今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

火中のサンディエゴ訪問

2007-10-31 20:42:27 | 臨床留学
今回の渡米の最後、帰国前にSan Diegoの友人宅にお邪魔しました

こちらでは山火事で大騒ぎなのですが、日本ではサンディエゴというより、「ロス郊外」や「ロスの南」などと表現されているようです

1300邸以上が消失する大火事で、長らく外出禁止令も出されていました

ロスからサンディエゴへ至る高速道路もすぐ隣が火事で、しばらく閉鎖されていました

数日たってかなり鎮火され、なんとか訪問する事ができました

ところで今回お世話になった友人はメディカルファミリーセラピーを学んでいます

詳しくは彼のブログをご参照ください

保険の問題等クリアするべき難関が多々ありますが、家庭医療、行動科学のコアとなる分野ですから、なんとか日本にも根付くと良いと感じています

日本のパイオニアとして彼に期待しています!

今回サンディエゴでは日本クリニックを訪問し、院長の金先生と同クリニックで研修中の小児科 吉塚先生と昼食をご一緒しました。


渡米しているいろいろな先生の話に花が咲きましたが、ほとんどがお互いに知っている先生でびっくりです

臨床をする為に渡米するプライマリケア医が少ないせいか、

「アメリカは広いのに、日本人医師の世界は狭い」と感じました


事前指示(Advance Directive)

2007-10-29 05:14:57 | Weblog
「厚生労働省 終末期の治療法 意思確認に診療報酬」

ちょうど事前指示の話を書こうとしていたら、タイムリーなニュースが目に飛び込んできました

事前指示を文書化しておけば、診療報酬を払うという仕組みを2008年度の診療報酬改訂で実現する方針のようです

ミシガンのフェターズ先生の外来に、事前指示について相談したいと受診した高齢男性がいらっしゃいました

米国の事前指示にはLiving will(生前の意思)Durable Power of Attorney for Health Care(代理人への委任)の二通りがあります。

前者は、「どのような治療を受けたいかを、ある程度具体的に表明しておく事」です

厚生労働省が勧めているのはこちらです

日本でも入院前に事前指示書をとる病院も増えてきています

項目の例としては
  • 心臓が止まっても心臓マッサージは希望しない
  • 人工呼吸器は希望しない」
などです

ただ、どこまで細かく決めていくかは難しいところです

例えば

「植物状態になり、回復の見込みが薄いときは,いっさいの延命治療を希望しない」

と決めた場合

  • 回復の見込みが薄いとはどの程度?
  • いっさいの延命治療とは何?
  • 肺炎になったら抗生剤(ばい菌を殺す薬)も使わないのか?
  • 食事をとれないとき点滴もしないのか?

いいだしたらきりがありません

文書化してしまう事によって、予期しない事が起きたときに、本人が希望しない治療方針を医療者がとる可能性もあります

例えば、

進行がんで余命6ヶ月と宣告された65歳の男性

まだまだ元気で、これから身辺整理をしようとしていた矢先に、のどに餅を詰まらせたとします

「いっさいの延命を拒否する」という意思表明を根拠に、この男性はいっさいの治療をしてもらえない可能性もあります

ある程度細かく事前指示を決めていても、想定外のことは起きるものです

そういった事をふまえてフェターズ先生は「代理人への委任」を強く勧めていました。

本人が意思表明をできなくなったときに、「本人だったらどうして欲しいと希望するだろうか?」

ということを代弁してくれる代理人(大抵は家族)を法律で決めておくのです

ただし、この場合重要なのは、代理人と本人が事前によく人生,死生観,死に方等についてよく話し合っておくことです

特に以前も書きましたが人工呼吸器の取り外し等の決定の場合は、本人が生前具体的に語っていた具体的な言葉を根拠に、代理人が治療方針を決定します

日本では「代理人への委託」を法で規定していませんので、身近な家族が意思決定をする事が多くあります

家族の中で誰が判断するか決まっておらず、混乱はしょっちゅうです

また生前の本人の意思が確認できていないと、家族が「本人ならどう希望するか」ではなく「自分がどうして欲しい気分か」で意思決定をしている事が多いように感じます

いずれにせよ、

「家族同士で死に際についてよく話し合っておく」

ことが日米共通の結論のようです

終末期(ターミナル)にさし控えるべき治療とは?

2007-10-25 04:08:44 | 医療倫理
ドラマのERでこんな場面が有りました

老人ホームで暮らす、意思疎通のはっきりできるおばあさんが肺炎で運ばれてきました

酸素を投与されながら苦しそうにしているおばあさんと、ERの医師(カーターだったかな?)は話し合い、「酸素以外何もしない」という選択をしました

おばあさんはそのままERで息を引き取りました

どのように感じましたか?

私は違和感を覚えました


「人工呼吸器にはつながないかもしれないが、点滴と抗生剤はやるかも」と思ったのです

微妙に話がかわりますが、

「ターミナル(定義としては1ヶ月以内の死が予想される状態)の患者さんに対してどのレベルまでの治療をするか?」

というのはよく議論になります

下記の1~5のどこまでの治療をするのでしょうか?

1.止まった心臓を動かす為に心肺蘇生をする
2.蘇生で心臓は動き出したが意識が無いので人工呼吸器につなぐ
3.意識もあり意思疎通もできるが,肺炎になったので抗生剤(ばい菌を退治する薬)を使う
4.食べられなくなったので点滴をする
5.痛みがひどいので痛み止めを使う

患者さんが終末期状態と判断されると、治療のモードをがらっと切り替えることがあります

Palliative care(緩和治療)といいますが、延命よりも痛みのコントロールなどの生活の質に関わる治療を優先します

Palliative careがある程度浸透してきましたので、5が最優先されるという事に異論は無いと思います

1, 2は患者さんと話し合って控えることも一般的となりました

問題は、3,4です

抗生剤,点滴は入院中の末期がん患者さんによく行われています。「延命や蘇生はしない」と話し合ったにもかかわらずです。

勿論、苦痛を取り除くという目的や、質の高い時間をさらに過ごせると見込んで抗生剤や,点滴をするということがあるかもしれません

ただ在宅診療では抗生剤をひかえることも行われている事を考えると、

「病院にいるのに全く治療しないのは何となく気が引ける」

という何となく、感情的な問題で抗生剤や点滴を使っていないでしょうか?

最初のERのおばあさんの治療に私が感じた違和感も、日本での医療の中で培った、何となくの反応だったようです

総合病院の救急に来たのに、酸素だけ?ということです

在宅だったら、何の違和感も感じなかった事でしょう

末期がん患者さんが、「総合病院に入院しているから」という理由で、死の間際に点滴や昇圧剤,抗生剤につながれている状況が当たり前であるのはおかしいのです

希望した人が入れるだけのホスピスの供給が無い以上、やむなく一般病棟で息を引き取る末期がん患者さんはたくさんいます

場に惑わされずに、純粋にどんな治療が適切か考えたいものです

では、どのレベルまでの治療が妥当なのでしょう?

「境界に線を引くのは不可能であり、あくまでもケースバイケース。本質的に、倫理的には差異は無い。」

ということをミシガンでは研修医に強調していました

つまり「人工呼吸器につなぐのも、抗生剤を使うのも、点滴をするのも」違いが無いという事です

問題は「何の為にするのか?」ということです

緩和医療として、「苦痛を取り除くため」の治療を最大限行うのが大事で、

「延命だけを目的とした治療」は控えるという基準が大事なのです

まさに正論だな~と思いました

在宅死が増えて、在宅で患者さんをみとる機会を初期臨床研修の間に研修医が持てれば、自然に教育されるかとも思います

ただ病院で患者さんをみとる機会しか無い臨床医は、一度深く考えるべき事柄だと感じています


人工呼吸器の取り外しについて

2007-10-20 13:22:15 | 医療倫理
前回も書きましたが、日本救急医学会が、人工呼吸器の取り外しを選択肢の1つとする延命治療中止基準を明記した指針を決定したそうです。

やっと・・・という感です

ただ、明日自分が患者さんの呼吸器を外すような場面に出会って,それをできるかというと、まだ???です


先週ミシガンでちょうどレジデントへのティーチングでその話題がでていました。

アメリカでは人工呼吸器を外す事に全く問題はありません。

この2,30年ほどの間に実際にあった訴訟に基づき,法が整備されてきました。

人工呼吸器を外してよい基準として、アメリカではこれ以上の生命の維持の見込みが無いだけでなく、植物状態になり意思疎通ができるような回復の見込みが無い場合もみとめられています

植物人間は、コミュニケーションがとれないので、もはや人間らしい生活を送れているとは言えないという判断だそうです

日本でこういう主張をすると、たたかれそうです

思っていてもオブラートに包まれている領域では無いでしょうか?

また拡大解釈されないか、ちょっと不安な気もします


そしてこれは、本人の事前の意思の表明か、代理人が「本人なら何を望むか?」という観点に基づいて判断します

代理人は法に基づいて設定しておく必要があります

そして代理人をしっかり定めておけば「本人が何を望むか」を生前に本人が語った具体的な言葉に基いて、代理人が推定してOKとなっています

つまり文書は必要ないのです

「本人がある内容を具体的に語った」ということを証明するのは無理です

そういう意味では、ここでもまたちょっと危険な香りもします

一番大事なのは、元気なうちに家族と自分の最期について、具体的にしっかり話し合っておく事のようです

この辺りは日本にも当てはまりそうです。

元気なうちに自分の最期を家族で話し合っておきましょう!

フィードリーダー(RSSリーダー)活用の勧め

2007-10-18 08:04:20 | Faculty Development
Googleリーダーを使っています

Googleリーダーなどをフィードリーダー(RSSリーダー)といいます

フィードリーダーは,定期的にチェックしたいサイトを登録することで,そのサイトの記事が更新されたことが分かるようにできる仕組みです

更新された事をメールで知らせてもらうか,お気に入りのサイトの一覧を作っておいて,その一覧を見ればどのサイトが更新されたか分かるようにできます

この機能の良さは、あえてそれぞれのサイトを訪れなくても良いという事です

時間がかなり節約されます

ネットユーザーにとっては常識かもしれませんが,多くの医療関係者はまだ知らないと思い、あえて書きました

フィードリーダーについても亀田の岡田先生が主催するHANDSというFaculty Developmentのコースで知りました

ネットを如何に医学教育、医療の発展に利用するかというのは臨床医として、指導医として意識しておくべき重要事項であると感じています


Googleリーダーで定期的にチェックしているサイトの一つに「天国へのビザ」というサイトがあります

そのサイトの「一歩前進」という記事で知ったのですが、日本救急医学会が、人工呼吸器の取り外しを選択肢の1つとする延命治療中止基準を明記した指針を決定したそうです。

学会が指針を出したといっても、警察や検察がどのように動くかは分かりませんので、しばらくは様子見の状態が続きそうです

人工呼吸器の取り外し
ターミナルの状態でどのレベルまで治療を差し控えるか
事前指示(Advance directive)

これらの倫理的な考察については日米の比較等を交え,次回以降書きたいと思います


OHSUのクリニック

2007-10-17 12:11:14 | 臨床留学
OHSUのクリニックも見学しました。

クリニックと言っても10階建以上の巨大な建物です

1階はジムやスパがあり、2階は体育館。上の階には様々な科の外来があります。

家庭医療科は9階

家庭医療科の受付です


他のプログラムと同様に、レジデントは余裕のあるスケジュールで患者さんをみます

1年目は患者さん一人に45分
途中から2年目の終わりまで30分
3年目になると15分

結構余裕があるように見えますが、15分でみるのは結構大変です。普通の再診だと3~6ヶ月に1回ぐらいの診察になりますので、1回の診察でたくさんのことを一気にすませます。

1回の診察時間が短い代わりに、月に1,2回も再診している日本と比較すると、一人の患者さんとあっている時間は結局同じぐらいになると思います。

そして家庭医療科の診療は「おせっかい」です


例えば「耳閉感」があると受診した40歳代の男性

耳鼻科で耳あかをとってもらい、ちょっと良くなったそうだが、数ヶ月間も間欠的に両耳の耳閉感があるとのことで来院。

病歴から副鼻腔炎の可能性は極めて低かったのですが、抗アレルギー薬を試してもらう事になりました。

違いはその後です

この男性は最近引っ越してきたらしく、妻が妊娠したとの事。

「おめでとう!是非奥さんも、こちらにかかってください。私たち皆、妊婦さんのケアもしますよ!」

そして本人は遺伝性球状赤血球症で脾臓摘出、胆石で胆摘の既往があると分かると、肺炎球菌のワクチンから運動,食事の指導から心血管障害のリスクアセスメントまでします。

知りませんでしたが,遺伝性球状赤血球症は心血管系の高リスクでもあるんですね。

予防医療に対する積極的な介入は、かなり徹底して教育されている事を感じました。

というより、あらゆる医療行為がプロトコール化されており、予防接種等はチェックマークをうたないと、診療が終わらないようになっています。

プロトコール化についても議論はつきないと思いますが、「忘れない」ということについては効果が出ているようです。

オレゴンから家庭医

2007-10-16 09:47:10 | 家庭医療
昔、「オレゴンから愛」という番組がありました

改めてwikipediaをひいて知ったのですが、名古屋出身の加藤晴彦さんが子役で出ていたんですね

オレゴンは緯度が高いので、冬は日が短く抑うつ気味になりそうですが、今は良い季節です

街のはずれの川沿いの写真です



本題です

オレゴン大学の家庭医療学科を訪問しています

OHSUと略します(Oregon Health & Science University Family Medicine)

OHSUの家庭医療科は、アメリカの家庭医を知っている人なら誰もが知っているプログラムです

トップ2にランクされているプログラムで、日本の家庭医療に対するサポートも積極的にしています

そこでレジデントをしている山下先生をたよりに今回の訪問となりました

丘にそびえ立つ巨大な建造物の中に大学病院があります

丘の下にあるクリニック(といっても10階建て以上の新しい建物)とはゴンドラでつながっています

(左に見えるのがクリニックの建物、奥の上にかすかに見えるのが丘の上の大学病院)


これを丘の上の大学側からみると

(左の奥に見える大きなビルがクリニック)


さらにゴンドラ乗り場を手前の小児病院からみると

左に大学病院と下に駐車場が見えます。
その上を横断している橋が、右にのびて同じ敷地内の退役軍人病院に繋がっています。エアコンの効いた世界最長の橋だそうです。家庭医療科の病棟は退役軍人病院の中に間借りしていますので、毎日この橋を通ります。


大学病院の病棟では、オーダー等はパソコンでしたがカルテは手書き。新しいクリニックでは全てパソコンです。

病棟チームの朝は7時のモーニングカンファレンスからはじまります

かつてのように、カンファレンスの前に回診をするというのは禁止されています。週70時間を上限とする就業規則が厳しくなった為らしいです。

アメリカの病棟は朝がとても早いと、よく聞いていましたのでちょっと安心です

カンファレンスは新規患者以外は軽く流して、新規の4人だけ濃厚にプレゼンです。ミニレクチャーも挟んで1時間半続きました。

その後はチーム回診です。今回ついたチームはアテンディング、レジデント、薬学部の学生で組んでいました。午前中一杯かけて回診したのは患者4人です。

患者さんの人数的には結構余裕がありますが、超短期の入院なのでそれなりに大変です

クリニックの様子は後日書きたいと思います

ミシガンでの印象深い症例

2007-10-14 10:47:30 | 家庭医療
ミシガン大学の日本家庭医療プログラムで印象深い症例に多く出会いました。

そして守備範囲の広さと、全身を診るだけでなく家族や生活背景を診るという事の意味を改めて考えさせられました。


まずは、興味深かった症例の一覧です
  1.  皮膚病変の生検
  2.  不妊の日本人夫婦
  3.  ADHDの子供(母親に対するサポートに力を注いでいた)
  4.  インスリン治療が必要になった妊婦
  5.  通院中の高齢男性からLiving Willについて相談
  6.  巻き爪の手術
  7.  健診では乳がんの触診,子宮頸がん検診,若い男性は睾丸の触診
  8.  繰り返す尿潜血陽性は自ら顕微鏡で赤血球を確認して泌尿器へ紹介
  9.  診察だけで患者が満足してかえった膝の損傷
  10.  結節性硬化症の患者の結婚前の遺伝相談と性病の相談

最後の2症例について詳しく述べます


膝を痛めた40歳代の肥満女性

2日前にバレーボール中に,足をくじいて膝を痛めたとのこと。
直後は意外と大丈夫だったため、10分ほどバレーボールを続けたところ、痛みが増悪。
2日目になって腫れてきたが、来院当日の3日目は少し腫れが軽減。

病歴からじん帯損傷と半月板損傷の違いを鑑別。

前者は受傷後てすぐに水がたまってきますが、半月板損傷では直後にはあまり腫れず、翌日あたりに水がたまるとの事。

半月板損傷の可能性が高い、とあたりをつけて身体診察

肥満が著しく,一見して膝に水がたまっているかどうか分かりません。
まずは高い椅子に座って足をリラックスしたときの膝の角度の左右差から膝に水がたまっていると判断(水がたまっている方の膝は、テンションがかかりにくいように膝の角度が120度ぐらいに広がっています。)

次に,膝に水がたまっているか触診。

後はAnterior, Drawer Test, Posterior Drawer Test, Valgus Stress Test, Varus Stress Test
などを系統的に行っておしまい。

半月板損傷は,以前いためた部分にねじれが加わり,再度いためる事が多いそうです。安静で軽快する事が多いので,そのまま保存的にみてOK。

診断から治療、今後の予後について詳しく説明したところ、患者さんも満足して帰られました。



次は結節性硬化症の若い女性

来年結婚する予定。
今日は子宮がん検診と避妊ピルの追加処方を目的として来院

また、彼氏がHPV感染かもしれないと打ち明けてきたという相談も受けます。

また、結節性硬化症の合併症の定期チェックの必要性についての相談と、結婚にあたって遺伝相談も希望。これは専門家へ依頼



いや~これだけバラエティーに富んでいれば,本当に毎日楽しそうです。

水曜日はGround Round

2007-10-11 18:55:50 | 家庭医療
ミシガン大学家庭医療科の水曜日午前はGround Roundの日です

Ground Roundはほとんどのプログラムでもうけられています

「全体勉強会」とでも訳したら良いのでしょうか?
各科をローテトしているレジデントのほとんどと、Facultyが一堂に会して大講堂でレクチャーをします

勤務時間内にこうした時間が確保されていること自体うらやましいです

今日は、8:00から10:00まで大講堂で3セッション
その後レジデント用の1時間の講義が2コマ,12時まで用意されていました


大講堂でのセッションは以下の3つ

1. レジデントによる'Traumatic Brain Injury'

2. 准教授による'What is Up with all these Triangles and Pyramids and Health Care?'

3. Sport medicineの指導医による  'Selecting the best Diagnostic Imaging '


最初のセッションは、外傷による脳障害の総説だったのですが、スライドの字が多く、言葉も聞き取りにくく正直きつかったです。

2/3ほどしか聞き取れず、そのうち睡魔に襲われてしまいました。

外来診療では言語のバリアはほとんど感じていなかっただけに,かなりショックを受けました。

ところが、残り二つのセッションが終わってはっきりと分かりました。
自分が聞き取れないのではなく、スピーチを含めたプレゼンがいまいちだったのです。ちょっと安心です。

レジデントの練習用の意味合いが強いのでしょう。

しっかりフィードバック用紙がありましたから,私も書いておきました。こうやってみんな成長していくんですね。

二つ目のセッションはさすがにFacultyのプレゼンだけあり、最初のAttention getter(聴衆の注意を最初に引きつける工夫)が最高で、最後まで引き込まれっぱなしでした。

'What is Up with all these Triangles and Pyramids and Health Care?'

という題目を見ても、何の話をするのか全然想像できませんよね。

結局プレゼンテーションの最後で、今回のトピックのメインが

NTL learning pyramid
Pyramid of success
Miller's pyramid
 
という三つのピラミッドについてである事が分かりました。

ちなみにこれがNTLのlearning pyramid

見たり,聞いたりでは5~10%しか習得できないが、やれば75%、教えれば90%習得できるという意味です。

Pyramid of successとは

John R. Woodenという人が提唱している有名なピラミッドです。成功の為に必要な要素を並べています。

そしてMiller's pyramid
適当な図がありませんでしたが、分かりやすい一文を引用します
At the lowest level of the pyramid is knowledge (knows), followed by competence (knows how), performance (shows how), and action (does).
臨床能力として最下層が「知っている」
最上位が「実行する」

これは医学生や研修医の能力をテストするときに、どのような試験方法を採用するか考えるのに役立つ考えです。

マズローの三角も触れていましたが、attention getterにされていました。

全体の構成として、興味を引く為のおもしろattention getter(エジプトのピラミッドや米ドルになぜか印刷されているピラミッド等)をちりばめて、最後に学習ポイントをポッとだす、というやり方だったようです。

確かに引き込まれましたが、漫才で言うところの「ふりが長い」プレゼンで、「あえて学習ポイントを最後までかくさなくても・・・」と思いました

少なくとも上級者じゃないとこんなチャレンジングなやり方は無理だな~というのが感想です。


三つ目のプレゼンはいわゆる整形外科分野における画像診断の話題でした。

日本では聞いた事も無いような,レントゲンの話題が満載でした。
もちろん最初にattention getterを出して,学習目標を明確にして,と基本は押さえられていました。

一人目のプレゼンはレジデントで持ち回りの練習機会だとしても、たまたま遭遇した残り二つのプレゼンのすばらしさからして、ミシガンの家庭医のfacultyのレベルの高さが推し量られました。


感動の余韻に浸りつつ、その後のレジデント用レクチャーにも参加しました。

一つ目のレクチャーは心電図の講義。これはさすがに循環器を経験している自分にはちょっと初歩すぎました。

二つ目のレクチャーはマイク先生によるEnd of life careにおける倫理的な問題がトピックでした。さすが,倫理がらみに強いマイク先生です。時折日本との比較等をしながらレクチャーをすすめていました。

最後のディスカッションでは,レジデントも積極的に発言していましたが,話題的にレジデントの興味がちょっと薄いのかな~と感じました。せっかくの良いレクチャーだったのに、みんな豊富なレクチャーに囲まれる事に慣れてしまっているのでしょうか。


午前中だけで、家庭医療学会の総会2日分ぐらいの勉強になり,お得な半日でした。

ミシガン大学訪問中

2007-10-10 17:56:33 | 臨床留学
研修先の候補としてミシガン大学の家庭医療レジデントプログラムがあります。

今そのミシガン大学のあるAnn Arborを訪れています。

正確にはミシガン大学家庭医療科の中の、日本家庭健康プログラム(Japanese Family Health Program and Family Medicine at Domino's Farms)でお世話になっています。

ここは、家庭医療を志す日本人なら皆が知っているところで,古くから日本の家庭医療を支援してきました。


今は,親日家で日本語ペラペラのマイク・フェターズ先生を筆頭に2名の日本人医師(神保先生、藤岡先生)ともう一人の日本語ペラペラ米国人医師のルー先生の4人が常勤です。パートタイムとして、老年科フェローの吉岡先生も働いています。

以前は、East Ann Arbor Centerを本拠地としていましたが、現在はそこから道路を挟んだDomino's Farmsという広大な建物の一角に移転しました。

「ドミノって、ピザみたいだな~」と思ったあなた

鋭いです!

何を隠そうDomino's Farmsとはあの、ドミノピザの建物なんです。その建物の一部を間借りしているそうです。

診療所へ至る入り口にはいきなりクラシックカーが飾られています。(デトロイト近郊に来たんだと改めて思います)



そして、和風な診療所の入り口



ここはデトロイトをはじめとする近郊の日本人に対して、それこそ「ゆりかごから墓場まで」の診療を提供しています。

診療のパターンとして多いのは
 海外赴任の若き家族の為の健診、出産、子供のケア
 こちらに定着している日本人のケア

前者では出産が結構多いようです。
お産自体は大学の病棟で、家庭医療科もしくは産婦人科の担当医が診療しますので、妊婦健診と産後のケアが中心です。

昨日も,破水した妊婦さんが駆け込みで来院していました。

ここでお産の面倒を見てもらうメリットとして、

ケアが全て日本語で提供できる事、
日本との行き来のやり取りがとてもスムーズ(日本の事情を知っているので)、
産後のケアと、小児健診が同時並行で提供されている事

などがあげられます。

そして、後者の「こちらに定着している日本人のケア」

興味深いのは、異国の地で孤独にがんばっている人たちの精神的ケアです。

親類、友人のサポートが多い日本と違い、話し相手が少ないという異国の事情がありますので、結構大変そうです。

あまり具体的にはかけませんが,実際にそのような例を目の当たりにすると,家庭医の守備範囲の広さに改めて驚かされます。もちろん広いだけでなくちゃんと深いです。理論に乗っ取って精神的ケアをしています。

やはり精神科医や臨床心理士が単独でケアをするより、家庭医がそれらの専門家と協力しながら、バランスよく舵取りをしているこの形の方が,ケアを受ける人にとってはメリットがとても大きいように感じます。

また改めて、興味深かった例を紹介したいと思います。


臨床留学の準備は何かと物入りが多いのです

2007-10-09 23:22:07 | 臨床留学
数日前からアメリカに来ています。今年2回目の渡米です。今年度中にあと1,2回渡米する事になりそうです。

まず8月にAAFP(アメリカ家庭医療学会)主催のNational Conference、通称カンザスミーディングに参加しました。

これは全米中の主要な家庭医療プログラムが一堂に会して、各プログラムの見本市のようなものが開かれます。家庭医のレジデントを志す日本人は、その前年もしくは前々年には是非訪れるべきものです。

私は今年これに参加し、その後ピッツバーグのShadyside Hospitalを1週間訪れました。計10日ほどの滞在でした。


そして今回の渡米。今度は3週間で4カ所を回ります。

ミシガン大学の家庭医療科→
 オレゴン大学の家庭医療科→
  カプランのCS5日間コース→
   STEP2CS本番
の順です。


さらに冬にはインタビュー行脚のため1,2回は渡米しなければいけません。

正直しんどいです。

日本での仕事に穴があいて,収入が減る上に,費用もバカになりません。
家庭もありますし,時差ぼけとも毎回戦います。
マイレージがたまるのが唯一の楽しみというところでしょうか?(といってもノースウェストですが)

これだけの出費と労力をかけてまでやる事なのか?と自問自答する日々です

「何の為に留学するのか?」ということはまた改めて考察したいと思います。

医療制度の変革の底流にあるもの~家庭医療はどこへ行くのか?

2007-10-03 17:00:38 | 家庭医療
「新小児科医のつぶやき」というブログで「総合医」についての記事を読みました。

「総合医を養成するにしても、内科、外科、小児科、産婦人科、救急を一通りできるようになるのに10年かかるだろう」というご意見でした。

的を得たご指摘で、特に訴訟の多い昨今、ジェネラルにやるにしても、家庭医のような守備範囲の広さは厳しいものがあります。

どの程度の期間修行すれば一人前になれるのか?家庭医療学会では家庭医の後期研修施設認定の要件を4年間の後期研修期間としています。

もちろん研修が終わったら完璧というのは無理な話で、生涯勉強し続ける「反省的実践家」という姿勢を身につけることが一番大事なことだと思います。

それはさておき、なぜ厚生労働省が「総合医」「かかりつけ医」制度を急いでいるのでしょうか?

今年の3月に「かかりつけ医制度」が報道されたときにまとめた文章を改変して載せます。(過激だったので、投稿できずにパソコンで眠っていました。)


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 医療制度の変革の底流にあるもの~家庭医療はどこへ行くのか?

日本の医療は大きく揺らいでいる。

地域における医師不足のニュースが連日流れるなか、政府は医療費高騰の抑制をうったえ、診療報酬体系の相次ぐマイナス改訂。

そのなかでの在宅医療費はプラス改訂され、先日ニュースでは「かかりつけ医制度」の導入の流れが報道された。  

家庭医療学会員の多くは、「何となく時代の流れは追い風かな?」と思われているのではないか。

しかしこうしたドラスティックな流れがどのような力学ですすんでいるのかを考えないと、「何となく追い風」に乗り遅れてしまうかもしれない。時代はこの1、2年でそれだけ大きく変わりつつあるのだ。  

そこで今何が起きているのかを整理し、今後私たちがどのようにアクションをとっていくべきかを考えてみたいと思う。


何が今までの医療制度をつくってきたか?  

現在の医療体制が形作られたのは、195年に「国民皆保険」と「フリーアクセス」制度が導入されてからである。世界に類を見ない優れた制度であり、長寿大国日本をつくりあげるのに多大な貢献をしてきたのは確かである。

しかし医療の高度専門化、細分化がすすみ、高価な医療機器が開発されるにつれ、医療費の高騰が問題となってきた。  

現在の開業医の診療形態
現在の開業医は、その多くが大病院で専門医として腕を磨いた後に、その専門家を掲げて開業している。どうしてこのような形態が出来上がったのかを考えてみると、そこには必然性がある。

フリーアクセスがあれば、「専門家」にかかりたいのは自然の流れである。どの医者へも自由に、金銭的な差もなくかかれるとすれば、なるべく大きな施設の専門家が選ばれるのは理である。腰が痛ければ大病院の整形外科を選ぶし、目がかすめば眼科にかかる。  

近所の開業医が成り立っているのは、フリーアクセスが完璧ではないということが一番の要因だと思われる。特にアクセス制限が大きい。大病院は遠いし、長時間待たされる。  

そして同じ開業医同士、特に都会で競争に勝つには開業医であっても専門性を武器にしていくのは戦略的な必然である。患者に選ばれるためには「専門」というのは目に見える分かりやすい差別化である。患者さんは大病院の専門医にかかりたいが、それは難しいので「○○病院の消化器内科部長をやっていた××先生」に診てもらうことで満足するのである。  


 家庭医療にフィールドはあるのか?  

こういっては過激かもしれないが、 理論上「国民皆保険、フリーアクセス」の理想的な環境下では、家庭医療のフィールドは存在しない。

前述のように、患者さんがなるべく大きな施設の専門家にかかりたいと思うのが理だからである。  

自分がどのような病気か分からず、何科にかかったら良いか分からない場合はジェネラリストにかかるだろうが、大病院の内科を選ぶだろう。  

「近所の何でも相談できるなじみの医者」という理想の家庭医像なら選ばれるのではないか?との反論はもっともである。しかし「近所の何でも相談できるなじみの医者」を好む人がいるのは確かだろうが、「近所の何でも相談できるなじみの専門医」の方が選ばれる可能性は高い。前にも述べたが、そうやって多くの開業医は生き延びてきたのだ。

近所の消化器内科で胃薬をもらい、整形外科で腰をみてもらい、喉が痛いと耳鼻科にかかるのだ。患者さんはそうして自分で医師を自由選択している。  

そこに「家庭医が専門です」、「何でもみます」とアピールしても、
「何でもみる」=「何も診ることができない」=「専門が無い」
と最初に解釈されるのは仕方が無い。

少なくとも家庭医の良さの本質が浸透していない現状では、個人が家庭医をアピールするには、かなりの労力と時間が必要とされる。

そんな労力を避けるために「家庭医」と自任しつつ、患者さんには「内科の△△です」などと名乗っているジェネラリストの先生も多いのではないだろうか?(実は私も・・・)

「国民皆保険、フリーアクセス」の理想的な環境下では家庭医のフィールドは無いと述べたが、現状でも家庭医が活躍できるニッチ(あえてニッチと表現する)な領域は存在する。

それは地域医療であり、都会の貧困層である。地域では物理的なアクセス制限があり、都会の貧困層は経済的な制限を受けているからである。(前者を地域医療振興協会、後者は都会の民医連などが積極的にカバーしている)


日本の医療にこれから何が起きるのか?   

政府による医療費削減への戦略が着々と進んでいる。諸外国を見渡せば様々な方法で医療費抑制政策がとられている。

医療費を制限するには受けられる医療を金銭かシステムで制限するのが一番手っ取り早い。    

ヨーロッパでは年齢による制限が一般的である。

例えば米国では保険による制限をかけている。(米国=medicare, medicade, terminalの保険)  

そしてアクセス制限。一番分かりやすいのは英国のGP制度である。


 在宅の重用~アクセス制限は始まった  

近年、在宅医療が重用されている。保険改訂をみても明らかなように、厚生労働省は病院から在宅へ患者を誘導しようとしている。  

もちろん在宅医療の良さ、住み慣れた環境でなるべく過ごしてもらうということの良さは否定しないし、私も在宅医療は大好きである。

しかし在宅が重用されているのは、本当は経済的な理由であることを忘れては行けない。  

そしてこの在宅へのシフトこそが、これから始まるアクセス制限の第一歩だと思われる。通院できない入院中の患者を在宅へシフトするというのは、大変分かりやすいアクセス制限である。  

さらに「かかりつけ医制度」である。75歳以上の高齢者向けに、公的なかかりつけ医を優遇するという制度が導入されるという。とりあえずかかりつけ医への金銭的優遇のみとし、アクセス制限は設けないとのことであるが、これも次への布石であろう。

受け皿となるかかりつけ医の浸透がすすめば、次にアクセス制限がすすめられるだろう。

医療制度の流れと家庭医療学会への提言  

国民皆保険は基本的には堅持されるだろうが、色々な形で負担率はさらにあがっていくだろう。そして個人の任意保険などによるカバーの比率は上がって行くと思われる。  

フリーアクセスは前述のように制限される方向になるだろう。かかりつけ医による受け皿が浸透すれば、英国式に近いゲートキーパー制度が導入される可能性が高い。

興味深いのは、近年の英国のGPでは完全なジェネラリストからサブスペシャリティを持ったGPへ全体の流れがシフトしていることだ。GPにインセンティブを与えて、一定の専門性を習得させて差別化をすすめている。

そういう意味では現在の日本の開業医と英国の純粋なGPとの中間の形態が最終的な理想型なのかもしれない。  

家庭医療学会ではプライマリケア学会、日本総合診療医学会、医師会と協議をしながら現在は施設認定制度をすすめている。将来的には認定制度につながっていくのだろうが、プラマリケア医,ジェネラリストが共同歩調を取っていくという戦略は堅持する必要がある。  

家庭医療学会が政府にアピールすべきこと(査読の入った論文で証明するのが望ましい)

 日本でも家庭医療によって医療費が抑制できること   
 日本でもゲートキーパーとしての役割が十分に果たせる こと  

庭医療学会が国民にアピールすべきこと     
 家庭医というものの良さ、認知度を上げる こと  


家庭医療にとって時代は間違いなく追い風なのだが、政府と国民の動向に乗り遅れると、思わぬ方向に制度がずれていく恐れもある。変革はそれだけ大きく、急激にすすんでいるのである。

「情報制限法」 機密事項につき転送不可

2007-10-02 09:16:48 | Faculty Development
「一度しか言わないよ」
「これは内緒だよ」

そう聞くと、「なになに?」と思ってしまいます

人は、貴重な情報を重要視するので、このような前置きで人の注意を引きつける事ができます

これを情報制限法といいます
(「パワープレイ 気づかれずに相手を操る悪魔の心理術」 より)

スパイ防止法とかの法律ではありません。

タイトル「機密事項につき転送不可」に引かれて、ついのぞいてみた人はいませんか?

プレゼンテーションの中でも情報制限法を応用できます

最初はわざと聞き取りにくいぐらいの小さな声でプレゼンを開始し、相手の注意を引きつけたあとで、徐々に声を大きくしていくと良い。

この手法はあのアドルフ・ヒトラーも使用していたらしいです

私も4歳の娘に対しては連発しています

「内緒だよ」と「特別ね」

使い過ぎに注意しましょう