庭医として、家族全体にかかわり

お産をしたほうが、家族との結びつきも強くなるのではという

私のイメージする「理想的な家庭医」がそこに・・・


その先生と組んだ2日目には、彼の人当たりにもかなり慣れ

その先生の言動はあくまで「教育」だということをクリアに認識し始めて

「インターンに適度なプレッシャーをかける先生も、ある程度必要だよな~」などと思えるようになりましたが

やっぱりあのプレッシャーは「適度」では無かった気がします


昨晩はたこ焼きとタラの鍋
日本から持参したたこ焼き器が大活躍


チーフレジデントの仕事とネガティブフィードバック

2008-12-12 12:59:47 | 教育
 今日は一段と冷え込み、お産ラッシュでした


アメリカのレジデントプログラムには、チーフレジデントというポジションがあります

プログラムによって、人数や学年も異なり

3年間の家庭医療プログラムでは3年目のレジデントがつとめるのが最も多いパターンで

某プログラムでは4年目にチーフレジデントというポジションが別につくってあったりもします

当プログラムでは1学年9-10人×3学年=29人に対してチーフレジデントが2人です

チーフレジデントの仕事は、プログラムによってまちまちですが

主に各レジデントの勤務調整をしたり、レジデントの意見をまとめたり

まあ、昔で言う学級委員の様なものでしょうか

雑用係と言えば、雑用が多いのですが

新しいレジデントのリクルートの時にはリクルート委員会に入ったり、プログラム改善のためのプロジェクトに参加したり

将来アカデミックなポジションで指導医になりたい人は是非やると良いポジションで

日本で家庭医の教育に携わりたい自分としても、「なれたら将来の役に立つだろうな~」と思いますが

そうは言っても、同僚からの選挙によって選ばれますので

自分がなれるかどうかは、日々の自分の行動と同僚からどのような評価を受けるか次第です

それはさておき、CCUローテーションが終わって一段落したある日、チーフレジデントに声をかけられました

「CCUの研修がどうだったか、今日の仕事のあとちょっと話を聞かせてよ」

仕事の後、そのチーフレジデントと当たり障りの無い会話が始まりました

「CCUどうだった?困ったことあった?」

ところが、話がすすむにつれ、あることに気づきました

要するに、

「CCUのローテーション中に関わった上級レジデントもしくは指導医から、コミュニケーション能力に関わる何らかのネガティブなフィードバックが入った」らしいということです

日本語では、ボーッとしていて会話の80%しか聞き取れていなくても、何となく意味は分かりますが

第二言語の英語では、最前列で集中して聞いていないと、重要な部分を聞き漏らすことがあります

またCCUは人の出入りが激しく、病態の変化も著しく、以前にも書いた 「I would とI willの使い分け」など、コミュニケーションでの問題点に、思いつくフシはいくつかあったので、驚きは特にないのですが

チーフが気を使って遠回しに言っているせいか、具体的に何がいけなかったか、はっきりこちらには伝わらず

「えっ?何が問題?誰?いつ?」という感じでした

新しいチャレンジをしている以上、至らない点があるのは百も承知で

普段は、問題が起きた時にどこがいけなかったか、いちいち分析して改善するようにしていましたが

今回のフィードバックでは、結局どうしたら良いか分からず、ダメ出し感だけが残ってしまいました

ローテーションごとに受け取るオンラインの評価表や、先日あった半年に一回の副ディレクターとの総括

さらにCCUではアテンディングやシニアレジデントに直接フィードバックを求めたりと

これ以前にも何度かフィードバックの機会があったのですが、今回の話題は一度もふれられてきませんでした

また思わぬ人からのフィードバックで意表をつかれたこともあり、さらにショックというか動揺しました

今回の一件で思ったこと

1.こんなことも、チーフレジデントの仕事なんだ。。。
2.ネガティブフィードバックは具体的であるべし
3.ネガティブフィードバックは改善方法が存在する内容であるべきで、改善法を提示できればなおすばらしい
4.ネガティブフィードバックはタイムリーであるべし
5.やっぱりネガティブフィードバックは難しい
6.サンドイッチ法はいまひとつ


ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、サンドイッチ法とは

ネガティブなフィードバックを与える際に、前後をポジティブなフィードバックで挟む方法で

つまり

「褒めて、落として、褒めて」という流れです

ちなみにそのチーフレジデントは見事にサンドイッチ法を使っていましたが

フィードバックを受け取るほうが、その方法を使っていることに気づくと、逆効果な場合もあります

つまり最初と、最後に褒めているのが、単なる「前振り」や「クッション」だと意識してしまうと気持ちが冷めてしまうのです


こんなことを書いていたら、現在ローテーション中のFMBのアテンディングから、1週間の総括をいただきました

彼女も見事にサンドイッチ法を使っており、褒められた瞬間に舞い上がったのが、数秒後に冷めたのですが

彼女の場合はタイムリーかつ、具体的な改善点込みのネガティブフィードバックだったので、大変受け入れやすいものでした

感謝、感謝

チーム医療とsign-out制のはざま

2008-12-10 21:31:23 | 臨床留学
CCU(循環器)ローテーション中の出来事です

CCUはアテンディング1人、シニアレジデント1人、インターン2人、医学生が1~2名でチームを組んでいます

屋根瓦式のチームで医療をしますので、常にアテンディングやシニアと相談しながら医療をおこなっていくという安心感がある一方

4日に1回の当直があり、かつ週80時間という労働時間の上限を守りますので

自分も常に受け持ち患者のそばにいるわけでもなく、

自分個人と患者さんの間柄は、時間的にかなり途切れ途切れの関係となります

そこで毎日のSign-out、コミュニケーションが大変重要になってきます


さらに循環器では、移植の対象となるレベルの重症心不全は「心不全アテンディング」という特定の医師しか診ることができないという変わったルールがあります

心不全アテンディングは、基本的にNPとチームを組んでおり、普段はNPが私たちインターンと同様の下働きの役割を果たすのですが

患者さんが集中治療室に入った時だけはNPの診療が許されないため、私たちインターンがチームに入ってその役割を果たします

つまり自分が当直中に重症心不全の患者さんが集中治療室に入院となると、

患者さんが集中治療室にいる間は、私たちが心不全アテンディングと回診をしながらその患者さんのケアをするわけですが

自分が担当しているその他の患者さんは、自分のチームのアテンディングと通常通り回診しますので

全く別に行動する2人のアテンディングと時間をやりくりしながら、回診をしなければいけません

時間のやりくりだけでも大変なのですが

心不全アテンディングは、自分が慣れ親しんだチームのアテンディングとは診療スタイルも異なりますし、

心不全アテンディングとは大抵その1人か2人の患者さんを一緒に担当するだけですので、一日のうちでもせいぜい10分ぐらいしか会えません

さらに集中治療室では、集中治療室専属の循環器フェローの先生がいて、その先生も患者ケアに加わるため、

自分の知らない間に患者のケアがどんどん変わっていくのは日常茶飯事です



そんな中、重症心不全のある患者さんが集中治療室に入院となりました

運悪くCCU(循環器の集中治療室)が空いていないため、別の階にある内科の集中治療室に入院となりました

この患者のケアをするのは

1. 心不全アテンディング
2. 循環器フェロー
3. 私のチームのシニアレジデント
4. 私

ICDがしょっちゅう作動する大変重症な方で、数日以内に透析をしないと生きられないという状態でした

ところが

ご本人は「もういい」
御家族は「可能な限りの治療を」

という乖離があり、

主治医アテンディングがこれまで何度か、ホスピスケアの話をするものの

「まだ、とりあえずFull Code」という曖昧な状況でした


入院2日目、朝の回診を終わらせた数時間後


突然の心肺停止がおきました


呼ばれていくと、既にこの日のCodeチーム(様々な職種総勢10名以上)がフルで蘇生をしています

あいにくこの日は私のチームのシニアレジデントが休暇

アテンディングはすぐには来れず

フェローは本拠地のCCUで重症患者が重なっており、一瞬しか顔を出せず

結局、主治医チームは私1人だけ

デフォルトがフルコードなので、Codeチームはイケイケでフルの蘇生を施しているのですが

私個人の意見では、この患者さんへの蘇生自体に疑問をもちつつも

家族のキーパーソンの到着まちの状態では、勝手に蘇生を止めることもできず


そのうち心拍はとりあえず再開して、コードチームは解散

キーパーソンの家族も到着して、

その場に居合わせた唯一の主治医チームの人間である私は質問攻めです

そもそも超重症であまりにも複雑な病態の、その患者さんとお会いしてまだ2日目(前日は当直明けで、半日で帰宅)

コードチームは勝手に昇圧剤などを使用してカルテも未記載のため、各薬剤の詳細も分からず

ご家族とお話しするのはもちろん初めてですし、

その一家は大変紳士的な方々なのですが、出で立ちが某映画で見たシチリア島のその筋の方々そっくり

スーツに身を包んだいかつい男性、数名に囲まれて

嫌な汗をたっぷりかきながら、隙をみてフェローにヘルプのコールをしました







そのフェローが到着する前にまた心肺停止となり、

蘇生をしながら、治療を継続するかどうか、家族と相談です

最終的には、ご家族も治療の中止を決断されたわけですが

今回は様々な偶然が重なって、チーム医療の中でポケットのように手薄になった時に、重大なイベントが起きてしまった一例でした


診療が手薄だった要因
1. たまたまシニアレジデントが休み
2. 入院がCCUではなかったうえに、CCUでもイベントが起きていたのでフェローも駆けつけにくかった
3. アテンディングも忙しかった
4. 家族のキーパーソンも居合わせなかった


また唯一居合わせたインターンである私が、治療の方針にとまどいを感じていた理由は
1. 入院直後
2. 病態が複雑で原疾患の治療も二転、三転していた
3. 自分のチームではなく、心不全チームの患者だった(のでチーム内でのディスカッションが今ひとつ)
4. Code(蘇生するかどうか)という根本的な方針が定まりきっていなかった
5. Codeチームの蘇生行為が、主治医チームから独立して行われ、カルテにもまだアップされていなかった
6. 治療方針はアテンディングと患者さん、家族で長い間話し合われていたものの、もともと私はその輪にいなかった


そもそも、医療従事者の労働環境を守ることと、治療の継続性を確保するためにSign-outは発達してきたと思うのですが

さらにチーム医療という側面も加わり

Sign-outを含めたプレゼンテーションによるコミュニケーションの重要性は、はかりしれないものがあります

そうはいっても、細かいバトンリレーをしている中で、今回のような事例に遭遇すると

限界を感じずには、いられません

日本のようにたった1人の主治医が、24時間365日身を削って、常に患者のそばにかけつけていれば、今回のような戸惑いが無かったのは間違いありません

どちらが良いとは一概に言えませんが

日本人は伝統的に良いところだけを取り入れる、「折衷」という能力がありますから、うまくsign-outを導入して適度なワークシェアをしつつ、過剰な分業をしない

そんな環境をつくりたいものです


ALSOをやらない理由

2008-12-07 13:15:26 | 臨床留学
すっかり冬も深まり、気温がマイナス10度をさすことも

外に出ると、寒いというより「痛い」です

我が家でも、クリスマスツリーの飾り付けがようやく完成です




ところで先日、産科の救急トレーニングのALSO (Advanced Life Support in Obstetrics)について書きました

その後、あるアテンディングに聞いてみました

「うちのプログラムではどうしてレジデントにALSOを受けさせないんですか?よそでは大抵、受けていますよね?」

答えは「それはOB theme dayをやったからだよ」

OB theme dayとは、7月のオリエンテーションの最中に行われるイベントで

2日間、産科をテーマにレクチャーからSPによる実習、シミュレーターを使った練習、エコー見学、実際の新患妊婦さんの担当などを行うもので

そのうちSPさんによる実習は、SPによる身体診察教育という項で触れました

「要するに、ALSOのコアの部分はOB theme dayでカバーしているから、ALSOをあえて受けなくても大丈夫」ということらしいです

決してALSOに対するネガティブなものではないようですし、そんな配慮できっちり教育してもらっていたのに

「某先生がALSO嫌いだから」という噂に踊らされていた自分にちょっと反省です

研修医の労働時間に関する新しい勧告

2008-12-04 12:19:30 | 臨床留学
昨日、IOM(Institute of Medicine)というところから、研修医の労働時間に関する勧告が出ました

「患者の安全」という視点から、まともな医療判断ができる範囲内に研修医の労働環境をとどめようというのが目的です

IOMの勧告に沿ってACGMEが具体的なルールを策定しますが

それを守れなければ、各プログラムは資格を剥奪されますので

各レジデンシープログラムにとっては、実質上ルール変更が確定したことになります

以前も書きましたが、この勧告で週の労働時間の上限が現行の80時間から60時間台に削減されるのではという噂もありました

さすがにそこまで減らしては、研修そのものが成立しない(特に外科系)ので、戦々恐々としていたのですが

ふたを開けてみると、上限は80時間のまま据え置きでした


しかし詳細をみると、結構基準が厳しくなっていることが分かります






例えば、

Maximum shift length
  •  現行 
    • 30 hours (admitting patients up to 24 hours then 6 additional hours for transitional and educational activi- ties)

  •  新しい勧告 
    • 30 hours (admitting patients for up to 16 hours, plus 5-hour protected sleep period between 10 p.m. and 8 a.m. with the remaining hours for transition and educational activities)       
    • 16 hours with no protected sleep


これまではon-callと言えば、朝7時から翌日の昼12時までの29時間(残業で1時間の余裕をみて)というのが一般的でした

これが夜の22時から朝8時までの間でprotected sleeping hourを5時間

つまりポケベルなどにもいっさい悩まされない5時間の睡眠時間の確保となります

夜間10時間を2人で半分ずつ分け合って眠るか

protected sleeping hourに達したらもう帰宅するか

ということになります


表を見ると分かりますが、現行でも細かい制限がありますので

それを実現するためにnight floatというローテーションがあります

例えば、ミシガンの家庭医では夕方7時から朝の7時まで当直をする勤務を2週間、毎日こなします

これは結構きついですが

新しい勧告ではこのnight floatは最大4日しか連続で行えず

3日か、4日連続で夜勤の後は、必ず48時間休むことが義務づけられます

これは大変助かる変更ですが、逆に言えば

全体をどうやって回していくの?という質問になります

同じ仕事を、同じ人数でこなすことを考えると

例えば2週間のnight floatを2回やっていたところを、今度は48時間の休みを挟んで4日サイクルのnight floatを7回やることになります

これはこれで、きついような気がします


いずれにせよ、今回の勧告で強調したいのは

大元の考えが、「患者さんの安全」のためのルールであること

それを守らなければ、プログラムは資格を剥奪されるという厳しい罰則があること

そしてそれを実現するための人数と予算をちゃんと計上すること

最初と最後をダイレクトにつなぐと

患者さんの安全を守るためには、金と人をちゃんと用意しましょう」ということです

どこかで聞いた話ですね~

ALSO (Advanced Life Support in Obstetrics)

2008-12-03 07:49:56 | 臨床留学
救急蘇生のトレーニングとして

産科にはALSO (Advanced Life Support in Obstetrics)があります

ちょうど先週、金沢で第1回のコースがあり大変好評であったと聞いています


私もコースのマニュアルの翻訳に参加して、受講を大変楽しみにしていました


家庭医のレジデントなら、当然タダで、プログラムの予定の中に組み込まれていると思っていたのです

実際、春先には研修の一貫としてNRP(新生児)、PALS(小児)、ACLS(普通の救急蘇生)のコースも受けることができました

 

ところがです・・・


ミシガンではレジデントがALSOを受けることは無いとのこと

噂では、一番偉い先生が「そんなもの役に立たない(必要ない)」と言っているからだそうで

産科に一番の不安を抱えている自分としては、かなりがっかりです

こういった救急蘇生のコースは、実際に受けてみると

確かに、現実の診療で遭遇しない内容が多かったり、実際の現場ではもっと混沌としていて、「役に立っているのかな?」と思うこともありますが

コースを受けることで勉強をしたり、

万が一にしか遭遇しない危機的状況は、一度であっても演習しておくと、心の準備としてかなり違うと思うのです

今のところ、休日に自腹で受ける気合はありませんが、なんとか機会を見つけたいものです

お産と新生児ケアのローテーション

2008-12-02 09:50:47 | 臨床留学


12月、1月はFMBのローテーションです


FMBとはFamily Mother and Baby


お産から新生児の診療まで、周産期の入院ケアを担当します


週2回の当直があり、そこそこハードです



初日はほどほどに忙しく

一番最初に担当したお産は、日本人の方で、いろいろと難航したのですが

最終的にはベストの形で無事生まれることができました


普通の入院診療では、屋根瓦式のチームが構成されており、自分の上にシニアレジデントがいるのですが

FMBのチームは基本的に自分とアテンディング(指導医)の2人です


これがこのローテーションでは結構「キモ」だと思います

そもそも産科医療というのはCochrane Libraryが産科のプロジェクトから始まったことからも言えるように

エビデンスにうるさいはずのところですが


現実的には、曖昧なことが多いのです

 

つまり、どのような診療プロトコール、選択をするかどうか、エビデンスが無いことが多い


そしてこの診療スタイルの違いがいくつかのレベルにわたってみられます


すなわち

1.日米の診療の違い~ 詳しくは語れませんが、かなり違うらしいです

2.州、施設による診療の違い~ 例えばミシガン大とハーバード大で診療スタイルがかなり異なるということもありますが、州によって保険のからみや、予防接種、検査の基準も異なります

3.産婦人科と家庭医の違い~ ミシガン大ではかなり密に連携をとっていますので、ここはあまり問題にならないそうです

4.指導医による違い~ マンツーマンのアテンディングが、毎日のように入れ替わりますが、それぞれスタイルが微妙に異なり、レジデントに対する要求もかなり異なるようです

 

幸い初日は、日勤と夜勤、一緒に働いたアテンディング(研修医は24時間勤務、指導医は日勤と夜勤で交代)は、それぞれ若手で、教育熱心かつ相談しやすかったので助かりました


3週目には大御所の先生と一緒に働く機会がありますので


それまでに仕事をおぼえて「使える研修医」にならなければと必死です