今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

EBMの実践と医療の標準化

2010-07-26 10:16:58 | 医療ネタその他
最近Twitter、Facebookで話題になり、かつ同僚レジデントとも話題になったことです

同僚曰く
「ミシガン大家庭医で診る患者さんが、誰に診てもらっているかに関係なく殆ど同じパターンの治療を受けていることに驚いた」

例えば糖尿病でのメトフォルミン、心不全でのメトプロロール、降圧剤としてのハイドロクロロサイアザイド

確かにアテンディング、レジデント含め100人以上がケアする患者さん達の治療内容が

極めて統一されているのは以前から感じていました

例えば、入院した患者さんの薬をレビューする時に

「何じゃこの薬?」とか「どうしてこれを服用していないんだ?」と思う事が殆どありません

逆に、疑問に思って患者さんに問いただしてもはっきりしない場合は

過去のカルテをさかのぼると、「なるほど」というイベントが記載してあり納得することが多いのです

思い返せば、日本で診療していた時はこのような「統一感」を感じることはあまりありませんでした

こうした「医療の標準化」を達成するための仕掛けは日々の診療の中にたくさん埋もれています

例えば
  • ミシガン大で作成されているガイドライン
  • レクチャーなどによる最新知識のアップデート
  • pay for performanceに対するクリニックごとの取り組み
  • 入院オーダーのセット化

そして一番大きいのがCieloシステムです

Cielo systemを簡単に説明すると、

「患者さんのプロファイル(年齢、性別、プロブレムリストなど)から自動で作成されるリマインダー」でしょうか

患者さんが外来を受診すると、医師はその患者さんの診療に関連するリマインダーの一覧用紙を渡されます

ここに含まれる情報は
  1. 年齢、性別
  2. 主治医
  3. がん検診
  4. 予防接種、喫煙
  5. 慢性疾患のプロブレムリスト
  6. 急性疾患のプロブレムのリスト
  7. 慢性疾患に関してカバーするべき診療内容  などです

例えば65歳男性で糖尿病の患者さんでは

1年以内の便潜血によるがん検診もしくは10年以内の大腸内視鏡をしていなければ「大腸がん検診」のリマインダーが出ます

ちなみに前立腺がん検診に関しては

「前立腺がん検診について話題に出すこと」というリマインダーが出ます

「前立腺がん検診をすすめる」ではありません

そしてこのリマインダーに対して、自分がどのようなアクションをとったかチェックマークをつけて提出する必要があります

糖尿病では眼科受診もありますが

受診ごとに測定される血圧から自動的に

「血圧の厳格なコントロール」というリマインダーが出ます

これは「2型糖尿病の管理では、血糖管理よりも厳格な血圧コントロールが一番重要である」という知見をもとにセットされたリマインダーです

こうして患者さんの受診ごとに用紙を渡されますが

この用紙は指定の回収ボックスに毎日提出します

そして毎月、医師ごとにこの用紙の提出率、必要なアクションがどれだけとられているかという率が一覧になってメールでフィードバックされます

こうした様々な投資によって、自動的に「標準」が刷り込まれていくのですが

こうしたガイドライン、プロトコールの背景にあるエビデンスを理解し

自分の患者さんのnarrativeとすりあわせる真のEBM

Artの部分も重要です

その部分は日々の外来プリセプティングなどで議論されるのですが

現在のレジデント教育では、エビデンスの解釈という点が少し弱いかと感じています

レジデンシーはじめにあるBlock monthでかなりEBMについてのセッションがありますが

普段は月に1回のJournal Clubがメインです

Journal Clubなどを通じてのやりとりからは、各レジデントがどの程度個々の論文やガイドラインを理解しているかには疑問を感じています

例えばLR(尤度比)、RR(relative risk)、ARR(Absolute Risk Reduction)など

もしかしてあんまり分かっていない?意識していない?と思われる同僚もいます

昨年まではEBMのメッカMcmaster大学出身のアテンディングがいて熱心にレジデント教育をしていたのですが

その先生が栄転で辞めてからは、Journal Clubが形骸化している感じがします

自分の得意分野なのでなんとかしたい気はあるのですが、既にシニアプロジェクトを2つ抱えているので

とりあえず二の足を踏んでいます

夏の西海岸旅行

2010-07-23 21:46:49 | その他
7月の前半は休暇でした

これまでの2年間,休暇は夏以外に入っていたため

旅行先はフロリダ、カリブ,ガラパゴスなど南国を選ばざるを得ませんでした

今回は夏の休暇を希望して,夏に行きたいアメリカの観光地を巡りました

大まかなスケジュールは以下の通り 

  • 6/30 サン・フランシスコ 
  • 7/1-3 ヨセミテ国立公園
  • 7/4-5  サン・フランシスコ観光 
  • 7/5-11 グランドサークル(ザイオン、ブライスキャニオン、レイクパウエル/アンテロープキャニオン、モニュメントバレー、グランドキャニオン)
  • 7/11-14 ラスベガス 


ヨセミテ国立公園


医学生の時に巡った場所とほとんど同じコースを,今回もレンタカーで巡ったのですが

違いは学生のときは友達とテント生活でファーストフードのハシゴだったのが

今回は家族同伴なので,きちんとした宿に泊まり,美味しいものを食べた事です

といっても我が家のポリシーとして、食事には金をかけても宿は安宿で節約なので 

夕食代が宿代の3-4倍という日も多々ありました

全体を通して印象深かった点は

1. 日本人が減った


医学生のときと比べて明らかに日本人が少ないように感じました


というよりアジア人が大抵は中国人


次いで韓国人


はやり経済状況の変遷でしょうか?


ちなみに,ラスベガスのルイヴィトンで20人ほどいた客が全員アジア人なのには笑いました



2. 食事に見る格差社会


アメリカでも金さえ出せば、とても美味しいものが食べられます


普段は外食で美味しいと感じる事が少ないアメリカ


日本のように「そこそこの金を出せばおいしいものにありつける」という事はありません


美味しいものを食べるには、相当の額を出す必要があります


それでもラスベガスは競争が激しいので、一流のレストランの料理が比較的安価で食べられます


ということでラスベガスでは奮発しておいしいものを堪能しました


せっかくなのでいったお店の紹介です


Bouchon

The Venetian Resort-Hotel-Casinoにあるフレンチ
「洗練」という表現がぴったり

いただいたのは

オードブル:オニオンスープ、エスカルゴ、 サーモンのリエット

メイン:ローストチキンとトラウト 

トラウトは素材の味を活かして、アメリカ生活でベストの魚料理

同じホテル内にあるベーカリーのパンも最高


Nobhill Tavern 

MGM Grand Hotel & Casinoにあります

メニューはフレンチと似ていますが,「アメリカン」な味付けです

おいしいのですがBouchonのような「洗練」よりはアメリカ人好みにしっかり味付けという感じ


続いてラスベガスで人気を二分するビュッフェ2箇所


'Le Village Buffet'  in Paris

前評判が高くかなり並んだのですが,正直期待はずれ

肉、カニはイマイチ、魚料理はバリエーションが少ない


Bellagio  'The Buffet'

こちらは当たり 

2種類あるbeefのうち神戸ビーフはイマイチもプレミアムアンガスは絶品

魚料理も多数有り、デザートの味も洗練



3. やはり自然は変わらない


公園の設備等は,久しぶりに行くと結構変わっていましたが


雄大な自然は全く変わらず出迎えてくれました


ヨセミテ国立公園


高いところからの景色が一番




レイクパウエル: アンテロープキャニオン 

意外と見過ごされ勝ちなのが,レイクパウエルのほとり,Pageという町の近くにあるAntelope canyon

Upper Antelope Canyonと Lower Antelope Canyonがありますが,Lowerの方がきれいでした


写真のような,幻想的な狭い峡谷を歩けます




グランドキャニオン 

夕日と朝日は見逃せません 

朝は4時台に起床し朝日を見て、宿に帰って2度寝しました

朝のグランドキャニオン


そして夕方


ナイトシフトと勤務時間の問題

2010-07-20 08:26:01 | 臨床留学
6月で上級生は卒業し,新しいインターンがやってきました

そして私はいよいよレジデンシ-最終学年です

7月の前半の休暇については,後日書きますが 

今回は7月後半の勤務についてです

この2週間は,再びチェルシー病院での夜勤です

日曜日は24時間勤務で,それ以外の月から木曜日までは午後7時から翌朝7時までの12時間勤務です

金曜日午前の当直あけに半日の外来が入る以外は,当直あけに即帰宅できます

結果的に日~金と5日連続で夜勤となりますが

チェルシー病院の夜勤は、一睡もできないということは滅多になく

平均して2~4時間ぐらいは眠れます

通常は,夜勤明けに家で午前中いっぱい眠れば体調も整いますので 

午後7時の出勤までの半日はのんびり過ごせます

またチェルシー病院の夜勤は,入院患者がICUにいなければ家から電話で引き継ぎをして 

新規入院で病院に呼ばれるまでは,家で過ごすこともできます

私はしませんが,真夜中の入院では

家にいたまま救急から電話で引き継ぎを受け,入院の指示も看護士に電話ですませ 

翌朝少し早めに来院し患者さんを診て,ノートをディクテーションするということも許されています

ちなみに今月の夜勤シフトは 

出勤前の夕方にテニスをするという生活パターンにしていますので,逆に体調が良かったりします

日本の環境からみれば,かなり恵まれた状況ですが

アメリカ のレジデントは,来年度からさらに勤務状況が楽になります

1週間の最大勤務時間の80時間は変わりませんが

なんとインターン(1年目のレジ デント)の最大連続勤務時間が,30時間から16時間に短縮されます 

つまり,これまでは朝7時から翌日の午後1時までという勤務が可能だったのが,

16時間では朝7時から最長でも当日の夜11時までの勤務となってしまいます

完全シフト制にしないと夜の勤務を回せないことに なり

レジデンシ-プログラムの研修カリキュラムにも大きな影響を与えます

イギリスなどのヨーロッパでは,研修医の週の勤務時間の上限は48時間になっていますので

上には上というか,下には下がありますが

日本も,指導医の勤務時間がせめてこちらのレジデントなみまで改善されることを望みます