今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

大学に家庭医療科があることの意義

2011-01-24 00:41:24 | 家庭医療

今年のミシガン大医学生のうち、家庭医療科にすすむのは15-7名とみられています

 

一学年が170人ですので、1割弱

 

これを多いととるか、少ないととるか

 

実は、例年と比べて今年はかなり多いようです

 

家庭医療科選択者が一桁台の年も有るようですので、今年はアテンディング達も喜んでいます

 

全米の医学部の中には3割近くの学生が、家庭医療科を選択する学校もありますが

 

ミシガン大学は一般的に、プライマリケアよりもいわゆる「臓器専門科」優位の学校です

 

ミシガン大学の家庭医療科は、全米の医学部で最も多くの指導医陣を擁し

 

医学生からの実習評価では10年以上にわたり、専門科の中で一番の評価をされています

 

指導医の先生方も、chairのシュウェンク先生を始め、尊敬できる方々が大勢いらっしゃいます

 

それでもやっぱり、多くの医学生は臓器専門医の道を選ぶのです

 

確かに専門医の質がおしなべて高く、他科にも尊敬できる先生方が大勢いらっしゃるのでしょう

 

それでもやっぱり「収入」という要素が否めません

 

プライマリケア医の給料は、放射線科、眼科、心臓外科などの高給取りの先生方の数分の一ですから

 

 

まあ、それは置いておくとして

 

「大学、大学病院、医学部に家庭医療科が存在する事の意義」です

 

家庭医療科を進路の選択肢として選んでもらうということは、勿論、大きいです

 

また、大学という事でリサーチも大きいでしょう

 

でもそれ以上に大きいのが、プライマリケア医と専門医がどのようにかかわり合っているか

 

臓器専門医を選択した彼ら医学生が、将来、どのようにプライマリケア医とかかわっていくか

 

臓器専門医として、信頼できるプライマリケア医がいるのだということを知っておいてもらう事

 

そういうことが大事なのです

 

勿論、「プライマリケア」ですから主戦場は地域,クリニックでなければいけません

 

ミシガン大も大学に病棟を運営していますが

 

あくまでもメインの所属は郊外に5つあるクリニックです

 

日本の大学でも、家庭医療科は大学病院の外にあるクリニックを主戦場とし

 

臓器専門医とうまくかかわり合いながら

 

医学生のロールモデルとなる

 

それが大学に置ける家庭医療科の使命だと感じています


Ground Round: Health-care associated pneumonia (医療ケア関連肺炎)

2011-01-20 21:57:09 | 教育
今月のsports medicineローテーションでは大きなイベントがあります


水曜のカンファレンスでのGround roundの担当です


テーマは全くのフリーで家庭医療科の指導医、レジデント、医学生の総勢100名あまりに対して40分のレクチャーをします


これまでもM&M(mortality & morbidity)で同じ人達相手に計4回プレゼンをしていますので


場数としては踏んでいるのですが


M&Mはあくまでも決まったフォーマットの中での発表で


多少自分の色を出す程度で、割と気楽です


ところがこのGround Roundは、フリーのテーマで大勢にプレゼンをする唯一の機会で


ある意味レジデンシ−の中でも3年目としての集大成とも言えますので、ヘタはうてません


テーマがフリーなのが結構くせ者で、相当悩みました


最近の同僚のトピックをあげてみると


  • wilderness medicine(アウトドアスポーツ医学)
  • chronic orchialgia(睾丸痛)
  • (主にアフリカ系)女性の割礼
  • 医学生が何故家庭医を選択しないか?
  • 肥満の治療
  • タイでの選択研修報告
  • アフリカ系女性特有の頭髪問題       などなど


結構、個性あふれるトピックが多いのです


私は次の3つの軸でトピックを考えてみました


  1. 自分が得意な話題 日本とアメリカの医療制度比較、循環器系のトピック、EBM関係
  2. 自分が知りたい話題 産科、スポーツ医学系のトピック
  3. オーディエンスが知りたいであろう話題 外来系のcommonな話題のアップデート


結局1、2、3の折衷という事で


Healthcare-associated pneumonia(医療ケア関連肺炎)の治療について話す事にしました


つまり

1. 内科系の話題なのでまあまあ得意

2. HCAPの抗生剤選択には、日頃から疑問を持っており、2005年のガイドラインには納得できない点があった

3. 肺炎なので割とcommon

内科系の入院を担当しない指導医もいるが少なくともレジデントは皆が興味を持てるはず


ということでHCAPについて話す事にしました


題目は 'Diagnosis & Treatment of Healthcare-associated Pneumonia ~ Beyond the guideline'


beyond the guidelineとは自分でもハードルを上げたなと思いましたが


「ガイドライン通りに治療をしていたら、おかしなこともある」ということを伝えたかったのでこのような題にしました


詳細についてはscribdにアップしましたのでご参照ください


かいつまんで要点だけを抜き出します


HCAPは2005年の下記ガイドラインで導入された概念です


American Thoracic Society; Infectious Diseases Society of  America. "Guidelines for the management of  adults with hospital-acquired, ventilator-associated, and healthcare-associatedpneumonia". Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2005: 171 (4)

 

HCAPの定義は以下です

 

HCAP: 入院中ではないが下記の一つ以上を満たす状況で発生した肺炎:

  • Hospitalization in an acute care hospital for 2 or more days in 90 days
  • Residence in a nursing home or long-term care facility in the last 90 days
  • Receiving outpt iv therapy (antibiotcs/chemo) within 30 days
  • Receiving home wound care within 30 days
  • Attending a hospital or hemodialysis clinic in 30 days
  • ( Family member with MDR pathogen )
 

HCAPはCommunity Acquired pneumoniaよりも予後が悪く、耐性菌が多いというデータに基づいて

Hospital acquired pneumoniaやventilator-associated pneumoniaと同様のスペクトラムでとらえようという考えです


ガイドラインを額面通りに受け取ると、HCAPと診断された瞬間に下記の3剤併用両方が推奨されます

 


緑膿菌をカバーするセフェムやカルバペネム

+/-

緑膿菌をカバーするもう一種類(ニューキノロンなど)

+/-

MRSAをカバーするバンコマイシンかLinezolid

 


例えば「割と元気だけど、介護が必要な老人ホーム入所者」は自動的にHCAPになりますが


額面通りの治療はどうみてもやりすぎだと思いましたので

 

ガイドラインの引用文献を含めて、様々な文献を考察してみましたが


私が達した結論は

 

HCAPであっても耐性菌の可能性が低い群は、CAPと同様に治療してもOK


そして、下記のリスクファクターを持つものは、耐性菌を考慮した抗生剤選択が望ましい

  1. Severe illness
  2. Antibiotic therapy in 6 month
  3. Poor functional status as defined by activities of daily living score
  4. Hospitalization in the past 90 days
  5. Immune suppression

 


この場合、先述のように3剤併用を要検討ですが


緑膿菌の2重カバーについては、必ずしも必要であるとするデータばかりでなく


MRSAのカバーも、「疑った時のみ」ということになりますので


実際はCefepimeやpiperacillin/tazobactamの単剤でもOKと解釈しています


今月はsports medicineローテ

2011-01-18 18:36:14 | 家庭医療

遅ればせながら,明けましておめでとうございます

 

久しぶりの更新です

 

数ヶ月更新していなくても、結構な人数の方にアクセスして頂いているようで恐縮です


情報発信が、Facebook→Twitterと移行して


ブログの更新がどうしても滞ってしまうのですが


Twitterはどうしても、その場で情報を垂れ流し気味で、あとから見直すのも大変です

 

Facebookはもう少しまとまっていますが、日本の友人,アメリカの友人半々が対象で

 

情報発信がクローズド気味です

 

自分の中でもある程度まとめてとどめておいたうえで、不特定多数に発信したい場合は、やはりブログが良いかもしれません


ということで今回は久しぶりに現状報告


今月はSMO2というローテーションです


Sports Medicine Orthopedics の2回目ローテーションを略してSMO2です


ローテーション中は、5人いるsports medicineの指導医のうち3人の外来にそれぞれ半日ずつつきます

 

家庭医系のsports medicine医はオペをしませんので関節注射、リハ、シーネ固定,薬物治療などを主に行い

 

オペ適応になれば整形外科医に回します

 

クリニックで働いていますので、超急性期の外傷が少ないというセレクションバイアスがかかりますが

 

整形外科医に回される患者さんは意外と少なく、1割程度でしょうか?

 

その他は,家庭医のスポーツ整形外来で診療が完結します

 

肩、腕、手、腰、膝,足のオンラインモジュールで復習をしながら

 

日々,遭遇する患者さんのケアをしていきますが

 

どうしても疾患頻度に偏りが有り、肩,膝の患者さんが多くなります

 

ローテーション中は、他にも週1日は地域病院の整形外科グループの外来につきます


ここでのポイントは、あくまで外来につくのであって、オペ室には入りません

 

コンサルテーション後の患者さんがどのような経過を辿るかを知る,貴重な体験です

 

Rotator Cuff Injuryのオペではsupraspinatusの損傷が9割以上を占めるなど

 

外科系外来じゃないと実感できないことがみえてきます

 

今月はこれらsports medicineがらみの外来が週に計5コマ

 

他は1コマが水曜午前のカンファレンス

 

残り4コマが自分のクリニックでの外来です

 

私はうち1コマが日本人クリニックでの診療になります

 

週の半分はsports medicineの患者さんを診ながらも

 

日本人クリニックでは妊婦さんのグループけんしんをやったり

 

お産で呼ばれたり、新生児、小児の健診

 

月に1回はいつものnursing home visit(長期療養型老人施設の診療)など

 

バラエティーにとんだ日々です


そしてこのSMO2のもう一つの大きなイベントがGround Roundでのトークです

 

Ground Roundでの発表については次回書きたいと思います