今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

アナーバーとアメフト

2008-10-26 03:48:55 | その他
アメリカ人はアメフト好きです

実際にその場にいあわせて、初めて実感することですが

その程度は度を超しています

日本人の野球好き、相撲好き、サッカー好きをあわせたような感じでしょうか?

アナーバーでは、アメフトシーズンが始まると、ミシガン大学の試合が話題の中心となります

大学のミシガンスタジアムは通称Big Houseとよばれ、収容人口が11万人を超えます




試合となると,いつも収容人口を超えて超満員となり

現在は収容人口を増やすべく拡張中です

アナーバー市の人口が11万人ですから、市の人口を超えようとしているのです

チケットの値段も破格で、

家庭医療科のメーリングリストでよく

「チケット2枚あります。早い者勝ち。格安で一枚50ドルで譲ります」と出ていたのを

「内輪なのに50ドルも取るなんて,世知辛すぎ」と思っていたのですが

どうも相場が私の想像よりかなり上のようなのです

たかが、大学の試合なのに・・・と思うのですが、そんなことを言ったら殺されそうです

我が家にとっては、試合の日になると、スタジアムから家が近いせいで、スーパーに買い物に行く道が封鎖され

日常生活が完全に阻害されています


ところで昨夜はCCUの当直でしたが、夕方からアメフトの試合があったため

「今日は、試合が終わるまではほとんど入院はないね。もし試合に勝ったらその後皆飲みにいくから、救急に来るのは夜九時過ぎ。その後なんとか救急で3時間粘ってくれれば、12時を超えるね」と話していました

私たちインターンが当直の時は、夜12時までの入院だけを引き受けるルールになっているのです  (集中治療室に入る人だけは例外)

日本の自分の経験に例えて言えば

「大晦日の当直の時は、紅白が終わるまでは暇で、除夜の鐘がなり終わる頃になって、体調の悪いお年寄りが運ばれてくる」

といった感じでしょうか?

普段はチームで8~10人ぐらいの入院を受け入れるのですが、この日は何と3人

まさにアメフト様々のおかげで楽な当直でした

ところがその3人のうち私が担当したおじいさん

バイパス手術の1ヶ月後の胸痛でやってきたのですが

話をしようと、いろいろ聞いてもうわの空

「え?あ~・・・。胸が痛くなったのはいつだったかなあ?・・・・えっ?うっ、う~ん・・・」

ベッドサイドの奥さんと2人で、病室のテレビでやっているアメフトの試合に釘付けで、全く話になりません

個人的にはアメフトに興味が無くはないのですが、何しろルールが今ひとつ分かりません

Sports medicineのフェローは、アメフトチームのスポーツドクターをしますので、

Sports medicineにアプライする前にルールを憶えないと、からかいのネタにされてしまいます

KとMg

2008-10-25 14:22:36 | 臨床留学
CCU勤務で一番多いポケベルのコール

'FYI, Re: Pt Yamada, K3.9, Mag 1.8, please advise. Hanako, RN 11333'

FYIとは for your information

「念のためお伝えしておきますが、患者さんの山田さん、カリウムが3.9、マグネシウムが1.8、どうしたらよいでしょうか?看護士はなこ、ポケベル番号11333」

カリウムが4.0未満、マグネシウムが2.0未満であることは、循環器病棟では許容されず

必ず補充しなくてはいけません

日本ではここまでうるさくいっていなかったと思うのですが・・・

実際に調べてみましたが、Uptodateや各種ガイドラインをみると、「心不全でカリウムは4.0以上に保つべし」などと明確に書いています

マグネシウムはそこまでクリアカットではありませんが、低カリウムによる不整脈を助長するという意味で、低マグネシウムが好ましくないのは間違いありません

自分達がみている患者さんは、フロセミド(ラシックス)では不充分で、ループ利尿薬のブメタニド(Bumex)の持続点滴をしている人がたくさんいます

ブメタニドの持続点滴ではクレアチニンをある程度保ったまま、まさに大量の利尿をはかることができるのですが

ものすごい勢いでカリウムやマグネシウムも排出されますので、

毎日2、3回採血をしてその度に補充しています

こんなことばっかりしていると、「患者を治療するのではなく、数字を直すことが大事」という間違ったメッセージが研修医に浸透しかねません

実際、そのような傾向を伺わせる発言も聞かれますが

こうした点は、洋の東西を問わないようですね

CCUでのティーチング

2008-10-23 11:31:07 | 教育
現在所属しているCCUには4チームあり、各チームにアテンディングが月単位で配置されます

私のCCUローテーションのあいだはずっと同じアテンディングです

JOHN NICKLAS先生と言いますが、大変教育熱心で私にとっては「大ヒット」です

毎朝、アテンディング回診の前に15~30分ぐらいのティーチングがあります

彼のティーチングは1ヶ月のローテーション中にコアなトピックをカバーするように完成されています

毎日、数行のケースが用意されており

そのケースで出た疑問に対応する形で、コアな論文を2~5本渡されます

翌日にその論文をレビューしながら、循環器の歴史的な流れやガイドラインが、なぜ現在のような方針になっているかなどをディスカッションしていきます

この数年EBMに浸かっていて、「一つのRCTで診療行為が変わることはほとんど無く、システマティックレビューを重視する。古い論文は質が低いので読む価値がほとんど無い」という偏った認識を持っていましたが

例え質の低いRCTであっても、たとえ古い論文であっても

現在の診療の流れの転帰となった、原著に目を通すべき価値のある論文がたくさんあるということを、教えられています


もう一つ、日本で自分が学んでいた時との大きな違いは

歴史を変えてきたその現場に自分たちがたっているんだという感覚です

日本で循環器の論文を読んでいても、所詮海外のRCTだな~という感覚だったのですが

「この論文は○○センターの○○先生が書いたんだけど、この論文を書くにあたってどんな困難があったか」「この論文が発表された時にこんな訴訟が起きた」「この論文を書いたせいで著者は聴聞会に呼ばれた」などの裏話が満載で

自分が川の流れの真ん中にいるんだという当事者意識を強く感じます

アメリカの経済が衰退していますので、このようなことは減ってくるのかもしれませんが・・・


そしてなんといっても、彼のティーチングですばらしいのは「情熱と愛」です

彼が教える時のキラキラした目と、循環器に対する愛

教育に何が一番大事かということを、改めて教えてくれます

面白英語2

2008-10-12 15:33:00 | その他
久々の更新ですが、面白英語を二つ

1. real quick
2. I’ll do it


1. Real quick

‘I would like to go to the bathroom real quick.’

「ちょっと、トイレ行ってきます」

「ちょっと」というニュアンスでかなり頻用されています

本当にquickかどうかより、「ちょっと悪いけど、さっさとすませるから」というニュアンスがあるようです

聴診する時も'I like to listen to you real quick.'と言っていたattendingがいましたが

診察の時は、あんまり使わないほうが良いのでは・・・と思いました


2.  I’ll do it.

例えば、「○○へ連絡しておいたほうが良いでしょうか?」と先輩レジデントに尋ねた時

‘I’ll do it.’

「こっちが忙しいのをみて、連絡しておいてくれるんだ」と思って'Thanks'と別の仕事に取りかかると、

後から「連絡した?」と聞かれます

実際は、「やってあげるよ」ではなく

‘If I were you, I will do it.’ すなわち

「自分だったら、するね」という意味なのです

結構この表現は多用されていますが、たまにシニアレジデントなどが親切心で「やってあげるよ」と言ってくれる時もありますので

毎回確認しないと、結局どっちなのか分かりません

微妙なニュアンスを掴めるようになるには,もう少し時間がかかりそうです



cross-cover

2008-10-04 10:08:39 | 臨床留学
CCUには4チームあります

それぞれ、Attending1人、シニアレジデント(内科3年目)1人、インターン2人、医学生3年目1人、医学生4年目は1人いたりいなかったり

患者数の増減が激しいですが、それぞれのチームに入院が10人ちょっといます

long callの夜は、cross-coverといって他の3チームの患者もみなければいけません

チームのインターン2人で他チームの患者を半分ずつ診ることになります

夕方に、患者情報をまとめたsignout sheetを渡されながら、各患者1、2分の短いsignoutを言い渡されます

このsignoutが上手であれば、どのような対応をしたら良いか予想ができるので楽ですが

signoutが不充分だったり、予想外の急変があると大変です

自分の担当患者でないこの15人前後に関連して、夜中じゅうひっきりなしにポケベルがなり続けますし

初回long callの日は、新規入院がチームで9人ありましたので

結構しんどい夜でした

そんな当直あけ、post-callの早朝にも

Attendingによるティーチングはしっかり用意されていました

このAttendingによるティーチングは、今のところ私にとって大ヒットです

これも後日取り上げたいと思います

CCUローテーション

2008-10-03 19:00:18 | 臨床留学
10月はCCUローテーションです

CCUとはCoronary Care Unit(冠疾患集中治療室)の略です

といっても、循環器の集中治療室だけのローテーションではなく、通常の病棟も担当します

勤務パターンは、Q4といって、4日に1回の当直です

4日ごとに以下のサイクルを、4つのチームで回します

1. long call(7AMから1日中勤務、入院を引き受ける)
2. post call(昼12時で終わり)
3. short call(7AMから昼まで新規入院あり、7PM頃まで勤務)
4. pre-call(7AMから勤務で新規入院なし、終わり次第、帰宅)

ここへ午後のクリニック枠が月4回、休暇が月4回

それぞれ、3.のshort Callか、4.のpre-callの日に組み込まれます

早速CCU勤務の初日、10月1日がlong callでした

思っていた通り、一睡もできず

この当直が、4日に1回続くとなると、正直きついですが

3.4.のように新規入院が制限される日があるのは、かなり助かります

また業務がしっかり終わるように、様々なサポート体制が組まれており、

週1回の当直であったUFM勤務が、24時間、365日の新規入院受け入れをしていたことと比べると

強弱のリズムがある分、かえって楽かもしれません

ただし、long-callの日は、cross-coverという制度があるため

かなりきついものがあります

cross-coverについては改めて書きたいと思います