今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

Ground Round: Health-care associated pneumonia (医療ケア関連肺炎)

2011-01-20 21:57:09 | 教育
今月のsports medicineローテーションでは大きなイベントがあります


水曜のカンファレンスでのGround roundの担当です


テーマは全くのフリーで家庭医療科の指導医、レジデント、医学生の総勢100名あまりに対して40分のレクチャーをします


これまでもM&M(mortality & morbidity)で同じ人達相手に計4回プレゼンをしていますので


場数としては踏んでいるのですが


M&Mはあくまでも決まったフォーマットの中での発表で


多少自分の色を出す程度で、割と気楽です


ところがこのGround Roundは、フリーのテーマで大勢にプレゼンをする唯一の機会で


ある意味レジデンシ−の中でも3年目としての集大成とも言えますので、ヘタはうてません


テーマがフリーなのが結構くせ者で、相当悩みました


最近の同僚のトピックをあげてみると


  • wilderness medicine(アウトドアスポーツ医学)
  • chronic orchialgia(睾丸痛)
  • (主にアフリカ系)女性の割礼
  • 医学生が何故家庭医を選択しないか?
  • 肥満の治療
  • タイでの選択研修報告
  • アフリカ系女性特有の頭髪問題       などなど


結構、個性あふれるトピックが多いのです


私は次の3つの軸でトピックを考えてみました


  1. 自分が得意な話題 日本とアメリカの医療制度比較、循環器系のトピック、EBM関係
  2. 自分が知りたい話題 産科、スポーツ医学系のトピック
  3. オーディエンスが知りたいであろう話題 外来系のcommonな話題のアップデート


結局1、2、3の折衷という事で


Healthcare-associated pneumonia(医療ケア関連肺炎)の治療について話す事にしました


つまり

1. 内科系の話題なのでまあまあ得意

2. HCAPの抗生剤選択には、日頃から疑問を持っており、2005年のガイドラインには納得できない点があった

3. 肺炎なので割とcommon

内科系の入院を担当しない指導医もいるが少なくともレジデントは皆が興味を持てるはず


ということでHCAPについて話す事にしました


題目は 'Diagnosis & Treatment of Healthcare-associated Pneumonia ~ Beyond the guideline'


beyond the guidelineとは自分でもハードルを上げたなと思いましたが


「ガイドライン通りに治療をしていたら、おかしなこともある」ということを伝えたかったのでこのような題にしました


詳細についてはscribdにアップしましたのでご参照ください


かいつまんで要点だけを抜き出します


HCAPは2005年の下記ガイドラインで導入された概念です


American Thoracic Society; Infectious Diseases Society of  America. "Guidelines for the management of  adults with hospital-acquired, ventilator-associated, and healthcare-associatedpneumonia". Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2005: 171 (4)

 

HCAPの定義は以下です

 

HCAP: 入院中ではないが下記の一つ以上を満たす状況で発生した肺炎:

  • Hospitalization in an acute care hospital for 2 or more days in 90 days
  • Residence in a nursing home or long-term care facility in the last 90 days
  • Receiving outpt iv therapy (antibiotcs/chemo) within 30 days
  • Receiving home wound care within 30 days
  • Attending a hospital or hemodialysis clinic in 30 days
  • ( Family member with MDR pathogen )
 

HCAPはCommunity Acquired pneumoniaよりも予後が悪く、耐性菌が多いというデータに基づいて

Hospital acquired pneumoniaやventilator-associated pneumoniaと同様のスペクトラムでとらえようという考えです


ガイドラインを額面通りに受け取ると、HCAPと診断された瞬間に下記の3剤併用両方が推奨されます

 


緑膿菌をカバーするセフェムやカルバペネム

+/-

緑膿菌をカバーするもう一種類(ニューキノロンなど)

+/-

MRSAをカバーするバンコマイシンかLinezolid

 


例えば「割と元気だけど、介護が必要な老人ホーム入所者」は自動的にHCAPになりますが


額面通りの治療はどうみてもやりすぎだと思いましたので

 

ガイドラインの引用文献を含めて、様々な文献を考察してみましたが


私が達した結論は

 

HCAPであっても耐性菌の可能性が低い群は、CAPと同様に治療してもOK


そして、下記のリスクファクターを持つものは、耐性菌を考慮した抗生剤選択が望ましい

  1. Severe illness
  2. Antibiotic therapy in 6 month
  3. Poor functional status as defined by activities of daily living score
  4. Hospitalization in the past 90 days
  5. Immune suppression

 


この場合、先述のように3剤併用を要検討ですが


緑膿菌の2重カバーについては、必ずしも必要であるとするデータばかりでなく


MRSAのカバーも、「疑った時のみ」ということになりますので


実際はCefepimeやpiperacillin/tazobactamの単剤でもOKと解釈しています


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